最終章 暗黒城~ すべての悲しみを乗り越えて(1)
「シルク姫。どうかご遠慮なく、わたしのことはクレオートとお呼びください」
あたしは、闇魔界という見知らぬ空間で、一人の素敵な男性と出会った。
その人は、あたしのことを子ども扱いせず、闇魔界から脱出する果てしない旅に同行してくれた。
「わたしは、姫を守るためにご一緒しているんです。どんな苦痛が待っていても、どんな困難であろうとも、それがわたしの、たった一つの使命なのです」
彼はいつも、身を挺してあたしを守ってくれた。
どんな戦いにおいても、どんなに傷ついても、彼は決して弱音を吐かず、このあたしを守ってくれた。
「わたしの手には、今でも消えることのない人間の血で染まっています。だから、わたしはもう、戦いという殺戮の舞台から降りることすら許されないのです」
過去の過ちに苛まれ、後悔の渦に巻き込まれ、闇を心の中に抱え込んでいた彼。
そんな彼を勇気付けたくて、あたしは精一杯、彼のことを励まし、そして慰めた。
「ご安心ください。姫はお独りではありません。このわたし、クレオートがそばにおります」
あたしが支配者(ルーラー)であることに戸惑い、進むべき道に迷った時も、彼はあたしのことを気遣ってくれた。
彼はあたしのことを抱き寄せて、このあたしのそばにいてくれると約束してくれた。
「どうか信じてください、姫。わたしはお約束したはずです。最後まで、あなたのことを守ると」
彼は誓ってくれた。この戦いの最後まで、いいえ、戦いが終わった後も、あたしのことを守ってくれると。
それなのに――。
それなのに、あなたはどうして――?
* ◇ *
(クレオート、あなたはどうして? いったい何がどうなっているの?)
ここは、時間の概念のない時空を超える異次元。
シルクは悲痛なる心を抱え、愛すべき人を想い、この空間を当てもなく彷徨っていた。
闇魔界の最高峰、魔神の神殿の王の間から鬼門を越えてやってきた彼女。まるで無重力空間のようなこの中で、ただ惰性に、ただ流されるがままその身を任せるしかなかった。
ワンコーとクックルーも、不安がいっぱいで戸惑いを隠せない。彼女と離ればなれになるまいと、彼らは武闘着の裾にがっちりとしがみ付いていた。
「ここはどこに繋がっているんだワン?」
「そんなこと、オレが知るかコケ」
死を覚悟して怯える仲間たちに、シルクは落ち着き払った口調で言い放つ。
「きっと、人間界よ。クレオートも、きっとそこに向かってる」
それは冷静になって考えればわかることだった。
クレオートが鬼門を作り出し、異空間へ飛び込む前に囁いていた台詞。シルクの記憶の中にそれが鮮明に刻まれていた。
魔剣を手中に収めて、闇魔界の新たな支配者となった彼が次に目論むもの、それは、もう一つの世界である人間界の征服だ、と。
彼女の不穏な一言に慄然し、ゾクッと全身に悪寒が走ったスーパーアニマルたち。このまま人間界が征服されたら、それこそ、動物界も征服されたといっても過言ではないだろう。
クレオートが魔族の手先だったのか、それとも、魔神と同じく人間として支配者の道を選んだのかは現時点では判断できない。だがどちらにせよ、人間界に危機が迫っていることに違いはなかった。
「とにかく、今は彼を止めること。あたしたちの戦いは、まだ終わっていないわ」
シルクたちは愛すべき人間界に思いを馳せ、帰還できるその時をどれだけ待ち望んでいたであろうか。
苦戦の末に魔神アシュラを倒し、闇魔界から望み通りに脱出できた彼女たちだが、最愛の仲間だったクレオートの凶行を阻止する羽目になろうとは、あまりにも悲運で皮肉な現実だった。
現実も過去も未来も、すべてが歪曲しているこの空間で、いったいどれほどの時が流れたのだろうか?
不安と恐怖、そして混沌と焦慮……。さまざまな憶測を胸に抱きながら、彼女たちは異空間の終わりを告げる円形状の穴を越えていくのであった。
◇
「きゃっ!」
「ワオン!」
「コケケ!」
シルクたちは冷たくて硬い床の上に落下した。
ここはいったいどこ? 彼女はゆっくりと上体を起こし、目を細めて周囲を窺ってみる。
視界に広がるのは、陽の光の途絶えた薄暗い空間。だが、床に落ちているロウソクの火が、ここがどこかの部屋の中であることを教えてくれた。
そのロウソクをそっと手に取った彼女は、ぼんやりと映し出される室内を眺めてみた。
ひび割れている壁や穴だらけの床、倒壊している木製の椅子や棚、散乱している聖書らしき本や紙切れ、そして、部屋の奥でひっそりと佇んでいる、十字架を掲げたアーチ状の祭壇。
見覚えのある光景を目にした途端、彼女はここがどこなのかはっきりとわかった。
「ここ、パール城のあかずの間だわ」
埃っぽい空気が充満し、閉塞感からか息苦しさを抱かせる室内。ここはどうやら、シルクが神の洗礼を受けるために来訪した、あの”あかずの間”だったようだ。
「間違いない、ここは、あかずの間だワン」
暗がりでは視力の効かないワンコーだが、咽るような不快な臭いでそれを感じ取ることができた。
ここは紛れもなく人間界であり、かつ生家でもあるパール城内。この願ってもない幸運に感謝し、彼女はホッと胸を撫で下ろしていた。
――ところが、その直後、彼女の脳裏に恐るべき戦慄が過った。
「ということは、クレオートもここにいる。お城のみんなが危ないわっ!」
それは、あってはならない惨事であり、決して起きてはならない惨劇。
緊迫感で鼓動が激しく脈打ち、シルクの表情からみるみる血の気が引いていく。
勢いよく立ち上がるなり、あかずの間から飛び出していく彼女。置いてかれまいと、慌てて彼女を追いかけていくワンコーとクックルー。
茶色い煉瓦の壁に覆われた地下通路を、息を切らせながら走り続ける彼女たち。
長い一本道に反響する高らかな足音。その乱れる変則的なリズムが、彼女たちの今の心境を物語っていた。
「みんな、もうすぐ大広間に出るわよ!」
地下通路から大広間へ繋がる梯子に手を掛けて、シルクたちは手に汗を握って上っていく。
頭上に開けてくるかすかな明かりは、暖かい家族たちが迎えてくれる安らぎの光なのか、それとも?
パール城の地上一階、艶のある真紅の絨毯が敷き詰められた大広間のロビー。
シルクとワンコー、そしてクックルーがやっとの思いで到着した時、そこは、目を覆うほどの凄惨たる光景が広がっていた。
「うそ……」
シルクは両手で口元を塞ぎ、ショックのあまり言葉を失う。
ワンコーとクックルーも衝撃に耐えられず、全身がブルッと縮こまった。
真紅の絨毯をさらに赤く染め上げる、おびただしいほどに飛沫した鮮血。断末魔の苦しみを抱えたまま、絨毯の上に倒れている多数の人々。大広間のロビーは文字通り、血の海と化していた。
活気を失い、賑やかさすらも消えたそこは、まさに地獄絵図――。
死んだ魚のような目をして絶命しているお城の従事者たち。その動くことのない黒ずんだ瞳が、彼女たちのことをじっと見つめていた。
「こ、これはひどいワン」
「ま、まさか、これ、魔族か何かのせいかコケ?」
あまりの惨たらしさ、血なまぐさい臭いが鼻に纏わりつき、ワンコーとクックルーは気分が悪くなり嘔吐しそうになる。
彼らが後ずさりしている中、ハッと何かに気付いたような顔をしたシルク。揺らいでいたその視線は、大広間から階段で通じる二階へと向けられていた。
そして、彼女は猛スピードで走り出す。向かう先は言うまでもなく、愛情をたっぷり注いで育ててくれた国王と王妃、そう、彼女の両親がいるはずの国王の間であった。
(お父様、お母様、お願い! どうか無事でいて――)
階段を一段一段踏み締めるたびに、シルクの鼓動が激しくなり呼吸も乱れていく。
気ばかりが焦り、階段を踏み外しそうになっても、彼女の両足はひたすら動き続ける。愛してやまない両親の安否を確認するまでは。
二階まで辿り着き、国王の間のある真正面を見据える彼女。よく見ると、出入口の扉が半開きになっているが、室内の様子までは窺い知ることはできない。
ま、まさか――。彼女は緊張という名の生唾を呑み込んだ。
知らず知らずのうちに両手が震えている。脈動が抑え切れなくなり、心臓が破裂してしまいそうだ。
耳を澄ましても、人の話し声も息遣いも聴こえてこない。動揺と不安がますます強くなり、彼女の胸が痛いぐらいに締め付けられる。
「お父様、お母様!!」
父親と母親の出迎えてくれる微笑みを信じて、シルクは出入口の扉を目一杯開け放った。
しかし……。彼女のことを出迎えてくれたのは、大理石の柱が並んだ室内の奥にある肘付きの王座、そこで、顔も衣装も真っ赤な血で染め上げた、親愛なる両親の事切れた無残な躯であった。
彼女は近づくまでもなくすぐに悟った。王座から身を崩しているその姿から、すでに生気が消え去っていることを。
立ちくらみと眩暈が入り混じり、彼女はよろめきながら両膝を落とした。
この世に無念を残し、惨殺されたことを恨む両親の怨念たる形相が、まぶたを閉じてもなお、彼女の瞳に烙印のごとく焼き付いていた。
「姫ー」
「シルクー」
ワンコーとクックルーも息せき切って国王の間に駆け付けてきた。
そして、ここで起こった惨劇を目の当りにした彼らは、立ち尽くしたまま硬直した。クックルーはまだしも、ワンコーの驚き具合は半端ではなく、金魚のように口をパクパクさせて声を震わせていた。
「そ、そんな、国王様に、王妃様まで……」
シルクは喉元から何かが込み上げてきて、赤色のラグマットの上に跪いてしまう。
激しい動悸に襲われる彼女、ここまで走ってきた彼女の全身は汗でびっしょりだった。しかし、両親が惨殺されたはずなのに、不思議と涙は零れてはこなかった。
これは夢なのかも知れない。あかずの間の出来事も、闇魔界という世界も、そしてクレオートという人物のことも。
モザイクのかかった不明瞭な感覚を振り払おうと、彼女は無我夢中になって黒い髪を振り乱していた。
「ん? 誰か、いるワン?」
シルクたちしか生存者がいないはずの国王の間に、かすかながらも届いた人の声。人並み以上の聴力を持つワンコーが、真っ先にそれを感知した。
一歩、また一歩とゆっくり歩き出し、彼は鼻を利かして捜索を開始する。
救助犬のように振る舞う彼のことを、シルクとクックルーは黙ったまま遠目に眺めるしかない。
それから数秒後、ワンコーは見事に生存者を発見した。剣を杖にして体を支えているその男性は、大理石の柱に背中からもたれ掛かっていた。
「姫、来てほしいワン! ここに兵士さんがいるワン」
「え、本当に?」
シルクはすぐに立ち上がり、生存している兵士のもとへ足を速めた。
彼は苦痛に耐えながら、わずかに肩で息をしている状態だ。額から汗と混じって血が流れており、そればかりではなく、吐血していたのだろう、真一文字の口元にも淀んだ血が滲んでいる。
苦しむ表情の彼のもとへやってきた彼女、その様相を見ただけで、瀕死の重傷であることは明白であった。
「あれ、あなたは確か……」
シルクは兵士の面影に見覚えがあった。
このパール城の庭先で、朝の稽古に付き合ってくれていた、兵役に就いたばかりのあの若い兵士だったのだ。
いくら剣術に長けていない下級クラスとはいえ、王国兵士の一人に変わりはない彼が、ここまでボロ雑巾のごとく痛め付けられて、彼女は悲痛な眼差しを向けるしかなかった。
しっかりしなさい! いったい何があったの? 彼女はいつもの稽古の時のように、目を瞑っている彼のことを叱咤した。
「お姫様、ですか……?」
消え入りそうな声を漏らし、兵士は重たげなまぶたを持ち上げる。
血と汗のせいでぼやける視界、そこにお姫様であるシルクが映り、彼は安堵したのか小さな笑みを浮かべた。
「よかった、気が付いたのね」
「お、お姫様、申し訳、ございません。ボクが、不甲斐ないばかりに……」
あなたの責任ではないと、しきりに詫びる兵士を励まそうとするシルク。
今、何よりも知りたいのは、パール城を地獄に陥れたこの惨状について。彼女がそれを問うと、彼は悲壮な顔つきのまま衝撃的な事実を口にする。
「あ、あまりにも突然の、ことでした。赤い鎧を着た剣士が、魔物を引き連れて、お城へ攻め込んできたのです」
「赤い鎧の剣士――」
シルクの表情が悲しさと悔しさで歪む。
その一言だけは聞きたくなかった。もちろん、信じたくもなかった。
兵士の証言だけでは、その人物がクレオート本人かどうかは特定できないが、ただ一人の生き証人が語る真実は、彼女の胸を引き裂くぐらい苦しめるものだった。
相当数の魔物を従えて、パール城に奇襲を掛けてきたという赤き鎧の剣士。
果敢に迎え撃とうする兵士たちは皆、魔物の攻撃によりことごとく蹴散らされて、さらに、逃げ惑う使用人たちすらも皆、魔物の毒牙の餌食となってしまった。
理由も目的も告げることなく、ただ残虐な微笑だけを浮かべる赤き鎧の剣士は、二階の国王の間に赴き、国王と王妃に向かって大きな幅の剣を翻したとのことだ。
「ボ、ボクは偶然、所用でここにおりまして、こ、国王様たちを守ろうと思い、剣を抜いたのですが……」
兵士は一心不乱に立ち向かったが、まるで赤子の手を捻るかのように、赤き鎧の剣士の一撃により弾き飛ばされてしまった。
どんなに倒されても、どんなに挫けそうになっても、彼は使命と誇りを胸にひたすら進軍した。しかし、その甲斐も虚しく、強大な力を振るう敵の前になす術もなかった。
そして、薄らいでいく意識の中で彼が見た光景とは、大剣を突き刺されてもがき苦しむ、国王と王妃の悲しい末路であった――。
胸がキュッと苦しくなり、シルクは沈痛な面持ちで目を伏せた。それでも一国一城の姫君である彼女は、冷静さを保ちつつ気丈に振る舞おうとする。
「それで、その魔物たちはどこへ?」
「は、はっきり、したことは、わかりませんが、お城から、東南の方角へ」
「ということは、プラチナの街があるじゃない!」
国王の間の窓際、厳かなカーテンの隙間から覗く窓ガラスに、パール城の城下町であるプラチナの街の遠景が映る。
東南の方角を見つめるシルクは、街へ向かう魔族の群集の幻影を見て、不測な事態を予見し胸騒ぎを覚えた。
もう一つだけ教えて。彼女は兵士の方へ振り向き、念を押すように小声で質問をする。
「お父様とお母様を殺したのは、間違いなく、大剣を持った、赤い鎧を着た剣士だったのね?」
「は、はい。そ、それだけは、間違い、ありま、せん……、ゴホッ、ゲホッ」
無理やり声を出したせいか、兵士は吐血に見舞われてしまい呼吸困難に陥った。
シルクからの厳命により、ワンコーの回復魔法で延命措置が施されたが、その傷はあまりにも深く、彼の生命を維持させることは厳しい状況だった。
「はぁ、はぁ……。で、でも、お、お姫様、だけ、でも、無事で、よ、よかった……」
「声を出しちゃダメ! 静かにしていなさい」
シルクは込み上げる衝動をグッと堪えて、室内に反響するほどの怒鳴り声を放つ。
毎朝の稽古で培った根性はどこへ行ったの? 城下町で暮らす両親のために兵士長になる夢は諦めるの? 彼女は懸命に声を張り上げて、兵士の消えゆく命の灯火を燃え上がらせようとした。
しかし、彼の息継ぎはどんどん早くなっていた。もう死期を悟っているのだろう、彼は制止されても、悔いのないこれまでの人生に感謝し、思いの丈を吐露していく。
「ボ、ボク、にとって……。お、お姫様との稽古、と、とても楽しかった……」
「うん、わかってる。あたしだって、あなたの成長していく姿を見るのが、本当に楽しかったわ」
シルクの腕に必死にしがみ付く兵士。その時の腕の力は、彼女が過去に感じたことがないほど熱く、そして強かった。
「はぁ、はぁ……。あ、ありが、とう、ござい、ます。……お姫様に、出会えて、ボクは、幸せ、でした」
兵士の腕がだらりと滑り落ちた。
激しかった息継ぎも止まり、もたげていた頭もガクッと垂れ下がった。
彼はシルクに看取られながら、静かに命を引き取った。幸せを感じていたのだろうか、使命をやり遂げて職務を全うした後のような、澄み切った晴れやかな笑顔だった。
(…………)
この時、シルクの瞳から涙の滴が零れ落ちた。それは、この世界に帰ってきて初めての涙だ。
親しくしてきた人たち、稽古の相手の兵士、そして両親の死。パール城の崩壊に込み上げてきた感情が溢れ出し、彼女は嗚咽を漏らしながら泣き崩れる。
彼女の感情を埋め尽くしている嘆き、憎しみ、妬み。何よりも、生まれ故郷を地獄に変えた張本人への恋心が、悲しくて、悔しくてたまらなかった。
ワンコーとクックルーもやり切れなさで押し黙るしかない。今はただ、彼女が泣き止み、立ち直るその時を待つしかなかった。
(もし、本当に、これがクレオートの仕業だとしたら、あたしは、あたしは……)
シルクは泣きじゃくる顔を俯かせて、力を込めた握り拳をガタガタと震わせる。
この広大なパール城で独りぼっちになってしまった彼女、お供たちがいるとしても、いつも遊んだり、叱ってくれたり、話し相手になってくれた家族のような人々は、もうここには存在しない。
十五歳を迎えたばかりの少女にとって、それはあまりにも残酷で無慈悲な現実だ。現実逃避という文字が脳裏にちらついても、誰も批判できない年代と言えるだろう。――だが。
(負けられない、あたしは、こんなところで泣いてなんかいられないんだ!)
これこそが、伝説の支配者(ルーラー)として誕生した少女の不屈の闘志だった。
闇魔界を魔剣とともに支配し、さらに、人間界までも支配しようと画策するクレオートを阻止できるのは、最後まで正義感を貫き通す、救世主となるべく彼女以外に他ならないのだ。
武闘着の袖で泣き顔を拭き取るシルク。目元は真っ赤に腫らしているが、その表情はいつもよりも精悍で、勇者らしい闘争心をみなぎらせていた。
「ワンコー、クックルー、プラチナの街へ向かうわよ! クレオートを止められるのは、支配者(ルーラー)であるあたしたちしかいない」
シルクは勇ましく立ち上がるなり、窓ガラス越しのプラチナの街の遠景を指差した。
彼女の変わり身の早さに唖然とするも、ワンコーとクックルーも頷き合って、彼女の指先を目で追った。
ここまで育ててくれた父親と母親、そして、慕ってくれていた若き兵士を手厚く葬った彼女は、仲間たちを連れて国王の間を飛び出していった。
パール城内を駆け抜ける彼女の頭に浮かぶ、真紅の鎧を纏った逞しい剣士の姿。
憧れから始まり、いつしか恋に落ちた。信頼と親愛を寄せていた彼への気持ちに嘘偽りはなく、それが今でも彼女の胸を痛いぐらいに締め付けている。
(待っていなさい、クレオート。必ず、あなたに追いついてみせる)
名剣を腰に従えた一人の少女は、淡い想いも何もかも振りほどき、ただ真っ直ぐを見据えて、魔族が襲来しているやも知れないプラチナの街へと急ぐのだった。
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