第291話11-2囚われのジニオ
11-2囚われのジニオ
その知らせを聞いたフィルモさんは大いに焦っていた。
「ジニオが捕獲されたってどういう事よ?」
アビィシュ殿下が聞くより先にフィルモさんは伝令に来た衛兵に詰め寄る。
「は、はい、先ほど連絡がありましたがレッドゲイルに潜伏していたシドニア卿が聖騎士団に捕獲されたとの事です。オルスター殿がその知らせを持ってブルーゲイルに戻ったのです」
「ロックウェル卿はどうした?」
アビィシュ殿下は衛兵に尋ねる。
「はっ、シドニア卿同様に捕獲されたそうです」
「ちっ、二人ともドジ踏んだわね!」
フィルモさんは苛立ちながら「オルスターはどうしたの?」と聞いている。
「オルスター殿は今医療室です、かなりのケガのようです」
それを聞いたフィルモさんは慌てて部屋を飛び出した。
どうやらそのオルスターさんと言う人の所へ向かったらしい。
「エルハイミ殿、申し訳ないが私もオルスターの元へ行ってみる。しばし客間でお待ちいただけるか?」
「いえ、私も治療魔法が使えます、一緒に行った方がよろしいかと」
あたしがそう言うとアビィシュ殿下は「お願いする」とだけ言って動き出した。
それについてあたしたちも部屋を移動する。
* * *
「【回復魔法】! こらオルスター! 死んじゃ駄目よ!!」
医療室に着くとフィルモさんが回復魔法をかけてオルスターさんを治療しているようだけど、どうも慌ただしい。
アビィシュ殿下もその様子を覗き込む。
「駄目です、回復魔法じゃ間に合わない、誰か司祭様を連れて来い! 急いで!!」
医師の人が騒ぐ、どうも急を要するようだ。
あたしも遠目にそのオルスターさんを見ると、思い出した!
学園にいたドワーフの人だ!!
見た感じかなりの切り傷を負っているようだ。
あたしは有無を言わさずそこに割り込む。
「退いてくださいですわ! 【治癒魔法】!」
あたしは回復魔法よりずっと強力な治癒魔法をかける。
この魔法は自己身体能力で回復を促進させる【回復魔法】と違い、外部から魔力によってその傷などを修復する。
場合によっては軽度の体の欠品でも治せてしまう。
あたしの魔法がオルスターさんに効果を発揮し見る見る傷口がふさがっていき流れ出て足らない血液も魔力で血液を作り出しオルスターさんに流し込む。
青白かったオルスターさんの顔色が元に戻ってきた。
よくよく見るとひゅーひゅーいっていた息が正常な呼吸に戻っていた。
「ふう、とりあえずこれで命は取り留めましたわ。あとは安静にして回復を待つだけですわ」
あたしがそう言うと途端に周りから感嘆の声が上がる。
「エルハイミさん、ありがとう! オルスターを助けてくれて!」
「エルハイミ殿、感謝しますぞ。まさか司祭級の回復魔法まで使えるとは、正直驚きました」
フィルモさんが涙目であたしの手を取る。
アビィシュ殿下も安堵の息を漏らしながらあたしにお礼を言っている。
「さすがに主だな、しかし頑丈などワーフをここまで追い詰めるとは」
「やっぱりあの聖騎士団のせいね?」
「ですよね、あいつら情け容赦ないですもの」
部屋に入ってきたショーゴさんやシェル、イオマは聖騎士団の所業を批判する。
そう、聖騎士団とはそう言う連中なのだ。
「それよりアビィシュ殿下これは一体どういう事ですの?」
あたしはアビィシュ殿下を見ながら訪ねる。
アビィシュ殿下はフィルモさんを見て頷いてから話始めた。
「エルハイミ殿もご存じと思うが彼らは私の忠実な部下です。魔術に弱い私をサポートするために学園に留学させ魔術を学び私を補佐する者たちでした。彼らはイザンカでも由緒ある貴族出の者で私のなじみでもありました。そして弟イルゲットともなじみであったのです」
そこまで言ってアビィシュ殿下は寂しそうな眼をした。
「知っての通り弟イルゲットは魔術の才能が有った。この国イザンカは魔道に対しての誇りがある。それは理解できる。しかし魔術だけで政治は納められない。それが分からずイルゲットは‥‥‥」
「アビィシュ様‥‥‥」
フィルモさんがアビィシュ殿下を気遣う。
しかしアビィシュ殿下は軽く手をあげ続けて話始める。
「私は出来れば穏便に事を進めたかった。ジマの国の大使がこちらに向かっていると聞いたときはこれこそが弟イルゲットを押さえ話し合いの場を作るチャンスと思った。しかし、ジュリ教の聖騎士団がそれを邪魔した。私はジニオたちにひそかにイルゲットに接触してもらい話し合いによる事態の収拾を望んだ。ジニオたちであればイルゲットも話くらい聞いてくれると期待して」
「あたしは大使たちの脱出の手伝い、ジニオたちはイルゲット殿下との接触をしようとしていたのよ」
フィルモさんはそう言ってオルスターさんの額に手をつき優しくなでる。
それは旧知の友をねぎらうかの如く。
「しかしジニオたちが捕まったと有ればただでは済まないだろう。最悪は‥‥‥」
「アビィシュ様」
むー、話としては確かにこのアビィシュ殿下はそこそこの御仁のようだ。
平和的に話し合いをしたいとか既に二年近くも内戦やっているのに建設的な考えをちゃんと持っている。
と、あたしは気になる事が有った。
「ところでそのイルゲット殿下と言う方はどのような方ですの? いくら魔道に秀でていても王族が草民を省みず私事で動くかのようなお人ですの?」
「イルゲットは心優しい弟だ、本来なら人さえ傷つけるのもためらうほどの」
あたしのその質問に過敏にアビィシュ殿下は反応する。
ん?
内戦を起こす程のお人なのにそんなに気弱なの?
なんかおかしくない?
「あの事さえなければあいつは魔道にだけ没頭していた、もともと王の座など気にもしない男だったんだ」
ありゃ?
これはなんかありそうね?
あたしはアビィシュ殿下とフィルモさんを見る。
フィルモさんはあたしのその視線に気づき話始めた。
「三年前ね、アビィシュ様とイルゲット様が同時に愛してしまった女性がいた。その女性は何処からともなくやってきた魔術に長けた人だったの。最初彼女が『育乳の魔女』ではないかと思われるほどのその技は素晴らしかったわ」
ちょっとマテ、ここでも「育乳の魔女」なの!?
しかしフィルモさんはあたしのそんな内心の突っ込みを知らずに続ける。
「そしてその女性は最後にはイルゲット様と婚姻の約束をされたの。ちょうどそのころね、陛下が急病になり病の床へとついてしまったのは」
なんかいろいろと重なっているわね‥‥‥
「本来ならアビィシュ様が陛下の代わりをするはずだったのにそのころからね、イルゲット様が王座に興味を持たれたのは」
ん?
ずいぶんと心変わりするモノね?
「そしてその女性、ジェリーンさんが伝統のあるここイザンカで魔道で秀でない者が王座に就くのはおかしいと言い出し、ジュリ教の協力も相まって一気に蜂起、内乱へとなったのよ」
「「ぶーーーーーーーっっ!!!!」」
思わずあたしとシェルは噴き出してしまった。
それはもう女の子にあるまじき吹き出しだった。
「ジェ、ジェリーンですの!?」
「なんであいつが!?」
「あら? エルハイミさんってジェリーンさんとお知り合い? あたしが言うのもなんだけど友達は選んだ方が良いわよ? 才能はあるけどあの服装はちょっとね‥‥‥」
フィルモさんは困ったような顔をする。
「何を言うかフィルモ、ジェリーン殿のあの胸、今思い出しただけでも興奮するわ! やはり女性はああでなくてはな!」
おいこら、何処がそこそこの御仁よ!
ただのスケベオヤジじゃない!!
あたしは心の中でそう突っ込みを入れながらジェリーンの正体を話す。
「ジェリーンは秘密結社ジュメルの女幹部ですわ!! アビィシュ殿下、それ、確実に騙されていますわよ!!」
「あら? ジェリーンさんてジュメルだったの!? 道理で取り巻きの使用人が変なのばかりだと思っていたのよ、黒ずくめの奴等ばかりで」
「そ、そんな、ジェリーン殿がジュメルだと? あの豊満な胸が!?」
胸関係ないから、それとフィルモさんも取り巻きが変なら気付いてよ!!
「あっちゃー、駄目だこの王家も、どうしてこうヒュームの王家って変なのばっかなのよ? ガレントも変なのばっかだったし、元だけどホリゾンのゾナーも貧乳好きの変態だし」
「ティアナは違いましてよ!」
思わず抗議するあたしにシェルはジト目であたしを指さす。
「だってエルハイミの事を妻って言ってる時点で変じゃない?」
「私たちは良いのですの! 純愛なんですから!!」
「どこが純愛よ、欲望まみれじゃない? 毎晩あんなに激しく愛し合ってるくせに!」
「ワーワーワーッですわ!! シェル人前でなんて事言うのですわ!!」
なんて事を暴露するのよ!
フィルモさんたちがあたしを見る目が残念な奴になっているじゃない!
「うっ、こ、ここは何処じゃ?」
あたしたちが騒いでいたらオルスターさんが目を開いたのだった。
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