第455話16-9剣聖

 16-9剣聖


 

 夜になってあたしたちはヘミュンの町に忍び込んだ。




 「よっと、これで全員ね? そろそろ姿隠しと音消しの精霊魔法解除するわよ?」


 シェルはそう言って精霊魔法を解除する。

 

 町は既に夜半。

 ほとんどの建物は明かりが消え酒場の窓から細々と明かりが漏れていくらいだった。



 「ティアナ様、エルハイミ様。こちらです」


 バルドさんに案内されて居住区の外れと思われるあまり良い建物では無い場所に入る。

 スラムまではいかないにしてもちょっと不衛生かも。


 そんな中やっぱり一軒家にバルドさんはあたしたちを引き連れていく。



 こんこん。



 バルドさんが扉を叩くとそれ越しに緊張がこちらにも伝わってくる。


 

 「こんな遅くにどなたですか?」


 「ウェージムから荷物を届けに来た」



 バルドさんがそう言うと扉は鍵が開く音がして静かに内側に開いた。



 「バルド様!? こんなにお早く来られるとは!? とにかくお入り下さい。皆様も」



 そう言ってあたしたちを中に入れてくれる。


 中に入ってみれば武器を持ち身構えていた人が数人。

 この拠点の潜伏員だろう。


 「バルド様! こんなに早くお付きになられるとは!」


 「二日前に伝書鳩を飛ばしたばかりなのに!」


 「バルド様、こちらの方々が?」


 口々に驚きとあたしたちへの好奇心の目を向ける。


 「ああ、そうだこちらがティアナ様とエルハイミ様たちだ」


 そう言ってバルドさんはこの拠点の人たちを紹介する。


 「この拠点を任せているダリル、ロム、ラジ、マグです。皆王都から逃れて来た者たちです」


 拠点の人たちは紹介されるとあたしたちに挨拶をしてくる。

 

 ダリルさんは年の頃三十から四十くらい、どうやらここのリーダー格のようだ。

 ロムさんも三十路くらいかな?

 次いでラジさんが二十歳過ぎくらいで一番若そうなマグさんも成人は過ぎている様だ。



 「世話になります。ティアナ=ルド・シーナ・ガレントです。それで、このヘミュンでビスマスの姿を見たというのは本当ですか?」


 「はい、確かにあれはビスマスでした。まさかあの男がまだこのホリゾンにいたとは‥‥‥」


 

 ん?

 ホリゾンにまだいたってどう言う事よ?



 あたしはつい気になって聞いてしまった。


 「すみませんわ。ビスマス神父がホリゾンにまだ居るとはどういう意味ですの?」


 するとダリルさんたちは顔を見合わせてからあたしたちに話して来る。


 「神父ですか? 確かにあの男は神官服を着ていましたね。あの男、元剣聖は裏切り者でした。帝都で弟子たちに剣技を教えるでもなくただ自分の技を磨いていた。帝国軍の指南役としてもロクな指導をせずジュリ教の聖騎士団に好き勝手やらせ、最後にはいくら皇帝がお呼びになられたとはいえあんな訳の分からないジュメルなどを引き入れるとは! おかげで帝都はめちゃくちゃです!」


 ダリルさんは悔しそうにそう言う。

 

 「最後にはいきなり弟子の一人に剣聖を譲りどこかへ姿を消す始末。それがいきなり戻ってきて今度は神官服着て何かの宗教勧誘ですか? あれは間違いなくビスマスです!」


 ロムさんはそうあたしたちに強く言う。



 「どうやら間違いなくビスマスのようですね。ビスマスはジュリ教の神殿ですね?」


 「はい数日前にビスマスの姿を見ました。そして昨日物々しい馬車の集団がやってきてジュリ教の神殿に入って行きました」


 あたしたちはそれを聞いて顔を見合わせる。

 どうやら間違いなく「女神の杖」を運んでいるのはビスマス神父のようだ。


 「分かりました。バルド、今からでもジュリ教に攻め入ります! 今度こそビスマスの首を取ってやる!」


 ティアナはこぶしを握り締めそう言う。



 「ティアナ様‥‥‥」


 「ティアナ様、あいつは卑怯な手を使います。どうぞお気を付けて」



 セレやミアムはティアナを心配そうに見ている。



 『やれやれ、着いたばかりでもうお仕事ね? 今晩は徹夜だわね?』


 「時間を置けば『女神の杖』をまた運び出されてしまいますわ。それに帝都がそこまで混乱しているとはですわ‥‥‥」


 シコちゃんが言う通り今晩は徹夜だ。

 あたしはみんなを見て相槌を打ってから準備を始めるのだった。



 * * * * *



 「いいわよ、精霊魔法が発動したわ。行きましょう」


 あたしたちはシェルが姿隠しと音消しの精霊魔法を使って町の中心部にあるジュリ教の聖堂へ忍び込もうとしている。 

 セレやミアムは拠点に残ってもらってこの事を伝書鳩でガレントに知らせる様に頼んでおいた。 


 そしてコクに頼んでベルトバッツさんたちに内情を調べさせているけど戻って来たベルトバッツさんの情報は確かに馬車が中庭に停めてあって聖堂の警備が厳重にされているらしかった。

 そして聖堂にはこんな夜遅くにまだ沢山の神官たちがいて何かをやっているらしい。


 「もしかするとまた転送の魔法を使う気かもしれません。ビスマスの事だ、そのくらいの用意周到な事をしかねない」


 「ならば急がなくてはですわ! ティアナ、行きましょうですわ!」


 あたしたちはそう言って教会の敷地へと忍び込んだ。



 * * *


 

 「黒龍様、姉御こちらでござる」


 ベルトバッツさんに連れられてその聖堂に来た。

 あたしたちはシェルの精霊魔法で姿や音は相手に聞こえないけど触れられてしまえば気付かれる。

 なので聖堂の二階の窓から忍び込んでいた。



 「面倒でいやがりますね。こんなのは正面からぶっ放して一気に取り押さえれば好いでいやがります」


 「そう言うなクロエ、ここで仕損じては元も子もない」


 「そうですよクロエ。事は確実に行わなければいけません」


 「そ、そうでいやがりますよね! 黒龍様のおっしゃる通りです!」


 「なんなのよコクの分身って‥‥‥でもお母さん、あいつら弱そうよ? 一気に焼き殺しちゃえば簡単よ?」



 どうも竜族は目的の為には過激になる傾向があるのかな?

 確かにジュリ教はジュメルに手を貸しているからその時点で同罪ではあるけど。

 


 「主よ、あれを見ろ! 『女神の杖』の様だぞ?」


 ショーゴさんに言われあたしたちは神官たちが集まっているその場所を見る。

 すると魔法陣の中にあの杖が七本置かれていた。



 『あれは転送魔法の魔法陣ね? ティアナ、エルハイミあれが発動したらまたどこかに飛ばされるわよ!!』



 「させません! 行きます!!」


 「あっ、ティアナ!?」


 ティアナはそう言っていきなり二階から飛び降り聖堂の真ん中に入って行く。

 勿論その衝撃でティアナの精霊魔法は霧散してしまう。

 あたしたちも慌ててそれに続こうとする。



 しかし。



 「何者です!? ここから先へは勝手に行く事は許しませんよ?」


 見れば二十歳そこそこの一人の青年がティアナの前に立ちはだかる。

 聖騎士団でも信者でもない?

 ライトプロテクターに身を固めたあたしと同じ金髪碧眼のなかなかの美形だった。



 「どきなさい!!」



 ティアナは剣で一閃する。

 が、その鋭い一撃はその青年に簡単に受け止められてしまう。



 ガキンっ!



 「いきなり切りかかるとは、貴女は何者ですか? ん? 他にも!? 何時の間に!!」


 その青年はティアナを弾き大声で警備の者を呼ぶ。



 「賊だ! 出会え!! 神聖なる神の御業を邪魔建てさせるな!!」



 こうなったら強行突破しかないか!?

 あたしがそう思ったその時だった!



 「ははははっ! やっぱり来たか!? ティアナ将軍ともあろう者がいつまでもガレント内で大人しくしているはず無いもんなぁ! 歓迎するぞ!」



 見れば祭壇の所にビスマス神父がいた。


 そして先ほどの青年の後ろに数十人の剣士が出てきた。

 彼らは既に抜刀していて隙無くこちらを見ている。



 何だ?

 この師匠やロクドナルさんの様な雰囲気??



 「ビスマス! 今日こそ貴様の首を取ってやる! 大人しく私と勝負しなさい!!」


 ティアナはビスマス神父に向かって大声を張り上げる。


 「ははははっ! ベッドの上での勝負ならいくらでも受けてやるぜ!? ティアナ将軍程の女はなかなかいないからな! しかし残念ながら俺は忙しい身分でな、『女神の杖』を帝都に送り届けなけりゃならん」


 そう言って神官たちに術式を急ぎ進めるように言う。



 「ビスマスっ!!」



 ティアナは剣を振り先程の青年に切り掛かる。


 「はぁっ! ガレント流剣技一の型、牙突!!」


 低い姿勢から爆発的な跳躍力を見せ剣の腹を左手に乗せ一気にそれを押し込む様に片手突きをする。

 その速度、破壊力は並の者には避ける事すら出来ないだろう。



 ガキンっ!



 しかし何とその青年はティアナのその突きを見ごとに弾いた!?



 「いい突きだ。しかしその程度では届きません!」



 青年の右手が消えたかと思ったらティアナは慌てて大きく飛び退いた。


 そして飛び退いたティアナを見ると胸元の鎧が落ちて服が裂けティアナの豊満な胸の上部があらわになりそこから鮮血が噴き出す。



 「ティアナっ! 【治癒魔法】!!」



 あたしは慌ててティアナに【治癒魔法】をかける。



 なんて事してくれるのよ!

 あたしのティアナに、それもこの胸に!!


 かろうじてティアナの大事な所は隠れているけど、どう言う事よ!?



 「ふむ、なかなかですね? 今の一撃をギリギリ致命傷にならず避けるとは。好いでしょう、私を倒せば剣聖を名乗ることを許します!」


 「なっ!? 剣聖ですってですわ!?」


 驚くあたしにビスマス神父が笑いながら言う。


 「はははははっ! そいつは俺の次に剣聖になった男、ユグナスだ。おいユグナス、せっかくの上玉だ。殺すなよ? 捕まえて俺が楽しむんだからな?」


 「師匠、その下品な性格何とかなりませんか? せっかくの好敵手、男も女も関係ない。ただ剣で語れれば私はそれで満足なんですが?」


 「おいおい、そんなんだからその年で童貞なんだよ! まあいい、剣の腕はお前の方が俺より上だ。術式が完成するまでもたせろ!!」


 そう言ってビスマス神父は魔晶石を取り出し神官たちに更に術式を急がせる。


 

 「やらせません!」


 ティアナはそう言って剣を構え直す。

 しかしそれをショーゴさんが遮る。


 「主とティアナ殿下は『女神の杖』を。こいつは俺が相手をする」


 そう言ってショーゴさんは変身してオリハルコンのライトプロテクターを身に着けなぎなたソードを引き抜く。



 「ほほう、こちらも好敵手のようですね? 面白い」



 そう言ってユグナスは一旦目を閉じてから開いた。

 しかしその眼を見てあたしはぞっとする。



 金色に輝いていたのだ。



 「ショーゴさん、あの者は心眼を開いた以上の実力がありますわ! 気を付けてですわ!!」



 「おうっ!」





 そう短く叫んでショーゴさんはユグナスに切り込んでいくのだった。

 

   

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