第370話13-27質問

 13-27質問



 ティアナは何だかんだ言ってあの呪いをあたしに移したことによりかなり安定をして回復を始めていた。




 「最初からこうすればよかったのですかしら?」


 「エルハイミ、大丈夫なの? そ、その、耐えられるの?」


 呪いの効果で精神が不安定になるのだけど、あたしにはその昔その回避方法を実践してきた経験から意外と何とかなっている。

 転生前は男だったし、処理のしかたは手慣れたものだった。

 まあ、いろいろと大変なのは変わりないけど。



 『エルハイミはずいぶんと素質があるみたいだからティアナは安心して良いと思うわ。それよりどうなの?』


 シコちゃんに言われティアナはふっと軽く笑う。


 「おかげですこぶる快調よ。かなり疲れも取れたし何より呪いに精神を束縛されないってこんなに楽になるとは思いもしなかったわ。ただ、そう思うと今までエルハイミにかなり無理させちゃったわね、ごめん。嫌じゃなかった?」


 「何を言うのですの! むしろもっと欲しいくらいで‥‥‥ んんっ、私は問題無いですわ! 愛するティアナの為ですもの!」



 「エルハイミっ!」

 

 「ティアナっ!!」



 ガシッと抱き合うあたしたち。

 そのまま口づけしようとするとシコちゃんが割って入って来た。



 『はいはいはいっ! もうどっちに呪いが有ろうがなかろうが関係なくいちゃいちゃとっ! そろそろ時間なんじゃないのエルハイミは!?』



 シコちゃんに水を差されたが確かにそろそろ時間だった。

 あたしはこれから師匠とファイナス市長と共にご先祖様、魔法王ガーベルその人に会いに行かなければならなかったのだった。


 あの時は一方的に言い切られさっさと街に行ってしまったご先祖様たち。

 何かあれば頼って来いと言っていたので早速頼らせてもらおう。



 「そう言う訳で、ティアナ行ってまいりますから大人しく待っているのですわよ?」


 「やっぱりあたしも行った方が良いんじゃない?」



 心配そうにあたしを見てくれるティアナ、しかし余計な気苦労は増やしたくない。

 今はまだゆっくりと休んで欲しいのだ。


 「大丈夫ですわ! それよりティアナはちゃんと休んで体を回復してくださいですわ。いい子に待っていたら今晩もご褒美をあげますわよ♡」


 「エ、エルハイミ////」


 ティアナは一瞬で真っ赤になって小さくこくこくと頷く。


 『はいはい、ごちそう様! ほら、エルハイミとっとと行くわよ!!』


 あたしはシコちゃんに言われてティアナの元を後にしたのだった。




 * * * * *



 「ここが魔法王ガーベルがとっている宿ですか‥‥‥」



 師匠がつぶやくように言うその宿はどう見ても安宿の様な気がする。

 もしかしてご先祖様って持ち合わせが無かったのかな?

 いや、でもメル長老も一緒だったんだしなぁ‥‥‥


 「とにかく連絡の有った宿はここで間違いありません。ユカ、エルハイミさんまずは入ってみましょう」


 ファイナス市長にそう言われあたしたちは中に入る。

 そして直感は当たっていた。


 どう見ても安宿で訳ありのカップルや駆け出しの冒険者なんかが一階の食堂でたむろしていた。

 ファイナス市長はわずかに眉をひそめたがそのまま奥のカウンターに行く。


 「失礼、こちらに髭面の中年男性が四人のエルフを連れ込んでいるはずですがどの部屋ですか?」


 するとカウンターの奥で何かの情報誌を読んでいたおっさんが紙面から顔をあげファイナス市長を見て驚く。



 「あ、あんたはユグリアの市長じゃないか? そんな御仁がこんな安宿に? その客は市長に何か悪さしたんですかい?」


 「いえ、その方は私の知り合いで何かあったら尋ねるように言われていたのですよ」



 ファイナス市長はそう言ってほほ笑む。


 エルフの長老と言っても見た目は人間の二十歳くらいの娘。

 この宿の主は頬を軽く赤く染めて鼻の下を伸ばしながらどの部屋か教えてくれた。



 「全く、安宿で問題が起こりやすい訳だな。主はこういった所を使ってはだめだぞ?」


 「私はこういった所は使いませんわ!」



 どう言う意味で言ったかは置いといてあたしは護衛のショーゴさんにそう言われて反論する。


 あ、ちなみに今はソルガさんはロメ長老の折檻を受けていて村で酷い目にあっているらしい。

 あたしはしばし黙祷を捧げる。



 ソルガさん、ご愁傷様です!

 



 「エルハイミ、何をしているのです、早く来なさい」


 師匠にそう言われあたしは慌てて我に返り師匠たちについて三階に上がっていく。

 どうやら三階の大部屋にご先祖様は陣取っている様だ。




 「どうやらここのようですね? んっ?」


 ファイナス市長は扉の前でノックをしようとしてその手を止める。

 そして長い耳をぴくぴくと動かいて途端に真っ赤になる。

 

 「どうしましたファイナス市長? 私が変わりましょうか?」


 そう言ってとびらの横に立った師匠もノックをしようとして固まる。



 ぼっ!



 師匠が真っ赤になって頭から瞬間湯沸かし器の様に湯気を出す!?

 あたしは慌てて師匠の横に行く。

 

 すると部屋の中から声が聞こえてくる。



 ‥‥‥ってぇ////!?



 ええっ?

 今まだ昼間だよ!?

 しかももうすぐお昼だよ!?

 ご先祖様何やっているのっ!?



 「あ、あの師匠、これって‥‥‥」


 「エ、エ、エエ、エルハイミ、こ、こう言う事は、あ、貴女の方がく、詳しいのでしょう? ど、どのタイミングでこ、声をかければ好いのです!? お、終わってからの方が良いのでしょか?」


 既に師匠は両手を顔に当てて体ををくねくねとしながらおろおろしている。

 ファイナス市長も咳払いしたり「きょ、今日は暑いですね」などと言って窓の外に視線を外している。



 あたしは力なくははははと乾いた笑いをして仕方なくノックをする為にドアの前に立つ。


 と、なんか古びたドアのヒビが?

 あたしは何となく吸い込まれるようにそのひびを凝視するとうっすらと室内が見えたような気がした。



 「あら? このヒビ部屋の中が見えそうですわね?」



 「退きなさい、エルハイミ!」

 

 「エルハイミさんちょっと失礼します!」



 あたしがそう言った途端に師匠とファイナス市長がドアにへばりつく。

 そしてしばらくして「あ、あんなに大きなものが!」とか「な、中にぃっ!?」とかつぶやいている。



 「あのぉ~、師匠? ファイナス市長?」



 「エルハイミ、少し静かにしなさい今は忙しいのです!」


 「そうですよ、エルハイミさん。今重要な所なのですから!」




 こらこらこらっ、何が忙しくて重要な所なのよっ!?



 そしてまたまた二人は「うわー、うわー」とか言いながら腰を振って見入っている。

 そのまま放っておくとずっと動きそうにも無いのであたしは二人に辞めさせるべく声をかけようとする。


 『あー、エルハイミ、そんなことしなくてもあたしがやるわよ。流石にいい加減面倒くさくなってきたわ。ガーベル、メル、ロメ、ナミ、カナル! あんたたちいい加減にしなさい! もうじき昼よ!!』


 あたしが何か言おうとする前にシコちゃんが念話で聞こえる人に呼びかける。




 ぴたっ!




 とたんに室内の動きが止まる。

 そしてしばらくバタバタと音がしてこちらに誰か向かってくる音がする。




 どたどたどた


 ばんっ!



 「はぁはぁはぁ、シ、シコちゃんか? 他に誰かおるのか?」



 髪を乱したカナル長老がシーツを胸の辺で結んであられもない姿でドアの側に立っていた。

 師匠とファイナス市長は赤い顔のまま明後日の方を向きながらカナル長老に答える。


 「ほ、本日はお日柄もよろしく~////」


 「カ、カナル様、ま、魔法王ガーベルにお話がありまして~////」


 師匠もファイナス市長も声が上ずっている。



 『まあ、とにかく話が有って来たのよカナル。ガーベルたちは流石に終わったでしょ? 部屋に入っても大丈夫かしら?』



 「シコちゃんよ、もう大丈夫じゃ。カナル中に入れてやるのじゃ」


 奥の方からメル長老の声が聞こえる。

 それを聞いたカナル長老は安堵の息を吐いてあたしたちを部屋の中に招いてくれた。



 * * * 


 

 部屋の中はすごい匂いになっていた。

 甘っとろい女性特有の良い香りと汗のにおいと変な匂いが混じっている空気が漂っている。

 最近のあたしの嗅ぎ慣れた臭いが‥‥‥


 流石にナミ長老が風の精霊を使って部屋の換気を始めたが、部屋の中もいろいろと散らかっていてすごい事になっていた。



 「んで、何の用だシコ、エルハイミ?」



 ご先祖様はそう言ってこの世界では珍しい葉巻に魔法で火をつける。

 腰にシーツを巻き付けたいかにもさっきまで戦闘中でしたと言うような格好で椅子に座っており、まさしくいっぷくのように葉巻を吸っていた。



 『相変わらずね、ガーベル。まさかあれからずっとやってたんじゃないでしょうね?』


 「いいだろ、久しぶりのメルたちなんだからよ。それよりお楽しみの最中に何の用だよ?まさかエルハミも混ざりたいとか言うなよな? 俺は自分の娘に手を出す気はないからな!」


 「誰がその様な事言いましたかですわっ!! 私たちが来たのは残りの『女神の杖』の正確な場所と詳しい情報、それと『狂気の巨人』が封印された場所を聞きに来たのですわ!!」


 それを聞いたご先祖様はポカーンとした表情でシコちゃんに話しかける。


 「あれ? シコ、お前がいればその辺のこと分かるんじゃないか?」


 『あたしは封印するの手伝ってすぐに眠りについたからその後の事は知らないわよ! 結局誰にも起こされる事無く二千年以上も眠る羽目になっちゃったのよ!』


 ご先祖様はシコちゃんに言われ上を向いて「あー‥‥‥ ??」とか言っている。



 大丈夫かこの人? 

 女の事以外頭に入っていないんじゃないだろうな?




 「そう言えばそうだっけ? ああ、思い出した! そうだった、シコが眠っちゃったんであいつらに宝物庫にしまっておくよう言ったんだっけ!!」


 『その後忘れてたってわけね? 全く、ガーベルときたら』


 ご先祖様は「いやー」とか言いながら頭の後ろを掻いている。

 


 「それで早速なのですが、それらについて教えて欲しいのですわ!」


 あたしにそう言われご先祖様は葉巻を灰皿で消しながらあたしを見る。


 「そうか、『女神の杖』を取りに行くか‥‥‥ ならば」


 ご先祖様はそう言ってあたしを見るその眼を鋭くする。




 「腹減ったんで飯食わせてくれ。そしたら飯食いながら話すわ。手持ちが少なくてちょうど困ってたんだよ」




 うぉおぉぃぃいいいぃぃっ!!


 本当に手持ち少なかったの!?


 



 あたしは大きくため息をつくのだった。

 

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