第407話14-32サフェリナ郊外のアジト

 14-32サフェリナ郊外のアジト



 「流石はエルハイミさんとティアナ将軍です。これでやっと枕を高くして眠れそうですね」




 ロザリナさんはそう言いながらあのハーブティーを飲んでいる。

 あの後あたしたちが新しく作り上げた魔晶石核は素晴らしい性能を発揮して大型船なのに中型船以上のスピードをを出し予定より半日も早くこのサフェリナの港に戻ってこれた。



 「それで、こちらの方はどうなのですか?」


 ティアナもお茶を飲みながらロザリナさんにサフェリナ近郊に有るだろうジュメルのアジトについて聞いた。


 「ええ、大体の目星はつきました。しかし問題が有ります。報告では魔怪人クラスの者がうようよしているとの事です。アインシュ商会でも冒険者等を募集していますが相手が相手だけにティアナ将軍に援護要請をしたいと思っています」


 当たり前の様に言うロザリナさん。

 連合のパトロンとしてもかなりの出資金を出している。

 この辺は当たり前の要請と言えばそうなのだが。



 「ジュメルが相手なら断る理由もありません。早速詳しい話を聞かせてもらえますか?」



 ティアナはティーカップを静かに置きロザリナさんを見る。


 「助かります。それでは――」


 ロザリナさんは資料を取り出しあたしたちに詳しく話し始めるのだった。



 * * * * *



 「またジュメルかぁ、あいつらほんと何処でも湧いて出るわね!」



 シェルは自分の弓を取り出して手入れをしている。

 

 「またあの怪獣とか出てくるのかな?」

 

 そんなシェルの肩にマリアは座って聞いてくる。

 

 「どうかな? ま、こっちにはエルハイミがいるしあの力が有ればちょちょいのちょいね!」



 シェルはお気楽に言ってくれる。

 確かにあの力は絶大だけど同時に危険でもある。


 

 あの時あのあたしはティアナを壊して遊ぼうとした‥‥‥



 それを考えると体の中心に冷たい鉛玉で押しつぶされるような気持になる。

 それにティアナだけじゃない。

 他のみんなだって危ないのだ。




 「お母様どうしました?」


 コクが覗き込んでくる。


 「ええ、なんでもありませんわ」」


 するとコクはあたしににじり寄って来る。


 

 「問題無いのであれば約束です。おっぱいください!」


 「はいっ?」


 「約束です! 『海底神殿』について行かないでいい子に待っていればおっぱいくれるって約束です!」



 あー、しまった。

 すっかり忘れてた‥‥‥



 「あ、あのコク、今は近郊に有るジュメルを殲滅しなければなりませんわ、後でも良いですかしら?」


 「仕方ありませんね、では利息込みで二回おっぱいをもらうと言う事で手を打ちましょう!」

 

 瞳をキラキラさせてコクは両手を胸の前に持ってきて握りふんと鼻息を荒くする。



 「二回!?」


 「はい二回です!」



 なんか高利貸しの闇金みたい!

 しかし今魔力を吸われるわけにもいかず渋々その条件を飲む。




 「それでティアナ将軍、我々はどうすればいいのですか?」


 アラージュさんは装備を固めながらティアナに聞いてくる。

 今回ここに居るのは「女神の杖探索隊」なので人数的にも少数精鋭で固めている。

 ジュメルのアジトに乗り込むには人数が少ない。


 戦力的にはティアナやあたし、シェル、ショーゴさんにコク、クロさん、クロエさんがいるので十分に対処は出来るだろう。

 しかし数が多いと面倒だ。

 前回の甲板上の混戦の様になってしまうと逆に仲間が邪魔になってしまって大技の攻撃が出来ない。


 それとアジトの襲撃時にはジュメルの連中が逃げられない様にこちらも相応の人数で対処するのがセオリーとなる。



 「今回は場所が場所です。エルハイミに協力してもらって大魔法で一気に方をつけます。私たちは漏れ出たり逃げ出したりするジュメルの殲滅をします」


 既にティアナは計画を決めているようで全くの容赦が無い。


 まあ、ジュメル相手だ。

 容赦する必要は無いだろうけどね。

 でもちょっと気になる事も有るんだよなぁ。

 

 カーミラさんやイパネマさんも準備を進める。

 今回は奇襲だから動きやすい格好をしている。

 あたしはそんな様子を見ながらコクを見てふと思い出す。



 「コク、ベルトバッツさんはいますかですわ?」


 「ベルトバッツですか? はい、いますが呼びますか?」



 あたしは頷いてコクにベルトバッツさんを呼んでもらう。



 

 こんこんっ



 部屋の扉が叩かれる。

 

 「入りなさい」


 コクに入室を許されベルトバッツさんが木の体をきぃきぃ鳴らせて入って来た。


 「お呼びでござりますかな、黒龍様?」


 「お母様がお呼びです」


 するとバルトバッツさんは木目調の顔をあたしに向ける。



 うーん、やっぱり慣れないなぁ。

 船の上で見た時にはその慣れない容姿に困惑した。



 「ベルトバッツさんの体を作り替えようと思いますの。もっと強靭で火にも強い体ですわ!」


 「おおっ! 姉御それは助かるでござる。してどんな体でござるか?」


 あたしはポーチからミスリル水銀を取り出す。

 水銀状になっているミスリルはあの時回収していたのだ。

 きっと何かの役に立つと思って。


 「今の私ならベルトバッツさんの魂をこちらに作ったミスリル水銀の体に入れ替えられますわ。これなら自在に形状を変えられますし表皮に【幻影魔法】を使えば見た目も完璧に人になれますわ!」


 あたしはびっっと人差し指を立ててベルトバッツさんに力説する。


 「しかし拙者には【幻影魔法】なるモノは使えませぬが‥‥‥」


 「大丈夫ですわ! 私が教えますわ! それほど難しい魔法では無いのできっと役に立ちますわ!」




 『エルハイミ、また何か考えついたの?』


 シコちゃんが興味を示す。


 「ええ、これでベルトバッツさんは色々な人物や動物などに化ける事も出来ますわ!」


 『なんか溶鉱炉で始末されそうな未来が感じられるけど、いけそうなの?』


 シコちゃんの質問に頷くあたし。

 あたしは早速ミスリル水銀をベルトバッツさんの形にしてウッドゴーレムの体の中に有るベルトバッツさんの魂を探る。


 ご先祖様が使った魔法は技術的にはすごかったけど魔力自体はそんなに使わないしこの世界に存在する魔素、魔力、マナ、実体の順に構成は出来ているのは全て同じだ。



 魂は魔素の器。



 だから魔素と器の関係を魔力との相性の良いミスリルにつなげるのは意外と簡単だった。



 「行きますわよ、ベルトバッツさん! 魔力抵抗はしないでくださいですわ」


 あたしはそう言ってベルトバッツさんの魂を新しく出来たミスリルのベルトバッツさんの体に移す。



 やっぱりそうだ。

 あたし自身魂についての操作が、魂の把握が上手くなっている。



 この外からの魂の操作感覚を身に着ければきっとあのあたしになった時にも抑えが効くのではないだろうか?


 程無く薄っすらと輝き始めたウッドゴーレムのベルトバッツさんから新しい体の方へとその光が移っていく。

 そして完全に移り切ったところで新しいベルトバッツさんの体が動き出す。


 「おおっ! こ、これはでござる!? 何とも不思議な感覚でござるな!」


 どうやらうまく行ったようだ。

 ウッドゴーレムのベルトバッツさんはその場で崩れ落ち糸の切れた操り人形のようになっている。

 これもそのうち使えそうなのであたしはポーチにしまう。



 「姉御、感謝するでござる! 何と言うか体が前よりも動かしやすいでござる!」


 通常の動作からうにょうにょとタコのように動いたりもする。


 「ベルトバッツさん、手を刀の様にするイメージを持ってくださいですわ」


 あたしに言われベルトバッツさんは右手を動かすとそれは肘から先が刀のようになった。


 「おおっ! これは便利でござる!」


 「その体は液体金属ですわ。ベルトバッツさんのイメージでいろいろなモノに形状変化できますわ。ですから他の人や動物、場合によっては穴さえあれば入り込めなかった所へも液化して入り込めますわ。そして‥‥‥」


 あたしはいきなり空間断裂をしてベルトバッツさんを半分に切る。


 

 ズバッ!



 「うおっ!? ‥‥‥痛みは無いでござるな? しかし姉御いきなり真っ二つは勘弁でござる」


 「ベルトバッツさん、元にくっつくイメージをしてくださいですわ」


 あたしに言われベルトバッツさんは真っ二つになった体を元に戻す。

 そして何事も無かったようにたたずむ。



 「これは凄いでござる! 完全に元に戻ったでござる!!」


 「これでわかったでしょう? 現状ベルトバッツさんの能力はかなりのモノになりましたわ。後は【幻影魔法】の使い方を教えますわ」


 そう言ってあたしはベルトバッツさんに【幻影魔法】の使い方を教える。

 それほど難しくないのでベルトバッツさんはすぐに覚え、今あたしたちの前には人間だった頃のベルトバッツさんがいる。



 「お母様、感謝いたします。命をつなぎ止めたとはいえここまでベルトバッツの為にしていただけるとは」


 「いいのですわよコク。ベルトバッツさんにはいろいろとお世話にもなっていますからねですわ」


 「姉御! 深く感謝いたすでござる! これでまた黒龍様の命に更に忠実にお仕えする事が出来るでござる! 今後も不埒な輩の処分はお任せくだされでござる! 更なる『至高の拷問』にて必ずやお役に立って見せるでござる!!」



 いや、「至高の拷問」はいいから普通にお願いします。



 『なるほどね、魂の把握と強靭な僕の作成。エルハイミ、貴女何を考えているの?』


 「流石シコちゃんですわ。ティアナは容赦しないと言ってますがロザリナさんの話に有ったアジトらしいその古城にベルトバッツさんに潜入してもらい内情を探ってもらいたいのですわ」


 「エルハイミ? 今更ジュメルに遠慮はいらないと思いますが?」


 あたしがシコちゃんと話しているとティナが疑問を投げかけてくる。



 「ティアナ、ロザリナさんが言っていた運搬船のうち後二隻は未だ行方不明。護衛の逃げ出した冒険者以外の船員も行方不明ですわ。ジュメルがそれだけの人数の船員をそのまま始末しますの?」



 何時も後味の悪い戦いをさせられるジュメルだ。


 今回も拠点のアジトをいきなり大魔法で始末した後に関係のない人たちを巻き込むことが有ったらやるせない。

 なのでロザリナさんの調べ以上の情報が欲しかった。


 コクに頼めばベルトバッツさんたちがすぐに調べてくれるだろうけど、どうせならそのベルトバッツさん自身も強化してあげたかった。


 

 「コク、ベルトバッツさん。ジュメルのアジトを探って来てもらえます? できれば無関係の人は救い出したいのですわ」


 「勿論ですお母様! ベルトバッツよお母様の命だ、必ず成し遂げよ!」


 「はっ! 黒龍様お任せあれでござります!!」


 そう言ってベルトバッツさんはすっとその場から掻き消える。



 よし、これでジュメルを一気に殲滅できそうだ。





 あたしはティアナと向かい合い頷きあうのだった。

 


  

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