第367話13-24養生
13-24養生
精霊都市ユグリア。
ここはサージム大陸のほぼ中央にある「迷いの森」の北に隣接する都市。
魔法王ガーベルがエルフと友好を誓いその懸け橋となるべく作り上げた都市。
しかしここにはもう一つの目的がこの共同墓地にあった。
「お前の子供ら、子孫は元気にやっていると聞いている。俺が言うのもなんだが心配せず安らかに眠ってくれ」
そう言ってご先祖様はお墓に献花した。
このお墓はご先祖様とメル長老の子供、ハーフエルフのお墓だと言う。
精霊都市ユグリアのもう一つの役目、哀れなハーフエルフたちが最後に安らかに眠れる場所。
そう、このユグリアは人間からもエルフからも迫害を受けるハーフエルフが最後に眠れるための安息の場所と言う役割もしていた。
なのでこのユグリアには色々な人たちがいる。
人間はもちろん、エルフにドワーフ、リザードマンやホビットなんかもいる。
そして冒険者が多い事もこの街の特徴でもある。
「さてと、墓参りも終わったし飯だ。メル、村に入るといろいろ面倒だからこの街で飯だ。ついでに宿もとろう。ロメ、ナミ、カナル今晩は寝かせねえぞ」
とたんに最古の長老たちが黄色い声を上げる。
「ガーベル様! また儂らの子を作ろうではないか!」
「メル様ばかりずるいのじゃ、今度は儂も欲しいのじゃ」
「いやいや、ロメは回数だけはメル様以上にご寵愛をいただいておる、今度は儂じゃ!」
「何を言う、回数だけで言えばこの儂、カナルが一番少ない! 儂が先じゃぞ!?」
あたしはこめかみに指をあて軽い頭痛を感じていた。
それはティアナも同じようであたしと同じような事をしている。
「ご先祖様、個人の自由と言うのはありますわ。でもお願いですから変な噂だけは立てないでくださいですわ!」
「あん? なんか不都合でも有んのか?」
「「大有りです(わ)!!」」
あたしとティアナの声がきれいにハモる。
ご先祖様はポカーンとしてどうやら理解できていないようだ。
『羽目を外し過ぎてガレントにつながる血筋の者たちが恥をかかない様にしろって言う事よ。ガーベル、あんた一体どれだけあちこちで種まいてんのよ?』
「そりゃあ、いい女がいれば片っ端から声かけてんぞ!」
あたしとティアナはそれを聞いて再度大きなため息と頭痛を感じていた。
「それでご先祖様はこの後どうするのですか? 我がガレントに帰還いたしますか?」
ティアナにしてみれば始祖の国王にもなる人だ。
戻るとなれば今後このご先祖様が王になる事になる。
「あー、それなんだが、ガレントに戻るつもりは無い。俺が天界にいた間にこの世界もだいぶ変わっちまったみたいだしな。もう少しいろいろと見てみたい。それにな、俺みたいのが王をやる必要は今の世界じゃないだろう?」
髭面に笑顔を張り付かせてにかりと笑う。
まあ、確かにこんな人がいまさら戻ってきて「俺が王だ!」なんて言われてもみんな困るだけだしね。
始祖母ライム様とはまた立場も過去の責任も違い過ぎる。
『で、ライムはどうするのよ?』
「なあ、シコよ。ねえさん、いや、ライムは今アガシタ様の所なんだろ? こっちから探すったってあの女神何処ほっつき歩いているかすらわかんねーんだぞ? それにライムはご立腹なんだろう? ほとぼり冷めるまで逃げ回る方が安全だ。シコだってライムが怒った時の事忘れている訳じゃないだろう?」
そう言ってご先祖様は身震いする。
『そ、それはまあ確かにそうなんだけど‥‥‥ だったらあたしはエルハイミたちについて行くわよ? もし万が一ライムに見つかっても自分で何とかしなさいよね、あたしは巻き込まれるのはまっぴらごめんだからね!』
シコちゃんはそう言ってご先祖様にシコちゃんをあたしたちに渡すように言う。
「冷めてぇなぁ。まあいいが、えーと、ティアナとエルハイミだっけ? お前らこれからどうすんだ?」
ご先祖様はシコちゃんをあたしたちに渡しながら聞いてくる。
「それは勿論私は連合軍の将軍としてジュメルある所殲滅に向かいます!」
「私はティアナの妻ですわ。夫に付き添うのが道理と思いますわ」
あたしたち二人にご先祖様は特に興味も無い様に「ふーん」とだけ言った。
そしてしばらくあたしたちを見ていて思い出したかのように言う。
「今見つかっている女神の杖は全部で六本ってところか? エルハイミが見つけたって言うファーナ、フェリス、ノーシィ、それに魔結晶石の研究所に封じておいたディメルモか。あとはホリゾンに預けといたメリル。それと多分北の祠も見つけてるだろうからオクマストの杖も既にそのジュメルってのに渡ってるだろう。そうするとガルザイルの地下迷宮のジュノー、サフェリナの海底神殿のエリル、ホリゾンの最北の山の迷宮のジュリ、そしてガレント西にある赤竜に預けたシェーラの杖か」
あたしたちはご先祖様のその言葉に思わずご先祖様を見る。
「まあ、俺が預けた時の事だからな、変わって無ければ残り四つはそこにあるだろう。すべて試練はあるがエルハイミやティアナなら問題無いだろう。でだな、お前ら女神の杖集めてどうする気だ?」
「それはもちろん、安全な所に保管してジュメルに手出しできない様にします」
「出来れば封印したいほどですわ」
あたしたちがそう言うとご先祖様はうーんと唸っている。
「あれはな、虚無の空間の鍵となるがあんまり一所に集めるなよ? 女神の杖の持つ膨大な魔力がどれかに集まると女神が肉体が再生されるかもしれねーから気を付けろ。それにそこにいる黒龍の化身はまだ幼竜なんだろ? 子供のドラゴンブレスじゃ女神を焼き払えないからな」
え?
女神様が復活する可能性もあるっての?
それに黒龍のドラゴンブレスも成龍じゃないと使えないって。
「それとな、ティアナ。お前さんはあの変な甲冑になる力もう使うなよ? 今だって本当は立っているのも辛いんだろ?」
「なっ!?」
「‥‥‥」
ご先祖様の言葉にあたしは驚くがティアナは何も言わない。
あたしはティアナを見る。
「ティアナ、それは本当ですの?」
「エルハイミ‥‥‥ でもあなたがあの時ボーンズ神父に捕まって私は‥‥‥」
「どちらにしろしばらくは大人しく回復させるこったな、シコ、ティアナが回復するまで面倒見てやってくれよ。んじゃ、俺は行くぞ。しばらくここに居るつもりだから何かあったら頼ってこい。メル、ロメ、ナミ、カナル行くぞ!」
そう言ってご先祖様は街に行ってしまった。
あたしはその後姿を見ていたがもう一度ティアナに向き変える。
「ティアナ‥‥‥」
『まあ、ガーベルの言うとおりね、ティアナは少し休みなさい。エルハイミも襲っちゃだめよ』
「わ、私は襲いませんわ! 何時もティアナが私を‥‥‥////」
『はいはい、ごちそう様。とにかくあなたたちも街に戻って少し養生する事ね』
シコちゃんに言われてあたしたちはユグリアの街に戻る。
そして「緑樹の塔」に向かっているとシェルがこちらにやって来た。
「エルハイミ、ティアナお帰り。ファイナス市長にお願いされてるんだけど【治癒魔法】使える人捜してる。エルハイミ来れる?」
「どうしたと言うのですの?」
「お姉さま、生き残りがいたんですよ! その中に特にケガの酷い人がいて回復魔法じゃ間に合いそうにも無いんですよ」
シェルと一緒に待っていたイオマはどうやら街の救助活動に参加していたようだ。
「わかりましたわ。コク、ティアナをお願いしますわ。わたしはケガ人を見てまいりますわ!」
「はい、お母様。赤お母様は私にお任せください」
あたしはそう言ってコクたちにティアナをお願いしてシェルについて行くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます