第292話11-3ジュリ教聖騎士団

 11-3ジュリ教聖騎士団



 「そうか、エルハイミ殿だったか。ずいぶんと美しくなられたな、見違えたぞ」



 オルスターさんはそう言ってがははははっと笑った。

 そして髭をさすりながらアビィシュ殿下を見る。


 「それでアビィシュよ、ジニオたちをどうする? 儂はもう一度レッドゲイルに行くぞ。ジニオたちを助け出す」


 「待って、オルスター。あなた一人じゃ無理よ。あたしも行くわ!」


 フィルモさんがそう言って名乗り出た。

 しかしアビィシュ殿下は重々しい口調で言う。


 「待てオルスター、フィルモ。今お前たちまで失ったら我々はあの聖騎士団に対抗する術が完全に無くなる。ジニオたちの事は諦めてくれ」


 断腸の思いなのだろう、言葉とは裏腹にその表情は本心がにじみ出ていた。



 「でも、アビィシュ様!」



 そんなアビィシュ殿下の気持ちも分かってかフィルモさんはその名を呼ぶ。





 「あー、また休めないなぁ~ ほら、エルハイミ、出番よ」


 シェルはあたしの背を押しながらそう言う。


 「全く人を何だと思っているのですの? まあ、仕方ありませんわよ。知り合いを見捨てるわけにはいきませんわ」


 「そう言うだろうと思ったぞ、我が主よ」


 「出番ですね、主様?」


 「お姉さまらしいですね。でも、もしかしてフィルモさん狙いだから!?」


 「主様は誰にでも手を出しやがりますからね」


 「主様がお決めになるなら私は何も意見はございませんぞ」


 あたしがそう言うとみんなも既にその気になってくれている。

 あたしは改めてアビィシュ殿下の前に歩み出る。



 「アビィシュ殿下、聖騎士団は私たちにお任せくださいですわ。フィルモさん、その隙にジニオさんたちを救出できますわよね?」



 「エルハイミ殿‥‥‥」


 アビィシュ殿下はあたしたちを見る。

 

 「エルハイミさん、いいの?」

 

 「あの野蛮な連中を野放しなんて出来ませんわ。それにジェリーンがいるとなればもしかして‥‥‥」


 あたしはあの神父を思い出す、そう、ヨハネス神父を。


 「フィルモさん、ジェリーンの近くにイケメンの、ジュリ教の神父はいませんでしたの? 非常に人当たりが好い神父ですわ」


 フィルモさんはしばし考えて「いいえ」とだけ言った。

 するとヨハネス神父はいないのか?

 でも、もう一人見たあの神父も関わっているかもしれない。



 「とにかく急ぎましょうですわ!」



 あたしはそう言ってフィルモさんと回復したばかりのオルスターさんと共に動き出すのであった。



 ◇ ◇ ◇ 



 レッドゲイル。


 そこはブルーゲイルと対を成すイザンカの大都市。

 古代魔法王国時代からあるブルーゲイルの人口が増え、それに伴い新たに作り上げられた大都市である。

 ブルーゲイルから馬車でおよそ二日間。

 あたしたちはレッドゲイルが見渡せる丘の上にいた。



 「聖騎士団は全部で約一万おった。わしらが潜入した時は大使を追った部隊とユエバの町を落とす部隊が出払っておったから残りは大体三千くらいかの?」


 「それだけですか、ドワーフ? ならばあたし一人で十分でいやがります」


 クロエさんは指をぽきぽき鳴らしてにっと笑う。

 迷宮から出てこっちクロエさんはこういった荒事が大好きなようだ。


 「しかし、だからと言ってお前さん一人じゃ流石にきついじゃろ? 儂もそっちを当たるからフィルモについて行ってやってもらえんかの、エルハイミ殿よ」


 「いえ、この際ですわ、邪魔な聖騎士団を一掃してしまいましょうですわ! シェル、ショーゴさん、イオマ、コク、クロさんクロエさん良いですわね?」


 あたしはみんなに言う。

 勿論みんなは頷いてくれる。


 「しかし‥‥‥」


 「オルスター、大丈夫。エルハイミさんたちは本当に強いわ。私たちはジニオを」


 そう言ってフィルモさんは動き出す。

 それにオルスターさんもついて行く。




 さて。



 「派手に参りますわよ!」


 あたしはそう言ってレッドゲイルの城門付近に【流星召喚】メテオストライクを落とす!


 とたんに城壁辺りの衛兵が騒ぎ出す。

 あたしは次いで【炎の矢】を数百本生み出し威嚇するかのように城壁の衛兵近く、もしくは詰め所らしきところに打ち込む。



 しゅぼぼぼぼぼっぼっ!!



 奇襲を食らった城壁辺りは更に大騒ぎをしている様だ。

 そしてどうやら守備の聖騎士団がこちらに出始めたようだ。


 城門が開き、あたしたち方に聖騎士団が現れ編隊を組んできた。

 しかしすぐには突っ込んでこない?



 「どうやらこちらが何者であるか分かったようですね?」



 コクがその様子を見ながらそう言う。

 流石にいきなり奇襲をかけてきたのがあたしたち七人なのに気付いたのだろう、かなり用心している。



 それでは。



 あたしは衝撃波にあたしの声を拡声させて解放つ。



 『我が名はエルハイミ! アビィシュ王子に義を見出し助太刀する! 汝ら聖騎士団よ、この国から立ち去れ! 立ち去らぬならば手加減はせぬぞ!』



 あたしの声が聖騎士団に届いたようだ。

 奇麗に組まれていた隊列が乱れ始めた。

 城門に逃げ込む者、剣を抜いて号令をかけるも誰も動かないようである。



 よし、もう少し脅してみるか。



 あたしは魔力を集中して【雷龍逆鱗】の魔法を発動させる。

 聖騎士団の頭上にいきなり巨大な魔法陣が現れる。


 そして次の瞬間豪雨のような雷が聖騎士団に落ちる!



 カッ!


 ガラガラがらっどっしゃーんっ!!



 聖騎士団の鎧は対魔法処理がされているのでせっかくのこの大魔法も通用しない。

 しかしその超広範囲にして強力な雷撃魔法は人心に恐怖を植え込む。


 とたんに聖騎士団は隊列を乱す。


 「面倒でいやがります。主様殲滅してきてもいいでいやがりますよね?」


 「待ってくださいですわ、フィルモさんたちが潜入してジニオさんたちの所にたどり着くまでもう少し時間を稼がなければですわ」


 あたしたちの今やらなければならない事は陽動。

 もっと時間を稼がねばならない。


 あたしがそう思っていると向こうにも動きが出始めた。

 果敢にもこちらにつっこんでくる騎馬隊がいる。



 「クロ、クロエ迎え撃ちなさい!」



 コクが号令をかける。


 「はっ!」


 「わかりました!」


 クロさんとクロエさんは向かってくる聖騎士団の騎馬隊を迎え撃つ。

 と、そのクロさんたちに上空から炎の矢が降り注ぐ!



 「おーっほっほっほっほっ! 何やら強力な魔術師がいるらしいですわね! しかし私が来たからにはそうもいきません事よ! ‥‥‥って、あなたはあの小娘の片割れ!? 何故こんな所にいるのですの!!!?」


 見ればあの蝙蝠の融合魔怪人につかまって空を飛んでる巨乳ボンテージの露出狂変態女、ジェリーンその人である!


 「ジェリーン、貴女が何故こんな所にいるのですの? ヨハネス神父も一緒ですの!?」


 「くううぅぅっ! 誰のせいでヨハネス神父様が苦労なされているのか分かっていまして!? そしてその汚名を返上する為に私たちがどれだけ苦労しているか! 全部あなたたちのせいですわ!! かまいませんわ、お前たちやっておしまい!!」


 シェリーンがそう言うと何処に潜んでいたのか黒づくめたちがわらわらと現れる。



 「主よここは任せてくれ! むん、転身! とおっ!」



 ショーゴさんは変身しながら黒づくめたちの中に飛び込む。

 

 「このぉっ!」


 シェルの放った矢が黒ずくめの一人を射止め、爆発させる。

 

 「きゃっ! シェルさん容赦ないっ! って、なんですかあれ!? 人じゃない? 機械人形?」


 上半身を吹き飛ばされた黒づくめはよろよろしながら倒れるもその吹き飛ばされた傷口からは一滴の血も流れ出ていない。

 確かに始めて見る者には機械人形に見えるかもしれない。


 「また変なのが来ましたね? 主様あれらも殲滅しても構わないのですね?」


 「ええ、でもできればジェリーンだけは捕えて欲しいですわ、いろいろと聞きたい事も有りますの」


 「わかりました」そう言ってコクはクロさんたちに念話を飛ばす。

 見れば聖騎士団はあらかた片付いていた。


 クロさんとクロエさんがこちらに向かってきた。

 しかしそこに融合怪人が立ちふさがる。



 「邪魔でいやがります!」


 「ドラゴンクロ―!」



 しかしこの二人相手に融合怪人程度では役にも立たない。


 


 「何なのですの!? 融合怪人があんなにあっさり!? 小娘、どういう事ですの!?」

 

 「私たちだっていつまでも昔のままではありませんわ! ジェリーン、いろいろと聞きたいことがありますわ、大人しく捕まりなさいですわ!」


 

 あたしがそう言った途端にショーゴさんが蝙蝠の融合怪人に短剣を投げつけ、その翼を傷つける。



 「ひゃぁああああぁぁぁっ!」



 バランスを崩してジェリーンが蝙蝠の融合怪人から落ちる。

 しかしそこは流石、重力魔法で地面の激突はま逃れる。



 「くっ! 小娘、ここは一旦引きますわよ! お前たち!!」



 「駄目だなぁ、そう簡単にひかれちゃ君を預かった意味がないよ?」



 あたしはその声に驚く。

 いつの間にかあたしたちの横にそれはいた。





 そう、カルラ神父がそこにいたのだった。

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る