第402話14-27海底神殿の守護者

 14-27海底神殿の守護者



 ぶくぶくぶく‥‥‥



 ざばっ!



 「ひえぇえええええぇぇぇっ!」


 シェルはいきなり現れた何かに驚いてあたしにしがみつく。


 「くうっ! 何やつ!?」


 ティアナは太ももにくくり付けていた短刀を引き抜く。



 ざばっ!


 「まてまてまて、こちらにお前さんらを害するつもりは無い。刃を引け」



 水面から出てきたのは角刈りのおっさんだった。

 彼は這い上がるわけでもなく肩の辺まで水面から出ていてこちらをぐるりと見ている。



 「なんだ、本当に人間の女ばかりじゃないか? お前さん方こんな所まで何しに来たんだ?」


 「こ、言葉が通じるのですの?」


 「当り前だ! 俺はこう見えてもここいらの子供たちに語学を教えているんだぞ!」



 角刈りのおっちゃんはそう言ってぷんぷん怒った。



 「あなたもしかして人魚なの?」


 「ん? あんたその杖は‥‥‥ 魔術師か!? これは珍しい! 言い伝えの魔術師様か!?」

 


 言い伝え?

 それにこのおっちゃん人魚って言われて否定しなかった?



 「俺はロップン。見ての通りマーマンだ。こんな所に人間が来るなんて初めてだったんでな、みんな驚いている。まあ人間とはあまり話さないから俺が様子見に呼ばれたんだが、まさか言い伝えの魔術師様に会えるなんてな!」



 ロップンと名乗ったマーマンのおっちゃんは嬉しそうにしている。



 「あ、あの。ロップンさんとやら、私たちはこの海の底に有るという古代魔法王国の『海底神殿』に行きたいのですわ。すみませんがここを通してもらって良いですかしら?」


 「ああ? ああ、神殿に行くのか? もちろんいいとも、そこの魔術師様が用が有るんだろ? そうだ、俺らが連れて行ってやるよ! 神殿まではもう少し北だからな!」


 そこまで言ってロップンさんは水にぽちゃんとまた潜って行ってしまった。

 そしてしばらくすると潜水艇がぐらっと揺れてどうやら神殿の方に押されているようである。


 『コク、シコちゃん!! 海底でマーマンたちに遭遇しましたわ! 今私たちは彼らの協力で神殿に連れて行ってもらっていますわ。潜水艇が引っ張られるでしょうけどそのまま鎖は降ろしてくださいですわ。それと現在位置よりもっと北に行くようですわ!』


 あたしはコクとシコちゃんに念話を飛ばす。

 すると二人ともあたしの念話を受け取った様だ。


 『わかりました、お母様。お気をつけて』


 『了解よ。セレ、ミアム、すぐにアラージュたちに伝えて。ティアナたちの潜水艇はもっと北にマーマンたちに連れられて神殿に向かっているって。降ろす鎖はそのままに。船をもう少し北に移動させて!』


 どうやらシコちゃんが上手くセレたちを使っている様だ。

 あたしたちは一安心して潜水艇の揺れを感じながら「海底神殿」に連れて行ってもらうのだった。



 * * *



 ごとんっ!


 潜水艇が海底に着いたようだ。

 あたしは窓から外の様子を見る。


 「あら? これは‥‥‥」


 「どうしましたエルハイミ?」


 「なになに? また変なの出たの!?」


 「エルハイミさん?」

 

 あたしは窓の外見ているとどうも水の中じゃない?



 こんこんっ



 「聞こえるかい? ここまでくればもう大丈夫だ。そのまま出てきてもいいぞ」


 ロップンさんの声が聞こえると同時によくよく見れば足元には水面が無くなっていて砂地が見える。

 まさかと思ってそこからあたしは顔を出してみる。

 すると空気が有るどころか砂浜の様になっている?


 恐る恐るその砂地に出てみると近くに角刈りマッチョの下半身人魚のロップンさんがいた。



 「ここなら人間でも呼吸が出来るだろ? ずっと昔に魔術師様がここに神殿を作った時に結界で地上と同じようにしたんだ。今は俺らの住処になっているけどな」


 そう言うロップンさんの周りにはやっぱり角刈りマッチョの人魚たちがいる。



 「ねえ、エルハイミ。あたしが聞いた話では人魚って美しい女性だって‥‥‥」


 あたしの後から出てきたシェルはあたしにくっつきながらロップンさんたちを見ている。



 「エルハイミ、大丈夫ですか?」


 

 ティアナも降りて来てあたしの横で一瞬嫌な顔をする。

 まあ、ティアナはあの時すでにマーマン見ているから多少は耐性が有るか。



 「ほんと、すごいわね! こんな海底深くで呼吸が出来るどころか水を押しのけ空間を作っているなんて!  あら、あの端に有る像が結界の役割をしているのね?」



 イパネマさんは降りて来てすぐさま周りを見ていてこの結界のもとになるっぽい像を見ている。

 少し前かがみになって両腕で胸をはさむからすごい事に!?


 「んんっ、エルハイミ」


 イパネマさんに見とれているとティアナが咳払いしてきた。

 あたしは慌ててロップンさんに話を戻す。



 「ロップンさん、それでは私たちは神殿に行かせてもらいますわ。よろしいですかしら?」


 「神殿に行くのは良いんだが、あそこは封印がかかっていて中には守護者がいるって話だぞ? ああ、丁度良かった、ポポムン王よ、魔術師様が来られたぞ!」



 そう言ってロップンさんは人魚たちの奥からやって来た一回りガタイのでかい人魚に話しかける。


 見れば頭に王冠を頂き、三又の矛を片手に持っている。

 二足歩行は出来ないので袋に足を入れてぴょんぴょん飛び回るのと同じ方法でこちらにやって来る。



 「なんと むきっ! 魔術師様だと びきっ!」



 何故一言ごとにポーズをとる?


 

 おおおーっ!



 そして何故周りのマーマンたちは歓声をあげる。

 しかもポージングが決まるごとに!?



 「流石ポポムン王! 見事なポージングです、美しい!」



 いや、ポージングは良いとして美しいの?

 どうもマーマンの美的感覚にはついて行けない。



 「それで むきっ! そちらの女性が びきっ! 魔術師様か? ふんっ!!」


 ポポムン王と呼ばれたこのマーマンはイパネマさんの前で一言ごとにポージングをする。

 流石のイパネマさんも苦笑をして答える。



 「ええ、私も魔術師だけど他のみんなもそうよ。私よりずっとすごい魔術師たちだけどね」


 「なんとっ! むんっ! と言う事はとうとうっ はうっ! 我らが主を開放してくださるのですか!? はいんっ!」



 最後には他のマーマンまで加わって組体操になっている。

 だから何故一言ごとに筋肉を誇示するのよ!?


 

 「あなたたちの主ですの?」


 「はい、ほっ! あの神殿には はいっ! 我らが主が むんっ! 封じられております。 はいぃぃっ!」



 あ、これはすごい。

 最後にはマーマン逆立ち五段は曲芸の極み!


 思わずあたしとシェルはぱちぱちと拍手してしまう。



 「はぁはぁ、そう言う事で。どうか我らの主を開放してくだされ」



 普通にしゃべれるじゃん!!

 何今までの!?



 「いやぁ、ポポムン王よ、決まりましたな! 王家に伝わる初回の挨拶、見事拍手を頂けましたな!」


 「うむ、ポージングからの組体操辺りでいただけると思ったが、まさか秘伝のマーマン五段重ねまでする羽目になるとは思いもしなかった。しかしあれがダメであれば残すは門外不出の決めポージングしかなかったぞ! 危ない所であった」



 挨拶なんかいっ!?

 しかも拍手もらうまで続けるのかいっ!?



 ティアナとイパネマさんは呆然としてしまったがシェルだけはなぜか興奮している。



 「エルハイミ! すごかったねさっきの!! あ、でも、もうちょっと待てばその門外不出のも見れたのか」



 いや、もういいってば!


 

 「それでは魔術師方々を神殿にお連れしよう。なにとぞ我らが主を開放してくだされ」





 ポポムン王はそう言って向こうに有る神殿へとあたしたちを連れて行くのであった。


 


 


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