第287話10-29イオマ
10-29イオマ
町の門を出るとはるか向こうに陣取る聖騎士団の集まりが見て取れた。
撤退はしたものの本陣はそのままか?
「ふむ、イオマがあの中にいるのですな? 主様、私がイオマを助け出しましょうか?」
クロさんがそう言ってくれるがあたしだってイオマが心配だ。
あたしも一歩前に出るとぎゅっとあたしの手を握るコク。
「主様、私もついて行きます」
コクはそう言って更にあたしの手を強く握りしめた。
「コク、ありがとうですわ。しかし数が多い、ここはショーゴさんやクロさん、クロエさんにお願いしましょうですわ」
そう言ってあたしはシェルを見る。
シェルは無言でうなずきすっと動き出す。
こちらに聖騎士団の注意を引き付けその間にシェルがイオマを助け出すつもりだ。
実際、イオマがいないで聖騎士団だけならあたしは隕石でもぶつけてやろうと思っている。
あの下品な男たちにイオマが捉えられている。
そう考えるだけで虫唾が走る。
よくも可愛いイオマを!
もしこれで万が一にでも傷物にでもしたら徹底的につぶしてやるんだから!!
あたしはかなりイラついていた。
「珍しく主様も殺る気でいやがります。あいつらに情けは要らないでいやがりますね?」
「ええ、あんな下品な輩いない方が世の為ですわ! 女の敵ですわ!!」
ショーゴさんは変身してずいっと前に出る。
「主らしいな、クロ様いきますぞ!」
「うむ、始めようか」
そう言ってショーゴさん、クロさん、クロエさんは突入を開始する。
あたしはこちらに気を引かせるために近くの岩でロックゴーレムを数体作り上げる。
そして【炎の矢】を数百本生み出して効かないのは分かっていても聖騎士団に一斉に打ち込む。
「さあ、イオマを返しなさいですわぁッ!!」
一斉に飛び散る【炎の矢】は寸部たがわず聖騎士たちの当たる。
しかし対魔法処置が施された鎧にその【炎の矢】は全て打ち消される。
だが流石に一斉に大量の【炎の矢】が放たれたことによって聖騎士団に動揺が走った。
「なんだ! 敵襲か!?」
「あ、あいつらだ! 向こうの門で俺らを襲って来た化け物たちだ!!」
「くそうっ! 全軍戦闘準備! かかれぇっ!!」
あちらもこちらの攻撃に対抗するために慌てて布陣を始める。
しかしもう遅い、ショーゴさんが、クロさんが、そしてクロエさんが敵陣に飛び込む。
とたんに血の花があちらこちらで咲いて聖騎士団たちが倒れていく。
「ロックゴーレムよ、あいつらを吹き飛ばしなさいですわ!」
あたしの命令にロックゴーレムたちが動き出す。
そしてあたしは【高層雲暴雨】の魔法を発動させる。
敵陣上空にいきなり積乱雲が集まりバケツをひっくり返したような雨が降り始める。
戦場は途端にぬかるみ、馬や重い鎧を身に着けた騎士たちの動きを鈍らせる。
「主様、私も!」
そう言ってコクはまた幼竜の姿に変わり、咆哮をあげる!
その鳴き声に騎士たちは驚き、委縮し、更に動きが悪くなる。
あたしは騎士たちが固まっている場所に【雷撃魔法】を飛ばす。
ばちっ!
すると水に濡れていることもあり、半径五メートルくらいの騎士たちが感電してその場に倒れる。
数回同じような事をやっていたらシェルの念話が入ってきた。
『エルハイミ! イオマがいたわ! 気を失っている。それと他にも女性が数名! 荷馬車に縛られていて転がされている!』
あたしは一瞬ほっとしてすぐにシェルに聞いてみる。
『シェル! そのまま荷馬車を奪えまして!?』
『やってみる! うまく行ったら荷馬車ごとそっちに行くから追撃の連中お願い!』
シェルのその言葉を受け取りあたしはコクにも念話を飛ばす。
『コク、シェルがイオマを見つけましたわ! 荷馬車ごと捕まっている女性たちとこちらに逃げ出しますわ、援護をクロさんたちにお願いしてですわ!』
『わかりました、主様! クロ、クロエ! シェルがイオマたちと荷馬車で脱出します、援護を!』
大雨の中戦場に変化が出た。
乱戦の中荷馬車が一台猛スピードでこちらに向かってくる。
聖騎士団は何が起こっているのか分からず気付いたものはその荷馬車を止めようとするがクロさんたちに邪魔をされる。
そしてその荷馬車はシェルの操る中はっきりとこちらでも見える距離にまで来た!
『シェル、コク、大きいの行きますわよ! クロさんたちを引かせてくださいですわ!!』
あたしのその念話にシェルやコクは返事をしてクロさんやクロエさん、その動きに気付いたショーゴさんが戦場から離脱する。
そのあまりにも素早い動きに聖騎士団は混乱したままだ。
戦場からみんなが離れたのを確認したあたしは騎士団のど真ん中に特大の隕石を召喚した!
「これでも喰らいなさいですわ! 【流星召喚】メテオストライクっ! そして【雷龍逆鱗】!!」
あたしのその魔法が発動して積乱雲を割るかのように真っ赤な隕石が天から落ちてきた。
いくら対魔法の鎧でも隕石の直撃には耐えられない。
どががががぁぁあああああぁぁぁんっ!!!!
爆発的な隕石の衝突で聖騎士団の中央が大爆発を起こす。
しかし彼らの不幸はそれだけで終わらずこの戦場の上空に大きな魔法陣が現れる。
そしてその魔法陣は次の瞬間豪雨のような雷を落とした!
カッ!
ガラガラどがぁぁあああああっぁぁんっ!
鎧が魔法の雷を防いでも濡れた所から伝わる電気は容易に騎士たちを感電させる。
しかもその量が多い為ほとんどの者が瞬時に感電死をする。
「うわぁあああああぁぁぁっ!」
「ば、化け物だ! 引けぇっ! 引けぇっ!!」
騎士団は総崩れとなり蜘蛛の子を散らすかの如くバラバラに逃げ始める。
「我が名はエルハイミ! 貴公らがこのユエバの町に手を出すならば我が名の元に貴公らに裁きを下す! ゆめゆめ忘れるな! 我が名はエルハイミ! 我が盟邦に仇なす者は容赦せぬ!」
あたしはあたしの声を衝撃波に乗せ拡声できるようにして逃げ惑う聖騎士団に向けて発する。
「うわぁっ! 『育乳の魔女だ』!!」
「『無慈悲の魔女』だと!? に、にげろぉ!!」
「引けぇっ! 引くんだぁっ!!」
とたんに聖騎士団はパニックになって更にバラバラになって逃げていく。
ばしゃばしゃ
シェルが操る荷馬車が雨でぬかるんだ通りをやってきた。
「ふえー、流石『育乳の魔女』の名は伊達じゃないわね?」
「誰が『育乳の魔女』ですの!! それよりイオマは!?」
あたしは荷馬車を覗き込む。
そこにはイオマが気を失って横たわっていた。
「イオマっ!」
あたしは荷台に上がりイオマを抱きかかえる。
「う、うん‥‥‥ あれ? お、お姉さま??」
「イオマっ!」
あたしはイオマを抱きしめる。
「なんて子なのでしょう! こんなに心配をさせて!!」
「え? あ? お、お姉さま??」
あたしはしばし安堵の中イオマを抱きしめ涙するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます