第286話10-28ユエバの町攻防

 10-28ユエバの町攻防



 「あんたら一体何者なんだ?」



 城門が開き一人の男性が出てきた。

 あたしは前に出て名乗りを上げる。


 「私はガレント王国がティアナ姫の伴侶、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンですわ。我が友人エルフのシェルが渡りのエルフより救援要請を受け、助太刀に参りましたの」


 あたしがそう言って正式な挨拶をするとその男性は驚いたような顔をする。



 「まさか、あなたがかの有名な『育乳の魔女』ですか!? 近づくものは男女問わず胸を大きくするという!?」



 「ちょっとマテですわ! なんでそうなるのですの!! そんな訳無いですわっ!」


 あたしの猛抗議にその男性は自分の胸を押さえながら後ずさる。



 おいこら、なんて顔しているのよっ!

 このイージム大陸では一体どんなふうにあたしは扱われているのよ!?



 あたしが肩で息をしていると男性の後ろからエルフの女性が出てきた。



 「シェルですって? まさかあのシェル?」


 「あー、カリナ! カリナだ!!」


 

 荷台にいたシェルが飛び降りてくる。

 そしてそのエルフの女性に抱き着く。


 「カリナがこんな所にいたなんて! 元気だった!? なん十年ぶりかしら!」


 「シェルってもう成人したの? よく村から出れたわね?」


 どうやらシェルの知り合いだったようだ。

 こいつ意外とエルフの中では顔が広いのかな?

 ティナの町で「風の剣」のファムさんとも知り合いだったし。


  

 「初めましてですわ、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ。あなたが救援要請をされた渡りのエルフの方ですの?」


 「ああ、初めまして。渡りのエルフ、カリナと言います。救援に来てくれてありがとう。しかし凄いわねあなたたち、たった六人であの軍勢を追い払うなんて。エルハイミさんでしたね、あなたがあの有名な『育乳の魔女』なのですね?」


 「ちょっとマテですわ。なんですのその『育乳の魔女』って! どうしてこのイージムでは私はそんな二つ名で呼ばれているのですの!?」


 あたしはカリナさんとあいさつしながらどうしてもはっきりとさせなければならない事を聞いてみる。

 するとカリナさんは先ほどの男性と顔を見合わせてから話始める。



 「ええ、だってボヘーミャの学園にいる時から学園の女生徒の胸を大きくして本国のガレントでもそのお姫様の胸も大きくしてさらに女型なら人間以外の機械人形さえ胸を大き出来てその力は最後男女問わず及ぶって有名ですよ? 最近だってジマの国の開放に手を貸したって聞いてますけどその指導者の現王の胸まで大きくしたとか‥‥‥」



 「ちょっとマテですわ、そんなことありませんわ! 私がいつミグロさん‥‥‥いえ、ミナンテ=ガナ・ジマの胸を大きくしたのですの!?」



 どう考えても話が誇張され過ぎている。

 しかもミグロさんの噂があたしが胸大きくしたですって!?

 それは一体どういう事よ!?



 「話を聞くと、鎧の胸がエルハイミさんに会ってから大きく膨らんでいるって。どうやらエルハイミさんに胸を与えられたって事になっているらしいですよ?」



 鎧って‥‥‥



 あうっ!



 そうかあのミスリルの鎧か!

 魔晶石を胸部に取り付けるので厚みが増していたはず。

 それを胸を大きくされたと伝わったのか!?



 あたしは頭を抱える。

 まさかそんな事に成ってしまっていたとは‥‥‥


 「それに、エルハイミさんに胸を大きくしてもらったって子も実際にこの町にはいて、一年前位はぺったんこだったのが今は揺れるくらいにあるって女性冒険者の間ではうらやましがられていますよ?」



 「イオマがいるのですの!?」



 どう考えてもそれはイオマだ。

 あたしのその物言いにカリナさんは驚いて後ずさる。


 「え、ええ、イオマですけどご存じで? 一年前位に大迷宮で消息不明になって皆諦めていたのがつい先日ふらっと戻ってきて皆を二重に驚かせたんですよ、生きていた事と胸が大きくなったって事で。」


 なぜかカリナさんは自分の胸を手で隠し後ずさる。

 まるであたしを危険人物を見るかのような目で!


 「と、とにかくユエバの町に入れてもらえませんかしら? そしてイオマに合わせて欲しいのですわ」


 あたしのその申し出にカリナさんもその男性も快諾をしてユエバの町に入れてもらう。

 ちなみにその男性はロックワードさんと言ってこのユエバの冒険者ギルドのギルドマスターだった。


 

 * * * * *



 「すまねえ、俺たちが付いていたのにイオマを守り切れなかった!」



 冒険者ギルドに戻ったあたしたちは十数人の冒険者から頭を下げられていた。


 何が有ったか聞くといきなり襲ってきた聖騎士団と攻防が続く中、イオマは一年前と見違えるほど強力な魔術師になっていて、しかも護衛要らずで攻撃をプロテクターで的確に弾いたりしていてこちら側の門の中心になって町を守っていたらしい。

 しかし強力な魔怪人たちに襲われ、とうとう力尽きたイオマは先ほどの騒動の撤退時に襲われてさらわれて行ってしまったそうだ。


 こちら側の門は既に半壊状態、町にかなりの騎士団も潜入したがイオマたちの活躍のおかげで被害は最小限に抑えられてそうだ。



 「そんな、イオマ‥‥‥」



 あたしはいてもたってもいられなかった。

 イオマみたいな可愛い子があの汚らわしい聖騎士団にさらわれたのだ、一刻の猶予も無い。

 このままではイオマの乙女が大ピンチだ!


 「ロックワードさん、聖騎士団はこの先にいるのですわね!?」


 「ああ、エルハイミさん、そうだがあいつら少なくとも数千の軍隊でこちらを睨んでいるぞ? どうするつもりだ?」


 「決まっていますわ、イオマを取り戻すのですわ! シェル、ショーゴさん、コク、クロさんクロエさん行きますわよ!」


 「エルハイミさん、ちょっと待って、流石にあなたたちだけでは危ないわ」


 カリナさんが心配してあたしたちを引き留める。

 しかしシェルがカリナさんにこう告げる。


 「大丈夫だって、あたしたちは強いし、こっちには黒龍もついているのよ!」


 「黒龍て、まさかあの黒龍様!? 太古の竜の黒龍様!?」


 「そうです、私がいますから主様にはあいつらの汚らわしい手は指一本触れさせません!」


 コクがここぞばかりずいっと前に出る。

 しかしカリナさんもロックワードさんも目を点にしている。


 「あのな、お嬢ちゃん、黒龍様ってのはものすごく大きな竜でお嬢ちゃんのような可愛らしいのとは訳が違うんだよ?」


 ロックワードさんがそう言って苦笑いするも、コクはすかさず服を脱ぎその場で幼竜の姿になる。

 さすがにそれにはこの場にいるみんなが驚いて後ずさるが、コクの咆哮でみんな固まる。



 ぐおぉぉぉぉおおおおおおんっ!!



 ドラゴンの咆哮には敵対する者を委縮させる効果がある。

 たとえ幼竜でもコクのそのひと鳴きはその場にいる者全てに恐怖を与える。


 「う、うそっ、本物!?」


 カリナさんが震える声でそう言う。


 「だから言ったでしょ、あたしたちは強いの。大丈夫、カリナたちは町を守って。イオマはあたしたちが助け出して見せるから!」


 そんな中シェルは元気にそう言ってあたしについて来る。

 



 あたしたちはイオマを救い出すために聖騎士団の本陣に殴り込みをかけに行くのだった。

 

 

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