第一話 幕間~その1~

 冷たい雨だった。 晒されているといつしか命の灯火まで凍えてしまうのではないかと思えるほどに。 心の中では休憩だと言い聞かせるようにして瞼を閉じた。 けれど心身ともに疲弊しきっているのは誰の目からみても明らかで、そして想像以上に消耗しきっている。 本当のところ、もう目を閉じたまま朽ちてしまおうかとどこかで願っているような気がしていたし、これ以上生きようとする目的もなにも思い浮かばなかった。

 半刻前まで追っていたやつらを撒けたのか、気にはなるけれどそれすらも億劫であったし、そもそもどんどん強くなっていく雨風によってついさっきの自分の痕跡をすらも見つけることは不可能に近い。

(眠い……な……)

 徐々に近づいてくる眠気の皮を被った死の気配は慈愛をもってその距離を詰めてくる。  ゆっくりと、ゆっくりと。 やがてその抱擁に包まれていくことが心地よく感じられていき、やがて……

「だいじょうぶ、ですか?」

 薄く目を開ける。 視界は未だ霞がかかっていて上手く声の主を見ることが出来ない。 ぼやける視界で知り得た情報はその人物は幼くて、着ている服はここらでは見かけない彩られた民族衣装のようなものであること。 そして彼女も同様に頭の頂点からつま先までずぶ濡れで小さく震えていた。

「もしかして、かみさまですか?」

 何を言っているのだろうか。 こんな泥だらけで傷ついた人間が神様に見えるのだろうか。 そんなことを言ってやろうと思ったけれど喉が掠れていて上手く声がでない。

 そんな俺を見限ったのだろう。 彼女はパチャパチャと駆け足で再び煙る雨の中に消えていった。

(……ま。 最期にしては可愛らしいものを見れてよかった……かな……)

 そう思ったと同時に、紐が切れたかのようにプツリと意識が途切れた。

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