第242話9-14そして屋敷へと

 9-14そして屋敷へと



 あたしたちは開かれた門をくぐるとすぐ目の前に地下へと続く階段が有った。




 一応用心しながらあたしたちは進む。

 入ると大きな広間になっていた。

 窓はないが壁には装飾品が掲げられ、床には絨毯が敷かれていた。

 壁の方には調度品が並びいかにも玄関っぽくなっている。



 「ここが第九層か‥‥‥」


 「九層と言うよりどこかのお屋敷のようですわ」


 「それよりお腹すいたなぁ~ もうほとんど食料は無いのよ?」



 あたしたちがこのホールでそんな立ち話をしていたら奥から一人の女性が現れた。


 「よくここへ着けましたね、人間。こちらに来やがれです。」


 その女性は年の頃イオマくらいの真っ黒な髪に真っ黒な瞳の美しいメイド姿の女の子だった。

 

 「さあ、あたしについてきやがれです。」


 そう言って彼女はついっと踵を返して歩き出す。

 あたしたちは仕方なく彼女の後をつける。

  

 「ねえあんた、一体全体ここはどうなってるの? ここって暗黒の女神ディメルモ様の居城なの?」


 シェルが我慢できずに彼女に話しかける。


 「なれなれしくエルフごときが話しかけてくるんじゃねーです。 ここが何処かも分からないほどおつむが足らねーのですか?」


 「なっ! 失礼な!! か、確認したんじゃない!!」


 ふくれるシェルだが彼女はそれ以上シェルを相手にしないであたしたちを一つの扉の前にまで案内する。


 「さあ、着いたです。入りやがれです。」


 どうも言い方に棘があるのだけど既に同調しているあたしは彼女がライム様やレイム様同様に化け物だと気付かされてる。

 あたしたちは大人しくその部屋に入る。


 そして見ると長テーブルに沢山の椅子、そしておいしそうな料理の山が有った。



 「うわっ!何このごちそう!!」


 「どういう事?」



 イオマもシェルもはしゃいでいる。

 しかしそんな二人も思わず動きを止めてしまうほど威厳のある声が聞こえた。



 「よく来た弱き者たちよ。汝らのその努力に免じて客人としてもてなそうではないか。私はクロ。黒龍様よりこの屋敷を任されている者だ。」



 声のした方を見ると長テーブルの一番端にその人は立っていた。

 びしっとした執事の格好で年の頃四十くらいの白髪入り混じるオールバックの髪型。

 威厳のある彫りの深い顔つきで太い眉毛に口元にはきれいにそろえられた髭を蓄えている。


 その眼光は鋭く、見る者全てを射抜くのではないかと思われるほどであった。



 「お招きいただきありがとうございますですわ。私はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン。こちらのエルフがシェル、こちらの男性がショーゴ=ゴンザレス、そしてそちらの女性がイオマですわ」



 あたしはそう言って正式な挨拶をする。

 クロと名乗ったその男性は「うむ」と短く言って席に座るよう言ってくる。

 すると先ほどの女の子が給仕を始めてあたしたちに食事をクロさんが進めてくる。


 「まずは食事をするがいい、弱き者たちよ。上の階ではろくに食事もしていなかったのだろう?」


 「お気遣いありがとうございますですわ。遠慮なく頂きますわ」


 あたしたちはそう言って目の前のごちそうに手を付ける、



 「!」



 お、美味しい!!

 思えばロックリザードから始まり美味しいと言われるモンスターを追い回し、苦手な虫まで食べさせられて何とかしのいできたこの約半年ちょっと!

 あたしは久々のちゃんとした料理をかみしめて味わった。



 「人間とは不便な生き物だな。こうして四六始終何かを食べねば生きていけぬのだからな」


 「そうおっしゃいます黒様は一体何者なのですの?」



 分かってはいるけど一応は聞いてみる。

 このマナ量に魔力量だ、そうとうな化け物に違いない。


 「私は黒龍様に仕える分身。竜の化身だ」



 やはりそうか!



 道理で雰囲気がライム様やレイム様に似ているはずだ。

 あたしは口元を拭いてから話しかける。


 「やはりそのようなお方でしたか。給仕してくださるあの女性も?」


 「クロエか? そうだ彼女も黒龍様の分身、私ともどもこの館を任されている」


 そう言って初めて飲み物を口にする。

 

 「こうして人間と話し、食事をするのは何千年ぶりだろうか? して、弱き者たちよここへは何の用で来た?」


 「はい、実は‥‥‥」



 あたしは今までの事をかいつまんで話した。

 そして一刻も早くティアナの元に帰りたい旨を伝える。



 「そうか、それは難儀であったな‥‥‥ しかし、黒龍様はいま休眠中だ。すぐにはお目覚めにはならん。」


 「では他にここを出る方法はないのですの? クロ様のお力で何とかなりませんの?」


 あたしはそう言うがクロさんは首を振る。


 「黒龍様以外に地上へ向かう術を知る者はおらん。しかし黒龍様は‥‥‥」


 「如何なさいましたか、クロ様?」


 「汝らに話しても仕方ない事だが、黒龍様は忌まわしき呪いのせいで今は眠られておる。あの亡者の王リッチのせいで」


 悔しそうにクロさんはそう言う。


 

 ん?

 亡者の王リッチだって?

 それってまさか‥‥‥



 「クロ様、そのリッチというのはもしやジマの国を滅ぼした亡者の王、あのリッチですか?」

 

 思わず腰を浮かすショーゴさん。

 クロエさんが嫌そうな顔をするがクロさんが片手をあげると何も言わず大人しく控える。


 「そうだそのリッチだ。不覚にも黒龍様が地上に出た所を結界にて絡めとり従属の魔法をかけてきたのだが何とか抵抗されこの迷宮奥底に戻られたのだ。しかしかけられた呪いに抗う為に魔力を大量にお使いになり、こうしてお休みになられているのだ」


 そうするとその黒龍様が回復しないとあたしたちは外に出れないと言う事になる。

 更に黒龍様が出た地上と言うのがどうやらジマの国っぽいとなると‥‥‥


 「クロ様、それでも黒龍様に合わせていただけませんでしょうかしら? 私たちはなんとしてでも帰りたいのですわ」


 それを聞いたクロさんはしばし無言となる。

 

 「黒龍様はお休みだ、無下に起きていただくわけにはいかん。ここに滞在して黒龍様がお目覚めになるのを待つのは許そう」


 そう言って立ち上がってしまった。


 「部屋は与える。詳しくはクロエに任せる」


 そう言って扉を開けて出て行ってしまった。



 「人間風情がクロ様を悩ますとは、身分をわきまえやがれです」


 そう言ってクロエさんはあたしたちに向き直る。


 「食ったら部屋に案内してやるです。ついてきやがれです」


 そう言って歩き出す。

 とりあえずお腹もふくれたしあたしたちはクロエさんについて行く。



 * * *



 長い長い廊下に同じような扉がずらりと並ぶ通路をしばらく歩きはたと止まる。


 「女どもはここの部屋を使いやがれです。ここは中で別部屋三つあるから問題無いでいやがります。男は扉二つむこうを使いやがれです」


 そう言って扉を指さす。


 「それと勝手に屋敷をうろつくなです。必要なものは部屋にそろっていやがります。私に用事がある時は部屋のベルを鳴らしやがるです」


 そう言って踵を返して通路奥に行ってしまった。


 あたしたちは顔を見合わせてからとりあえず一休みしようと言う事で部屋に入った。

 部屋に入って驚く。

 そこは大きなリビングになっていてソファーやテーブル、据え置きのカートには新鮮な果物やワインなどが置かれている。

 窓こそないものの部屋の中は豪華な感じでまとめられていて、壁むこうに扉が三つ、反対側にも扉が二るある。


 「なになに、すごいじゃない! あ、こっちはお風呂だ、隣はお手洗い?」


 「すごいですお姉さま、小部屋も大きいです、ベッドも天蓋付きのフカフカですよ!! 夢みたい!」


 あたしははしゃぐ二人を見ながらとりあえずの所ソファーに腰を下ろす。


 クロさんはあたしたちを客人として迎えてくれると言ってくれた。

 クロエさんも嫌々ながら面倒は見てくれるようだし、ここはこれ以上無理を言っても仕方がない。


 あたしはもう一度部屋を見渡す。


 これだけの調度品も備え、あたしたちに破格の待遇で滞在を許してくれたわけだ。

 本当は一刻もティアナの所へ帰りたいけど、もう少しいろいろとかかりそうだ。

 

 まずは一旦骨休みするとしよう。



 あたしはお茶が無いかカートをあさるのであった。




 

 

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