第202話8-4エスティマ

 8-4エスティマ



 「エルハイミ殿は無事か!!?」



 あれから三日が経った。

 ホリゾンの聖騎士団は今の所襲ってきてはいない。

 そんな中、王都から援軍としてエスティマ様率いる十万の軍隊がティナの町に到着していた。



 「兄さまが直接来られたのですか!?」



 ティアナの実の兄、エスティマ様が軍を率いてきたことにティアナは驚いているようだ。

 

 「未来の妻になるエルハイミ殿の窮地だ、いてもたってもいられるわけないだろう!?それでティナの町の被害は?エルハイミ殿は無理を強いていないのだろうな??」


 「なっ!?妻って何です!!?エルハイミは私のモノです!!」


 「エスティマ様、ごきげんようですわ。私はここに。」


 そう言ってティアナと話しているエスティマ様の前にあたしは出る。


 「おお、エルハイミ殿、何事も無いようで安心しましたよ。」


 そう言いながらあたしの手を取り口づけしてくる。

 挨拶ではあれどティアナの額におこの血管が浮かび上がってる。


 「して状況は?」


 「見ての通り被害ゼロです。私たちの完全勝利です!」


 ティナは胸を張ってそう答える。

 エスティマ様はその答えを聞いていぶかしそうな表情を取る。


 「いくらエルハイミ殿やお前がいるからと言って戦で被害ゼロとはありえないだろう?」



 「いえ、事実にございます。お初にお目にかかります殿下。ティアナ姫が騎士ゾナーにございます。」



 なおもティアナに食って掛かるエスティマ様の言葉を遮るようにゾナーが割って入る。

 一瞬エスティマ様は瞳を鋭くする。


 「貴公が元ホリゾン帝国が第三皇子ゾナー殿か!?私はガレント王国が第四軍を預かるエスティマ=ルド・シーナ・ガレントだ。」


 ちょっと上から目線のエスティマ様。

 しかしゾナーは心得たかのように胸に手を当て頭を下げた。


 「被害が無いとは真か?」


 「はい、事実にございます。我が主とエルハイミ殿の強力な魔法、従者ショーゴ殿、ご友人のエルフのシェル殿のご助力により大金星をあげる事が出来ました。しかも知りうる限り初の歴史上無傷で戦を勝利した異例の戦果であります。」


 ゾナーのその言葉に思わずエスティマ様はティアナやあたしたちをもう一度見る。


 「それが本当ならここの戦力は既にガレント王国の騎士団にも劣らぬと言う事ではないか!?」


 流石に驚いているようだ。

 もっとも初陣だったあたしやティアナにはいまいちピンとこない。

 みんな何事も無くてよかったね~くらいにしか感じていなかったりする。


 「せっかくエルハイミ殿にいい所見せてハートをつかむ作戦が・・・」


 何やら小声でぶつぶつ言っているようだ。


 「どちらにせよホリゾンがこれで引き下がる事は無いでしょう。この報告をもとに本国から聖騎士団の本陣がやってくるでしょう。ここまでメンツをつぶされたのだ、ただでは収まりますまい。」


 ゾナーのその言葉にこれからますます厳しい戦いが始まることを予感させられる。


 「兄さま、どちらにせよ戦力の増強は助かります。ティナの町を代表してお礼申し上げます。」


 「いや、礼には及ばん。自国防衛の為だ。今回はマシンドール部隊も引き連れてきた。こちらの砦に常駐させているマシンドールも含めれば今ここに最大のマシンドール部隊が集まったことになる。それで今はここの指揮は誰がとっている?ティアナ、お前か?」


 ティアナはゾナーを見ながら言う。


 「戦(いくさ)の素人である私ではなく経験豊富な我が騎士に指揮をとらせております。」


 「ホリゾンの人間にか!?」


 「元です。兄さま、たとえ兄さまであってもそれ以上我が騎士を辱める事は許しませんよ!?」


 ティアナのその言葉にばし沈黙が流れる。


 「まあいい、私が来たからにはここの指揮は今後私がとる!異存はあるまいな!? 」


 「兄さまが?しかしここではゾナーが地の利を知っています。それにホリゾンの内部事情にも詳しいのですよ?」


 「異存はあるまいな!?」


 「・・・分かりました。ご自由に。」


 ティアナはエスティマアマ様を睨んではいたがプイっと他所を向いてあたしの所へ来た。


 「気分がすぐれません、部屋に戻ります。エルハイミ一緒に行きましょう。」


 あたしは苦笑いして頭におこの血管を浮かび上がらせているティアナを慰めるために一緒に行こうとするとエスティマ様に呼び止められた。


 「エルハイミ殿、ちょっ待って欲しいのです。私たちの将来についてお話が有ります。既にハミルトン伯爵にはエルハイミ殿との婚約について了承を得ておりますゆえ。」



 ぴたっ!



 ティアナと一緒に部屋に戻ろうとしたあたしはさび付いた機械人形のように首だげぎぎぎっと音を鳴らしながらエスティマ様に振り返る。


 「今何とおっしゃりましたのですの?エスティマ様??」


 「ニイサマ、コンナトキニゴジョウダンヲイッテハイケマセンワ!!」


 ティアナ、あたしもだけど言葉がおかしいわよ!?

 同じく機械のように振り向くティアナ。



 「冗談など言っておりませぬ。エルハイミ殿ももうすぐ十四になる。来年には成人となります。そうすれば私と婚姻となっても少しもおかしくはありません!それにあなたのお父様からは娘をよろしくと言われております。もうじき正式に婚約もできます。エルハイミ殿、きっと幸せにして見せます!!」


 普通の女の子ならこれだけで完全に落ちるだろう。

 きっと二つ返事でエスティマ様の胸に飛び込んでいくだろう。



 でもあたしは違うっ!!!



 「兄さまそれは一体どういう事です!?お義父様がそんなことを了承するはずがありません!どんな卑怯な手を使ったのですか!!??」


 食って掛かるティアナ。


 「ティアナ、我が妹とは言えその言葉聞き捨てならんぞ!!私がそんな卑怯な事をする訳無いだろう!!誠心誠意解くとお話をさせていただきおエルハイミ殿のお母様にもすぐにでも孫の顔をお見せ出来ますと宣言したのだ!!二人でも三人でもお孫のお顔をお見せするとな!!!」


 ママン!

 そこに陥落したか!!?


 「だめっ!!エルハイミだけは絶対に渡さないんだからぁっ!!!」


 「しかし私はご両親に了承を得た!所詮同姓の身、ティアナお前ではエルハイミ殿を満足させられないだろうに!!」


 「そんな事無いわっ!!!」



 いや、ナニの満足度よっ!?

 あたしを置き去りに二人はどんどんエキサイトしていく。



 『モテモテね、エルハイミ?』


 「シコちゃん、今は茶化さないでくださいですわ!!」


 二人はにらみ合って視線どうしが絡み合って火花を飛ばしている。

 パパン、ママン一体どういう事よ!?

 大体にあたしはそんな婚約認めないわよ!!?


 「こうなったらティアナ、お前に決闘を申し込む!!どちらがエルハイミ殿にふさわしいか勝負だ!!」


 「いいわ!受けて立とうじゃないの!!エルハイミは誰にも渡さない!!!」



 あ”あ”あ”ああぁぁあぁぁぁっっ!!!!

 どうすんのよこれ!!?



 一歩も譲らない二人はとうとう決闘を始めてしまうのであった!!

   

 

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