第405話14-30クシュトリア司祭


 14-30クシュトリア司祭


 「主よ! 俺をあそこへ投げ飛ばしてくれ!」



 ショーゴさんはそう言って異形の兜の戦士に変身を始める。

 あたしは念動魔法で改造大型船の甲板で魔怪人たちが乗り込んで来た辺りにショーゴさんを飛ばす。



 「エルハイミ、私たちも行きます! アイミ!!」



 ティアナがアイミにそう言うとアイミがぐんと改造大型船に向かって飛び始めた。


 ぴこっ!


 アイミに言われて改造大型船にとりついている海賊船を見る。

 それは禍々しい格好をしていて船と何かの生物が融合したかのようになっている。



 ざばっ!

 ざばっざばっ!!



 あたしたちが船に戻ろうとしたらいきなり海中からクラーケンの足が飛び出してきた!


 「うわっ! 風の精霊よ、助けてっ!!」


 シェルが悲鳴と同時に精霊魔法を使う。



 ざんっ!!



 精霊魔法が風の刃を発生させいとも簡単にクラーケンの足を切り裂く!?



 「うはっ、あっぶなぁーっ!!」


 「すごいわね、シェルさん!?」


 シェルの精霊魔法のおかげで何とか切り抜けられた。

 イパネマさんも呪文を唱えていたみたいだけどシェルの精霊魔法の方が早かった。



 「エルハイミ! 船に着きます!!」


 そう言ってティアナは船の甲板にアイミを操作して降り立つ。

 既に甲板上は混戦状態で魔怪人や黒づくめたちであふれていた。


 あたしたちにしてみれば大した事無い連中でも水夫たちには脅威だ。

 それにショーゴさんもクロさんもクロエさんも水夫たちをかばいながら戦っているので大技が出せない。



 「お母様!」



 声のした方を見るとコクがセレとミアムを連れてこちらへ来た。



 「エルハイミぃ! タコの足が船に絡まってる!!」



 コクの頭の上にいたマリアが悲鳴を上げる。



 『エルハイミ、混戦よ。魔力をちょうだい! こいつらを動けなくするわ!!』


 シコちゃんに言われてあたしは魔力をシコちゃんに注ぎ込む。


 『きたきたきたぁっ! 行くわよ!! 【茨の戒め】!』


 シコちゃんが魔法を発動させる。

 すると甲板から無数の茨の蔓が魔怪人や黒づくめに伸びていく。


 それは意思が有るかのように魔怪人と黒づくめを取り込んでいき絡め捕っていく。



 「流石シコちゃんとエルハイミ! よしこっちも! 風の精霊よクラーケンの足を切り飛ばして!!」


 シェルの精霊魔法で絡み付き始めたクラーケンの足を切り飛ばす。




 「アイミ、クラーケンの足を船から剥がしなさい! はぁぁあっ! ガレント流剣技四の型、疾風!!」



 ぴこぴこっ!


 アイミは返事をして船に絡み付いた一番太いクラーケンの足をはがし始めた。


 ティアナは近くに有った長剣を拾い上げガレント流剣技でアイミが剥がしたクラーケンの足に攻撃をかける。



 ひゅぅんっ!!

 くるりっ!



 ざんっ!



 踊るかのように回転しながら剣に体重を乗せた一撃は遠心力も加わり太いクラーケンの足を見事に切断した。



 ばきんっ!



 しかし長剣がその荷重に耐えきれなかったのか切り終えてすぐに欠けてしまった。




 「【炎の矢】!」


 イパネマさんもクラーケンの足に対して数十本の【炎の矢】を発動させている。

 あたしはコクたちをかばいながら時々防壁魔法や回復魔法を飛ばし水夫や同乗した護衛の人たちのサポートをする。





 「流石ですね! あなたがエルハイミさんとティアナ将軍ですか!? なかなかの美人ぞろいですね?」



 乱戦の中響く女性の声。

 声のした方を見るとクラーケンの足の上に載っている一人の神官服の女性がいた。



 「話には聞いていましたが美しい。あなたたち二人とも私のペットにしてあげます! さあクラーケンどもやりなさい!!」



 その神官服の女性がそう言うと海中から無数のクラーケンの足が飛び出た!!


 「何者です!?」


 ティアナは短剣を太ももから引き抜き身構える。

 そんな様子を嬉しそうにクラーケンの足の上から見下ろす女神官。



 「私はクシュトリア司祭。十二使徒の一人です。この世界は腐っています。特に男などこの世に不要! あなたたちのような美しい女性は全て私が保護して可愛がってあげます、私のペットとして!」



 そう言ってクシュトリア司祭は妖艶に笑う。

 確かに黒い長髪の色白美人では有るけどなんとなく蛇のような感じがする。

 あたしは身震いする。



 美人は好きだけどこのお方は遠慮だわ。




 「ふっ、ふざけるのも大概にしなさい! エルハイミは渡しません!! ジュメル、滅します!!」


 ティアナはそう言っていきなり超大技の【爆裂核魔法】をクシュトリア司祭に向かって放つ!!



 カッ!


 どごぼがぁあががっがががががっ!!!!



 角度的に下から空中に向けて放った【爆裂核魔法】は業火の炎を一気に解放し全てを焼き尽くす。


 しかしクラーケンの足ごと燃やし尽くしたはずのそこに球体の淡く光る防壁が現れる。

 それはゆっくりと別のクラーケンの足に降り立つ。



 「噂には聞いていましたが凄まじい魔法ですね。しかしこれが有る限り私に魔法は効きません」



 クシュトリア司祭はそう言ってヨハネス神父と同じような指輪をあたしたちに掲げる。



 『魔法無効の指輪!? まだ有ったのあれ!?』



 シコちゃんも驚く。

 しかしこうなってくるとかなり厄介だ。

 魔法の類が効かない事になる。



 「こうなったらあれを使いますわ! ティアナ下がって!」



 「お母様、大丈夫なのですか!?」


 「エルハイミ、やっちゃえー!!」


 「マリア、茶化さない! エルハイミ、本当に大丈夫?」


 コクやシェルは心配をしてくれる。

 しかし今あの力を使う以外船の上では下手な大技は使えない。



 「やりますわ!」


 

 あたしがそう言って同調を始めようとした時だった。



 「きゃぁっ!」


 「いやぁっ! 何これぇっ!」


 「うわぁっ、お、お母様!?」


 「うひゃぁっ! ああっ! コクぅっ!」


 「あぶなっ!」


 悲鳴のした方を見たらクラーケンの足にセレやミアム、コクまでも捕まって空中に持ち上げられている。

 かろうじてマリアとシェルだけは離れこちらに逃げてくる。



 『セレ、ミアム!!』


 「コクッ!」


 

 シコちゃんやあたしがつかまった三人の名を叫ぶが既にクラーケンの足に絡められた三人は身動きが取れなくなっている。




 「はははははっはっ! あら、この子たちも意外と可愛いわね? みんなあたしが遊んであげましょう。さあ、見せてあなたたちを!」



 そう言ってクラーケンの足はセレやミアム、コクの衣服を破り始める!?



 「きゃぁぁああああぁぁーっ!」


 「きゃぁっ! ティアナ様助けてっ!」


 「わわわっ! 何をするのです! やめなさい!!」




 びりびりっ!



 セレやミアムの衣服が破られ下着姿になる。



 「あら? あなたたち二人、その腕の入れ墨は‥‥‥ あなたたちジュメルの信者なのですか? いや、その符号、そうか! あなたたちはジュメル最下位、『デグ』ねっ! ははははっ! こんな所で奴隷がいるなんて! あなたたちジュメルから逃げ出して連合軍にでも拾ってもらったのですか? 連合軍の連中に奉仕でもしているの?」



 何がおかしいのかクシュトリア司祭は高笑いをしている。



 「くっ! やめなさいっ!! セレ、ミアムっ!! ガレント流剣技一の型、牙突!!」


  

 ティアナはそう言って近くに有った剣を拾いクシュトリア司祭に突っ込む。



 ざっ!

 ぐさっ!

 ばきんっ。



 しかしクシュトリア司祭に届く前にクラーケンの足が邪魔をしてティアナの攻撃を遮る。

 剣はクラーケンの足に刺さりはしたもののまた折れてしまい今度はティアナもクラーケンの足につかまる。



 「ティアナっ!」


 「くっ! しまったぁ!!」



 捕まったティアナは宙高く掲げられ幾つものクラーケンの足に絡め捕られる。

    

  

 「わわっ! お母様!!」


 見ればコクも服をはぎ取られ始めカボチャパンツが丸見えになっている。



 「ははははははっ! 良いですね! もっと好い声で鳴いてください、私を楽しませてください!」



 「あっ!」


 クラーケンの足がティアナのビキニの上を剥ぎ取った!?



 

 ぶちっ! 



 あたしの中で何かが切れた。



 「私のティアナに何するのですのぉっ!!」



 

 ばんっ!




 あたしはティアナが剥がされるのを見てトサカに来てしまった!

 それと同時にあたしは瞳を金色に輝かせあの力を呼び寄せる。



 そして手を向けティアナを絡め捕るクラーケンの足を空間断裂を使って切り裂く。



 ずばっずばっ!



 宙から落ちるティアナをあたしは念動を使って受け止めこちらに引っ張って来る。


 「エルハイミ、助かりました!」


 あたしは両手で胸を隠すティアナを引き寄せ口づけをかます。



 『よかったわ、いい子にしてここで待っているのよ。すぐに片付けるから』



 「エ、エルハイミ?」


 ティアナはあたしに驚いている様だけど、あたしの所有物に手を出したこいつは許せない!

 上を見るとまだコクやセレ、ミアムが捕まっている。



 『コク! 来なさい!!』



 あたしはコクに手を向けあたしの力を少し分け与える。

 するとコクの瞳が光りドラゴンの咆哮をあげる。


 瞬間コクがはじけるように幼竜の姿に成りクラーケンの束縛から逃れる。

 同時にあたしはセレとミアムをティアナと同じように空間断裂でクラーケンの足から解放して念動魔法でティアナのもとまで引き寄せてやる。


 「ティアナ様!」


 「ティアナ様っ! 怖かったぁ!!」



 あ、あいつらあたしのティアナに抱き着いた!

 くそ、ティアナはあたしのだって言うのに!



 『お母様、助かりました。しかしこれだけの数のクラーケン、流石にすべてを葬るのは難しいです』


 コクがあたしに話しかけてくる。

 この子、他の子より力あるのだからそのくらいで怖気づいてどうするの?


 『コク、こんなのに後れを取ってちゃだめよ。クラーケンはあたしが片付けるからその間に他の魔怪人どもを根絶やしにしなさい!』


 『はい、わかりました! クロ、クロエ、ベルトバッツよ! 我が主の命、遂行せよ!!』


 コクはそう言ってクロさんやクロエさんに自分の力を分け与える。

 今はあたしの力が流れ込んでいるからコクたちも力を使いたい放題のはず。


 「黒龍様! 力が湧いてくる!? いきやがります!! ドラゴン百裂掌!!」


 「御意! ひょぉおおぉっ! ドラゴンクロ―!!」


 「やるでござる!! 皆の者つづくでござる!!」


 クロさんやクロエさんの魔怪人への猛攻とベルトバッツさん率いるローグの民たちが黒ずくめたちを始末していく。

 とたんに甲板にいた魔怪人たちはその数を減らしていく。

  

 「助かる! うおおおぉぉぉっ! 【爆炎拳】!!」


 ショーゴさんも向かってくる魔怪人を【爆炎拳】で吹き飛ばしている。



 ふむ、こちらはこれでいいか。


 あたしは宙に浮かび海面を見る。

 そして手をかざし水中にいる十何匹かのクラーケンを全て空中に引っ張り出す。


 「なっ!? 私のクラーケンが!!」


 一緒に宙に浮かび上がったクシュトリア司祭は驚いている様だ。

 今使っているのは魔法ではなく純然たるあたしの力。

 


 「くっ! ここは引きます! 覚えてなさい!!」



 捨て台詞を言ってクシャトリア司祭は帰還魔法の魔晶石を取り出し発動させる。


 ふん、まあいい。

 そうだこれだけのクラーケン、たこ焼きにしたら美味しいだろうか?

 ふとそんな事を思いつきあたしは異空間を開きこれらクラーケンを放り投げる。

 動かれても面倒なので全部一斉に凍らせておくか?

 あたしは異空間に放り込むと同時にこのクラーケンたちを氷漬けにして葬った。


 さてと、残るはあの変な海賊船だけか?


 あたしは甲板に降り立ち海賊船を見る。

 あれは船と海洋生物のキメラじゃない?

 変なものを人間は作るな。


 まあいい、消し去るか。


 あたしはさっと手を振ってこの海賊船も塵へと化した。

 さて、これで終わりっと。


 うーん、ちょっと暴れ足らないかな?

 そうだ、こいつら壊して遊ぼうかな?


 壊して‥‥‥



 「エルハイミ?」


 ティアナが近づいて来た。

 この愛おしい者はあたしの所有物。

 だったら壊して遊んでもいいよね?



 え?

 壊す??



 ゆら~っとあたしはティアナの前に立つ。


 「エルハイミ?」


 『ふふっ、奇麗ね、ティアナ‥‥‥ 』


 あたしはティアナに手を伸ばす。



 【だめっ!】



 『くっ!?』


 あたしはもう一人のあたしにティアナを壊すのを止められよろめいた。

 


 ああ、せっかくティアナをバラバラにして遊ぼうとしたのに‥‥‥

 まあいい、もう一人のあたしがそれを望まないのなら。


 

 さて、そろそろ帰るか。

 あたしはあたしから離れて行った。




 ―― はっ!? ――




 「エルハイミ、大丈夫なのですか?」


 「あ、何時ものエルハイミの雰囲気だ!」


 「うおっとっ! エルハイミすごかったね! クラーケン一度に始末するなんて! って、エルハイミ?」


 胸を両手で隠したままのティアナとその肩に飛んで来たマリア、向こうで精霊魔法でクラーケンと戦っていたシェルもやって来た。



 『お母様、魔怪人どもは全て駆逐しました。』

 

 コクも幼竜ん姿の間こちらに来ていた。

 あたしはそんなみんなを見ながら安堵の息をついていた。



 危なかった。


 もう一人のあたしがこのみんなを壊して遊ぼうとしていた。

 やはりまだまだあの力を使いきれていない。

 あのあたしは今のあたしの意思は尊重してくれるけど絶対じゃない。

 


 内心冷や汗をかきながらあたしはティナを見る。



 絶対にティアナを壊させない。



 すとん。



 あたしは力が抜けその場に女の子すわりしてしまう。



 「エルハイミ!」


 「うわ、エルハイミ?」


 「ちょっと、エルハイミ?」


 『お母様!?』



 近くにいたみんなは慌ててあたしに駆け寄る。



 「だ、大丈夫ですわ。少し疲れただけですわ‥‥‥」



 やばい、動揺を隠さなきゃ。





 あたしは乾いた笑いで笑ってごまかすのだった。


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