第406話14-31海上

 14-31海上



 海賊と言う名のジュメルたちを駆逐したあたしたちは船への損害を確認している。




 「いやはや、最初はあり得ないと驚いていた鉄の船でしたがクラーケンの襲撃にも耐えられたとは驚きです」


 オリバーさんはチェックシートに補修箇所の確認マークを付けている。

 あたしたちはまだ海賊に襲撃を食らった海域にいる。


 被害が大きいと思っていた割には鉄の装甲のおかげで外壁のダメージもあたしの【錬金魔法】で簡単に修復できたし、もともと風を受ける帆が無い分その辺のダメージも無い。

 所々壊されてはいるけど船の航行をするには影響はないのだが‥‥‥



 「エルハイミ、やっぱりだめね。ここじゃ火の精霊は力が弱まっちゃうわ」


 「やはりそうですかですわ。魔晶石核も炎の下級精霊では水の精霊力が強い海上ではやはり影響が有りますわね」



 そう、今問題となっているのは船の動力源である魔晶石核の魔力循環率がだいぶ落ちていると言う事だ。

 ここに来るまではそれほど影響はなかったようだけど時間が経てばやはり影響は有るようでかなり効率が落ちている。


 あたしの見込みではこのままでは港に帰るまで魔晶石核が持たないだろう。



 うーん、どうしたものか‥‥‥



 「エルハイミ、こちらは終わりました。どうかしましたか?」


 ティアナが潜水艇のキャリアー補修を済ませてこちらにやって来た。

 あたしは正直にティアナに現状を話す。


 「ティアナ、実は動力源の魔晶石核が炎の低級精霊を使っている為に出力がどんどん落ちているのですわ。やはり海上の為に水の精霊力が強すぎ魔晶石核レベルでは影響が出てしまいますわ」


 するとティアナは近くにいたシェルを指さし当たり前の様に言う。


 「ではシェルに頼んで水の精霊の魔晶石核に作り直せば良いのではないでしょうか?」



 「「あっ」」 



 あたしは思わずシェルを見る。

 シェルもポカーンと口を開いて間抜けな顔をしている。


 よくよく考えればこんな簡単な事だった。

 ここに一応優秀な精霊使いがいたんだっけ!


 「オリバーさん! 動力源の回復の見込みがつきますわ! 早速魔晶石核を外してきてくださいですわ!」


 あたしはすぐに行動に出るのだった。



 * * *



 「それじゃ始めるわね、とりあえず水の精霊を呼び出してみるわ」



 甲板で炎の精霊を魔晶石核融合から解放して元の魔晶石にして準備をしている。

 そこへこれから一応優秀な精霊使いのシェルが下級の水の精霊を呼び出しこの魔晶石と融合をする。

 そうすると魔晶石核となり魔力循環が出来始め外界のマナを吸収して魔力に変えその能力を遺憾無く発揮してくれる。


 本当は双備型にまですれば寿命もぐっと延びるのだがここにはそんな資材も無ければ一応軍事機密のトップシークレットにもなっている。

 世界で双備型を扱えるのはガレントとボヘーミャ、そしてどう言うルートで技術流出したかまだ分からないジュメルしか保有していない。



 興味本位で見物にみんなも集まっている。



 「精霊と魔晶石を融合なんて、すごい技術ね!」

 

 「イパネマさんは初めてですか? これには私たちのティアナ将軍も参加されていたのですよ」  

 「ティアナ様ですもの、当然ですよ!」

 

 「そうよねセレ、ティアナ様に出来ない事なんて無いモノ!」


 「ああっ! 二人してティアナ将軍を絶賛してキャッキャウフフしているセレとミアムも可愛い!」


 「お母様、この魔晶石に精霊を融合するのですか?」


 「ほう、精霊を魔晶石にですか?」


 「まあ、主様だから何でもありでいやがりますけど」


 「ここ熱ーいぃ!」


 「む? マリア俺のマフラーで日陰を作ってやる。こっちの義手の上ならひんやりと涼しいぞ?」


 『エルハイミならサポートは要らないわね?』


 ぴこぴこ?


    

 わいわいがやがや



 見物人はうちの連中以外にもオリバーさんやバムル船長、手の空いた水夫や護衛の人たちまで来ている。


 「始めるわ、水の精霊よ来て!」


 シェルの呼びかけにシェルが差し出した手のひらに水の玉が回転しながら集まっていく。

 しかしその水球はどんどんと大きさを増していく。

 どんどんと‥‥‥



 「へ?」



 シェルは変な声を出して驚いている。


 そしてシェルの手のひらにはすでに人より大きい水の柱が浮いている。

 と、その水の柱が揺らいで下半身が魚の美しい女性の姿に成った。



 「なっ!? これは上級精霊のセイレーン!? なんで? あたし下級精霊を呼び出したはずなのに!?」



 「やはりそうですか、シェルもお母様と魂の隷属をしていると聞いていましたからね」


 シェルもみんなも驚く中コクだけが納得をしたような口ぶりだ。

 

 「コク、どう言う事ですの?」


 「お母様があの力を使うと魂の隷属をしている私たちにもお母様の力が流れ込んでくるようです。それは私たちには強大な力でほぼほぼ魂全部がお母様の力で満たされます。それはとてもすごい事で先ほどのお母様に中に注ぎ込まれるのはとてもうれしく私の魂を震わせるほどでした。すごかったです、お母様」


 最後には頬を染めて瞳をウルウルするコク。


 いやちょっとマテ、そのビジュアルはあたしがやっちまった様でとても危険だ。

 言葉の後半だけ切って聞いたら完全にあたしが犯罪者じゃないの!?


 「そうするとシェルにも同じ事が起こっているというのですの?」


 「はい、多分そうでしょう。しかし本人はそれに気づいていないようです。流石にお気楽なエルフのシェル! せっかくのお母様の熱く中にたくさん入れてもらった物に気付かないとは!」



 いやいや、コクっ!

 その言い方もダメぇっ!


 何故だろう、ハラハラするのは‥‥‥



 「ちょ、ちょっとぉっ! エルハイミっ!! これどうするのよ!?」



 シェルがわめいている。

 仕方ない、融合してみようか‥‥‥

 

 あ、でも魔晶石が持つかな?



 「シェル、その水の精霊にこれから魔晶石と融合する旨を伝えてくださいですわ。本人が不本意だと暴れる可能性がありますわ」


 「う、分かった。 水の精霊セイレーンよ、これからあなたを魔晶石と融合してこの世界で力を使えるようにするわ、良いかしら?」


 すると上級精霊のセイレーンは魔晶石核を見て指さし今度は自分を指ささす。

 シェルはそのボディーランゲージに答える。


 「そうよ、それ。その魔晶石よ」


 するとセイレーンは身振り手振りで何かを伝えようとし来る。

 が、シェルもどうやら何を言っているかうまく理解が出来ていないようだ。


 「うーん、意思が細かすぎてうまく理解できないよ、エルハイミ。どうしよ?」



 ぴこぴこ!



 あたしたちが困っているとアイミがずいっと前に出てきた。

 そしてしゃがんで何やらセイレーンと話し込んでいる様だ。



 応対するごとに耳がぴこぴこする‥‥‥


 水の上級精霊セイレーンとしゃがんで話し込む大型のマシンドール。

 なんかとってもシュール‥‥‥




 ぴこっ!



 どうやら話が終わった様だ。

 アイミはあたしに向かってぴこぴこする。


 「はい? こんな石ころでは私が住み着くには不相応? もっときらびやかにしろ? 貧相すぎる? まるで私を呼び出したそこエルフの胸のようだ??」



 「誰が貧相よっ!!」



 あたしはアイミの通訳をそのままにするとシェル怒って来た。



 いや、あたしじゃないんだけど、言ってるのは‥‥‥



 「とにかくもっと見栄えをよくすれば良いのですわね? だったら‥‥‥」


 あたしは自分のポーチに手を突っ込み中からいくつかの宝石やミスリル金属を取り出す。

 そしてそれをこの魔晶石と【創作魔法】で加工する。


 出来上がった奇麗な小箱を開くと中央に魔晶石が研磨されたかのようにつるりと光りそれを押さえるかのように周りにミスリルで作られた蔓をイメージしたデザインで押さえつけている。

  

 あたしはそれをセイレーンに見せる。


 それを覗き込んだセイレーンは両手を右頬の横で合わせて首を何度も縦に振り最後にあたしに向かって親指を立てぐっと差し出してきた。



 どうやら気に入った様だ‥‥‥



 ぴこぉ~。



 あ、アイミがうらやましがっている?

 いや、これは他の子たちかな??



 どちらにしろアイミの場合はあたしだけじゃ加工は出来ない。


 

 「アイミ、あなたの方は私だけでは無理ですわ。アンナさんの所に戻らないと出来ませんもの。せいぜい外装を豪華にするくらいですわ」


 するとアイミは親指立てて大きく首を縦に振る。


 

 外装だけでも良いんだ‥‥‥



 「エルハイミ!」


 シェルに呼ばれそちらを見るとセイレーンにほおずりされている。

 よほど加工した魔晶石が気に入ったのだろうか?


 「とにかく融合しますわよ! いきますわ!!」


 あたしはそう言ってセイレーンとこの魔晶石箱を融合する。

 普通の魔晶石だけどミスリル金属で補強したからしばらくは大丈夫でしょう?


 そんな事を思いながら融合を終える。

 するとこの魔晶石核の箱はキラキラと輝き始めた。



 「すごい! 上級精霊との融合何て! それにこの感じ、ものすごい魔力を感じるわ!」



 イパネマさんはかなり驚いて魔晶石箱を見ている。

 とにかくこれで動力源の問題は解決できたっと。




 「エルハイミさん、この箱どうやって動力源に取り付けるんです?」


 「はぇっ?」


 オリバーさんの突っ込みにあたしは思わず変な声を出してしまった。

 そう言えば動力源を治める場所って形状が‥‥‥



 「では頼みましたぞ。動けるようになったら呼んで下され」


 バムル船長はそう言ってパイプに火をつけタバコを吸い始めた。

 あたしはシェルを見る。


 「じゃ、あたしもやること終わったので後よろしく!」


 シュッと手を挙げシェルはすぐにどこかに行ってしまった。


 

 「エルハイミ、私も手伝います」



 ああっ!

 ティアナはあたしの味方だよね!!



 「ティアナ将軍、あちらの方も直さないと航行に支障が出ますよ?」


 「そうです、ティアナ様急いで直しに行きましょう!」

 

 「大丈夫です、エルハイミさんならちょちょいのちょいです!」


 「連携が素晴らしい! 流石セレとミアム! そんな所も可愛らしいぃっ!」


 「アラージュさんはあっち行ってください、邪魔です!」


 「そうです、さっきもお尻触るし! 触っていいのはティアナ様だけです!」


 「セレ~、ミアムぅ~」


 ティアナはセレやミアム、そしてカーミラさんやアラージュさんに連れられて行って船の補修に行ってしまった。



 「主よ、破壊なら手伝えるのだが‥‥‥」


 「お母様、横で応援しますので」


 「まあ、熱い甲板の上で待つよりはましでいやがりますか」


 「お茶をお入れする事ならできるのですがな」


 「あー、じゃあおやつもお願い!」



 破壊や戦闘専門の人たちはこの場合何の役にも立たない。

 マリアに関してはお菓子をむさぼる要員しかないし。


 『私が行って手伝うと言ってもエルハイミ一人でやった方が早いもんね~』


 既にここに残っているのはイパネマさんしかいない。



 「うーん、ごめんなさいねエルハイミさん、私は【創作魔法】や【錬金魔法】は使えないのよ」



 先手を打たれた。




 「さあエルハイミさん、ちゃっちゃと直してその性能の確認をさせてください! 上級精霊の動力源! た、楽しみだなぁ!!」


 技術屋ってみんなこうなのだろうか?





 あたしは深いため息をついてから機関室に向かうのだった。


  

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