第8話爪楊枝と悪魔

「やれやれ、いつもお前はついていないな」


ばたばたと黒い翼をはためかせ、今日も『あいつ』は現れた。

黒い二本の触覚、

ぶっきらぼうな口調。

黒いコートに、黒いマント。

全身黒の、不吉過ぎる姿。

だけれど、一番不吉なのはーー


「昨日は鳥の糞が顔面に直撃、一昨日は犬の糞に顔面からダイブ、その前はアラームが故障して仕事に大遅刻、だっけか。変わらないな、お前は」


俺と同じ顔、

俺と同じ声。


「そんなこと言わないでくれよ、『あっくまん』。俺だって、好きでこんな目に遭っている訳じゃあない。偶然が重なりまくって、この有様なのだ。不幸体質なんだ」


「それは災難だな。けど、いや、だからこそ、俺みたいなおかしな存在も受け入れられるのかもしれないが」


あっくまんは、皮肉交じりに言う。

それに対し、俺は苦笑で返す。


あっくまんを初めて見たのはいつだろう。

もう昔過ぎて覚えていない。

気づいたらそこにいて、

俺のことを見つめていて、

シニカルに笑いながら飛んできた。


彼の姿は俺にしか見えないし、

彼の声は俺にしか届かない。


今みたく、普通に声に出してもいいがテレパシー的な感じでの意思の疏通も可能。

俺が不幸な目に遭うと現れて、いつの間にかに消えていく。

そんな不思議な存在。


彼の見た目がいかにも悪魔であることから、俺は彼のことを『あっくまん』と読んでいる。

某漫画の登場キャラと名前が被る結果になったが、それはあまり気にしない。

ただのニックネームだ。

それに、あっくまんは誰にも存在を認識されないーー俺を除いて。


「今日も不幸だな。嫌にならないのか、こうもついてないことばかりで」


「嫌になるさ。もう鬱まっさかりだ。だけど、不幸なことがありすぎて、それに慣れてきている感じだな。もう長い友達だ」


「そうか、まあ、お前がそう言うのなら、俺は何も言わないさ」


あっくまんはため息交じりに言った。


俺は彼のことが嫌いではない。

無論、自分と同じ姿形(へんなコスプレ衣装みたいだが)をしているが故の親近感かもしれないが、それを抜きにしても、嫌いではない。

好きまではいかないが、いい奴くらいには思っている。


不幸な時にはいつも俺の目の前に現れて、

話し相手になってくれる。

ただの不幸を、会話のネタとして『供養』してくれる。

元より友達が少ない俺だったが、あっくまんの存在はどこかそれの代用だった。

まあ、彼がいるからこそ、友達を作ろうとしなくなってしまったのかも、しれないが。

だって、ほぼ毎日彼とは会うのだから。

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