第305話11-16ドドスの国へ
11-16ドドスの国へ
「やっと着いたかぁ~ いくら良い馬車とは言え流石にずっと座っているとお尻が痛くなるわね!」
シェルはそう言って馬車の上にひょいっと登って行った。
窓からその先を見ればドドス共和国首都ガンベルが見えてきた。
ここもイージム大陸ではおなじみの強固な城壁に囲まれている。
実際にここに来るまでにあたしたちも何度か魔獣などに襲われた。
勿論サクッと始末して晩御飯になったりもしていたけど、やっぱりこのイージム大陸って魔獣とかが多い。
イージム大陸は国境に砦を築く事は少ない。
実際にそんな事をしているほど余裕が無いと言うのがどの国も実情で町や村ごとにも大小はあれ城壁が出来上がっているのが普通だ。
だからあたしたちもここまで特に検問やら何やらは全くなくドドス共和国の首都ガンベルにまでたどり着いたのだった。
流石に首都だけあってこの街の城壁は大きい。
道筋の先にある城門付近で行商人や近郊の者たちが検問を受けていた。
あたしたちの馬車はその行列の後ろに並び順番を待った。
「なんで親書があるのにすぐに入れないのよ?」
シェルが文句を言っているが流石に首都に入るのに顔パスになる事は無い。
あたしたちの順番が来てオルスターさんはフィルモさんが持っていた紋章を見せながら親書も掲げて見せる。
「イザンカ王国のアビィシュ殿下からの親書を持ってきた。通してもらいたい」
オルスターさんがそう言って衛兵に話をする。
衛兵の人たちは紋章を確認して親書の封印の蝋を責任者らしいものが確認する。
「確かにイザンカ王国の紋章とアビィシュ殿下の蝋印だな。しかしだいぶ大所帯のようだが他に誰が乗っているんだ?」
「ああ、この中には『育乳の魔女』が乗っておるわ」
そのオルスターさんの一言を聞いた周りの人たちは一斉に自分の胸を手で押さえてこの馬車から数歩引き下がる。
そしてその衛兵は怯えながらオルスターさんに聞くのだった。
「ほ、本物か!? そんな危険なモンこの街に入れて大丈夫なのか!?」
なにそれっ!
あたしは危険物か!?
それになんで『育乳の魔女』で全てが通る!?
そもそもオルスターさんもなんて紹介の仕方するのよ!!
「なに、大丈夫じゃよ。噂どうり娘っ子の胸は大きく出来るが誰それと見境に無しに大きくする事は無いぞ。それより通ってもいいかの?」
「あ、ああ、分かった。通って良いぞ‥‥‥」
なんか一歩も二歩もこの馬車から遠退きながら衛兵たちはあたしたちの馬車を通してくれる。
あたしはにこやかな笑顔を顔に張り付けながら窓の外を見ているけどしっかりと頭にはおこのマークが張り付いている。
通り過ぎる瞬間衛兵たちはあたしの笑顔をぽ~っと見ていたけど通り過ぎたとたんに自分の胸を確かめるってどう言う事よっ!?
シェルはケタケタ笑っている。
覚えてなさいよ、シェル。
あたしはそう心の中で毒づくのだった。
* * * * *
馬車はそのまま街の中心にある城へと向かった。
オルスターさんはイザンカの親書を持ち込む使者でもある。
城門まで行き先ほどと同じように衛兵に恐れられながらあたしたちはお城についた。
「いつまで笑っているのですの、シェル。そろそろ行きますわよ!」
「だ、だってぇ、みんなエルハイミの事ですごい驚いた顔してからみ~んな胸隠すんだもん。これが笑わずにいられて?」
涙目交じりで本気で笑っているシェルを無視してあたしたちは馬車を降りた。
「イザンカ王国のアビィシュ殿下からの親書ですと? 失礼、拝見させていただけますかな?」
あたしたちを出迎えた高官っぽい人はそう言ってオルスターさんに話しかけた。
「ああ、かまわんよ。これがそうじゃ」
そう言ってオルスターさんは親書を渡す。
高官っぽい人は蝋印を確かめ「確かに」とだけ言って今度はあたしたちを見る。
「あなたが高名な『育乳の魔女』ですか?」
「失礼、私の名はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンですわ。そのような魔女と呼ばれる覚えはございませんですわ」
極上の笑顔におこのマークを頭に張り付け目の辺にシャドーをかけてあたしは言う。
その高官はあたしの不機嫌さを察したのか、慌てて数歩下がり取り繕う。
「し、失礼した。何分正式なお名前を知らなかったもので。非礼を詫びます、ですので私の胸は大きくしないでくださいっ!!」
後ろの方は悲鳴っぽくなっている。
全くどいつもこいつも!!
ケタケタ笑うシェルをキッと睨んでからあたしたちはオルスターさんと一緒にこの高官について行き建物に入る。
応接間に通されしばしここで待つよう言われる。
「オルスターよ、そう言えばドワーフの王は元気でいるのですか?」
「ん? 黒龍の嬢ちゃんはデミグラス王をご存じかな?」
「以前一度だけ会った事があります。この体になる前、確か二百年くらい前だったと思います」
そう言えばドワーフ族もエルフ族ほどではないけど長寿だったっけ。
しかし二百年か、人間の感覚とは全く違うわね。
「ああ、きっと元気にしておるじゃろう。そうか、二百年前か‥‥‥」
オルスターさんは少し苦虫をかみつぶしたような表情をした。
そんな事を話していたら応接間の扉がノックされる。
そして初老の見るからに大臣っぽい人が入ってきた。
「失礼、私はドドス共和国の国務総大臣を務めるドズラーと申します。イザンカ王国第一王子アビィシュ殿下からの親書とのことですが、ギゲン陛下は本日不在でして」
「そうか、ではお前さんにこれは渡そう。確かに渡した。ドドスとの友好の証、『赤き槌』にかけて儂の役目は終わった」
オルスターさんがそう言うとドズラー大臣はうやうやしく頭を下げ「友の誓いに感謝をします」と言って親書を受け取った。
「さて、エルハイミの嬢ちゃん、儂の仕事は終わった。すぐにでもドワーフの国に行くかの?」
「そうですわね、でも街で少し買い物をしてからでもよろしいでしょうかしら?」
あたしがオルスターさんにそう答えているとドズラーさんはあたしに向かって話しかけてくる。
「失礼、こちらの美しいお嬢さんはどなたですかな?」
「あら、これは失礼いたしましたわ。私はガレントが天秤の女神に祝福されしティアナ姫の伴侶、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますですわ」
あたしはそう言って宮廷式あいさつをする。
「なんと、あなたがあの‥‥‥魔女と呼ばれるお方か!? 想像していた方とは全く違う可憐さですな!」
おいこら、どんな想像だ!?
あたしはそれでも事をややこしくしたくないので笑顔を張り付け見えない様におこのマークは後頭部だけに張り付けた。
「これは女神のお導きやもしれません。エルハイミ殿、もしよろしければ私共の話を聞いてはいただけないでしょうか?」
いきなりそんな事を言い始めるドズラーさん。
一体何なんだろう?
あたしがそんな事を思っていたら応接の扉が荒々しく開かれた。
「ドズラー大臣、いい加減に魔法使いを探し出して来てくれ! でなければいくら俺でも対処できないぞ!」
そんな事を言いながら入ってきたのは年の頃四十くらいのなかなか渋い精悍なおっさんだった。
ちょっと失礼ね、今はあたしたちと話をしているっていうのに。
「おお、 ドゥーハン殿、ちょうど良い。今高名な魔術師であるこちらのお嬢さんと話をしていた所だ」
「あん、お嬢さんだと‥‥‥ って、ユ、ユリシアぁ!?」
そのおっさんはあたしの顔を見て驚いたのだった。
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