第368話13-25イパネマ
13-25イパネマ
あたしはシェルとイオマに連れられて負傷者が集められている野戦病院のような所へ来た。
「これは!? 半分がまだ人のままではありませんの!?」
あたしが連れられて行った場所は魔怪人に変わり切れていない人が数人、それと体の一部を失った人が数人いた。
あたしはさっそく体の破損した人、腕や足が無くなっている人のもとへ駆けつける。
「完全に回復できるか分かりませんがやってみますわ。下がってくださいですわ」
あたしはそう言って治療に当たっていた魔術師や神官服を着た人を下がらせる。
「出来そうなのエルハイミ?」
シェルが心配して覗き込んでくる。
理論的には腕や足位なら注ぎ込む魔力量によって完全復活できるはずだ。
「やってみますわ! シェル下がってですわ」
あたしに言われシェルは下がる。
そしてあたしはまず目の前の腕を失った男性に【治療魔法】を施す。
「流石に魔力を使いますわね! でもこれくらいなら!」
あたしはそう言って魔力をグンと注ぎ込むと傷口が光り始め見る見るうちに腕が再生し始める。
それは決して見ていて気持ちいいものではないが無くなった骨が伸びそれに筋肉の糸が巻き付き血管が出来上がり徐々に人の手になって行く。
「ふう、うまく行きましたわ。さあ次ですわ!」
あたしはそう言いながら次々と腕や足、そして体が変な向きになっている者のかろうじて生きている人たちの治療を進める。
「ふう、流石にこれだけ【治療魔法】を使うと応えますわね。次は‥‥‥」
そう言ってあたしは最後のケガ人を見る。
どきっ!
そのケガ人はティアナに負けず劣らずのナイスバディ―の魔導士風の女性だった。
紫色の髪の毛がつややかに肩から背中にまで流れていて肉厚の唇からは苦しみの為に荒い息を吐いている。
苦渋に歪む顔さえ美しく見えるほどの美人さんだが豊満な胸のすぐ横には肩から腕が無くなっている。
回復魔法か何かを自分でかけたのだろうか?
傷口からの出血は止まっていた。
「これは酷いですわ。待っていてですわ、すぐに治してあげますわ!」
あたしはそう言って魔力を練り上げ【治療魔法】をこの女性にかける。
とたんにその効果は発揮して彼女の肩から指先まで再生を行う。
そして出来上がった腕のおかげで彼女から苦痛の表情が無くなる。
「はぁはぁ、貴女凄いわね。ここまでの【治療魔法】を使えるなんて‥‥‥」
「そりゃあ、お姉さまは『育乳の魔女』と名高いお人ですから!」
こらイオマ、なんでここでもその二つ名を広めようとするの!
「『育乳の魔女』‥‥‥ 『無慈悲の魔女』、『雷龍の魔女』? まさか、貴女がガレントの無詠唱使い?」
「二つ名は全て忘れてくださいですわ。私はエルハイミ、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ」
あたしはそう言ってにっこりとほほ笑む。
「ありがとう、助かったわ。私はイパネマ。見ての通りの魔法使いの冒険者よ」
まだ痛みから解放されたばかりで額に汗をにじませているけどイパネマさんは微笑んでくれた。
よかった、どうやらもう大丈夫みたいだ。
「さてと、【治療魔法】で何とかなる人は済みましたが、魔怪人になりかけている人はどうしたら良いのでしょうかしらですわ?」
「エルハイミさん、それならあの額に残っている種のようなものを【解除魔法】で取り去って。かなり強力だけど貴女ならできるんじゃないかしら?」
あたしが悩んでいるとイパネマさんがあたしたちに話しかけてくる。
「【解除魔法】ですの? でも何故そんな事を知っているのですの?」
「私もあの怪物にされる所だったのよ。でもその前の人が抵抗に成功してあの種の力が途中で止まったの。それを取り外すのに【解除魔法】を使っているのを見たのよ」
どうやら回復したらしいイパネマさんは再生された腕を動かし確認しながら話して来る。
そうか、この人も危うくあの魔怪人にされる所だったのか。
「わかりましたわ、やってみますわ」
あたしはそう言って【解除魔法】を半分近く魔怪人になりかけている人にかけてみる。
すると見る見るうちに魔怪人になりかけていた部分が人のその姿に戻って行く。
そしてほどなく人の姿に戻り額に付けられていた種のような物はころりと床に落ちる。
シェルはそれを拾い上げしげしげと見ている。
「こんなものであの魔怪人になっちゃうなんて、とんでもないものをジュメルは見つけたわね」
「でもご先祖様はこれは無駄な研究だって言ってましたわ。確かに魔怪人にされた人は既にすべて息絶えているとの事、魔力と生命力を吸い取られ短い間しか魔怪人として存在できないのでは失敗作も良い所ですわ」
あたしはそう言いながら次の人を人の姿に戻そうとする。
しかし半分以上魔怪人になっている人はどんなに魔力を注ぎ込んでも人の姿に戻れなかった。
「やっぱりダメですわ。半分以上魔怪人化している人は元に戻せませんわ」
「エルハイミ、なんかこれって根が張っているように見えるんだけど‥‥‥」
シェルに言われ半分以上魔怪人になっている人の変わり際をよく見ると小さな根っこみたいのが皮膚に食い込んでいる。
それは血肉に食い込みその人の魔力と生命力を今なお吸い出しているようにも見える。
【大樹の皇帝】の劣化版とご先祖様は言っていた。
そうするとあの種自体がやはり植物と同じで‥‥‥
あたしがそんな事を考えていたら目の前のこの人が呻きだした。
「ううぅぅっ‥‥‥」
そして一気に残りの人の部分が魔怪人に変わりその場で呻きながら絶命した。
「こ、これはですわ!?」
「どうやら抵抗しきれなかったみたいだけど既に色々吸われてたみたいね。可哀そうに‥‥‥」
イパネマさんはそう言って視線を外す。
あたしはあと数人いる【解除魔法】が効かない人たちを見る。
するとほとんど同時に同じ事が起こり苦しみながら絶命をした。
「ジュメル! なんて事をするのですわっ!」
あたしはぶつけ様のない怒りを口にする。
相変わらず後味の悪い事をしてくれる。
「エルハイミさん。でもあなたのおかげで確かった命もあるのよ。ありがとう」
イパネマさんはそう言ってあたしに右手を差し出す。
苛立っていたあたしだが感謝をしてくれる人を無下にするほど不作法ではない。
あたしもすぐにイパネマさんの右手を握り返す。
「そう言ってもらえると少し気が楽になりますわ、ありがとうですわ、イパネマさん」
「どういたしまして、エルハイミさん」
ニコリとほほ笑むそれにあたしはドキリとする。
ティアナとは違った大人の魅力。
心なしか良い香りまでする。
あたしは握手をしながらしばし呆然とイパネマさんを見る。
「んんっ、お姉さまっ!」
「え~る~は~い~みぃ~!!」
「へっですわ?」
イオマとシェルがものすごい形相であたしを睨んでいる。
「ほら、終わったらさっさと戻るわよ、エルハイミ!」
「そうですよ、お姉さまにはティアナさんがいるんでしょ!」
あたしはそう言われてシェルとイオマに連れられてこの野戦病院のような所を出ていく。
驚きに瞳をぱちぱちとさせているイパネマさんを残して。
「全く、美人でスタイルの好い人がいるとすぐに鼻の下伸ばすのは変わらないわね!」
「本当ですよ、お姉さまにはティアナさんがいるのでしょう? それなのにすぐに他の人に色目を使う! どうせ使うならあたしに使ってください!!」
「えっ? えっ? ち、違いますわよっ!!」
「「問答無用!」」
あたしの弁明は無視されさんざん文句を言われながらあたしは「緑樹の塔」に引っ張られていくのだった。
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