第296話11-7ブルーゲイル帰還
11-7ブルーゲイル帰還
「よくぞ無事で戻って来てくれた!」
ブルーゲイルに戻るとアビィシュ殿下が迎えてくれた。
「ご心配をおかけしました、アビィシュ様。エルハイミ殿のおかげで無事戻る事が出来ました」
ジニオさんたちはアビィシュ殿下に膝まずき深々と頭を下げていた。
そしてアビィシュ殿下はあたしたちの方を見る。
「エルハイミ殿、何とお礼を言ったらいいものやら。よく無事にジニオたちを連れ戻してくました。。感謝します」
そう言ってあたしに頭を下げる。
あたしは慌ててアビィシュ殿下に頭をあげてもらう。
「およしくださいですわ、アビィシュ殿下。王族の者が私になどそうやすやすと頭を下げてはいけませんわ」
ただのスケベオヤジだろうけどこう言う所は実直さを感じる。
何とか頭をあげてもらってあたしはアビィシュ殿下に話始める。
「今回あちらにはジュリ教だけでなく秘密結社ジュメルの神父や幹部が動いていますわ。特に『女神の杖』を持ったカルラ神父は脅威ですわ、私も微力ながらお手伝いをいたしますわ」
あたしがそう言うとアビィシュ殿下は心底嬉しそうにまた感謝すると言って頭を下げてくれる。
「エルハイミ殿が我が方に加担していただければ勝ったも同然です、アビィシュ様!」
「ジニオ、それよりイルゲットとの接触は出来たのか?」
ジニオさんはあたしをちらっと見てからアビィシュ殿下を見る。
「かまわん、エルハイミ殿にはむしろ聞いてもらった方が良いかもしれん」
「わかりました。では」
そう言ってジニオさんはレッドゲイルでのことを話し始めた。
もともと兄王子であるアビィシュ殿下と弟王子であるイルゲットさんとやらは仲が悪い訳では無かった。
むしろ仲のいい兄弟と言っても良い。
しかしジェリーンが現れた頃よりその中が悪くなり始めたのはあたしも聞いている。
「イルゲット様は別人の様になっていました。ただ、私の顔を見た時には嬉しそうに涙を流され昔話を延々としておりました。しかし次期国王の話になると人が変わったかのように強硬な発言ばかりで、私共の話など全く聞くおつもりは無いようでした」
なに?
別人の様になっていただって?
「ジェリーン殿はいたのか?」
「いえ、代わりに怪しい魔導士たちが控えておりました。それとジュリ教の神父もいました」
ぴくっ
あたしはそのジュリ教の神父で思わず反応してしまった。
「完全にジュリ教やそのジュメルとかに入られています。私たちがイルゲット様と接触した後に結局ジュリ教の連中に拘束されてしまいました」
「アビィシュ殿下、よろしいですかですわ」
「どうしました、エルハイミ殿?」
あたしはホリゾン帝国の現状を話し始めた。
ホリゾンはもともとジュリ教を国教としていていち早くジュメルに入り込まれていた。
そして皇帝ゾルビオンその人も早期からジュメルに操られ洗脳されているとのことだ。
先ほどの話ではそのイルゲットさんとやらの傍らにも多分あの神父、カルラ神父がいたのだろう。
となれば既に洗脳されているのかもしれない。
そうなれば「別人の様」になっているのも頷ける。
あたしのその説明にアビィシュ殿下は唸っていた。
「確かに、エルハイミ殿の言う通りかもしれない。昔話をされている時のイルゲット様は昔と同じお優しい目をなさっていた‥‥‥」
ジニオさんもそう言って腕を組んでうなっていた。
「しかし、そうするとますますジュリ教とジュメルから弟を引き離さない限りこの内乱は収まらない。話し合いでどうこう出来ないという事ですな、エルハイミ殿?」
あたしは下唇を噛んでから答える。
「そうですわね、そうなってしまいますわ」
ホリゾンの時の事も考えてみると操られている人間をにどうこう話してもらちがいかないだろう。
でもジニオさんに会った時には昔話をしていたって事は‥‥‥
「可能性は低いかもしれませんが、まだ完全に洗脳されていないのならば取り返せれば元に戻るやもしれませんわ」
憶測だがその可能性は否定できない。
そんな事をあたしたちが話している時だった。
一人の使いの者がこの部屋に飛び込んできた。
「お話し中申し訳ございません! 陛下が、陛下のご容態がよろしくありません、アビィシュ様お急ぎください!」
その使いの者の言葉にアビィシュ殿下たちは顔を見合わせ慌てて部屋を出る。
「フィルモさん!」
「エルハイミさん、あなたもついてきて!」
そう言ってあたしたちも後をついて行くのだった。
* * * * *
イザンカ王国の現王、ビルゲシュト=エルグ・ミオ・ド・イザンカその人は天蓋付きのベッドに深く深く横たわっていた。
苦しそうにヒューヒュー息をしている。
「父上!」
アビィシュ殿下は陛下のすぐそばに行く。
うっすらと目を開く陛下。
「アビィシュか‥‥‥ 残念‥‥‥ だが、ここまで‥‥‥のようじゃ‥‥‥」
そう言って最後の力を振り絞り手を伸ばす。
アビィシュ殿下はすぐにその手を取る。
「父上、何を言います! お気を、お気を確かに!!」
ここには殿下含めその家臣や大臣のような人までいる。
そんな中部外者であるあたしたちも入れてもらってるわけだが、あたしの爺様の時と同様で魔法でこれ以上どうにもできないのは知っている。
フィルモさんはもしかしたらあたしにそれでも漠然と期待して連れてきたのかもしれない。
「後を‥‥‥ 後を頼む‥‥‥ 」
「父上!」
「陛下!」
「ビルゲシュト陛下!」
その一言を最後にビルゲシュト陛下は息を引き取った。
一斉にこの部屋に嗚咽や悲しみの声が響く。
やっぱり人が死ぬのは嫌なものだ。
何度こういった事を経験しても慣れるものではない。
「泣くなアビィシュ! 貴様の父、わが友ビルゲシュトは立派な王だった! その息子がいつまでもめそめそ泣くな! 立て。 そして次はお前が王となれ!」
ドワーフのオルスターさんは地響きのような大声でアビィシュ殿下を叱責する。
この場にいる全員が驚くが誰もそれをとがめない。
「オルスター殿‥‥‥」
アビィシュ殿下はオルスターさんを見る。
エルフほどではないがドワーフ族も人間から比べると十分に長寿の種族だ。
きっとこのオルスターさんもイザンカ王家とのつながりは深いのだろう。
厳しい表情にも優しい、慈愛に満ちた眼差しでアビィシュ殿下を見ている。
「アビィシュよ、やはりお前が王に成れ。そしてこの内戦を終わらせろ。胸を張れ、貴様の父の背を思い出せ」
その言葉にアビィシュ殿下の瞳に力が戻ってきた。
「オルスター殿、すまん。父上よ、このイザンカは私が守る。見ていてくれ!」
そう言って陛下の亡骸の手を胸の上で組ませてやって黙とうをする。
ここに居る他の人も同様に黙とうをささげる。
あたしたちもそれに倣い、同様に黙とうをささげる。
「アビィシュ様、私たちもお供いたします!」
黙とうをささげ終わってフィルモさんはそう言ってアビィシュ殿下の足元に膝まづく。
それを見たジニオさんやロングネマスさん、そしてオルスターさんも膝をつく。
そしてこの場にいるあたしたち以外の物が全員が同じく膝をついた。
「アビィシュ様」
「フィルモ、助かる。皆の者、私は王になる。この内戦を終わらせるぞ!」
おおっ―!!
歓声が上がる。
「エルハイミ殿、改めてお願いしますぞ、手を貸してもらえないだろうか?」
今度はただのスケベオヤジではない。
その瞳に硬い意志を宿したまっすぐな瞳をあたしは受け止める。
「いいですわ、私の力をお貸ししますわ!」
ここに居るものがまたまた歓声を上げる。
そしてあたしを称えるのだが‥‥‥
「おおっ! あの『育乳の魔女』様が手を貸してくれる!」
「アビィシュ様の胸を大きくするのだけはご勘弁を!」
おいこら、なんでそこでその名を出す!!
「髭面に巨乳だけはご勘弁を!!」
「私のならもっと大きくしてくれても構わないのよ!」
フィルモさんまでどさくさに紛れて何言っているのよ!?
「もう、その呼び名は止めて―っですわ!!」
久々にあたしの悲鳴がこだましたのだった
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