第2話
男が死んだ後日、当然ながらクラスは大騒ぎになった。ざわざわとした喧騒の中、ひとりの女子が言った。
「殺した奴を許さない。必ず犯人を見つけてやる」
はて、この子も男を嫌っていたはずなんだが。どういう風の吹き回しなんだろうか。なんて軽く考えている間に彼女を筆頭とした女子数名が捜査を始めたが所詮ただの学生の探偵ごっこに過ぎず、警察にすら掴めない証拠など彼女等の捜査では到底掴むことは出来なかった。
しかし、数日経ったある日に彼女は私を現場の屋上へと呼び出し、真犯人だと指差した。
「お前は男を嫌っていた。男がウザかったから殺した」
彼女が提示したのは信ぴょう性のない証言と主観たっぷりの推測であり、勿論大した証拠なんて無かった。
あまりにも根拠のない推理に思わず鼻で笑ったが、曲げることも取り下げることも知らない彼女の主張を大半の人が信じているようだった。気が付けばクラスの人達が私を囲むようにして立っており、団地の前にも人集りが出来ている。こうなってしまうと流石に事態の収集がつきそうにない。そう思った私は不気味に笑いながら推理を肯定した。
推理が当たったことに喜んだのか、彼女は嬉嬉として声を荒らげた。
「やっと認めたわね! この人殺し」
その言葉が皮切りとなって、彼女を含めたクラスメイト全員がコールを始めた。
「人殺し、人殺し、人殺し……」
その時、嗚呼なんだと私は理解した。コイツ等は正義という体で犯人という誰かに罵詈雑言を浴びせてストレスを発散したかっただけ。男亡き今、今度は私というサンドバッグを作ったに過ぎないと。くだらない理由とあまりの有り様に私が呆れ果てている間もコールは延々と続いている。
ふと彼女の後ろを見ると、騒ぎを聞きつけたのか、それとも元々そこにいたのか、友達が泣きそうな顔で立ちすくんでいた。
私はそんな友達を安心させようと笑顔を作る。
「大丈夫、心配しないで」
それを聞いて友達はとうとう泣き出してしまった。大粒の涙を零しながら何やら話そうと震える唇を動かすが、ただ小さく開閉されるだけで近くにいる彼女にさえ何の言葉も聞き取ることが出来なかった。
しかし、それでも私は友達の言わんとしてることがわかった。「本当に良いの?」と同様に伝えると友達はゆっくりと大きく首を縦に振った。
私は真実を話すことにした。
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