第241話9-13余分な気遣い

 9-13余分な気遣い



 「何なんですの、ここはですわ!?」



 あたしたちはどうやら庭先を抜けきったようだ。

 しかし最後の通路を出たその先はだだっ広い場所だった。


 左右を見渡しても壁が見えない。

 天井はあるけどかなり高くなっている。 

 だいぶ向こうには鉄格子の柵が有り、正面には鉄柵の門がある。



 『汝らよくぞここまでたどり着いた。ゴーレムごときでは不足であったか? なればこの偽りの竜を倒すがよい。さすれば客人として迎え入れてやろう』



 いきなりあの声が頭に響く!


 まさかここまでたどり着いたのに更にあたしたちを試すの!?


 見ると正面の広い場所に大きな魔法陣が描かれる。

 そして地面から浮かび上がるように全身がミスリルと思われるうろこを持つ竜のゴーレムが現れる。



 『さあ、汝らその力示せ!』


 

 「もう何度目よ! このぉっ!」


 文句を言いながらシェルは矢を放つ。

 しかしその巨体に合わず偽りの竜はさっと避けた!?


 「アサルトモード! 全弾発射!!」


 ショーゴさんがシェルに続き魔光弾を放つ。

 しかしそれもあっさりとよけられて偽りの竜は空中へと舞い上がる。


 「イオマ、これは一筋縄ではいきませんわ、危ないからさがってくださいですわ。」


 「お姉さま‥‥‥」



 「来ますわ!!」



 あたしはそう言ってその場をとっさに飛び退く。

 イオマも反対側に飛び退いた後にさっきまであたしたちが立っていた所へ偽りの竜が突っ込んでくる!


 「うわっ! あっぶなー!!」


 どうやらイオマもちゃんと避けられたようだ。



 「【拘束】!」



 あたしの魔法の-ロープが偽りの竜に飛び行く!

 しかし偽りの竜は器用に体をひねってそれをかわし、また空中へと飛び立つ。



 「ちょこまかと!」



 シェルは矢を三本一斉に放つが偽りの竜は翼を大きく羽ばたかせその風で矢を明後日の方向に曲げる。

 そしてそのまま今度はシェルに突っ込んでいく。



 「うわひゃっ! 危ない!!」



 シェルは脱兎のごとくそれをかわし逃げながら矢を放つという曲芸をこなす。

 その矢は偽りの竜の後ろ脚に刺さり爆発する。


 「やったぁ! 当たった!! 光の精霊よ手を貸してっ!」


 シェルはその後休むことなく光の精霊を出し偽りの竜の顔にそれをぶつける!

 とたんにまぶしい光が竜の瞳をおおい、シェルを薙ぎ払おうとしていた尻尾の軌道が狂う。

 シェルはその隙にひょいっと身を宙に躍らせ地面に着くとすぐさまその場を離れる。


 そこへストライクモードに換装したショーゴさんがあの刀を構えて飛び込む!


 「むんっ!」


 その一刀に偽りの竜の前足が切り落とされた。

 が、偽りの竜は構わずその大きな咢を開きショーゴさんを襲う!



 「【絶対防壁】!」



 すかさずあたしの防御魔法がその攻撃を防ぎショーゴさんも大きく距離を取る。

 

 「流石にゴーレムと同じにはいかんな、やはり強い!」


 「ですが倒せない相手では無いですわ!」


 そう言ってあたしは【地槍】の魔法を発動させる。

 大地からせりあがった突起は偽りの竜を襲うが全てそのミスリルのうろこに防がれる。


 が、その隙にシェルがまた三本の矢を同時に放つ!

 それは今度は偽りの竜の背中や肩、尻尾などに当たって爆発する。


 偽りの竜は大地の突起を薙ぎ払いまた上空へと逃げようとする。



 「させん!」



 そこへショーゴさんが飛び込んで片方の羽を切り落とす!

 さすがに片方の羽だけでは飛べず偽りの竜はその場で尻尾を振りあたしたちを近づけない様に牽制をする。

 

 あたしは偽りの竜に向かって足元に【氷の矢】を放つ。

 それは偽りの竜自体を傷つけることは出来なくても連続で打ち出すことによって地面と偽りの竜の足を凍らせその場で動けなくする事が出来る。


 片足の自由を奪われた偽りの竜は更に尾尻を振るわせ暴れるがこうなればこちらのモノ。

 シェルの矢が次々と偽りの竜に当たり爆発させる。

 そして隙が出来た所にショーゴさんの刀が牙をむく。


 徐々に偽りの竜は傷つき弱っていくがいきなり上を向いたかと思うと大きく口を開ける。


 あたしは直感でやばいと思い急ぎ皆に【絶対防壁】の魔法をかける!


 そして偽りの竜は大きく開けたその口からなんと大量の稲妻を吐き出した!!



 バリバリバリバリっ!!



 その稲妻は天昇に当たりあたしたちに豪雨のように降り注ぐ。

 もし【絶対防壁】を展開していなかったらこれだけで丸焦げになっていた。



 「雷はあなたの専売特許ではありませんわ!」



 あたしはそう言って魔導士ライトプロテクターの両肩についていた長めの板を二本はずし腰から作っておいた片手の発射台を取り出す。

 そしてその二枚の板を発射台に取り付け懐からあの超高圧圧縮金属ミスリルと他の金属をくっつけたモノを取り出し発射台に固定する。


 偽りの竜は渾身の一撃を放ったせいで今は動けない。


 

 チャンスだ!



 「これが私の新しい力ですわ! いきますわよ! 【超電導雷撃】!!」


 あたしはそう言って溜めておいた莫大な電気エネルギーを一気に発射台の二枚の板に流す。

 それはプラズマの光を放って超高速であの超高圧圧縮金属ミスリルの弾丸を飛ばす!


 そう、これは生前の世界ではレールガンと呼ばれる代物!


 爆発するかの如く二本のレールにプラズマの火花を散らせながら光の矢となって偽りの竜に吸い込まれていく。

 


 カッ!   


 

 どがぁぁあああああぁぁぁぁんんっ!!



 どんなに丈夫なミスリルも超高圧圧縮金属ミスリル弾の前では歯が立たない。

 しかもプラズマをまとい超高温となったその弾丸は簡単にそのミスリルうろこを突き破り内部から爆発する。



 「うひゃぁ! ドラゴンがバラバラじゃない!!」



 シェルは飛び散ってきたその破片をキャッキャ言いながら避けてる。


 「主よ今のはなんだ? ものすごい破壊力ではないか??」」


 ショーゴさんがこちらにやってきてあたしの手元を覗く。

 しかしこれの弱点である一回発射するとほぼほぼレールとなる二枚の板の金属が使い物にならなくなっている。


 「私の魔法以外の最大限の攻撃ですわ。もっとも隙が無ければ発射できないのと切り札なので一回しか撃てないのが問題ですわ」


 あたしはにこやかにそう言う。



 いやあ、ぶっつけ本番だったけどどうにかうまく行った。



 

 最近対魔法処置された相手ばかりであたし自身が防御と支援だけになっている。

 強力な魔法も物理攻撃以外が通用しない相手ではあたしの魔法は役に立たない。

 そこで考えたのが強力な物理攻撃。

 生半可なものでは効果が無いので弾頭に超高圧圧縮金属ミスリルを使う事によってほとんどの物が破壊できる強度を作り上げたわけだ。



 「流石お姉さま! あんな大きなドラゴンを一発で粉々にするとは! 一体どんな大魔法なのですか?」



 「厳密に言うと魔法ではないのですわ。これはこの超高圧圧縮金属ミスリルを雷の力で高速で弾き飛ばせる投石機の強力なものと考えくださいですわ」


 「それでもすごいじゃない! なんで今まで使わなかったのよ?」


 「先程も言いましたがこれは発射までに時間がかかり、一回しか使えない切り札なのですわ」


 シェルに発射台を見せながらあたしはそう言う。


 「なんかよく分からないけど、丸焦げじゃん。これってもう使えないの?」


 「そうですわね、きれいに掃除してこの二枚の板を取り換えないと使えませんわ」


 ふーんとか言いながらシェルはそれをつつく。

 「あっ!」とあたしが言った時には遅かった。


 「あつっ!! なにこれあっついじゃない!?」


 「雷が通った後の金属は熱せられて熱くなるのですわ。むやみに触ればやけどしますわよ?」


 シェルは指先をフーフーしながら文句を言っている。


 さて、あたしはこの先にある鉄柵の門を見る。


 

 『見事であった。汝らを客人として迎えよう。さあ入ってくるがいい』



 その声は頭の中に響き向こうにある鉄柵が音を立てて開いていく。

 どうやら中に入れてもらえるようだ。


 


 あたしたちはうなずきあってその門へと向かうのであった。

 

 

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