第四章 悲劇の街~ 純真に思いを馳せる魔女(6)
悲劇の塔の地上十階。魔女ルシーダがいるはずのフロア。
窓の外から望む景色、そこは、人間界とはまた違った世界が広がっていた。
浮かび上がる切り取られた空間。そこに広がる濃淡な緑、そして、小さく点在する土色に薄汚れた住居。ここ塔の最上階から見下ろす風景は、まるで絵本にある童話の世界のようでもあった。
息を切らせて最上階まで到着したシルクたち。ただならぬ妖気と、張り詰める静寂が合わさって、額から冷や汗が滴り落ちてくる。
「よし、行くよ」
「ワン」
「コケ」
シルクたちの視界を遮る真っ黒なカーテン。気配こそ感じても、そこから魔女の容姿を目視することはできない。
緊張の面持ちのまま、そのカーテンを静かに潜り抜けて、このフロアの最奥部へと進んでいく彼女たち。
奥に近づくにつれて、おぼろげながらも浮かんでくる、やせ細った華奢な後ろ姿のシルエット。その正体こそが、魔女ルシーダであることに違いないだろう。
濃紺色のドレスを身に着けて、床に届いてしまうほどの長い髪を下ろした魔女は、展望台らしき大きな窓から、浅ましき人間が暮らす下界を見渡しているようだ。
「人間、か?」
魔女の囁きかける声は、まるで男性のような、ぶしつけなほどに野太い声だった。
振り向こうとしない彼女の背中に届くように、シルクは神妙な声で質問を投げかける。
「あなたが、魔女ルシーダさん、ですね?」
しばしの沈黙が流れる……。
張り詰める緊迫感だけが、魔女とシルクの隙間にずっしりと居座る。
大きな窓から吹き込んでくる風は、魔女の荒んだ心のように冷たく痛々しい。
「いかにも。わらわに何か用か?」
抑揚のない口調は冷酷そのものだ。しかも、後ろ姿のままで表情すら読み取ることができない。
魔女が解き放つ凍りつくようなオーラに怯みそうになるシルク。しかし、重要な任務を背負っている彼女、これぐらいの圧迫感で負けるわけにはいかない。
「あたしが……いえ、人間がここへ来たのなら、その御用もおわかりいただけるのでは?」
「フッ、小娘ごときが、生意気なことを申すものだな」
魔女ルシーダは肩を揺すって冷笑した。ブロンドに輝く長い髪も、それに倣ってかすかに揺れる。
見くびられることに慣れているシルクでも、この時ばかりは動揺を隠せなかった。なぜなら、一度も目と目を合わせていないはずなのに、自分が十五歳の少女であることを悟られていたからだ。
「ガンツに頼まれて、ここまでやってきたのなら、とんだ無駄骨だったな。わらわは魔法の結界を解くつもりはない。さっさと、ここから立ち去るがよい」
そうはいきません。シルクは毅然とそう言い放った。この世界に住まう人間たちの未来のために、彼女だって理由も聞かぬまま引き下がるわけにはいかない。
理由だと――? ルシーダの絞り出した声が小さく震えた。たったその一言に、彼女の怒りの感情が溢れんばかりに混じっている。
「おまえのような子供に、わらわの気持ちがわかるものかっ!」
最上階のフロアに反響していく怒号。悲しみと悔しさを乗せた叫びは、シルクの耳を通り抜けて虚しく消えていった。
ルシーダはついに全貌をあらわにする。金色に光る髪の毛を振り乱し、振り返ったその顔は、妖艶な雰囲気を持つ絶世な美女ではなく、憎しみに染まった醜悪な顔立ちであった。
「そもそも、あの男が情に溺れたことが、この村の悲劇の始まりだったのだ! 欲の皮を被った人間に裏切られたわらわの気持ちが、同じ人間のおまえにわかるものか」
魔族としてではなく、一人の女性として純真な想いを弄ばれたルシーダ。
その無念さは想像をはるかに超えており、それを示すように、彼女の吊り上った目尻から、薄っすらと悔し涙が滲んでいる。
彼女の言うべきことは尤もで、その傷心は受けた当人にしか知り得ないところだろう。
人間に対する不信感、いや、もう敵意に近い感情を吐き捨てるルシーダに、シルクは慰みも励ましの言葉すら思いつかず、ただ同情の意思表示をするしかない。
「ガンツさんの過ちは、許されることではありません。あたしも女の一人ですし、ルシーダさんのお気持ちぐらい理解できる年齢です」
罪には罰を。報復も止む無し。いくら少女のシルクでも、そういう仕打ちを考えられなくもないはず。
しかし、彼女はここできっぱりと断言する。魔女が張り巡らせた結界という報復は、明らかに矛先が違うだろう、と。
食って掛かるような少女の物言いに耳を疑い、ルシーダは牙を剥き出して眉を顰める。
「おまえ、何が言いたいのだ?」
「ガンツさんを反省させるつもりだったのでしょうが、あなたの行ったことは、人間の生きる希望すらも奪った仕打ちに他なりません」
歓喜の都への道を閉ざされて、希望を見失った人間たちは、疑心暗鬼に人を恨み、妬み、いずれは暴力という行為に走らせる。
互いを信用できなくなった人々は、疑心だけを抱えて生き長らえるだろう。それは、人間らしい心を捨ててしまった、あまりにも居たたまれない悲しき末路だ。
そんなシルクの説得にも、綺麗事を抜かすな!と、耳を傾けようともしないルシーダ。
たとえ一度許したとて、きっとまた裏切るはず。人間など、所詮は魔族と共生できない運命なのだと、彼女は恨みつらみにそう吐き捨てた。
「でも、ルシーダさん。……あなたは、そんな人間のことを本当に愛したんでしょう?」
核心を突かれたのか、ルシーダの顔つきが瞬時に強張った。
ガンツという男性を愛してしまった許されることのない罪。結界という罰を与えた今でも、彼女の心の中には、救われないわだかまりが残り続けているのか。
「ガンツさんもまだ、あなたのことを愛しているそうです。もう一度会ってお話がしたい、そうおっしゃっていました」
人を愛せるほど清らかな心を持つ者なら、人の悲しみも苦しみも理解できるはず。シルクは真剣な眼差しで、愛してくれる人を信じてほしいと誠意を持って訴えた。
魔女は口を噤んで俯いたと思いきや、即座にシルクに背中を向けてしまった。揺れ動かされた心を見透かされたくないという、魔族である彼女なりの自尊心だったのだろう。
しばし静寂なる時が流れた後、瞑っていた瞳を静かに開き、ルシーダはおもむろに天を仰ぐ。
「……清らかな心か。おまえ、幼い娘のわりには、なかなか大人めいた言葉を口にするではないか」
条件次第では、魔法による結界を解いてやろうと、ルシーダは態度だけは軟化してくれたようだ。
その時、チラリと見せた彼女の横顔は、先ほどのようなおぞましいものではなく、頬が少しばかり赤らんだ、麗人らしい美しい顔立ちだった。
闇世界から脱する術を求めて歓喜の都へと赴き、さまざまな情報を集めながら答えを見つけ出したいと切に願うシルク。
果たすべきその使命のすべてを、横顔を向けたまま聞き入れた魔女ルシーダ。一呼吸間を置いてから、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「ほう。おまえは、そんな夢物語を掲げて旅をしているのか。フフフ、まあ、いい。お望み通り、結界を解き放ってやろう」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます」
ホッと胸を撫で下ろすシルクだったが、意地悪な笑みを零すこの魔女が、いとも容易く、人の言うことを聞くとは思えない。
案の定と言うべきか、シルクはやはり、ルシーダから一つだけ条件を提示されてしまった。
望みを叶えたくば質問に答えるがよい。澄まし顔の魔女から突き付けられたその問いは、シルクを呆気に取らせるものであった。
「おまえにとって、この世の中で一番大切なものとは何か?」
大切なもの――? それはあまりにも漠然としており、正解や不正解といった形で表現できるものではないだろう。
回答が思いつかずに言い淀んでしまい、それぞれ戸惑いの表情を見せ合っているシルクたち。
それでも、正解を導かなければ未来への道は開けない。彼女はつぶらな瞳を閉じて、無言のままで思案に暮れる。
(あたしにとって、一番大切なもの?)
シルクの頭の中に思い浮かぶ大切なものはたくさんある。
パール国王や王妃である両親、お城に従事する兵士や使用人たち、レッド王国の王女であるコットンといったお友達、一緒に旅を続けるワンコーたちも、彼女にとってかけがえのないもの。
それらすべては皆大切で、甲乙を付けたり、優先順位を付けたりできるものではなく、どんなに熟考を重ねても、それを一つに纏められるものでもなかった。
「どうした? おまえには、大切なものは何もないというのか?」
怪訝そうに急かしてくるルシーダの声が、シルクの困惑する心情をますます追い込んでいく。
いつも饒舌なワンコーとクックルーも、この時ばかりは押し黙ってしまい、リーダーである彼女にすべてを委ねるしかなかった。
まだ答えに辿り着くことができないシルク。ふと、大切に思っている人たちの面影が、彼女の脳裏を走馬灯のように駆け巡る。
お手伝いをして褒められたり、悪戯をして叱られたりした両親との思い出。
お城の中で稽古の相手をしてあげた兵士たち、砂遊びや、追いかけっこで遊んだコットンとの触れ合い。
そして……。この闇魔界において、困難な冒険へともに立ち向かう仲間たち。
その思い出の一つ一つは、信頼という絆で結ばれて、愛するという感情で成り立っていた。彼女はようやく、たった一つの答えに辿り着くことができた。
(そうだ。あたしの一番大切なものは、人そのものじゃないんだ)
ルシーダが不快感を表情に示し、所詮は口先だけの小娘に過ぎぬかと、嫌味たっぷりにそう言い放った矢先、シルクの口からポロッと溢れ出てきた大切なもの。
「あたしにとって一番大切なものは。人を信頼して、人を愛する心」
この世界に住まう人たちの苦心、それを取り除くためには、人を信じて、人を愛することから始まる。
これまでの人生において、かけがえのない人たちを信頼し、愛してきたであろうシルクは、姿勢を正してもう一度言い直す。この世で一番大切なものこそ、救うべく人間のことを信頼し、そして愛情を持って接する心なのだ、と。
「ほう……」
魔女ルシーダは口角を上げて、意味ありげな吐息を漏らした。
シルクの自信に満ちた眼差しが、彼女の悪女っぽい不敵な笑みと対峙する。
ワンコーとクックルーの二匹は、それが正解なのか不正解なのかわからず、ただ黙りこくってキョトンとした顔で呆けていた。
風の音だけが流れる、息苦しい沈黙が続いていたこの最上階。その風に乗って、ルシーダの抑揚のない声が流れてきた。
「おまえ、名前は何と申す?」
「あたしの名前はシルク。シルク=アルファンス・パールです」
きちんと襟を正した身の振る舞い、真摯なる物言い、何よりも、魔族と対面してもまったく動じない精神力。
幼き少女の威風堂々とした姿に感服し、ルシーダは悪意のない穏やかな笑みを零した。
「シルク。おまえは、どんな困難にも負けず劣らない強い信念を持っているようだ。フフフ、人間にしておくのがもったいないほどにな」
魔法の結界を解き放ってやろう。清々しくそう呟き、潔く負けを認めて白旗を振った魔女。
シルクの答えが正解だったのか、それとも不正解だったのか。それについて一切触れることのないルシーダだったが、シルクと同じく人を信じて、人を愛した彼女だからこそ、傷心も封印も解く気になってくれたのかも知れない。
大きく開かれた窓際に立った魔女は、濃紺のドレスから白く透き通った腕を差し伸べると、何やら意味不明な呪文を唱え始める。
それからしばらくすると、バリケードと化していた虹色の結界が、まるで虹が消えていくようにその色を失っていった。
「これで結界は解き放たれた。もう、おまえたちを遮るものは何もない」
「ありがとうございます。ルシーダさん」
シルクたちは肩の荷が下りたのか、手を取り合って安堵の笑顔を浮かべていた。
「結界が解き離れた今、ここに用はなかろう。早々に立ち去るがよい」
「あの、ルシーダさん。もう一つだけ、お願いを聞いてください」
図々しいにもほどがあると、険しい顔つきと尖り声でそれに難色を示したルシーダ。そっぽを向いてしまったものの、どうやら聞き耳だけは立ててくれているようだ。
シルクが神妙ながら口にするもう一つのお願い、それは、もう二度と悲劇を繰り返してほしくないという、愛する二人を慮る切なる願いでもあった。
「ガンツさんと会って、きちんとお話してください。お二人とも相思相愛なら、きっとわかり合えるはずです」
「フン、とんだお節介な娘だな。わらわたちのことなど、おまえには関係のないことだろう」
ルシーダは鼻で笑うと、クルッとドレスを翻すなりシルクに背中を向けてしまった。きっとそれは、彼女なりの照れ隠しだったのだろう。
背中を向けること数秒ほどして、高ぶる心の中を悟られまいとした彼女は、わざと落ち着き払った低い声で語り始める。
「村へ戻ったら伝えるがいい。またここへ辿り着くことができたら、話だけは聞いてやる、とな」
「わかりました。ガンツさんに、確かに伝えておきます」
伝言をしっかり胸に刻んだシルクは、魔女ルシーダに別れを告げて、悲劇の塔の最上階を後にしようとする。
その直後、ルシーダの呼び止める声が耳に届き、シルクはすぐさま振り返る。
「この先、おまえたちがどこまで行けるかわからないが、はるか先に、真実のみ知る者が住むという真実の館があるそうだ。そこまで辿り着くことができれば、きっと、おまえたちに希望と未来の道筋を示してくれるだろう」
真実のみ知る者――。予想だにしなかったその助言に、シルクの気持ちが熱を帯びたように高揚した。
この世界から人々を救いたい彼女たちにとって、その人物はとても貴重で有力な存在であり、期待を大きくさせるには十分な情報のはずだ。
シルクは深いお辞儀で謝意を伝えると、今度こそ魔女ルシーダに別れを告げて、最上階から下のフロアを目指していく。彼女たちが真っ先に向かう先は、まだ再会を果たすことができずにいるクレオートのもとであった。
◇
シルクたちは階段を駆け下りる。息もつかせぬ勢いで駆け下りる。
どうか無事でいて、クレオート! 彼女の頭の中で、その言葉だけが幾度となく反芻している。
無機質な石を積み重ねてできたいびつな階段、苔で覆われた壁沿いをひた走り、彼女たちの足はようやく、クレオートが戦闘していた悲劇の塔の地上五階まで辿り着いた。
そこは激しい決戦があったことを告げるように、凄惨たる光景が広がっていた。
おびただしい血を流して絶命している魔族。リザード剣士は全身を切り刻まれて、荒れ果てた姿でそこに佇んでいた。
「クレオートは!? クレオートはどこにいるの」
青ざめた表情のまま、髪の毛を振り乱して周囲を見渡したシルク。
いくら魔族が落命していたとしても、肝心の、仲間であるクレオートが無事でなければ意味がない。彼女の心は不安の渦に巻き込まれていた。
血なまぐさい戦場と化していた踊り場、外の光が当たらない暗色の石畳の壁。大剣ストーム・ブレードを支えにして、そこにもたれ掛かる、激しく傷つけられた光沢を失った赤い鎧。
それが戦闘により負傷したクレオートだとわかった途端、シルクの悲鳴のような声が塔の中を駆け巡った。
「クレオート! しっかりして、お願い、目を開けてっ」
シルクの必死なる呼びかけに応じるように、クレオートは閉じていた瞳を静かに開く。
不屈の精神力と闘争心を持ち合わせる彼は、体力の消耗により動けないながらも、魔族を打ち倒すという使命をしっかり果たしていた。
「姫……。ど、どうでした? 魔女に出会うことはできましたか?」
「ええ、魔女と会って、結界も解いてもらうこともできたわ。あたしたち、歓喜の都へ旅立てるわよ!」
「そ、そうですか。それはよかった」
ワンコーから回復魔法を掛けてもらったクレオート。しかし、その傷は余程深かったのか、彼はすぐに立ち上がれそうになかった。
戦闘も終わり、行く手を阻む結界もなくなった今、無理に急ぐ必要はない。シルクはそう考えて、座り込む彼の隣へと腰を下ろした。
ここまで一心不乱に駆け抜けてきた彼女たち。悪の気配の去ったしじまが包み込むこの踊り場で、達成感という安らぎの休息をつく。
「申し訳ございません、姫。わたしが不甲斐ないばかりに、足手まといになってしまって」
「何を言っているの。あなたは立派な剣士よ。いえ、あたしにとって、とても大切な存在……」
シルクは晴れやかな表情ではるか天井を見上げる。
拓けた希望と未来をその手に掴むには、まだまだ、果てしなく遠い道のりとなるだろう。
彼女はこの時、冒険を一緒にする頼れる仲間たちのことを信頼し、そして、これからも愛情を持って接していこうと頑なに誓うのだった。
* ◇ *
悲劇の塔に棲む、魔女ルシーダの悲しき呪いが解かれた翌日。
人間たちが互いに疎遠となり、憎しみばかりが飽和していたこの悲劇の村に、活気に満ち溢れたエネルギーが戻ってきた。
歓喜の都への道を閉ざされていた呪縛も消え去り、期待と興奮に色めき立つさまざまな人々。ひっそりと暮らす人も、無法者たちも皆、穏やかな明るい日差しの下で、身も心も解放感に満たされていた。
それこそ歓喜の声を高々と上げながら、それぞれの希望と欲望のままに、意気揚々と旅立っていく者たち。
述べるまでもなく、さらなる新天地へと赴くことになるシルクたちも、その中の一組であった。
「あんたたちには、本当に世話になったよ。おかげさまで、こうやって明るいところで暮らしていけるよ」
「ガンツさん、約束してください。もう二度と過ちを犯したりしないでくださいね」
「ああ、わかってるさ。俺も十分反省したし、身も心も洗い直してから、もう一回、この塔の最上階を目指してみるよ」
シルクは旅立ちを直前にして、ガンツとともに、上空高くそびえる悲劇の塔を見上げる。
鉛色の妖しい気配に包まれていた最上階のはずが、いつしか、悲しみと憎しみが失せたかのように、澄み切った青空の中で美しく映えていた。
すすり泣くような吹き下りてくる風も、魔女ルシーダの傷心が幾分か和らいだのだろう、心地の良い微風に変わったようにも感じる。
魔物の脅威もなくなり、さらなる明るい光が射し込むこの塔。これならきっと、彼のような普通の人間でも、愛すべき者のもとへ辿り着けるはず。シルクはそれを実感しながら愛らしく微笑んだ。
「それじゃあ、あたしたちも行きましょうか」
「そうですね」
「了解だワン」
「行くぞコケ」
歓喜の都を目指して旅立っていくシルクたち。清々しく手を振るガンツと、悲劇の塔の上から見下ろしているかも知れない、魔女ルシーダに見送られながら。
魔法の結界が張り巡らされていた、この村と歓喜の都を結ぶ境界線。
心なしか急くように歩く人たちの背中を眺めながら、シルクたちはその地まで到着する。
「わぁ……」
シルクは感激の声を漏らした。
彼女の視界に広がる一面のお花畑。この地獄の世界の中でも、野に咲く花は可憐に咲き誇っていた。
赤色や青色、紫色に黄色といった鮮やかな花たちに迎えられて、気持ちを高ぶらせながら進んでいく彼女たち。
「姫、これからもお辛い戦いになるでしょう。気持ちを引き締めて参りましょう」
「ええ! 今のあたしたちなら、どんな困難も試練も乗り越えられるわ」
凛々しい顔と微笑ましい表情を向け合い、新たなる冒険の第一歩を踏み締めるシルクとクレオート。
そんなお似合いな二人を見やり、ワンコーとクックルーもニッコリ顔で後から続いていく。
新天地となる歓喜の都――。そこはいったい、どんな街なのだろう?
そこで待ち受けるものが、たとえ困難と試練であっても何も恐れることはなかった。いやむしろ、希望と未来に向かって前進できる期待に胸を弾ませる彼女なのであった。
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