第4話 願いの価値は

紗央厘と百合名は、まるで兄弟のようにじゃれ合っていた。いや、それ以上の関係か。

 仲の良いところを見せつけられて、困惑していたが、幸奈はとりあえず仕切り直した。

まずは紗央厘の願いの確認だ。

「それで、紗央厘は何を願ったんだっけ?」

「ぇ? 私? だから、彼氏の性欲がなくなりますようにって。でも、こういう願いって、多分ダメなのよね。自分の事ではないし、第三者のことを、こんな呪いのように願うんだから」

「でも、紗央厘の悩みはよくわかるよ」と、これは千秋だ。紗央厘とは幼馴染みで、家庭の事情もよく知っている。

「でも、相手の性欲を無くすなんて、人としてあるまじき行為だと思うけれどね。スケべは人類に必要なんだよ」と、聞いている方が恥ずかしくなるようなことを平然と言うのは百合名だ。

「わかっているわよ。五穀豊穣の願いが神社の基本なのに、私の願いはそれに逆らっている。生産性のない願いよね。縁結びの神様だったら、聞いて呆れるかもしれないわね。はい、私の願いはこれでおしまい。次、千秋の願いは?」

突然振られて、千秋は戸惑った。なんせ、自分の願いは、紗央厘が付き合っている彼氏との破局だ。そして、その後に告白して、改めて自分が彼女になることだ。そんなことは絶対に言えない。

とりあえず、当たり障りなしの、定番な回答をした。

「そうだね…… 好きな人に告白できますように、かな。はい、以上。質問は受け付けません。終わり」

「え? なになに、千秋好きな人いるんだ。だれだれ?」

「だから、質問は受け付けません」

「えー、でも、なんだか安心したな。ちゃんと恋をしているんだよね。あーぁ、私だけかぁ、恋をしていないのは……」

「大丈夫だよ。恋をするっていうのは、好きな人ができれば、自然とするものなんだから」

これは、千秋の意見なのだが、百合名と紗央厘は、このアドバイスが全く意味がないことを知っていた。

幸奈は異性を好きになったことがない。それどころか、特別に好意を抱くという感情が欠落しているのだ。

人なら何かしら、興味を持ち、それに熱中し、没頭するものであるが、幸奈の場合はそれが無かった。

幸奈はため息をついた。恋は簡単そうで、難しい。

恋が実るとか、そういう問題の、かなり手前にいる状態だ。根本的な心理的問題をどうにかしないと、恋などの問題ではないのかもしれなかった。

幸奈には心当たりがなかった。小さい時に、何かされたとか、心理的なトラウマはない。

 それに、不思議と異性も幸奈には関心がないのか、異性としてみてくれる男子はいなかった。

「はあ、私はあんまり期待してないけど、千秋の恋は実るといいね」

「私の心配なんかよりも、自分の心配をしろ。私は別にいいんだよ。実れば実ったでハッピーだし、実らなければそれはそれでいいのかなって、思えるから」

「千秋は、何だか恋には疎いと言うか、怖がっているような気がするんだけど……」

「恋をすればわかるわよ。恋は怖いの。苦しくて、切なくて、それでいて楽しいものなの」

「ぅわ、私には本当に未知の境地だわ。少し怖くなってきたぞ。そう言えば。百合名の願いは何だったの? そもそも何か願うことなんかあったの?」

百合名が不機嫌そうに睨んだ。

「何をおっしゃるかなぁ、幸奈さん。私だって年頃の女子なんだから、あって当たり前。何を願うか選択になやむわよ。とりあえずね、今好きな人と、もっと仲良くなれますように、だね」

「あれ? 百合名も好きな人がいたんだ。なんだぁ、私だけやっぱり底辺を這い回っているのか」

「花の女子高生なんだから、好きな人がいて当たり前よ。それこそ、雄しべと雄しべは、いま全開に花開いているのよ」

「……何だか、百合名がいうと、すごくエロく聞こえる。紗央厘が言ったらきっと綺麗に聞こえるんだろうな」

「そうね、雄しべ王子は、素敵な雌しべ姫を見つけると、求愛のメッセージを花粉に乗せ、愛しい雌しべ姫に愛を伝える…… そんなところかしら」

三人の視線が紗央厘に集まった。

「紗央厘ぃ、さすが綺麗にまとめたね」これは、幸奈だ。

「紗央厘さぁ、愛のメッセージでは、花は授粉しないよ。やっぱり、核となる何かがないと」と、現実的な意見の千秋。

「きっと雌しべ姫は、全裸で待ち構えているのね。それこそ、全身性感帯なのよ。花粉が触れた瞬間に絶頂してしまうんだわ。いいかも」このエロい発想は、百合名だ。

「こら。人の綺麗なイメージを、エロ色で染めるな。百合名はだいたい、どうしてそういう発想しか出ないのよ」

紗央厘は不機嫌そうに、小柄な百合名をにらめつけた。

すると、百合名は意味ありげに微笑むと、両手で紗央厘の豊かな胸の膨らみをタッチし、揉んだ。

「きゃ! ななな、ナニすんのよっ!」

当然のように、紗央厘は抗議し、両手で胸を庇ってそっぽを向いた。

顔を赤らめているのは、怒りのせいか、恥ずかしさからかわからない。

そこへ、百合名はニヤニヤして言葉を投げた。

「紗央厘さん? 感じた? 感じたでしょ? そうよ、これが人間の業よ、いえいえ、生けし生きる者の宿命なのよ。求めているのは、その過程なのよ。結果は受精や授粉だけれど、私達が求めているのは、快楽なのよ。だから、紗央厘は感じたんでしょ?」

「感じてないっ。少しびっくりしただけよ。百合名と一緒にしないでっ」

「照れるな照れるな。体は正直なんだから。それに、今は女子しかいないんだから、恥ずかしがらなくたっていいじゃない」

「いいえ。断固恥ずかしがります。だって、女子なんだから…… ぃえ、訂正。乙女なんだから」

「硬いねぇ、紗央厘は。さすが下はガチガチだから、心も硬いんだねぇ」

百合名はじろじろと紗央厘の股間を見た。

スカートを穿いているから、当然中は見えないが、紗央厘は恥ずかしそうに脚を交差して股間を隠した。

「いやらしい目で見るなっ。百合名とは違うのよ。私には私の事情があるの。貴女みたいに、下半身を常に開放している痴女とは違うのよ」

「でも、本当は羨ましいんでしょ? 言わなくてもいいよ。わかっているから」

「勝手に納得しないで、私は貴女と違うの」

「はいはい、わかってる。だから好きなんでしょ」

「は? まあ、いいわ。ケーキの件、忘れないでよ」

「忘れるわけないでしょ。だって紗央厘姫と行くんだからね」

少し前から、この二人のやりとりを見ていた幸奈と千秋は、何だか取り残された気分になっていた。

なんというか、紗央厘と百合名の間には、不思議な空気が漂っている。強いて例えるなら、森の中を流れる小川が、朝日で輝いているというか、何となく、清涼な空気が漂っていた。

幸奈はわからなかったが、千秋は勘付いた。

この二人の関係は特別だ。紗央厘本人は、まだ気付いていないようだが、百合名からはその気が見られる。

百合名と紗央厘がくっつけば、今の彼氏とも距離が離れるはずだ。

千秋は、百合名を応援することにした。

男女間の感情も、ろくに知らない幸奈には、そんな心境は未知の世界だ。

 異性を好きになる感情がないのに、同性が好きになる感情が分かるはずもない。

もしわかったとしても、本人はそれをどう受け止めるかは、分からないことだが……

幸奈は二人のじゃれ合っている最中、声を掛けた。

「ねぇ、水飲まない? 恋の水。これが目当てで来たんでしょ?」

次に目を輝かせて言ったのは千秋だ。この神社に来てから、明らかに状況が変わってきている。

そして、友達の願いには、大いに応援したくなった。

特に百合名の願いだ。百合名と紗央厘が仲良くなれば、その分今の彼氏との間には距離ができる。

そもそも、紗央厘の願いは、彼氏との関係の進展ではなく、停滞だ。

千秋は確信した。自分は人の不幸を願ってはいない。むしろ、応援して願いを叶えてやりたい。

そのためにも、恋の水を早く飲みたいと、心がウズウズしていた。

改めて。自分の願いは、友達三人の願いが叶いますようにと、あわよくば、好きな人に告白して付き会えますように、だ。千秋はそう確信した。

「この神社、御利益ありそうだわ。神様の気が変わらないうちに、水を頂こうよ」

「あら、千秋がそんなこと言うなんて珍しいわね? どういう風の吹きまわしかしらね」

これは紗央厘だ。沈着冷静なところは、百合名とじゃれ合いながらも変わらない。そして、千秋が何をねらっているかも薄々勘付いていた。

そんなことは知らずか、百合名はこの神社の御利益を肌で感じていた。

肌と言うよりは、直接触れて現在の幸運を噛み締めていた。

先ほどの突風からきた幸運から、さらなる幸運を求めて、百合名は手水社に向かった。

もちろん、手には紗央厘の手を握っていた。紗央厘はそれに渋々従った。

「はいはい、私も飲むわよ。恋の水としてではなく、霊水としてね。美容と健康に効くらしいからね」

「何だか変だね。紗央厘の願いは、私達と真逆なんだから。それに、ここの神様って、何とかムスビなんでしょ? それこそ、矛盾しているような……」

幸奈は素朴な疑問を投げた。紗央厘はさらりとその質問を返してきた。

「私の身体と心は清いから、神様は私みたいな存在を、すんなりと受け入れてくれるのよ。さっきだって、神様の歓迎を受けたでしょ?」

その単語に百合名は反応した。

「秘技、スカート捲りの術ねっ! 神様もエロいんだから、困ったものね。わかっていたなら、もっとセクシーな下着を履いてきたのにね」

「こら、百合名。神様の前だからやめなさいって。本当にバチが当たるわよ。私達を巻き込まないで」

「大丈夫だよ。そんな気がする。だってここの神様は、私にはなんだか寛大な気がするから」

「百合名がそう思っても、私はそうは思わない。きっと神罰が降りるわよ」

「まあまあ、紗央厘もそんなに熱くならない。ほら、霊水を頂こう」

千秋は、百合名を応援する側にいる。もちろん、紗央厘の応援もしている。早く彼氏との関係が停滞しますようにと。

四人はそれぞれの想いを胸に、霊水を持参したペットボトルに入れて二口ほど飲んだ。

幸奈は夢の中で飲んだ記憶が蘇った。あのときはやたら苦く、まさに眼が覚めるマズさだった。

恐る恐る口を付けると、冷たさと潤いが口を満たした。

「……んん! 美味しい! ここの水ってこんなに美味しかったっけ?!」

他の三人の表情を見る。不味そうに飲んでいる者はいなかったということは、普通に美味しいということか。

念のため、様子を伺う。。

「ここの水って、やっぱり美味しいよね。霊水って言うだけあって、少しひんやりして、頭にカーンとくるよね」

幸奈の感想を聞いて、他の三人も感想を口にした。

「うん。確かに美味しいわ。この水が絶えず出ているなんて半分奇跡よね」これはクールな紗央厘だ。

「そんなに美味しいか? わからないけど、普通じゃないかな」これは、長身の千秋だ。

「なんだか苦い感じがしたよ。なんて言うか、金属的な味がして舌に後味が残ったよ」これは、百合の気がある百合名だ。

柚木菜と紗央厘はほぼ同意見だ。他の二人は普通とマズイと答えた。これはどう言うことなのだろうか。

柚木菜は紗央厘に意見を求めた。

「つまり、そういうことよ。私と柚木菜の願いはきっと叶えられる。霊水が身体に染み込んでいくの。だから美味しく感じるのよ」

それを聞いた二人は不満な顔をした。

「私は喉が渇いていなかったから、普通に感じたのよ。喉がカラカラだったら、きっと美味しく感じたわよ」と、言い訳のようなことを言う千秋だった。

「そうかなぁ。やっぱり変な味がするよ、この水。柚木菜と紗央厘はよっぽど喉が渇いていたんだね。私にはちょっと無理かな、この水」

キッパリと言う百合名を、紗央厘は否しめた。

「はいはい。神社の境内で言わない。神様に失礼でしょ。私は確かに美味しかったわよ。そこがそもそも違うのよ。きっと、体質的な問題なのよね」

「体質? 穢れなき者と、汚れた者の違いかな? 私はあっちはご無沙汰だから、そんなに穢れていないけどな。そりゃたまに一人ではするけど、たまにだよ」

 これは、千秋だ。照れもせず平然と最近の下半身情勢を話した。

「こら、千秋まで…… 女子ならもっと恥じらいを知りなさいよ。体質って、神様に愛されるかどうかってことかしら。と言うより、神気を受け入れる身体になっているかどうかってことかしらね」

紗央厘の話に三人はハテ? と首をかしげた。神気とはなんだ? 最初に口を開いたのは幸奈だった。

「私は神様のことなんて全然知らないけれど、それでも受け入れられているってことなのかな? 水が美味しく感じられるってことは、その、神気っていうのを、身体が受け入れているってことなの?」

「幸奈はそういう体質なのよ。神様に愛されている。だって、最近はここに通っていたんでしょ? そういう人は特に神様に愛されるのよ。それに、願い事だって、純真だし、欲を感じない。そういうひたむきな人を神様は愛されるのよ」

次に来るであろう、百合名の発言を予想した。きっと、私は神様に愛される身体よ。だって、もう濡れ濡れだし、いつでもこの身体に入れることはできるのだから、と。

「私だってきっと神様に愛される体質だよ。しっかり下着は見られたし、きっとその中もちゃんと見ていったと思うよ。こいつならきっとやれるぞって。神気はそこから注入だってされているわよ」

 百合名は真剣な顔で、照れることなくさらりと言った。

 紗央厘は内心舌打ちをした。惜しいと。

 それにしても、こいつは本当に同じ女子なのか。少しは恥じらいと言うものを知ってほしいものだ。だから、霊水と言われるこの水が不味く感じられたのだろう。ここの神様はちゃんと人をみている。

 そして、思った。自分と幸奈の願いはきっと叶えられるだろう。だって、物欲は無いのだから。確かに自分の願いには、生産性こそ無いが、乙女の願いなのだから、きっと願いは届くはずだ。

 幸奈は、改めてここの神社が好きになった。夢に神様は出て来るし、霊水は美味しいし、友達とも楽しい時間を共有できたし。これはここの神様のご利益なのだろう。

 今後も時間があったら、この神社に参拝に来よう。そう心に強く思った。

「ねえ、他の摂社はお参りする?」

 紗央厘が左側奥にあった小さな社に目をやった。本殿の奥に四つの小さなな社がある。赤い鳥居がいくつもあったり、石の鳥居があったりと、どれも少しならず特徴があった。

 幸奈はいつも拝殿で参拝はしていたが、他の社にはお参りをしたことがなかった。

 そもそも、あれが何かを知らなかった。

「ねえ、紗央厘ぃ。あれも神様なの?」

「当たり前じゃない。一つ一つに別々の神様がいるのよ。知らなかったの?」

「うん。だって、こっちの拝殿が神様の住んでいる所だと思っていたから、あっちは違うのかと思ったよ」

「あなた、本当に日本人なの? いままで、なにも知らずに神社で参拝していたわけなの?」

「だって、神社なんて、お正月に行くだけで、それ以外に行くことなんてないから……」

「まあ、いいわ。千秋は知っているわよね。百合名はどうせ知らないでしょうね」

「なにを言うかなぁ、紗央厘ぃ。赤い鳥居はお稲荷さんでしょ。その横はきっとアマテラスさんで、その横はスサノオさんかな。牛さんのところは、ミチザネさんでしょ?」

 百合名の反撃に、紗央厘は言葉を失った。こやつ、なかなかできる……

「百合名って、そんなに神社に詳しいんだったっけ? 今までそんな素振りを見せたことないんだけど」

「なにをおっしゃる紗央厘さん。私は神社仏閣を見るのが結構好きなのよ。だから、この私の体は、神様に好かれているのよ」

 どうだ、まいったかと、胸を張って、膨らみを誇示した。

 他の三人も知らない一面を見て少し驚いた。それでも、水は不味かったのなら、やはり、神様に怒られたのではないのか? とは、口に出さなかった。

「それで、どうしよう。他の神様にお参りはした方がいいのかな? しなくてもいいのかなぁ」

 幸奈の質問に答えたのは紗央厘だ。

「もちろんした方がいいわよ。その方が神様にお近づきになれるんだから。基本神様は繋がっているから、他の神様にも好かれた方が当然いいに決まっているわ」

「でもなんか、神様が嫉妬するから、他の神社ではお参りしない方がいいって言う人もいたような」これは、千秋だ。

「大丈夫よ、ちーちゃん。神様はそんなことでは嫉妬なんかしないから。私の体は、みんなの物になってもお怒られないよ」

 百合名の発言に、紗央厘は冷たい視線を送った。

「ちょっと百合名、その例えは、やっぱり怒られると思うわ。私達にも被害が及んだらどうするのよ」

「ごめんごめん。私の体は、紗央厘の物でもあったんだ。紗央厘は嫉妬するよね」

「しないしない。あんたの汚らわしい体なんか、私はいらないわよ」

「じゃあ、綺麗だったら、欲しくなる? 最近ご無沙汰だから、結構綺麗なのよね。だったらいい?」

「全然よくない。そういう問題じゃないの。たとえ百合名が処女でも、私はあなたの体なんかいらないわよ」

「またまたぁ、私が相手だったら、紗央厘の純潔は守られるのにね」

 紗央厘は、今の百合名の言葉が不思議と胸に染みた。純潔は守られる。

 ぼーっと考え混んだ紗央厘に、幸奈は声をかけた。

「それで、お参りするの? しないの? どっち?」

 紗央厘ははっと我に返り、幸奈の顔を見た。

「そ、そうね、じゃあ、ウカ様だけお参りしよか。ウカ様は少し怖いけれど、ちゃんとお礼をしたら、私たちの願いを叶えてくれるからね」

「うか様? 怖いの? お礼?」

「なに言ってんのよ。お願いする。そして、願いが叶ったら、ちゃんとお礼をするのが当たり前でしょ? この鳥居だって、その見返りみたいなものなのよ」

「え? そうなの。そんなお礼なんかできないよ。じゃあ、その、うか様はやめようよ。ところで、うか様って、お稲荷さんじゃないの?」

「お稲荷さんの御祭神が、宇迦之御霊神なのよ。だから、ウカ様。本当になにも知らないのね」

「え? そうなの? きつねさんじゃないんだ。百合名と千秋は知ってた?」

 幸奈は、百合名と千秋の顔を見た。

「そりゃ知ってるよ。当然だろう」これは千秋だ。

「知ってるよ。当たり前だよ。ウカ様は女性だから、私の体には興味がないのかもしれないけれどね」これは、百合名だ。

「はは…… 私だけか、知らないのは。じゃあ、一通りお参りしようか。他の神様も、なんて言う神様か教えてね」

 こうして 四人は、境内にあった摂社や末社に一通り頭を下げていった。

 初めての神様に、いきなりお願いをするのは失礼だから、とりあえず今日は挨拶だけするのだそうだ。

 ウカ様、アマテラス様、スサノオ様、市杵島姫様、大国様、菊理姫様、ミチザネ様等々、一つの神社にこんなにも神様がいるとは、全く知らない幸奈であった。

 一通り参拝が終わると、財布の中の十円、五円、一円が全てなくなっていた。

 他の三人は、特にお賽銭を投入していなかったが、幸奈はやはり神様に好かれたい思いが強かったから、可能な限りお賽銭を投じた。

 こうして、女子高生四人の、高牟神社参拝は終わった。

 あとで紗央厘に聞いた話では、恋の三社巡りというのがあって、他の二社を回ると恋愛成就が叶うそうだ。

 だが、お前にはまだ早い。相手を見つけたら行くべしと、念をおされた。

 その日が来たなら、また付き合ってあげるとも言われた。

 幸奈はそんな日がきっと、近日中に来るのだろうなと、胸を弾ませた。

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