第369話13-26栄養補給
13-26栄養補給
「そうか、ティアナの嬢ちゃんは栄養つけなきゃならねーのか、よし分かった! 俺に任せとけ!!」
あたしたちは「緑樹の塔」に戻りファイナス市長にケガ人について報告をしたところだった。
そしてイチロウ・ホンダさんがあたしたちに労いの料理を作ってくれると言う事でここへ来ていたのだが、ティアナがかなり身体的にダメージを蓄積していると話したらイチロウさんが栄養のつく食事を作ってくれる事となった。
「すみません、いろいろと‥‥‥」
ティアナはそう言ってイチロウさんにお礼を言う。
「なに、気にすることはねえ。俺に出来るのはうまいもんをみんなにたらふく喰わせてやる事くれえだからな。栄養の付くもん食って早く良くなってくれや」
そう言ってにかっと笑う。
「それでユカ、この後はどうするつもりですか?」
「ファイナス市長、魔法王ガーベルはまだこのユグリアにしばらく滞在するとの事です。連合の会談を設ける前にもう少し詳しい事を聞こうと思っています」
師匠のその答えにファイナス市長は「そうですか、分かりました」とだけ言って今度はシェルを呼ぶ。
「シェル、先ほどのケガ人の中でジュメルについて話が聞きたいのです。もう一度彼らの所に行って話を聞けそうな人を連れてきて下さい」
「はい? 良いですけどなんでまた彼らに?」
「ユグリア近郊の村々との連絡が途絶えた所が数か所あるのです。今のこの状況だと調査団の編成もすぐには出来ません。彼らに何か情報が有れば聞いておきたいのです」
あたしは息を飲む。
近郊の村々って事は‥‥‥
あたしは唇を噛む。
知らない事とは言え、あたしたちが倒したあの魔怪人たちは‥‥‥
「わかりました、すぐに行ってきます、ファイナス長老」
シェルはそう言ってすぐにこの場を離れた。
ファイナス市長が何を確認したいかなんてシェルだって分かっているだろう。
それでもやらなければならないと思って彼女は動いた。
そんな彼女を見送りながらあたしも今出来る事をする為にティアナを捕まえる。
「それではお料理はイチロウさんにお任せして、ティアナは大人しくするのですわ!」
「しかし今は‥‥‥」
「駄目ですわよ、ティアナの今の仕事は体を休める事ですわ。ファイナス市長、近くに良い宿はありませんの? 師匠、ユグリアにティアナをせめて数日休めさせたいのですわ、良いですわよね?」
あたしはファイナス市長と師匠にお願いをする。
「わかりました、市営のホテルを準備させましょう。それと食事はイチロウに言ってホテルまで届けさせましょう」
「連合軍には私から連絡を入れましょう。ガルザイルに着いても編成や補給はまだまだ終わらないと聞いています。ティアナがここで休養するのは問題ありません。連合軍の準備が出来るのは少なくともひと月はかかるでしょう。その間にティアナが不在でも問題は無いのでしょう?」
「そ、それはまあ、体勢を立て直すまでは指示していますが‥‥‥」
「なら決まりですわ! ティアナ、大人しくするのですわ!!」
半ば強引にあたしはティアナを引き連れファイナス市長に紹介された市営ホテルへティアナを連行するのであった。
* * * * *
「それでお姉さま何故看護婦の姿をしているんです?」
「え? だってティアナの看護をするにはやはり形からですわ!」
あたしはピンクの看護婦さんの服装をしてサッサとティアナをベッドに放り込む。
そして甲斐甲斐しくもティアナのお世話をするつもりだった。
「主様、そこはメイド姿でいやがりますよ?」
「ふむ、しかし給仕とは少し違うので看護でも良いのではないか?」
「お母様、私もお手伝いします! 赤お母様と二人きりにはしません!!」
「あ、だったらあたしも見張り‥‥‥ もとい、せっかくだから義理のお兄さんの面倒を見るの手伝いますよ! お姉さまが余計な所まで看護しないように!!」
クロエさんやクロさんはそんな事を言いながら給仕と看護の違いについて討論を始め、コクとイオマは何処からかあたしと同じピンクの看護婦さんの服を引っ張り出し着替える。
「えーと、エルハイミ。私は大丈夫ですから普通にしていればいいのですよ?」
「駄目ですわ! ティアナは体をよく休めなければいけませんわ!! 体を休めるには寝るのが一番、大人しく言う事を聞いてくださいですわ!」
あたしはそう言いながらティアナをベッドに寝かせる。
「しかし‥‥‥」
そこまでしてもティアナは言う事聞いてくれない。
仕方ないのであたしはティアナを枕に押さえつけ口づけをする。
「あーっ! お姉さまっ!! 言っている矢先から!!」
「くっ、流石お母様です。自然な流れから一気に押し倒すなんて!」
イオマとコクが抗議の声を上げる。
しかし、良い子にしていなければご褒美はあげないのだ。
「ティアナ、言う事を聞かないともうキスしてあげませんわよ? 今は大人しくしてくださいですわ」
「‥‥‥////」
唇を離したあたしに言われティアナは少し赤くなって大人しく首を縦に振る。
そしてあたしが見守る中静かに目を閉じすぐにでも寝息を立て始めた。
「やっぱり疲れていたのですわね‥‥‥ あの力を使って本当はかなりつらかったって聞いてましたもの‥‥‥」
あたしは安らかに眠るティアナの頬にもう一度軽くキスをして騒がしいみんなを隣の部屋に連れ出した。
* * * * *
「うへぇ、やっと見つけた。ここで良いのよね‥‥‥ って、エルハイミにイオマ、それにコクまでなんて格好してるのよ!?」
一仕事終えたシェルがここへやって来た。
そう言えばどこのホテルかシェルは知らなかったのによく辿り着けたもんだ。
「お疲れ様ですわ、シェル。あちらは問題無いのですの?」
「ああ、あっちはあのイパネマって人が近隣の村の状況をよく知っていたんで大体の話は聞けたみたい。しっかし、なんて格好してんのよあんたたち」
シェルはあたしの頭からつま先まで見てげんなりしている。
「あら? シェルはこの格好知らないのですの? 看護するのは看護婦さんですもの、今のティアナは著しく消耗していますわ。私が看護してティアナをいろいろと元気にしてあげるのですわ!」
「いや、ヒュームの看護婦って知ってるけど、エルハイミに色々と看護され元気にしてもらったら止まらなくなるんじゃないの? 少なくともあたしだったら止まらないわよ?」
最後の方は少し赤い顔してあたしを見るシェル。
こらこらこらっ、疲れている人にそんなことさせちゃ余計に疲れるでしょ!?
あたしは腰に手を当てため息交じりで人差し指を立ててこう言う。
「とにかくティアナは今は絶対安静ですわ! 元気になるまでご褒美はお預けですわ!」
そう言うとシェルもイオマもコクまでもがあたしを見ながら「うわ~」と言う表情をする。
あたしはもう一度「言う事聞かない悪い子にはご褒美はあげませんわ」と言い切る。
とんとん。
あたしがそんな事言っていたら部屋の扉がノックされた。
イオマが扉を開くとイチロウさんがそこに立っていた。
「って、なんて格好してるんだい嬢ちゃんたち!?」
「あー、イチロウさん。これ似合っているでしょう? お姉さまとおそろいなんですよ?」
「いやいやいや、似合ってはいるけどすごい格好だな。スカートもそこまで短くする必要あんのかい?」
言われて初めて気づいたイオマは途端に赤面してスカートに手を当てもじもじとする。
あたしはイオマに変わりイチロウさんが持って来てくれると言う栄養の付く食事を受け取りに行く。
「何事も形からと言いますわ。それで、イチロウさんそれが栄養の付くお食事ですの?」
「ああ、そうだよ。かなり栄養がつくだろうからしっかり食わせてやんな。それとこっちは普通のやつだ。これはみんなで食べると好いだろう」
そう言って風呂敷包みを二つ渡してくれる。
一つは小さいティアナ用、もう一つの大きいのはみんな様らしい。
あたしはお礼を言ってそれを受け取るとイチロウさんは「また明日も持ってきてやるよ」と言って行ってしまった。
あたしは大きい包みをイオマやシェルたちに渡して小さい包みをもってティアナが寝ている部屋に行く。
* * *
「うん‥‥‥ エルハイミ?」
「あら、ごめんなさいですわ。起こしてしまったようですわね?」
あたしが静かに部屋に入ったはずなのにティアナはすぐに目を覚ました。
でもそれはたぶんあたしがいなかったこの三年弱の間に身に着けた警戒心からの目覚めなのだろう。
ティアナはあたしと寝ている時だって何かあればすぐに目を覚ましていた。
「イチロウさんが食事を届けに来てくれましたわ。ティアナ、食べれそうですの?」
「うん、丁度お腹もすいてきた頃よ。イチロウさんの食事かぁ、栄養がつくって言ってたわね? ちょっと楽しみだわ」
ティアナはいつもの風になってゆっくりと体を起こした。
あたしはそんなティアナを手伝ってベッドに座らせ、食事の準備をしてあげる。
サイドテーブルを準備して飲み物も準備して早速イチロウさんの包みを開ける。
そしてそこに有る食材を見て絶句する。
「ふーん、イチロウさんの食事にしてはあまり派手ではないわね? あら? これってもしかして亀? それになにこれなんかぬめぬめとした野菜? あ、納豆とか言うのもあるわね? それにこれは‥‥‥ もしかしてトカゲ? こんなの食べれるの??」
た、確かに栄養は有るのだろう。
そして効果はものすごく強そうなものばかり‥‥‥
滋養強壮栄養満点に間違いはなのだが‥‥‥
「ま、イチロウさんがせっかく作ってくれた食事、食材が変なのでもきっと美味しいわよね? 早速いただこうかしら!」
そう言ってティアナは美味しそうに食事を始めるのであった。
『ねえ、エルハイミこれってもしかして‥‥‥』
「シコちゃん、今は何も言わないでくださいですわ‥‥‥」
三日後一部が元気になったティアナを押さえる為にあたしは最終手段であの呪いをあたしに移す羽目になってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます