第6話二度寝の朝 天使

私にポジティブな言葉をかける。

すると私はあいつの言葉を否定する、つまりはネガティブな言葉を思考する。

自分で、

自主的に。

結果、ネガティブな選択肢を自ら選び取る。


それが、あいつにとって何のメリットがあるかは分からない。

だけれど、それがあいつの、あの悪魔のような姿をしたあいつのやり口というのは理解した。


「ようやく、気がつきましたか」


神々しい光とともに、

カーテンの木漏れ日から、何かが現れる。

初めて見る光、

聞き覚えのある声。


「ポジティブな言葉は真に自身の内から溢れるならば、薬となりましょう。ですが、他者から乱暴に、無造作に投げつけられればそれは毒となる」


白を基調にした、ドレスのような衣装。

各所にフリルがついていて可愛い。

犯しがたい、神聖な雰囲気。

頭の上に天使の輪っかみたいなのがついている。

サイズ感は小さい、手のひらサイズ。


顔のベースは、あいつと同じ私タイプ。

というか、ほぼ私。

ナチュラルメイク、いや、愛されメイクな私。

同じ顔でも、雰囲気と衣装でここまで印象が変わるとは。

今度合コンに誘われたら、この路線でいってみようかな。


「それは置いておきましょう。まずは現状の打破が一番です」


そう告げると、天使は右手を差し出した。

すると、それに操られるように私は布団から出た。

がばっと、

一気に。


「必要なのは言葉や理由ではなく具体的な『行動』です。それに、仕事や彼氏のことは今考えるべきではありません。終業後、あるいはお休みの日に半身浴でもしながら、ゆっくりと考えるべきでしょう」


「た、確かに」


言われてみればその通りだ。

何故、朝のクソ忙しい時間に考える必要が、意味がある。

今まで先延ばしにしていたことを、今考える必要はない。

明日やろうと放置し続けたことは、そもそも今すぐにできないから先延ばしにしていたのだ。


「明日やろうは馬鹿野郎、とは言われますが、明日できることは明日やればいいのです。今やれる程簡単ならば、もうやってる最中でしょうに」


ため息混じりに、天使は私の思考を読む。

全くの同意見に、私は言葉が出ない。


「ただ、人は忘れやすい生き物、カレンダーにメモをするのです」


天使は再び右手を掲げ、私の体のコントロールを奪う。

私の体は機械のように、カクカクと動き始め、充電器に接続された携帯に手を伸ばす。

そして、カレンダーアプリを起動させ、予定を入力した。


「さあ、顔を洗い、メイクをするのです!今日もくそったれな1日を始めましょう!」


天使の号令に合わせ、私は仕事への準備を始めた。

今日のメイクは、いつもより薄めな、ナチュラルメイクにした。


触覚のあいつは、気づくと姿を消していた。

撤退したらしい。

勝ち目の無い戦いはしない、ということらしい。

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