第304話11-15寄り道


 11-14寄り道



 翌日あたしたちはアビィシュ殿下が用意してくれた馬車に乗り込む。



 「エルハイミ殿、本当になんと感謝していいのやら。この恩、末代まで忘れませぬぞ」


 「エルハイミ殿ぉ~くううぅ、私は貴女を忘れられそうにもありませぬ~」


 「げ、元気でいるんだな、エルハイミの嬢ちゃん」



 みんながあたしたちを見送ってくれる。



 そして‥‥‥



 「エルハイミさん、この大きな借りはどうやって返したらいいのかしら?」


 「フィルモさん、あなたは友達に貸し借りだけで動くような人でしたかしら?」


 あたしがそう言うとフィルモさんは優しく笑った。

 そしてもう一度「ありがとう、我が友人よ」とだけ言ってくれた。



 そしてあたしたちは馬車に乗り込む。



 「アビィシュよ、行ってくる。おぬしの書いたこの親書はドドス共和国に必ず渡す」


 「頼むぞオルスター」


 そう言ってあたしたちが乗り込んだ馬車は動き出した。



 * * *



 「全く、人間の乗り物はいつ乗っても遅いでいやがります。これなら竜の姿になって飛んだ方がずっと早いでいやがります」


 「クロエ、控えんか。黒龍様の御前だぞ」


 対面に座るのはシェルとクロさん、クロエさん。

 クロエんはそんな事を言っている。

 あたしの方にはコクとイオマがあたしの両脇に座っている。

 そしてオルスターさんとショーゴさんは外で御者をしている。


 オルスターさんの話だとユエバの町の近くを通りジマの国には入らずそのままドドス共和国に行くらしい。

 大体ドドス共和国の首都まで十日くらいで着くそうな。



 「あ、あのお姉さま‥‥‥」


 イオマがなんか言いにくそうにあたしを呼ぶ。

 もしかして生理現象?


 「イオマ、我慢できないなら構いませんのよ、言ってくださいですわ」


 「違います! もう、お姉さまったら。そうじゃなく、ユエバの町の近くを通りますよね? そしてドドス共和国に向かうならあたしの村がすぐ近くです。それで、ほんの少しで良いので村に立ち寄ってもらえないでしょうか?」


 イオマの故郷の村の近くを通るのか。

 まあそのくらいなら別に構わないかな?


 あたしは承諾してショーゴさんやオルスターさんにそのことをお願いする。



 「ほう、そっちの嬢ちゃんはベムの村の出身者だったか」


 オルスターさんはどうやらイオマの村を知っている様だ。

 通り道のすぐ近くでユエバの町の手前らしい。


 「でも、イオマは故郷に家族はいないと言ってましたわね?」


 「ええ、でも流石に村長に挨拶位していこうかなって。多分もう戻って来る事も無いだろうし」


 ちょっと寂しそうなイオマだったがあたしに抱き着いてくる。


 「その、お姉さま。ティアナさんの後でもいいから私の事捨てないでくださいよ? 私にはもうお姉さましかいないのだから!」

 


 うっ!

 ど、どうしよう‥‥‥

 イオマの事は妹みたいに可愛いけどティアナには何て言ったらいいのだろう?



 あたしは思わず頬に一筋の汗を流す。



 「あー、エロハイミの愛人って事でいいんじゃない? それとも二号さん?」


 「シェ、シェルぅ!!」


 「お姉さま、駄目、ですか‥‥‥」



 今にも泣きそうなイオマ。

 そうじゃないの、そうじゃ!!



 「イ、イオマを捨てるなんて私がする訳無いじゃないですの! イオマは私の大切な……」



 そこまで言ってあたしは思う。

 イオマってあたしの何?



 「そう、妹ですわ! 妹!!」


 「妹ですか‥‥‥ はい、それでも良いです。お姉さまがあたしの事捨てなければ!」


 しかしシェルはジト目であたしたちを見ている。

 

 「妹ねぇ~ 見た目はどう見ても同世代? いや、今やイオマの方が育ってお姉さんぽくなっているわよね?」


 確かに最近はイオマの方があたしより身長が伸びた。

 始めて会った頃の可愛らしさより最近は女性としての美しさが出始めている。

 ショートカットだった癖のある栗色の髪の毛も今や背中まで伸びていてゆるいウェーブになっている。

 顔だちも幼さがなくなってきて凛々しい感じであたし好みだ。

 そして胸だってあたしのマッサージのおかげであたし並かそれ以上に育ってしまった。

 イオマももう十六歳になる。


 「主様、見た目で判断する必要はありません。私だって主様がご所望とあらばいつでも夜伽をいたしますよ?」


 「コクっ! いつの間にそんな言葉覚えたのですの!? だめですわ! コク、そんな事を覚えるのはまだコクには早すぎますわ!!」


 シェルは更にジト目であたしを見る。


 「全くこのエロハイミは。誰でも彼でも毒牙にかけるのだから‥‥‥ 少しはあたしも構って欲しいものよ」


 「はいっ? シェ、シェル!? 今なんて言いましたのですわ!?」


 「なんでもない! このエロハイミ!!」


 シェルはそう言ってするりと器用に窓から抜け出しショーゴさんたちの所へ行ってしまった。

 そんな一連を見ながら今度はクロエさんがジト目になる。

 

 「流石主様、本当に誰でも彼でも毒牙にかけやがります。私だってたまにはお尻をして欲しいのにでいやがります‥‥‥」



 クロエさんまで何言ってんのよっ!!



 「はぁ、やっぱりこれがお姉さまですよね~」


 イオマがあきれてそう言う。


 「わ、私はいたって健全なのですわぁ!!」


 あたしの空しい叫びだけがこだました。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 三日後、あたしたちはイオマの故郷であるベムの村に着いていた。



 「ここがあたしの家です! 汚い所ですけど、どうぞ!」

 

 そう言ってあたしたちにを部屋の中に案内する。

 イオマの家は師匠だという人の家で身寄りのないイオマはここでその師匠と言う人に育てられたらしい。

 召喚士としてそこそこ有名な人だったらしく、部屋の中には魔術書とか召喚の儀式に使う道具が積み上げられていた。


 イオマは埃をかぶったそれらを軽く払い、一枚の置手紙に気付く。



 『イオマよ、村長から聞いた。私の留守の間に冒険者として旅立ったようだな。お前の人生だ好きにするがいい。私もまた用事が出来た。もしこの手紙を見たのなら私の事は気にせず自由に生きるがいい。そしていつでもこの家は自由に使っていい。願わくばお前の人生に幸あれ。』



 「全く、師匠らしいですね。 そうかぁ、あの後ここへ戻って来てたんだ」


 イオマは手紙を読み終わりそんな事をつぶやいていた。

 そして置手紙を書く。



 『師匠、私は元気にやっています。今は私の思い人、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンお姉さまと共に行動しています。お姉さまは私とずっと一緒にいてくれると言ってくれています。私は幸せです。だから心配しないでください。もうここに戻って来る事は無いと思うけど、師匠もお体に気を付けてお元気で』


     

 そう書き終わり同じ所にその手紙を置く。

 そして奥の方に行って何やらがさがさと探しものをしていたようだがしばらくして戻ってきた。


 「ありました。これだけは持ってこうと思ってたんですよ、私が拾われた時に唯一身につけていたらしいペンダントです」


 それは奇麗な青い石に何やら赤い文様が書き込まれていた。



 えーと、なんだっけ?

 なんかどこかで見た事が有るような紋章だけど‥‥‥



 イオマはそれを首にかけ胸元にしまい込んだ。

 見事に谷間が出来たイオマの胸にあたしはついつい目が離せなくなってしまった。



 「お姉さま、そんなに見つめていなくても良いんですよ、触っても」


 あたしの視線に気づいたイオマがほほを染めながらにじり寄ってくる。


 しまった、やっちまった!


 なるべく気を付けていたのにあたしってやつわぁ!!

 ああ、でも最近のイオマは美味しそうでぇ‥‥‥


 

 「んんっ、イオマ、あまり主様を困らせるのではありません!」



 コクが間に入ってイオマを制する。


 ナイスよ、コク!

 危うくイオマを襲いそうになるあたしもコクのおかげで正気に戻った。 


 「もう、コクちゃんのいけずぅ、もうちょっとでお姉さまがその気になりそうだったのにぃ」


 「いいからとっととその村長とやらに挨拶に行きなさい。ぐずぐずしていると置いて行きますよ!」


 腕組みしているコクはぷんすか怒っている。


 ふう、危なかった。

 やっぱりあたしって欲求不満なのかなぁ?



 * * *



 その後イオマは村長に挨拶をして物見で出てきた村人たちを驚かせた。



 「ふふふふっ、みんなあたしの胸を見なさい! 『育乳の魔女』と名高いお姉さまに大きくしてもらったのよ!もう『貧乳のイオマ』じゃないわ!」


 「な、なんだよイオマ、いきなり帰ってきたと思ったらそんなの詰めんのかなんかだろ! 俺が触って確かめてやる!」


 「このどあほうぅ!!!!」



 知り合いの男の子の頭を杖で思い切り叩くイオマ。

 とたんにみんなが笑う。



 「もう行くのか、イオマ?」


 「はい、村長。お世話になりました。多分もう戻って来る事は無いと思いますけど、皆さんもお元気で」



 イオマはそう言って挨拶を済ませあたしたちの馬車に乗りこむ。

 そして馬車が動き出すのだけど村の人たちはずっとあたしたちを見送ってくれていた。



 「いい人たちですわね、イオマ」


 「はい、そうですけどやっぱり『貧乳のイオマ』の汚名だけは返上したかったのでこれですっきりしました!」



 本当にそれだけかなと思ってしまうあたしだったけどこれ以上言うのはよそう。

 

 



 ちょっとした寄り道だったけどあたしたちの馬車はドドス共和国に向けて揺れ動くのであった。

        

 

  

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