第六章 狂信の村~ 地獄から蘇る恐るべき神(2)

 狂信の村――。そこは胸に十字架を刻んだ者が暮らす、新興宗教に支配されている人里。

 緑生い茂る草原の中に散らばる寂れた木造家屋。どの屋根にも、大小さまざまな十字架が掲げられており、この地全体が神を崇拝していることを暗に示していた。

 石でできた井戸から村へと辿り着いたシルクたち。のどかな風景の中に広がるこの物々しい様相に、彼女はゴクリと生唾を呑み込んだ。

 今はじっとしている時ではない。負傷しているクレオートを休ませるために、一にも二にもまず休憩スペースを見つけること。彼女たちは草木を掻き分けながら、静かな家並みの方へと歩き出していった。

「探そうにも、ろくに人も歩いていないわ。どこかのお家を訪ねるしかないのかしら」

 焦れる思いに駆られながら、家屋の周辺を見渡してみるシルク。

 ワンコーとクックルーも、あちらこちらと首を振るたびに、困った顔を突き合わせるばかりだ。

 ただでさえ、クレオートに肩を貸し続けている彼女の疲労感も相当なもので、できることなら、彼と一緒になって休息を取りたい気持ちはごまかせない。

 途方に暮れること数分。何かしらの気配を察知した彼女、異様さを感じさせる雰囲気に神経が逆立つ。

「おい、人が出てきたコケ」

「でも、何だか様子がおかしいワン」

 家屋の裏手からゆっくり近づいてくる人影。前方からも、さらには後方からも、総勢十数名ほどの人間たちが、いつの間にかシルクたちのことを取り囲んでいた。

 それはただ事ではないとすぐに推察できる。なぜなら、その人間たちの目は嫌疑に満ちており、不審人物を警戒するような鋭い視線だったのだ。

「あ、あの、何か御用でしょうか?」

 シルクがおっかなびっくり尋ねてみると、睨みを利かせる人間たちは攻撃的は言葉を発してきた。

「ここへ何をしにやってきた? ここ狂信の村は尊大なる神を信仰する聖地。無用に聖地を汚すことは断じて許さんぞ!」

「さぁ、ここへやってきた目的を言え! 事と次第によっては、我々教徒が力ずくでこの村から追い出すぞ」

 眉を吊り上げていきり立つ教徒は皆、白を基調とした衣類を身に着けて、銀色に輝くクロスのペンダントを首からぶら下げていた。

 それは明らかに威嚇のポーズ。教徒たちはじわりじわりと間合いを詰めて、侵入者を始末せんばかりに棍棒のような武具を振り上げる。

(そうだ、神父さんからいただいたペンダント――!)

 シルクは武闘着に仕舞っておいたペンダントを握り締めた。それこそが、歓喜の都の地下街で出会った神父から手渡された、この狂信の村で怪しまれずに活動できる通行証であった。

 待ってください! 彼女は銀色のクロスを正面に向かって突き出した。太陽の光を浴びたクロスは輝きを反射して、教徒たちの険しい目つきを瞬時にくらませる。

「これを見てください。あたしも、あなたたちと同じ信仰者なんです」

 教徒たちは目を覆いながら、シルクの手にある十字架をまじまじと見据えた。

 その数秒後、教徒たちの表情がみるみる柔和になっていく。まるで家族のことを迎え入れてくれる、暖かくて温もりすら感じさせる笑顔だった。

「おお、これは大変失礼を。そのペンダントは紛れもなく、ゲルドラ教を信仰する教徒の証しだ。ようこそ、ゲルドラ様を祭る聖地、狂信の村へ!」

 パッと花が咲いたように明るくなり、旅人の訪問を快く歓迎する教徒たち。

 ”ゲルドラ”と呼ばれる謎めいた神の存在に関心を示したシルクだが、それよりも何も、人が変わったようなその豹変ぶりに、安堵というよりも戸惑いを浮かべる方が先だった。

 ひと悶着はあったものの、狂信の村へ招かれる客人と認められた彼女は、クレオートの怪我の具合を懸念し、休息を取れる場所がないか尋ねてみた。

「申し訳ありませんが、あたしの仲間が大怪我をしているんです。どこか、休める場所はありませんか?」

 教徒の中の一人の男性が、そういうことならと、一軒の木造家屋を紹介してくれた。

 そこは現在誰も住んでおらず、室内は少々くたびれてはいるが、人間が二人と動物二匹ぐらいのスペースは十分に確保されており、傷の療養でも、旅の疲れを癒すでも、自由に使ってくれて構わないとのことだ。

 困った人を助け合うことが、ゲルドラ教の精神なのだと教示するその男性。他の教徒たちも同調し、恵比須顔のままでコクンコクンと頷き合っていた。

「どうも、ありがとうございます。それなら遠慮なく使わせていただきますね」

 親切丁寧に接してくれる教徒たちに、シルクは心からお礼を告げて頭を下げる。しかしその内心は、教徒でも何でもない自分自身に負い目を感じていたことは否めない。

 クレオートの傷を治すことや、これから先へ向かう使命がある彼女、これも致し方がないことなのだと、心の中にある罪の意識にそう囁きかけるしかなかった。

 無人の家屋へお邪魔することになったシルクたち。室内へ消えていく彼女に向かって、先ほどの男性の教徒が声を掛けてきた。

「ここから少しばかり先に行くと、ゲルドラ教の大教会があるんだ。そこでは定期的に、救世主となるべくゲルドラ様の降臨をお祈りする集会をやってるから、一息ついてからでいいから来てほしい」

 シルクは即答ではないが、了解を示すように頭を頷かせた。それが、信仰者ではない自分への計らいに対する、せめてものお詫びの気持ちだったのだろう。


 教徒から勧められた家屋の中は、少しだけ埃っぽく咽る臭いが鼻を突いたが、それでも、藁で造られた敷布が敷いてあり、怪我人を静養させるには問題ない住空間であった。

 切り込みの入った木製の壁から日差しも差し込み、ほのかな明るさと穏やかさに包まれる室内。シルクたちはここでようやく、しばしの安息の一時を迎える。

 ワンコーとクックルーに手伝ってもらい、彼女はクレオートを敷布の上に寝かせる。

 真っ赤な兜を外されて、襟足まで伸びた黒髪を寝かせた彼。まだ痛みを堪えているのか、その表情は苦悶の中を彷徨っているようだ。

「クレオート、どう? 少しは楽になった?」

「……姫、何から何まで申し訳ありません。おかげさまで、随分、体が軽くなりました」

 クレオートはそう笑ってみせるも、顔中は玉のような汗でびっしょりだ。

 シルクがそっと彼のおでこに手を触れてみると、案の定、手を引っ込めてしまうほどの高熱が感触として伝わった。

 これはちゃんと看病しなくちゃ! 手当てに必要となる手拭いと水をワンコーたちに準備させた彼女は、武闘着の袖を腕まくりして手厚い看護に当たることにした。

 水で濡らした手拭いを絞っては、クレオートの顔や首元を丁寧に拭う。そして、また水ですすいだ手拭いを絞り、流れる汗を綺麗に拭き取る。

 幼少の頃から熱を出してばかりのお転婆だった彼女、いつも看病されていた経験からか手際もよく、その繰り返しの甲斐もあってか、彼の顔色は少しずつだか良くなっていった。

「熱も下がったみたい。これなら、あとは安静にしていればきっと大丈夫ね」

 クレオートの高熱も峠を越えて、シルクは汗を拭いながらホッとした吐息をつく。

 彼女ばかりではなく、看病を手助けしたワンコーとクックルーも、心なしか頬の辺りの緊張が緩んでいた。

 容態も落ち着いたおかげで、安らかな表情をしているクレオート。そんな彼の隣で、肩の荷が下りたシルクも疲労と心労から来る睡魔に襲われていた。壁の切り込みから吹く涼風が火照りを冷まし、心地良さをさらに冗長させていたようだ。

 いくら剣術に長ける彼女でも、眠気という強敵にはやっぱり勝てない。コクリコクリと頭を上下に揺すっていたところ、ワンコーから唐突に話しかけられてしまった。

「姫。大教会には行くのかワン?」

「……え、あ、ああ、そうだったわね」

 シルクは慌てて眠たい目をごしごし擦った。

 救世主の再来を祈願しているというゲルドラ教の大教会。彼女はふと、快く招き入れてくれた教徒から、そこへ来訪してほしいと誘われていたことを思い出した。

 親切にしてもらった手前、ちょっぴり顔を出すだけでもと考える彼女だが、もともと神にすがるつもりのないクックルーは、ぶしつけな言葉を吐き出し、あからさまに怪訝そうな顔つきを突っ返す。

「やめておいた方がいいコケ。あの連中が言っていたゲルドラってどうも胡散臭いコケ」

「う~ん、そうなんだワン。闇魔界みたいな世界で、神の降臨を祈るのもおかしいワン」

 クックルーほど感情的ではないが、ワンコーも怪しんでいるのか内心穏やかではなかった様子だ。

 二の足を踏むお供二匹のことを見て、ちょっと静かにしなさいと、シルクは口元に人差し指を置いて小声で叱責した。

「そういうこと言っちゃダメ。壁に耳あり障子に目あり。さっきみたいな信仰者がどこにいるかわからないんだから、口を慎みなさい」

 言葉こそ常識ぶってはみても、シルクの本心も救世主の存在を訝っていないわけではない。できることならその正体を知り、本当にこの村にいる人間たちを救える神なのか、真相を確かめたいと願うところだった。

 それならばはっきりさせようという話となり、彼女たちは相談の結果、お祈りが行われる大教会へ足を運ぶことになったわけだが。

 彼女の憂いを映した眼差しは、いつしか、敷布で横になっているパートナーへと注がれる。

「待って。クレオートをここに置いてはいけないわ。彼が回復するのを待ちましょう」

 すると、目に輝きを取り戻しつつあったクレオートが、しっかりとした口調で声を上げる。

「姫。わたしのことはもう心配いりません。わたしをこのまま残して、教会の方へ行ってきてください」

「クレオート? 本当に大丈夫なの?」

 無理やり上体を起こそうとするクレオート、それを止めようとしたシルクを制した彼の表情は、いつも通りの凛とした笑顔であった。

「姫のご看病のおかげで、もうすっかり楽になりました。本当にありがとうございました」

「何を言ってるの。あたしは当然のことをしたまでよ。あたしにとって大切な仲間なんだし、これからもずっと一緒にいたいんだから……」

 次の瞬間、二人は時間が止まったかのような錯覚を覚える。

「あ……!」

「え……?」

 顔を真っ赤に染めたシルクは、俯きながら目線を下に落とした。

 一方のクレオートも口を噤んで、やり場のない目線を真上に向ける。

 照れ隠しをする二人を眺めながら、冷やかした微笑を見せ合うワンコーとクックルー。

 少々気まずい雰囲気に包まれる中、ぎこちなく上擦った声を上げたのは、この家屋で留守番役を買って出るクレオートだった。

「わ、わたしはここで待ってます。姫はご準備よければ、お出掛けしてきてください」

「わ、わかったわ。それじゃあ、ワンコーにクックルー、行きましょうか」

 シルクは恥ずかしさをごまかしたいのか、勢いよく腰を持ち上げるなり、お供の二匹を連れ立って表へと出掛けていった。

 狂信の村で暮らす人々が崇拝する”ゲルドラ”――。

 救世主と謳われるその神は、この闇魔界で光を閉ざされた人々の希望の光となるのであろうか?

 緊張と不安が交錯する中、シルクの向かうべき先は、ゲルドラ教の教徒たちが集まる大教会であった。



 クレオートを一人休憩場所に残したまま、シルクたちは村のさらなる奥、青葉を茂らせた樹木が立ち並ぶ林までやってきた。

 青葉が邪魔して思いのほか光が届かいその林の中に、他の家屋よりも上品でかつ綺麗な装飾の、木々に取り囲まれている教会が存在した。

 観音開きの入口扉、模様が描かれたステンドガラス窓、そして、屋根のてっぺんに立つ、ここがゲルドラ教の聖地であることを証明するかのような、真っ白に輝く巨大な十字架。

「どうやら、あそこが大教会みたいね」

 大教会へ続く小路沿いには、コウモリのような羽根を広げた女神像がいつくも飾ってあった。

 薄気味悪さが漂う小路を越えていくシルクたち。入口扉に一歩一歩近づくにつれ、何やら経典を唱えるかのごとく男女の声が聞こえてきた。

 入口扉の正面に到着したシルクは、ステンドガラス越しに教会内の様子を窺ってみる。教徒たちの後ろ姿は見えるものの、そこで何が行われているのかまではさすがにわからない。

 ワンコーとクックルーに目配せの合図をしてから、彼女は意を決したように入口扉を開け放った。

「バンザーイ、バンザーイ、ゲルドラ教バンザーイ! すべての民の命を救う救世主様よ、我ら教え子たちの前に姿を現したまえー!」

 最初にシルクの耳に飛び込んだのは、ゲルドラ教の信仰者たちの救いを求める祈願の雄叫びだった。

 大教会の室内を埋め尽くす人、人、人。そのすべてがクロスのペンダントを握り締めて、一心不乱になって祈りを捧げている。さも、狂信者と言わんばかりに。

 熱狂の嵐が渦巻く教会の奥にある教壇には、ゲルドラ教の司祭らしき姿をした男性が、長い杖を振り回しながら経典を唱えていた。

「ねぇ、見てみて」

 シルクは声を潜めて、ワンコーとクックルーに手招きをする。

 教徒たちの合間を縫うように指し示されたその方角、司祭が祈りを捧げている先に、見る者を震撼とさせる風格をした、ゲルドラと思われるご神体の銅像が祭られていた。

 奇妙な形をした王冠を被り、顔中にひげを生やしたミイラのような風貌。そこには神らしき後光などまったくなく、おぞましい暗闇だけが取り巻く邪神のように見えなくもなかった。

 邪神の銅像に向かって杖を振り回す司祭。そして、呪われたかのごとく、彼に言われるがままに神の再来を祈願する人間たち。

 これはとても尋常じゃない。シルクは悪夢の中を彷徨っている気分だった。

(こんなの礼拝じゃない。生きる希望すら失って、存在しない救世主を待ち続けるだけの、正統なる神への冒涜に過ぎないわ)

 悪魔の復活を願うような祈りは数分間にも及び、それを滞りなく終えた司祭が、大教会に集う迷える子羊たちの方へと振り向いた。

「ゲルドラ教を信仰する皆様、どうかお喜びください。もうまもなく、救世主様が闇の世界に再来されることを、この司祭が、心の中でしっかりと聞き取りました」

 司祭からのありがたい報せで、大教会が揺れんばかりの大きなどよめきに包まれる。

 嬉しさから込み上げる喜々とした声、感激のあまり泣き叫ぶ声。ここに集いし老若男女は、それぞれの感じるままに喜びを表現していた。

 救世主ゲルドラの降臨には、何よりも信じる気持ちが必要。司祭は神に代わって啓示する。一日たりとも祈りを怠ることなく、救われることを心から願い、強く信じ続けることだ、と。


 それから数分後、大教会における祈りの時間が終わりを告げた。

 もうじき救われると知った教徒たちは皆、ゲルドラと思われる銅像に深々とお辞儀をし、満面の笑みを浮かべて大教会から去っていく。

 そんな上機嫌の人々の波を掻き分けていくシルクたちは、いつになく真面目な表情で、銅像の前でひれ伏している司祭のそばへと近づいていった。

 村中の人の奇声が飽和し、耳障りなほどに騒々しかった教会内。しかし今は、聞き取れないほどの司祭の独り言と、その背後で佇んでいる彼女の息遣いしか聴こえない。

「あの、すみませんが?」

 シルクの呼びかけに、白黒の祭服を翻して振り返った司祭は、一人の少女と動物二匹の存在に驚いたのか、呆気に取られたような顔で反応した。

「おや、あなたたちは?」

 一風変わった来訪者とはいえ、胸にあるのはゲルドラの再来を待つ者だけが身に着けるペンダント。

 シルクを熱心的な信仰者と勘違いしたのか、司祭はささっと身を引きながら、銅像へ祈りを捧げるよう促してみたものの――。

「あ、違うんです。あたしたちはペンダントは持ってますが、信仰者というわけではないんです」

 信仰者では、ない……? 司祭は眉をひそめて表情を険しくする。しかし、彼はそれなりの人格者なのか、先ほどの教徒たちとは違い、敵意を剥き出しにすることはなかった。

 シルクは胸の十字架を外して、ここまでの旅路をかいつまんで説明した。闇魔界から脱出する術を自らの力で見つけて、この村も含めて、これまでに出会ってきた人たち全員を救いたい、と。

 旅を続ける事情を察し、一定の理解だけは示した司祭だが、その目つきは冷ややかなままだ。

「ほう、それで、旅人であるあなたが、この司祭にどんな御用で?」

「ここよりも先を目指したいのですが、何があるのかご存知ありませんか?」

「ここよりも先、ですか。……たしか、真実のみ知る者がいるという館があると聞いた覚えが」

 シルクの脳裏に蘇ってきた記憶――。悲劇の村で出会った魔女ルシーダとの別れ際に聞かされた”真実の館”のことを。

「真実の館のことをご存知なんですか? あたしたち、ぜひともそこを尋ねてみたいんです」

 その在り処を尋ねるよりも先に、ああ、恐ろしや!と、司祭は青ざめた表情で上擦った声を上げてしまった。

「いけません! この先には獰猛な魔物がたくさん生息しております。いくら旅をしてきたあなたたちでも、生きて逃れる方法などありません。どうかお考え直しください!」

 真実の館へ辿り着くなど到底皆無。そればかりではなく、その館のはるか先には、魔族の王として、この闇魔界を支配する魔神の根城があるのだという。

(闇魔界を支配する魔神――!?)

 ここで初めて耳にした不穏な存在に、ただならぬ戦慄を覚えるシルク。そして、鼓動がドクドクと騒がしく脈を打った。

 その魔神こそが、人間たちを亜空間の中に縛り付けて、まるで玩具のごとく弄ぶ諸悪の根源。彼女はこの時、心の中にある正義感がより膨らんでいることを強く感じた。

 命を粗末にしたりせず、このゲルドラ様の聖地で祈りを捧げるのです! 司祭は握り締めた十字架を揺さぶって、無謀とも言える彼女の考えを激しく非難した、が。

「いいえ。あたしは、あたしの力で切り抜けて見せます」

 シルクは自信満々で、司祭の制止など聞く耳持たずに振り切った。

 実在するかわからない神にしがみ付くよりも、自分自身の足で前へと進み、自分自身の目で真実を確かめて、自分自身の手で勝利を掴んでみたい。それが、勇敢なる戦いを続ける彼女の本心なのだ。

 あたしには、生まれ持っての剣技の才能がある。彼女は躊躇うことなくそう自負し、名剣スウォード・パールにそっと手を触れた。

「司祭さん、どうか教えてください。真実の館へ行く方法を」

 苦虫を噛み潰したような顔で困惑している司祭。頑なに拒んでいた彼だが、熱弁を振るったシルクに根負けしたのか、やがて大きな溜め息を一つ零した。

「そこまでおっしゃるなら仕方がありませんね。いいでしょう、狂信の村の先にある、真実の館への道案内をして差し上げましょう」

「本当ですか。どうも、ありがとうございます!」

「ただし、本日はもう時刻も暮れました。お話の続きはまた明日にいたしましょう」

 司祭から道案内の約束を取り付けたシルクは、肩の荷が下りたのかホッと息をついた。

 クレオート一人を休憩場所へ残してきたばかりに、心細くて不安に駆られる彼女、いち早く報告せねばと、ワンコーとクックルーを連れて一目散に大教会を後にした。

 大教会にたった一人佇んでいる司祭。彼はおもむろに振り返って、薄気味悪い妖気を放つ邪神の銅像を見上げていた。

「ゲルドラ様よ。罪深き輩の来訪をどうかお許しください」

 その直後、司祭はニタリと不気味に微笑んだ。

「……わかっておりますとも。邪魔者は抹殺する、それがゲルドラ教の教理ですから」

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