第293話11-4カルラ神父

11-4カルラ神父


 

 「ジェリーンさん、貴女を預かった意味がなくなってしまいますよ。さあ、この人たちを始末してください!」


 

 いきなりあたしたちの横に現れたカルラ神父はそう言ってあの杖をあたしたちに向けた。

 そう、「女神の杖」だ。


 「しかし、こいつらは強いですのよ? 融合怪人も私の魔法も効かないのですわよ!?」


 「だから手伝ってあげるのです。さあ行きますよ!」


 そう言ってカルラ神父は「女神の杖」を振る。

 するとその杖の先に風の精霊たちが集まっている?



 「やばい、エルハイミ防御して! 風の王が暴れる!!」



 シェルの言葉にあたしはすぐに【絶対防壁】をドーム状に張る。

 それは間一髪で風邪の嵐の刃を防いだ!



 「エルハイミ、あれは風の女神メリル様よ! 杖の先に集まっているのはシルフじゃない! 上級精霊のテンペストたちよ!!」



 たちって‥‥‥

 ええっ!?

 上級精霊たちってことぉ!?

 そんな、上級精霊が束になって集まってんの!?



 「ふむ、流石だな。リッチの時ほどではないがやはりそこのお嬢さんは脅威だ。またあの訳の分からないのになる前にこの『女神の杖』で始末してあげましょう! ジェリーン、貴女は他のをやりなさい!!」


 連続してくる風の刃にあたしたちは動きを止められてしまう。

 それを助けに来ようとしているクロさんやクロエさん、ショーゴさんも時たま襲う風の刃とジェリーンの魔法であたしたちの所へ戻れない!?



 「全くどういう事ですの!? 毎回毎回この小娘の近くにいるのは化け物ばかりですの!? 私の魔法が全然効きませんわ!!」



 などと言っているもののジェリーンの魔法だって下手するとアンナさん並みの凄さがある。

 心眼クラスと言う事だ。



 「くっ! 人間風情の魔法のくせに面倒なものばかり!」


 「クロエ、真っ向から挑むのではない! この者の魔法は英雄クラスだ! 気を付けなければ我々もやられるぞ!」



 事実ジェリーンは【竜切断破】なんて竜でも一発で倒せる大魔法まで扱っていた。

 しかしそれでもこちらは黒龍に仕える分身、そんじょそこらの竜とは訳が違う。



 「このぉ! ドラゴン百裂掌!!」


 「ドラゴンクロ―!」



 ジェリーンにクロさんやクロエさんの必殺技が炸裂する!



 「やられはしませんわよ! 【絶対防壁】!!」



 しかしジェリーンも【絶対防壁】を展開してその攻撃を防ぐ。

 そこへクロさんやクロエさんにカルラ神父の風の攻撃が入る!



 「ぬおぉっ!」

 

 「ひゃぁぁあああっでいやがります!!」



 クロさんはその攻撃に耐えたけどクロエさんは体重が軽いせいか防御したまま後ろの方へと吹き飛ばされてしまった。



 「アサルトモード! 魔光弾発射!!」



 だがこちらも隙を狙っていたショーゴさんの魔光弾が炸裂する。


 「へっ、ですわ? のわぁあああああぁぁぁッ!」


 気を抜いていたジェリーンにその魔光弾が当たり爆発して吹き飛ばされる。



 バシュッ

 ぼぉんっ!

 どががががぁぁぁんっ!! 


 

 ひゅるるるるるるるぅぅ~ぼてっ



 あ、ジェリーンが吹き飛ばされてあんな遠くに落っこちた。

 流石にこれで仕留めたか?



 しかしジェリーンはむくりと起き上がり黒焦げになりながら遠くで「覚えてらっしゃいっ!!」とか言いながら撤退していった。

 毎回毎回思うのだけど、あの人ってもしかして無敵?

 よくあれで命が助かっているわね!?



 「ちっ、使えませんね。流石に『女神の杖』が有ってもあなたたち全員を相手にするのは厳しい。ここは一旦下がりますか」



 そう言ってカルラ神父は一層激しい風の嵐を引き起こしあたしたちにぶつけてくる!



 「くううううっですわぁ!!」


 「うわっ! エルハイミ頑張ってよ!!」


 「ひゃあぁ、お姉さまぁっ!」

 

 「あ、こらイオマ、どさくさに紛れて主様に抱き着いてはいけません! しかも胸を揉むなど! それは私のです!!」



 おいこらイオマ、コクの言う通りよ! 

 今は集中しているのだからそんな所触られたら気が散る!!



 「あんっ! イオマぁ!!」



 思わず抗議の声が出てしまうあたしだったが、その隙にカルラ神父の姿が見えなくなる。

 しまった、帰還魔晶石でも使われたか!?



 風の嵐が止んだそこにはすでにカルラ神父の影形は無く、見れば聖騎士団もすでに撤退していた。



 ぬっぐうぐぐぐ、確かに陽動が目的だったけどこうも簡単に逃げられるとは!



 「主よ、大丈夫か?」


 「黒龍様、主様!」


 ショーゴさんとクロさんがあたしたちの元に戻ってきた。



 「畜生でいやがります! あの女どこ行きましたでいやがりますか!?」



 埃まみれのクロエさんも戻ってきた。

 しかしすでにカルラ神父もジェリーンも姿を消した後だった。 

 

 「だが潜入には成功したようだな」


 ショーゴさんは短剣やなぎなたソードをしまいながら城壁を見る。

 いったん引いて体勢を立て直しているのだろう、城壁には投石機や弓矢隊が守りを固め始めた。


 さて、あたしたちが次にしなきゃならないのはフィルモさんたちの退路確保だ。


 本来なら聖騎士団をぶちのめしたいところだけど、あそこまであからさまにカルラ神父やジェリーンが出てくるのだ。

 ここは一旦落ち着いて当初の目的を完遂することに集中した方が良い。



 「エルハイミ、なんかわかってきた。あの神父が持っていた『女神の杖』は風の女神メリル様の杖ね。だから分身である風の王たちがあんなに簡単に操れるのよ。そしてその力を強める為に下級精霊たちを取り込んでいる。だから遠くまで風の精霊が飛ぼうとするとそれを捕まえて自分たちの力にしていたのよ。あの杖を何とかしないとティアナたちに連絡が取れないわ!」


 シェルがあたしの元にまでやってきてあの杖の事を話す。



 そうか、やはりそう言う事か。

 あの杖が風の女神メリル様の杖ならばすべてが合点行く。

 そうするとあの杖自体も何とかしなきゃだ。



 ここへきて一気にやることが増えちゃったな。

 でも今は退路確保が最優先だ。



 「とにかくレッドゲイルへ侵入してフィルモさんたちと合流してジニオさんたちを奪回しましょうですわ。『女神の杖』はその後にですわ」




 あたしはそう言ってもう一度レッドゲイルの城壁を見るのだった。


  


 

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