第418話15-7素体起動
15-7素体起動
「それでエルハイミ、素体の方はどうなったのよ?」
あたしとティアナは裸のまま自室のベッドの上で話をしている。
「ええ、あと二日もすれば基礎構造としての素体が完成するそうですわ。そこまでくれば残るは外装のみですわ。外装は戦況に応じて変えられるので素体が出来れば私たちの役目は終わりですわ」
ティアナにもたれ掛りながらあたしはそう言う。
素体のメインフレームが出来上がってから一週間、イオマとアンナさんは毎日遅くまで作業をしている。
あたしも手伝おうかと思ったけどここから先はあたしにはよく分からない分野だった。
なので手伝いたくても手伝いようが無く逆に邪魔になってしまう為手出しが出来なかった。
仕方ないので「エルリウムγ」をルブクさんたちにも微調整が出来る魔道具を作った。
題して「十得君」。
十個の魔晶石に必要な魔法を封じ込め「エルリウムγ」の微調整だけ出来る道具だ。
逆に「エルリウムγ」意外には使えずやっぱりルブクさんには文句を言われた。
仕方ないじゃん、「エルリウムγ」の繊維質とクロスバンド構造にしか反応しないのだから。
そう説明すると木のへらで鉄鉱石切り刻むようなものだとか言われた。
何よ、せっかくあたしがいなくても加工できるようにしたのにぃ~。
ぶうたれていたらティアナに慰められた。
まあ、おかげでたくさん愛し合えたから良しとするか。
「それじゃあ素体が完成したらいよいよ赤竜の所へ行って最後の「女神の杖」を回収ね?」
ばんっ!
「その前にお約束の残り一回分のおっぱいもらいに来ました!!」
コクがいきなり扉を開けて乱入してきた。
「コ、コクぅっ!?」
「コクッ! まさかずっと聞き耳立てていたのですの!?」
「細かい事はどうでも良いです! 丁度良い事に赤お母様のおっぱいも吸いやすそうですね? それではお覚悟を! お二人ともいただきますからね!!」
「「ひぇぇええええぇぇぇっっ!!」」
あたしとティアナの悲鳴が上がるもあたしたち二人はコクにしっかりと魔力を吸い取られるのであった。
◇ ◇ ◇
二日後、素体が完成したという知らせが入って来た。
あたしたちは改築されたマシンドール工房へと集まる。
「みなさんお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。『鋼鉄の鎧騎士』の素体がとうとう完成しました! 本日はその素体のお披露目となります」
おおぉ~。
ぱちぱちぱち。
みんなが拍手する。
アンナさんはしっかりと目の下にクマを作って少しぼろぼろになっている。
アンナさん、大丈夫なの?
ルイズちゃんも心配になって来たから後で見に行こう。
「それではまずは完成した素体をご覧ください! ルブクさんお願いします!!」
アンナさんはそう言って大きな白い布がかけられた素体を指さしルブクさんに合図を送る。
するとキャリアーハンガーにかけられていた白い布がするっと音を立て地面に落ちる。
ざわっ!
そこに現れた素体は正しく半生物のキメラの様になっていた。
頭は所々魔獣の外骨格で覆われやや前後に細長い。
瞳は魔獣の物を使っているようで全部で三個、三つ目になっていて正面と左右に一つづつ。
そして瞳の下には何故か牙が生えている。
全体的なフォルムは人なのだけどかなり痩せているようにも見える。
そして胸からお腹にかけて覆われているが所々見える内部の搭乗者!
既に誰かが乗っているようでヘッドギアをかぶっている。
口元だけ出ているけど女性のようだ。
体は何かで覆われているようでここからは頭が少ししか見えない。
両手両足も一部筋肉がむき出しだが最低限の装甲がされているようで、やはり魔獣の外骨格を使っている様だ。
「皆さん、驚かれると思いますが。『鋼鉄の鎧騎士』は全公約六メートル強、魔鉱石を元に作り上げられた『エルリウムγ』によりメインフレームが構成され想定以上の強度を確保しました。その特性である魔力伝達が大幅に良くなったおかげで軽量化、そして外部オプションの取り付けが容易になり、更に魔獣の筋肉を特殊加工して魔力による動作は自分の手足の様な感覚で捉えられるので直情的な反応が示せる事となりました!」
アンナさんの説明にみんなしばし呆然とする。
いや、すごいのは分かるよ。
話を聞くだけならみんな唸ると思うよ。
しかし今あたしたちの目の前にいるこれって‥‥‥
「「「「「キモっ!!!!」」」」」
みんな一斉に声を合わせてそう言ってしまった。
いや、誰が見てもアンビ〇カルケーブルを背中にくっつけた人造人間の中身に申し訳程度虫の殻の様な物が着いた奴なんてそう思っちゃうって!
「はわわわわぁっ! エルハイミなにこれ!? 生き物!?」
「きしょっ! おやつ食べれなくなる!!」
「ま、魔道の極みのはずなんだけどなんか生理的にきついわね‥‥‥」
「ティアナよ、これってちゃんと動くのか?」
「主よ、これは流石に趣味が悪いぞ?」
「うーむ、弱点がさらしだされているのは良く無いな、我が主よ」
「お母様、あれの魔力はすごいのですが美味しくはなさそうですね?」
「本当にこんなよれよれのやつが強いでいやがりますか?」
「確かに魔力量はすさまじいのだがな?」
シェルにマリアはしがみつき、イパネマさんの後ろに隠れてる。
エスティマ様やゾナーはティアナに疑問とか言っているし、コクはあれだけあたしたちから魔力を吸ったのにこれを見て魔力の味について考えている。
クロエさんは脳筋だけど対してクロさんは冷静に分析している。
ぴこぴこ?
「ティアナ様、こわぁ~いぃ!」
「ティアナ様、守ってくださぁ~いぃ♡」
アイミが首をかしげて見ている横でどさくさにまぎれてセレとミアムがわざわざティアナに抱き着く。
おいこら、お前らどさくさに紛れて!
あたしは「キッ」っとティアナを睨むとシコちゃんが話しかけてきた。
『ねぇエルハイミ、これってどう言うものなの? ゴーレムでもマシンドールでも無いって?』
「そ、そうですわね、概念としては大きな鎧と思ってくださいですわ。今までマシンドールを同調で動かし最前線で戦わせるのは距離の問題やコマンドの魔力をその都度飛ばすという負荷が意外と大きく、主に防衛でしか使えませんでしたわ。それに比べこれは単体で莫大な魔力を保有し最前線で単体で戦える。まさに究極の兵器となるはずですわ」
横目でちらちらティアナを見ながらあたしはシコちゃんに説明する。
この素体は今までのアンナさんの計画から更に一歩進んだ状態での運用も出来そうになった。
あ、ティアナが何とかセレたちを引きはがしたか?
よし、今晩は優しくしてあげよう、もしそのままだったら朝まで寝かせない所だったのに。
そんな事を言っているとアンナさんがいよいよ素体を動かす。
「ではイオマちゃん、素体起動をしてください!」
ごんっ!
アンナさんの声に素体を押さえていたキャリアーハンガーのフックが外れた。
そして固定台から素体が歩き出した。
ぐしゅっ!
どうやら足裏にも筋肉がついているようでやたらと生物的な音がする。
ぐんっ!
どすどす。
素体はあまりにも普通に、そして巨人族の様に歩き出した。
そしてあたしたちの前の扉が開く。
そこはガレント側の森の方。
この工房はもともとガレント側の砦に隣接されたところなので扉の向こうはガレント領の森となっている。
「ではイオマちゃん、出来る範囲で走行と跳躍を願います!」
『はいっ! いきます!』
イオマの声が拡声されて聞こえた。
搭乗者はイオマなのか?
どうやらその声は素体の頭から発せられている様だ。
と同時に素体が走り出す。
どっ!
「ほぇっ!?」
それは一瞬であたしの目の前から消えた。
そして気付けば既に数十メートル先いる!?
そして早い!
何あれ!?
アイミが疾走するようなスピード!!
素体はそのまま一瞬しゃがんでから大きく跳躍する。
それはゆうに自分の三倍以上の高さを飛ぶ!
「ふむ、あの大きさであの動き。主よ凄いなあの素体とか言うのは!」
「面白そうでいやがりますね、ちょっと手合わせさせろでいやがります、主様!」
ショーゴさんはその動きに驚きクロエさんは興奮し始めた。
どんっ!
大きく跳躍をした素体は地面に降り立ちその巨体の割に全身のばねを使い奇麗に体重と衝撃を分散している。
あれだけの高さだったのに一切問題無く大地に起っている。
「基礎運動性能は良いようですね? では次は破壊力と強度ですね。イオマちゃんお願いします!」
アンナさんがそう言ってロックゴーレムを作り上げる。
大体四メートルくらいの大型ロックゴーレム。
それは素体に向かって行き重い拳を振り上げる。
胴体にその拳が届く前に素体は片手であっさりとその拳を弾く。
そして返す手刀でロックゴーレムを真っ二つにした!
どががががっ!
「ぬおっ! ロックゴーレムを一撃だと!?」
ゾナーが唸る。
確かにロックゴーレムを物理的に攻撃しても素体が岩なので堅いし重い。
普通の武器でロックゴーレムを破壊するなんて一苦労どころではない。
それを手刀一線で真っ二つ。
ゾナーも驚くはずだ。
「面白いでいやがります! 手合わせさせろでいやがります!!」
そう言って飛び出すクロエさん。
土煙を立てて走っていき飛び上がり拳を振るう。
「今度は私が相手でいやがります! はぁあぁぁぁっ! はっ!」
気合と共に拳を素体に叩き込む。
しかし素体はその拳を手のひらで簡単に受け止める。
クロエさんは大きく後ろに飛び退いて地面に着地する。
「面白いでいやがります! 私の拳を受け止めやがりましたでいやがります! 少し本気を出すでいやがります!!」
そう言って走りながら足を狙った蹴りを入れるが素体は器用に後ろに下がりこれをかわす。
クロエさんは空振りになった足をそのまま回転させながらスカートを翻して黒い下着をチラ見させながら飛び上がり回転蹴りをする。
ゾナーとエスティマ様が反応したのはあたし以外は気づいていないようだ!?
クロエさんの鋭い回転蹴りはやはり素体に簡単に腕ではじかれ、重量の軽いクロエさんは弾き飛ばされる。
ざざっ!
地面に回転しながら両足に両手もついてクロエさんは止まる。
「くっ、くっくっくっくっくっ! 面白い! 面白いでいやがります!!」
歓喜に満ちた表情でクロエさんはすぐに立ち上がりまた素体に拳を振るう。
しかし何度か打ち込んでもすべて素体の手のひらで受け止められ一回も体に入らない。
「はぁああぁぁぁぁっ! ドラゴン百裂掌!!」
とうとうクロエさんは必殺技を繰り出す。
クロエさんの掌が流星の如く無数に素体に迫る!
しかし素体はそれらを難なくすべて手のひらではじく。
あの攻撃は当たった瞬間血肉をむしり取るような攻撃のはずなのに手のひらですべて弾いてる!?
そして本命の一撃も素体の腕で防がれた!
「私のドラゴン百裂掌が!?」
防がれて大きく飛び退いたクロエさんは流石に驚いて動きを止める。
「そこまでです! クロエもうよいでしょう、下がりなさい」
コクが間髪入れず終了を言い渡す。
そしてあたしを見る。
「お母様、あれはクロエの力をすでに凌駕していますね? 搭乗者がイオマだからまだまだ本当の力が出し切れていないのでしょう?」
そう言って腕組みをしてため息を吐く。
「本当にお母様たちが絡むと私たち黒龍でさえ目を疑う事が起きますね?」
そう言って今度は素体を見上げる。
どうやら竜族でさえ一目置くような物が出来上がった様だ。
「これでなぎなたソードでさえ骨が切れないとなるとまさしく脅威だな」
ショーゴさんも素体を見ながらそう言う。
つられあたしも素体を見ると片膝をついて胸部と腹部を開きイオマが中から出てきた。
イオマが扱ってあの威力。
もし本当の適合者があれに乗ったら‥‥‥
あたしはアンナさんを見る。
アンナさんはあたしに対して最高の笑顔を見せるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます