第419話15-8コクの脱皮

 15-8コクの脱皮



 「鋼鉄の鎧騎士」の素体が完成して搭乗者がイオマでもクロエさんを凌駕する性能を発揮した。



 

 あの後アンナさんたちは採取した資料から標準装備の外装作成に入っていた。



 「アンナさん、少しは休んでくださいですわ。ルイズちゃんが可哀そうですわ」


 あたしはルイズちゃんを抱っこして外装の図面を描いているアンナさんのもとにいる。

 この人ちょっと教えただけでかなり精度の高い図面描いてるので驚いた。


 「ごめんなさい、もう少しだけ、あと少しで描き上がりますから」


 そう言って既に目の前で三枚目の図面に着手している。

 あたしは飽きれてため息をつく。


 「あぶぅぶぅうう~」


 「あら、ルイズちゃんご機嫌のようですわね?」


 最近はあたしが暇が有れば抱っこしているのでだいぶなついてくれた。

 赤ちゃんってやっぱりかわいいなぁ~。

 ティアナの子供は産めないけどやっぱり欲しいよなぁ~。


 そんな事を思いながらルイズちゃんをあやしている。



 「お母様、その赤子に魔力をあげてはだめですよ? お母様の魔力は私のですからね」


 「なんか戻ってきたらアンナの子供がエルハミの子供の様になっているわね?」


 「ほんと、お姉さまったら嬉しそうにルイズちゃんあやしてるんですから」


 「いつものエルハイミさんからは考えられないわね? 『雷龍の魔女』は何処へやら」



 コクはあたしのスカートを握りジルと新しい往来のルートを探しに行ってたシェルは腕組みして不機嫌の様子。

 イオマはアンナさんの図面を受け取りに来ながらあたしがルイズちゃんをあやしているのを覗き込む。

 イパネマさんも暇だからと言ってアンナさんの仕事ぶりを一緒に見に来ていたけどあたしのその様子に頬に手を当てながら見入っている。



 「出来ました! これで標準装備の外装は作成できます!」



 アンナさんは机から顔をあげて描き上がった製図をイオマに渡す。

 そしてあたしからルイズちゃんを受け取りその場で胸を出した。



 ぶるんっ!



 うわっ!

 でかっ!!



 「さあ、ルイズご飯ですよ。お母さんもうおっぱいが張って張って痛かったのです。たくさん飲んでくださいね」


 「あぶうぅっ!」


 どうやらルイズちゃんもお腹がすいていた様ですぐにアンナさんのおっぱいに吸い付く。

 アンナさんはふうっと息を吐き「やっと楽になります」などと言っている。



 もともと大きなアンナさんだったけど、おっぱいって溜まると更に大きくなるのだなぁ~。



 「エルハイミ、鼻の下伸ばして見ないのっ!」


 「お母様、私にもおっぱいください!」


 「あ、いいなぁコクちゃん、お姉さま私にも!」


 「アンナさんって着やせするのね、私より大きいわね」



 シェルに小突かれながらあたしたちはアンナさんがルイズちゃんにおっぱいをやる様子を見ている。


 やわらかい時間が過ぎて行く。

 願わくばこんな時間がずっと続いてくれればいいのだけど。



 * * * * *



 「エルハイミ、聞きました。『鋼鉄の鎧騎士』は標準装備の外装作成に入ったそうですね?」


 「ええ、ティアナ。あとはルブクさんたちにお任せしても大丈夫ですわ」


 「そうなると外装装着の運用テストか。ティアナ、お前たちは何時までここに居られるのだ?」


 あたしは執務室にティアナやエスティマ様にアンナさんが標準外装の図面が全て書き終わった事を伝えに来ていた。

 ここでの休暇も「鋼鉄の鎧騎士」の作成も一区切り出来た頃だ。

 あたしたちもそろそろ準備を始めいよいよ最後の「女神の杖」回収に向かわなければならない。


 「それなのですが、兄さますぐにでも素体をもう一体作成できないでしょうか?」


 ティアナはエスティマ様にそう言う。

 

 「素体をもう一体だと? またずいぶんと急な話だな? しかしそれにはまた莫大な費用と部材が必要だぞ? 『エルリウムγ』の精製もしなければならないとなるとまたエルハイミ殿に協力をしてもらわなければイオマ殿では精製に時間がかかると聞いていたが? それに連結型魔晶石核の作成もしなければだぞ?」


 エスティマ様はあたしを見ながらティアナに答える。


 あたしもティアナの言いたい事は分かる。

 実際に素体の実力は見ての通りだった。

 コクたちも認めるほどのその性能は赤竜との戦いにも非常に有利になるだろう。


 

 そして連合軍ではもともと「ガーディアン計画」の宣伝とデーター収集の為当初から「鋼鉄の鎧騎士」を一体回す予定だった。



 零号機はこのティナの町で、そして初号機は連合軍での運用を考えそのデーターのフィードバックでガレントの要所に「鋼鉄の鎧騎士」を配備する計画だった。

 このプロジェクトはそのかかる経費のおかげで十年という長い時間をかける予定でいた。


 なので初号機の作成も本来であればまだまだ後のはずだった。


 「連合軍から当初は赤竜討伐隊を編成して最後の『女神の杖』を回収に向かうつもりでしたが赤竜は強い。師匠に言われこのティナの町で休養を取り『鋼鉄の鎧騎士』の素体が出来上がるのを目の当たりにして考えが変わりました。いたずらに連合軍の兵士の命を失う訳にはいかない。兄さまも分かっておいででしょう?」


 ティアナはそう言ってゾナーを見る。

 ゾナーは真剣な表情になって首を縦に振る。


 そう、このガーディアン計画が成功した暁にはいよいよ連合軍はジュメルに支配されているホリゾン帝国に打って出るのだ。


 ゾナーにしてみれば悲願であった母国の解放。

 連合軍にしてみれば世界からのジュメル駆逐。

 そしてガレント王国としてみれば長年の北からの侵略を塞き止める抜本的解決方法。


 皆の利害が一致するホリゾン帝国解放と言う大義名分がそこに有るのだ。



 「私たちも勿論可能な限り協力もしますし陛下には零号機の資料をアンナに送付させすぐにでも初号機の作成予算を認可してもらいます。あとは兄さまがこのティナの町での許可をいただければすぐにでも」


 ティアナにそう言われエスティマ様はふっと笑う。


 「全くお前は昔から兄を兄と思わないこきの使いようだ。好いだろう、お前たちにも存分に協力してもらうぞ? 陛下には俺からも話をする」


 そう言ってゾナーに指示する。

 これから予算確保や部材確保、更に工房での連続稼働に予定を組まなければならない。


 あたしたちもまた「ジルの村」に行って魔鉱石を取りに行く事になる。

 大忙しだ。



 話が決まりあたしたちは執務室を出て行くのだった。


 

 * * * * *



 あたしたちは部屋に戻ってこれからの事をみんなに話そうとしていた。


 

 「ティアナ様、コクちゃんが!」


 「クロさんたちは大丈夫だというのですが!」



 何かセレとミアムが騒いでいる。



 「やっと戻って来た? エルハイミ、コクの脱皮が始まったわよ!」



 シェルがあたしに状況を説明する。


 『あたしも初めて見るけど、竜族って人型でも脱皮できるのね! すごいわね!!』


 セレとミアムに預けておいたシコちゃんが念話で話して来る。



 「エルハイミ、コクが脱皮とはどう言う事ですか?」



 そう言えばティアナも初めてだっけ?

 向こうの方でコクは服を脱ぎクロさんとクロエさんに守られながら脱皮をしている様だ。



 「ティアナ、コクは自己再生で卵になり私の魔力でその成長速度を上げてきましたわ。最近私たちの魔力を吸収していよいよ次の姿に成長するのですわ。竜族は成長の毎に脱皮をするのですわよ」


 あたしの説明でティアナはコクに視線を移す。

 すると裸のコクの背中にぱっくりと切れ込みが現れその下から白い肌をのぞかせる。



 「本当ね! 脱皮が始まるわ!」


 

 イパネマさんも驚きを隠さずその光景に見入る。

 そして一気にずるりと古い皮がむけて中から新しいコクが立ち上がった。


 全身をまだぬめぬめと体液で濡らしていたが立ち上がったコクは髪も長くなってすらっとした感じでそこに立っていた。



 「おめでとうございます黒龍様!」


 「黒龍様! 更にお美しく成られました!!」



 クロさんは祝辞を口にし、クロエさんは喜びながらコクの体にタオルをかけて行く。

 しばらくぼうっとしていたコクだったが自分の手を見てにぎにぎとする。


 見た目十歳くらいにまで成長したコクは握った拳をそのままにあたしたちに振り返る。



 「やっと脱皮できました、お母様。これでだいぶ力が戻りました。クロエくらいの戦闘もこれで出来そうです」



 昔のあたしそっくりなコクはそう言って笑う。

 あたしも笑い返す。  



 「おめでとうですわ、コク」


 

 そう言いながらあたしはコクを見て思う。


 むう、あのお饅頭、あの頃のあたしの時より大きい。

 負けた‥‥‥ 

 


 

 そう思うあたしだったのだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る