第295話11-6ジニオ奪還
11-6ジニオ奪還
「ジニオたちは役所の牢獄にいるらしいわ」
フィルモさんがそう言う。
あたしたちは既に貴族の屋敷を抜け行政府の役所まで来ていた。
「フィルモさん、その牢獄の場所って大体わかりますの?」
「ええ、確か北側の地下よ。前に罪人に確認することが有って行ってことがあるの」
フィルモさんはそう言ってその方向を指さす。
あたしはシェルに聞く。
「シェル、土の精霊で穴を掘って牢獄まで行けまして?」
「人工物はだめね。地面がむき出しなら壁までは掘れるわ」
それを聞いたあたしはみんなに向かって指示をする。
「ショーゴさん、オルスターさんは一緒に来てくださいですわ。シェルが地下牢の壁まで穴を掘ってくれますわ。そうしたらその壁を壊しジニオさんたちを救出しますわ。フィルモさんとシェル、イオマ、コクはここで待っていてくださいですわ。穴から私たちが抜けだしたらすぐに穴を埋める等の援護をお願いしますわ」
そう言ってあたしたちは政府の役所の敷地に忍び込みシェルに穴を掘ってもらってもぐりこんで行く。
石造りの壁はそう簡単には壊せそうにもないがショーゴさんがなぎなたソードを引き抜いて一閃する。
「ふんっ!」
なぎなたソードで切られた壁は面白いようにバラバラになりその場で崩れた。
「見事な刀だな。石をこれほどに奇麗に切るとは。それは魔剣か何か?」
オルスターさんは興味深そうにショーゴさんのなぎなたソードを見る。
やっぱりドワーフだからこういうのにも興味があるのかな?
「話は後だ。オルスター殿、ジニオ殿はいるのか?」
見ると牢獄につながれている囚人が数名。
あたしたちのいきなりの登場に驚いている様だ。
「いや、いないな。他の牢か?」
それを聞いたショーゴさんはまたなぎなたソードで鉄格子をあっさりと切る。
そして通路に出て衛兵が声をあげる前に短剣を投げて始末する。
「おった! おい、ジニオ、ロングネマス大丈夫か!?」
大きな戦斧で鍵を壊しオルスターさんはジニオさんと思しき人を呼ぶ。
「んあぁ? お、オルスター!? オルスターか?」
「おー、オルスターなんだな」
眠っていたのかジニオさんはあくびをしながら起き上がった。
うーん、確かに面影はあるな、でも今は見事におっさんね。
もう一人のロングネマスさんと言う人も起きているのか寝ているのか分からない表情。
確か昔もそんな感じだった。
「何を寝ぼけてるんじゃ、助けに来た。ここから抜け出すぞ!」
オルスターさんはジニオさんの胸ぐら掴んで引っ張り出す。
ロングネマスさんも同様に。
「とっとっと、もう少し丁寧に扱えよ。 ん? こっ、このお嬢さんは誰だ!?」
ジニオさんはあたしの顔を見るなり飛びつかんばかりに寄ってきた。
「ガレントのエルハイミですわ。お久しぶりですわね。でも今は一刻を争います、早く脱出を」
あたしは解除の魔法を使って牢獄を全て開く。
「あなたたちもあとは自分で頑張ってくださいですわ。さあジニオさんこちらにですわ!」
あたしたちは最初の牢獄に戻り壁からトンネルに入って行き地上に出る。
何人かあたしたちについて来るけどそれは無視。
そのままシェルたちに合流する。
「あれ、囚人よね? 穴埋めちゃっていいの?」
「仕方ないですわ、放っておきましょうですわ。それより私たちは先ほどの抜け穴へ逃げますわよ!」
シェルの出迎えにあたしはざっと答えてから走り出す。
「ジニオ、無事ね? ロングネマスも大丈夫?」
「ああ、すまん。大丈夫だ!」
「助かったんだなー」
「いいからキリキリと走らんかい!」
後ろから四人の声が聞こえる。
問題無い様だ。
「コク、クロさんたちに陽動をしてもらってですわ!」
「わかりました、主様!」
コクはすぐにクロさんやクロエさんに念話を飛ばす。
貴族の館を過ぎ、巡回している聖騎士団の騎士をショーゴさんがなぎ倒しあたしたちは雑貨市場の抜け穴に向かう。
雑貨市場に着いた頃に城壁の門のあたりで騒ぎが起こっていた。
壁の向こうで炎が上がっている。
聖騎士団らしき連中も門の方へと集まっていく。
その騒ぎに乗じてあたしたちはあっさりと抜け穴に辿り着き壁の外まで逃げ切った。
そして近くの林に隠してあった馬車にまでたどり着く。
ショーゴさんはさっそく馬車を操りブルーゲイルに向かって走り出す。
少しレッドゲイルの城壁から離れると城門の近くで二体の黒い竜がドラゴンブレスを吐きながら城門を攻撃している。
聖騎士団や魔法使い、投石機や弓矢隊が総戦力で対応している様だが全く歯が立っていない。
「クロ、クロエもう充分です、戻りなさい!」
コクがそちらに向かって叫ぶと二体の竜は大きく咆哮をあげてから飛び去って行った。
あたしたちの馬車は止まることなくブルーゲイルに向かう。
* * *
「エルハイミさん、ありがとう。本当に助かったわ」
フィルモさんがあたしの手を取ってお礼を言ってくれる。
「フィルモ、こちらの美しいお嬢さんは一体誰なんだ?」
お礼を言っている横からジニオさんが割り込んでくる。
フィルモさんはあきれた顔をしてあたしを紹介する。
「ボヘーミャに留学していた時に一緒に留学していたガレント王国のエルハイミさんよ。無詠唱で魔法を使える子がいたでしょ、二人も。その片方の子よ。感謝なさいね、あなたを助けてくれた命の恩人なんだから」
「なんと、そうだったのか! エルハイミさん、私はジニオ=グレイ・シドニアと申します。結婚してください!!」
ジニオさんはあたしの手を取っていきなり求婚してきた!?
「は、はぁっ!? ちょ、ちょっと、ジニオさん何をいきなり言い出すのですわ!?」
「駄目です! 主様は私のです!」
「お姉さまに近づかないでください!!」
コクとイオマにあたしはジニオさんから引きはがされ二人に抱きしめられられる。
「ジニオ、いい加減にせんか。すまんのぉエルハイミ殿。この色ボケが迷惑をかける」
オルスターさんから首根っこを掴まれジニオさんは引きはがされる。
「いたたっ、放せオルスター! 俺は今人生最大の試練に立ち向かっているんだ! エルハイミさん、どうか私と結婚してください!!」
「ああ、大魔導士杯の時のお嬢ちゃんなんだなー」
ロングネマスさんはポンと手を打ちあたしを見る。
「ひさしぶりなんだなー、元気だったのかなだなー?」
「ええ、お久しぶりですわ。元気でいましてよ」
この人相変わらずぼーっとしていてよく分からない人だ。
フィルモさんはそんなあたしたちを見て軽くため息をつく。
「全く、人の心配も知らないで。でもこれでまたアビィシュ様のお手伝いが出来るわね。エルハイミさん、本当にありがとう。このお礼は必ずするわ」
フィルモさんはそう言ってあたしに手を差し出す。
あたしはにっこりと笑ってその手を握り返し握手する。
「でもまだまだジュメルの連中にやられたままですわ。引き続き協力させてもらいますですわ!」
あたしがそう言うとフィルモさんは嬉しそうに頷く。
見ると地平線が明るくなってきた。
もうすぐ夜が明ける。
空には二体の黒い竜が飛んでいる。
クロさんたちがあたしたちを見つけた様だ。
あたしたちの馬車はブルーゲイルへと戻って行くのだった。
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