リリミンと、やまのかみさま

@akuziki

リリミンと、やまのかみさま

むかしむかし、あるところに「リリミン」という女の子がいました。


リリミンは小さな村に住んでいましたが、今そこでは、

とても困ったことが起きていました。


雨がまったく降らないのです。


村の人は、空を見上げながら言いました。


「どうしよう、このままでは作物(さくもつ)が育たない。

みんな、何も食べられなくてしんでしまう」


別の村の人が、こう言いました。


「きっと、やまのかみさまが怒っているんだ。

だから、雨を降らせないんだ」


リリミンは、気になって聞いてみました。


「やまのかみさまって、だれ?」


村の人が答えました。


「やまのかみさまは、あの大きな山に住んでいるんだ。

だけど、誰もあったことがないんだよ。

昔、何人もの男が会いに行こうとしたけど、

みんなとちゅうで道に迷って、帰ってきてしまったんだ。

きっと、やまのかみさまは、誰にも会いたくないんだ」


「やまのかみさまは怒っている。

どうしたらいいんだろう」


村の人たちは、みんな悲しい顔をしていました。


リリミンは、思い立って言いました。


「わたしが、やまのかみさまと話してくるね」


村のみんなはリリミンを止めましたが、

リリミンは話を聞きませんでした。

きっと話せばわかってくれる。雨を降らせてくれる。

だって、やまのかみさまなんだから。

そう言って、村を飛び出して、山へと歩いていきました。



リリミンが山の入り口まで来ると、

そこには小さなお地蔵さん(おじぞうさん)が

置かれていました。

長い間、だれも山に近寄らなかったせいで、

とても汚れて、ボロボロでした。


リリミンはハンカチを持っていました。

お母さんからもらった、大切なものです。

ですがリリミンは、そのハンカチを近くの川で濡らして、

お地蔵さん(おじぞうさん)を、ふいてあげました。


どろが取れて、きれいになったお地蔵さんを見ながら、

リリミンはこう言いました。


「これでキレイになったね。今度は、こんなに汚れる前に

ふいてあげるからね」


ハンカチは洗いましたが、どろで黒くなってしまいました。

ですが、お母さんからもらった大切なハンカチです。

ポケットにしまって、いよいよ山に入ることにしました。



山に入ってしばらく歩くと、ワナにかかったウサギを見つけました。

きっと、昔の人が山に入って狩りをしていた時のものです。

ウサギは何度も何度もワナを外そうとしていましたが、そのたびに

血が流れて、とても痛そうでした。


「これはかわいそうなウサギさん。私が助けてあげなきゃ」


リリミンは、ウサギのワナを外してあげました。

そして、ハンカチを傷の所に結び、血が止まるまで、じっと待ちました。


ウサギは、最初はふるえていましたが、血が止まると、

元気に走り出しました。

ハンカチは真っ赤になってしまいましたが、ウサギが元気に

走っているのを見て、リリミンは嬉しく思いました。


「もう、つかまっちゃだめだよ、またね」


ウサギは何度も振り向きながら、お礼をするように頭を

ひょこひょこ動かして、そして森の奥に消えていきました。


しばらく歩いていると、なぜか木の実がたくさん落ちていました。

近くには川もあります。

本当は、リリミンはとてもお腹がすいていました。

のども、とてもかわいていました。

リリミンは山にお礼を言って、木の実と川の水を頂くことにしました。

まわりはいつの間にか真っ暗になっていたので、

その日はそこで眠ることにしました。


次の日、山の上を目指して歩いていると、もう一度ウサギに出会いました。

けがをしているウサギなので、すぐにわかりました。

ウサギが走っていく後ろを、何か大きな生き物が、ドスン、ドスンと

大きな音を立てて、追いかけています。


それは、大きなクマでした。

ウサギを食べようとして、おいかけているのです。


「きっと、助けたらしんでしまう。

ウサギを逃がすことができても、私はしんでしまう。

村のみんなのことも、助けることができない。」


リリミンはそう思って、目を閉じて、

かくれてやり過ごそうとしました。


でも、どうしても見捨てることができませんでした。


リリミンはウサギとクマの間にわりこみました。

ウサギはおどろいた顔でこちらを見て、クマは新しいえものを

見つけたような顔で、こちらを見ました。

もう、逃げることはできません。


クマが爪を振り上げました。


その時です。

空がとつぜん光って、カミナリがクマに落ちました。

クマはそのまま気絶して、倒れこんでしまいました。


何が起きたのか、わかりませんでした。

わかったのは、ウサギを助けられたということでした。


「二回もひどい目に合うなんて、不幸なウサギさんだね。

今度こそ、ちゃんと逃げるんだよ」


そう言ったリリミンに、ウサギは何度もお礼をするように

頭を動かすと、また山の奥へと消えていきました。



そしてついに、リリミンは山のてっぺんにたどり着きました。


「やまのかみさま、やまのかみさま。

たいせつなお話があります。

どうか、会ってもらえませんか」


リリミンがそう言うと、まわりが急に明るくなり、

大きな何かがおりてきました。


それは、とても大きなフクロウでした。

フクロウが羽をバサバサすると、大きく風が吹いて、

まわりの木がギシギシと揺れました。


「これはこれは、小さな女の子が、よくここまでたどり着いたね。

私が、やまのかみさまだ」


フクロウは、やまのかみさまは、そう言いました。


「やまのかみさま、お願いします。

たくさんの雨をふらせてください。

このままでは、村のみんながしんでしまいます。」


それを聞いて、やまのかみさまは言いました。


「私は、とても怒っていたんだよ。

村の人たちは、いつのまにか、山を大事にしなくなった。

好き勝手に狩りをして、山を汚して、感謝の心を忘れてしまった。

だから、あんな村は無くなってしまえと思って、

雨をふらすのをやめたんだ。」


それを聞いて、リリミンは悲しそうに言いました。


「やまのかみさま、ごめんなさい。

でも、このままだと本当にみんなしんでしまいます。

どうか、雨をふらせてもらえませんか。

私は、しんでもかまいません」


やまのかみさまはおどろいたようにリリミンを見て、

それから、優しく言いました。


「私はずっと、山に入った君を見ていたんだ。

君はお地蔵さん(おじぞうさん)のどろを落とし、

そして二度もウサギを助けた。

自分のことよりも、山の事を大切にしてくれた。

あの村にはもう、そんな人間は

誰もいないと思っていた。

だから、とても嬉しかったんだよ」


やまのかみさまは、大きく羽を動かしました。

すると急に空が真っ暗になって、

大粒の(おおつぶの)雨がたくさん降り始めました。


それから、やまのかみさまは、リリミンの手にある、

血に汚れたハンカチを見ました。

そして、羽をバサバサと動かすと、

リリミンのハンカチは、お地蔵さんのどろを

落とす前のキレイな姿に戻っていました。


「ありがとう、やまのかみさま」


そう言うリリミンに、やまのかみさまは言いました。


「これは、君の優しい心がふらせた雨なんだ。

どうかこれからも、その心を忘れないで。

君に会えて、とても嬉しかった。

自分を大切にして、これからも生きて欲しい」


リリミンは大きな光に包まれました。

気が付けば、山の入り口まで戻ってきていました。


村に戻ったリリミンは、やまのかみさまとの話を、

村の人たちみんなに話しました。

それからは、村のみんなは山を

とても大切にするようになりました。


雨がたくさん降ったおかげで、

村にはたくさんの作物(さくもつ)が育ち、

豊作(ほうさく)になりました。

山にもたくさんの木の実がなり、動物たちも、

そして村の人たちも、幸せに暮らしました。


リリミンは、大人になっても、

優しい心を忘れないまま、幸せに暮らしましたとさ。


おしまい。

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