第401話14-26海底

14-26海底



 「この辺がその『海底神殿』とやらが有るだろう海域だ」




 この新造改造大型船の船長であるバムルさんはそう言いながらパイプをふかしあたしたちの近くにやって来た。

 年の頃六十歳に近いだろうバムルさんは吐き出す煙と同じような白髪と髭を携えている。


 

 「この辺には昔から伝説が有って海の中に神殿が有ると言われている。まさか本当にあったとはね」



 バムルさんはそう言って海を見る。

 

 「この辺では有名ですの?」


 「ああ、悪さをすると人魚たちに海に連れ去られると言われていたよ。神殿には人魚の王がいるってね」


 あたしは一瞬ミロソ島での黒歴史を思い出していた。


 

 人魚ねぇ‥‥‥




 「エルハイミ、準備出来ましたがこんな軽装で良いのですか?」


 「なんだか落ち着かないわねぇ、エルハイミさん、わざわざ水着になる必要が有るの?」


 あたしは着替えの終わったティアナとイパネマさんを見る。



 「ダブル特盛ですわ!!」


 「何が特盛なのよ!?」



 あ、思わず心の声が漏れてしまった。

 突込みのあった方を見るとそれはそれは控えめなシェルの水着姿があった。



 「今もの凄く失礼なこと思ったでしょ?」



 「い、いえ、そんなことは有りませんわ」



 思わず視線を泳がすあたし。


 いや、決してシェルだって悪い訳ではない。

 しかしティアナやイパネマさんのダイナマイトバディーでしかもティアナは赤のビキニ、イパネマさんはクロのハイレグで胸元からおへそまで有る切れ込みですごい事になっている。

 対してシェルは競泳着の様なビキニでぴったりとした水着だがものすごく水の抵抗が低そうだ。


 「うう、エルハイミだってそこまで有るんだもんな、なんかものすごく理不尽を感じるわよ‥‥‥」


 シェルはあたしの水着を見ながらそう言う。

 あたしは白のビキニ姿で髪の毛を頭上にティアナやイパネマさんと同じく結っている。

 ぽよんとあたしの胸が揺れる。



 「エルハイミ‥‥‥ 水着姿も良いですね‥‥‥ 今度水着姿でも‥‥‥」


 ティアナはあたしの周りをうろうろする。


 シェルはぶつぶつ言いながら自分の髪を三つ編みにして一本にまとめる。

 こうして準備は出来た。




 「先ほどの無人での実験はうまく行っていたみたいですわ。ですのでいよいよ本番ですわよ!」


 現場についてから潜水艇を無人で海にいれ海底まで沈めてみた。

 そして引き上げて中を確認する限り濡れていないので問題無く機能は動いていたようだ。

 

 なので今度はいよいよ有人での稼働を試みる。



 「ポーチと最低限の装備をつけてっと、良いですわ。では参りましょうですわ!」


 あたしはそう言って潜水艇の下に開いている穴から中に乗り込む。

 それにならってティアナやシェル、イパネマさんも乗り込んでくる。



 『コク、聞こえますですかしら? シコちゃんも聞こえまして?』


 あたしは中に入ってから二人に念話を飛ばす。


 

 『はい、お母様。こちらは感度良好です』


 『こっちも大丈夫ね』


 『では何かありましたら連絡くださいですわ』



 あたしは二人にそう言って潜水艇を海に沈めてもらう指示を出す。


 「ねえ、エルハイミ。なんでシコちゃんまで置いて来るの?」

 

 「コクだけですと何かあった場合船よりも私たちを優先する恐れがありますわ。シコちゃんならセレやミアムとも話が出来るしあの二人経由でアラージュさんやカーミラさんにも指示が出せますわ」


 「確かにあの二人には直接は念話は出来ませんがシコちゃん経由なら意思伝達できますね」



 「あらなに? あなたたち念話までできるの?」



 あたしの意図にティアナは理解を示しイパネマさんはあたしたちの秘密を知る。


 「ええ、魔法王ガーベルの血を継ぐものは『至高の杖』、通称シコちゃんと念話が出来るのですわ。そしてシェルとコクは私と魂の隷属で念話が出来ますわ」


 あたしがそう言うとイパネマさんはため息をついてから言う。


 「もうエルハイミさんがらみだと驚かなくなってきたわ。あなたといると本当に常識が通用しないし何でもかんでも当たり前に感じてくるわ」


 今回の「海底神殿」くらいまでなら念話が通じる距離のはず。

 なんか有った時は双方連絡が取れる。

 流石にこちらにはティアナがいるからセレもミアムも大人しく言う事を聞いてくれるだろう。



 あたしがそんな事を考えていたら潜水艇が着水して海面からどんどんと水の中に入り始めた。



 「いよいよね、魔道を使わずに海底に行けるなんてちょっと楽しみね」


 イパネマさんは珍しく興奮気味だ。

 やはり魔術師、こう言った事には興味を持つらしい。


 「これって鉄のせいかものすごく変な感じね。精霊力が水の精霊しか感じられないもんね」


 シェルもそう言って取り付けられた窓の外を見始める。

 そしてどんどん沈んで行く様子を「うわ~」とか言いながら眺めている。



 「しかし本当に不思議なものです。もうだいぶ沈んだはずなのにちゃんと呼吸が出来るとは」


 ティアナは上を見ながらそんな事を言う。

 そろそろ半分くらいまで潜っただろうか?

 若干窓からの光が弱くなり始めた。


 「空気は管でどんどん送ってもらっていますから呼吸は問題ありませんわティアナ」


 あたしは指を立てながらそう説明をする。



 と、その時だった。



 「ねえ、エルハイミ。今窓の外何か泳いでいったわよ‥‥‥」


 「魚ですか?」


 「海だもの魚くらいはいるわよね?」


 シェルの言葉にティアナもイパネマさんも当たり前のことを言うがシェルは首をかしげる。


 「尻尾は確かに魚っぽいんだけど‥‥‥ だんだん深くなって来たから見えにくいのよね」


 「では外のアームに【明かり】の魔法をかけますわ」


 あたしはそう言って海底を照らすためのアームに【明かり】の魔法をかける。

 そして【明かり魔法】はその効果を発揮して途端にこの潜水艇の周りをまばゆい光で照らし出す。



 「ひっ!」



 シェルが短い悲鳴を上げた。

 と、同時にがんっ! という音がこの潜水艇に響いた。



 「エ、エルハイミぃっ!!」


 

 シェルがあたしの胸に抱き着いてくる。

 

 「あ、シェルっ! だめですっ!!」

 

 ティアナが慌ててシェルを引きはがそうとするけどシェルは窓の外を指さし叫ぶ。


 「化け物、変たぁいっ!!」



 へ?

 こいつ何を言っているの?


 

 そう思ってあたしやティアナが窓を見るとそこに角刈りの筋肉隆々の男がこちらを覗き込んでいる!?



 「ひょぉぇええええぇぇぇぇっ!?」



 思わずあたしの変な叫び声をあげてしまう。

 

 「なにっ!?」


 イパネマさんもそれに気づき魔法の杖を構える。




 がんっ!

 がんっ!!



 次々と潜水艇にとりつくかぶつかるかのような音がする。




 ぶくぶくぶく‥‥‥



 そして足元の海水がむき出しになっている水面が泡立ってきた!?


 「もうやだっ! なんなのよぉっ!!」





 シェルが叫ぶ中それはとうとう泡と同時に姿を現したのだった。 

  

 

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