第一話 6

 午前は出歩く人は少ないと思っていたが、その予想に反して観光客で賑わっていた。 朝食代わりにと露店を回る客は多く、昼のピークほどではないしろ、人の流れによっては押し流されてしまいそうなほどだった。

 俺たちは朝食を済ませて次の村や街までに使うであろう消耗品補充のために街へと出ていた。

「さすがは元々冒険者を相手にしていた街なだけあるな」

 薬や服は当然のこと、しまいにはキャンプに必要な道具が一式セットになって売っているお店もあった。 栄えたのは過去の話だと宿の亭主は笑っていたが、現在でも十分なほどの品揃えで苦労することはなかった。

 あと必要なものは保存の利く食料とカルミア用の武器、それに砥石。 後者2つはさすがに露店で売られているような代物ではないので専門の店に行くしかない。

「食料は後。 次は護身用の武器だ」

「えーまだやるの? 早く街で遊びたいんだけどー」

「昨日の一件を忘れたか? 俺がいつまでも傍にいて守れるわけじゃないんだから武器くらい――」

「そうッス!」

 元気よく俺の言葉を遮って割り込んできたのは、昨晩の少年、アーロンだ。

「お師匠様がそう言ってんだから大人しく武器の一つくらいつけろ馬鹿女!」

「誰が馬鹿女だ! 私より背が小さいくせに威張るなチビアーロン!」

「なんだとぉ? 女だからって容赦しねーぞ!」

「上等だっての、上から叩いてもっと小さくしてやる!」

 ガルルル、と喉を鳴らす狂犬二匹。 今朝から何度目かのやり取りにハイハイと息をつきながら仲介に入る。

 先日の申し出は当然、断った。 そりゃいきなり見ず知らずの少年が頭を下げに来たところで「よしわかった」となるわけがない。

 ただそのままの理由で突き返すのも可哀想なので弟子はとってないという風に告げると、どう解釈を起こしたのか、

『じゃあ弟子見習いから始めます、マスター!』

 そういってまるで付き人のように今朝から行動を共にしている。 ちなみに呼び方がコロコロ変わるのは彼の気分次第だ。

「ねえおじ、なんでこのガキンチョ連れてきてるの?」

「名前で呼びなさいカルミア。 今日はえーっと、案内してくれるんだよなアーロン君?」

「違うッス! 師匠の弟子見習いとしてまずは荷物運びからッス! あとアーロンでいいッス!」

 弟子見習いもとった覚えはないんだが……、と一言入れたところでこの熱量じゃそう簡単に引き下がってくれないのは目に見えている。

 実際のところ、街の案内やぼったくり値段の商品から守ってくれたりと非常に助かっていることは紛れもない事実だ。 そこはいい、非常にいい。 ただ問題は……

「んで師匠、そこの口うるさい奴はいつ宿に返すんスか?」

「誰が口うるさいって!?」

 この犬猿の仲だ。

 アーロンとしてはカルミアが何の力を持たずに日和って俺の隣にいること。 それに彼の勝手な解釈で一番弟子のような立ち位置にいるのが気にくわないらしい。 あと身長が自分よりも高いこと。

 カルミア自身、最初は悪く思っていなかったが度重なる八つ当たりと街に遊びに行けない苛つきが重なり、さらに言い返さないと気が済まない性格も相まってどんな悪口にも噛み付きにいってしまってもう収拾がつかない。

 変に長引かせるよりかは適当に切り上げて夕方あたりに改めて買いに出向くという手もありだ。 というよりもそれが一番穏当に進みそうだ。

「おし、じゃあこうしよう。 アーロン、稽古つけてやるからいつも使ってる武器もってこい」

「え、マジで!?」

「カルミア、武器はまた夕方買いに行く。 なんか買ってあげるから稽古が終わるまで待ってなさい」

「やったー! じゃあおじ、さっき見かけた果物絞った飲み物飲みたい!」

「はいはいジュースな。 宿の裏にあった空き地に集合だアーロン」

「お、押忍ッス!」

 昼を過ぎてからはゆっくり過ごしたいと考えていたのだが、まぁこれも何かの縁だろう。 駆けだした少年少女の背を見ながらそんなことを考えた。

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