第201話8-3初陣

 8-3初陣



 翌日、昼前には森の方にホリゾン帝国の騎士団、聖騎士団が集まっていた。



 既に王城には連絡を入れているが援軍は少なくとも四日はかかる。

 アテンザ様たちがコルニャの防衛部隊もまわしてくれているらしいが到着までにはやはり時間がかかる。

 ホリゾン側の騎士団は見える範疇で既に五百騎はいる。



 「戦か、戦場は久しいな。」



 ゾナーは不敵な笑みをしている。

 

 「ゾナー様、配置完了しております。いつでもご指示を。」


 ラガーさんが報告に来た。

 あたしたちは緊張した空気の中、初めての戦の空気を感じていた。



 「全軍の指示はゾナーに、あたしやエルハイミは援護に。シェルやショーゴは城壁破壊兵器が来たら真っ先にそちらをお願い。」



 ティアナのその宣言にこの場にいる全員が「はっ!」と言って最終伝令を下す。




 あたしたちが配置終了する頃、正午にはまだ早い時間に一騎の騎士がこちらまでやってくる。



 「最終勧告だ!異端者を引き渡せ!!でなければ予告通り貴様らに神の裁きを下す!」



 大声でそう言った騎士はこちらの返答を待つ。



 「受け入れた難民はホリゾンを捨てた。彼らは我が国が難民として受け入れる!既に貴国の国民ではない!!早々に立ち去られよ!!そしてこの件は既に天秤の女神アガシタ様の祝福を受けしティアナ姫が各国に宣言した!」



 大声で返答をするゾナー。

 予想はしていたのだろう、その騎士はさした驚きもせず宣言をする。


 「良かろう、では貴様らを異端者をかばう異教の者として滅ぼさん事を宣言する!我が聖騎士団は女神ジュリ様の名のもと貴様らに神の裁きを下す!」


 そう言って自軍の陣営へと戻って行った。




 「さあ、始まるぞ!弓兵準備しろ!シェル殿、ショーゴ殿も頼むぞ!!」


 「任せて!」

 

 「了解した!!」


 既に戦闘モード、アサルトモードに換装したショーゴさんといつもの倍以上に矢筒を持ったシェルが前に出る。


 『どうするエルハイミ、大型魔法で相手の出頭を崩そうか?』


 シコちゃんが提案してくれるがあたしは首を横にふる。


 「ゾナーから聞きましたわ、聖騎士団は全ての鎧に対魔法処理がされていてほとんどの魔法は通用しないそうですわ。物理的なものでもない限りダメージは与えられないらしいですわ。」


 聖騎士団と言うだけあって戦い慣れしているうえに魔法の対策がしっかりできている。

 後方には魔術団や教団の神官もいるらしいのであちらもしっかりとバックアップはあるだろう。

   

 『そう?じゃあいきなり【流星召喚】メテオストライクでもぶっ放す?』


 そう言えばそれなら通用するな?

 あたしがそんな事を考えているとティアナが話しかけてきた。


 「エルハイミ、向こうが動き出したら【雷龍逆鱗】をぶっ放してやって!聖騎士団にはダメージは与えられないだろうけど威嚇になるわ!」


 「それはいいな、俺もエルハイミ殿の最高奥義魔法とやらは見てみたい。ダメージが無くても威嚇になれば向こうの士気もくじける。頼む。」


 そう言われてあたしはシコちゃんにお願いして【雷龍逆鱗】の準備をする。

 自分でもこの魔法は使えるけど、慣れていないので詠唱が必要になる。

 シコちゃんならそれも不要だしあたし以上に広範囲にこの魔法が発動できる。


 「シコちゃん、お願いしますわ!」


 『威嚇でこの魔法はもったいない気もするけどいいわ、魔力をちょうだい!派手に行くわよ!!』



 ぶおぉぉぉぉんんっっ!!!



 重低音で響く角笛の音に聖騎士団が声を上げて城門破壊の槌を抱えて突撃し始める!!



 『行くわよ!【雷龍逆鱗】!!!』


 シコちゃんがあたしの注入した魔力を使って一気に上空に三つもの魔法陣を作り上げる!

 その規模は以前見た物よりさらに大きく、並列に並んだ魔法陣は突撃してくる騎士団をほぼ全部とらえる!


 そして魔法陣から豪雨のような沢山の稲妻が落ちる!!



 カッ!!


 どががぁあああぁぁぁんんっ!!!


 

 どうやら全員が騎士では無かったようだ。

 雷に打たれ黒焦げになった兵士がちらほらといるようだ!!!



 「おおぅっ!!これがエルハイミ殿の魔法かっ!!『雷龍の魔女』の名は伊達では無いな!!」



 ホリゾンの聖騎士団は流石にその前進の足を止める。

 対魔法鎧を着こんだ者は無事であったようだがそれ以外の者は黒焦げになっており城門破壊の槌を抱えていた兵士たちは全滅していた。



 「弓兵、シェル殿、ショーゴ殿、ど派手に行くぞ!!一斉射撃!前衛をつぶせ!!」



 ゾナーの指示に弓兵が一斉に矢を放つ!

 その矢は数名の騎士を倒したがほとんどの騎士は飛び来る矢を剣で払いのけている。

 

 しかしそんな騎士団にシェルの鋭い矢が届き、地面に刺さった矢は爆発的に隆起して騎士団を馬ごと跳ね飛ばす!!

 見ればシェルはソルミナ教授からもらった土の魔晶石をはめた弓で矢を放っていた!

 次々と隆起した地面に跳ね飛ばされる騎士たち。


 そして人数の固まった所へショーゴさんの遠距離魔法弾が炸裂する!!


 両肩の筒から放たれた魔法の光弾は着弾と同時に派手に爆発して数名の騎士を馬ごと葬り去る!!

 

 慌てたホリゾンの後方支援部隊が弓兵や魔法使いでこちらに攻撃をかけるがあたしやティアナの防御魔法でことごとくそれらをはじく。

 

 投石器もあったらしく大きな岩や致命傷になりそうな大きさの石も飛んでくるがそれらもあたしたちにあっさりと防せがれる。



 『もういっちょ派手な魔法ぶっ放そうかしら?エルハイミ、投石器のあたりに【流星召喚】メテオストライクをぶっ放すわよ!魔力をちょうだい!!』


 シコちゃんに言われてあたしは魔力を注入する!


 『きたきたきたっ!お腹の中に濃くてねっとりした魔力がいっぱい入ってきたぁ!!行くわよ!【流星召喚】メテオストライク!!!』


 シコちゃんが魔法を発動させると上空が暗くなりそこから真っ赤に燃えた岩が出現して炎の尾を引きながら投石器がありそうなところへ落ちていく!!


 ごぉぉぉおおおぉぉっっ!! 


 どっがぁぁああああぁぁんんっっっ!!!



 大きな音がして森ごとその周辺を焼き払い爆発する!!!

 木々はなぎ倒され爆発によるクレーターがそこに出来る。


 既にホリゾンの聖騎士団は撤退を始めていた!

 

 流石にここまで実力の差があれば城壁にとりつくことすらできない。

 後方支援の投石器もあっさり破壊され二十メートル級の城壁は超える事が出来ず、正攻法の城門破壊も失敗に終わる。


 このまま騎士団がいても何もできない。

 撤退は当然の事となっていた。



 「よし、弓兵、シェル殿、ショーゴ殿、撃ち方止め!各班確認を始めろ!!」



 多分確認する必要はないんじゃないだろうか?

 少なからずともこちらには人的被害は皆無のはず。


 とはいえ、餅は餅屋。

 ゾナーの指示に各班からすぐさま確認の報告が上がる。

 予想通りこちらの被害はゼロ。

 矢も何もまだまだ十分にある。



 「圧勝ですな、ゾナー様。」


 ラガーさんが向こうから歩いてくる。

 

 「全く、主たちが味方で良かった。で無ければ絶望していましたな。まさか主たちがここまでの魔法の使い手だったとは!」

 

 参謀のボナパルドさんもやってきた。


 「それだけではないぞ、シェル殿やショーゴ殿の装備、あれではまさしく一騎当千だな。」


 ゾナーはシェルやショーゴさんを見ている。


 初戦はあたしたちの完勝だった。

 向こうの被害はどれだけのモノか分からないけどかなりの痛手になったはずだ。


 森まで完全に撤退していった聖騎士団は既にこちらからは見えないほど下がったようだ。


 「エルハイミ、あいつらかなり後退したみたいよ?森のあの辺にまで下がったみたい。」



 いや、そう言われて分かるのはエルフくらいよ?

 あたしが見てもどのへんだかさっぱり分からない。



 「後退したって言ってもどのへんか全然分からないわよ!森なんか見たってどこもかしこも同じにしか見えないわよ!!」

  

 「えー?大体一キロちょっとの辺の所の枝の揺れがあるところよ!あの揺れ方は大人数じゃないと揺れない動きよ??」



 だから人族じゃわからないって!!



 「一キロも下がったか?ではすぐには攻めてこんな。主よ勝利宣言を頼む!!」


 ゾナーに言われたティアナはぱちくりと瞬きをするがすぐににっこりと笑って大声で宣言する!



 「皆の者!勝利は我らティナの町にあり!!アガシタ様の加護のもと正義は我らにあり!!!」



 そう言って剣を抜き高々と掲げる!!



 『うぅぉぉぉぉおおおおぉぉっっ!!!』


  

 ティアナの勝利宣言に兵士たちが一斉に声を上げる!!


 あたしは張りつめていた息を一気に吐き出した。

 初戦はあたしたちの圧勝に終わった。

 次が来るにしても対策を取ってからくるだろう。

 ゾナーの言う通りすぐには攻めてこないよね?


 あたしはティアナのもとに近寄って歓声鳴りやまぬ中そっと手を握った。

 気丈に構えていたティアナだったけどあたしが手を握った瞬間、他の人には分からないけど汗ばんだその手は小さく震えていた。


 「ティアナ?」


 「大丈夫、あたしにはエルハイミがいるもの!あたしたちがいればホリゾンが来ようとジュメルが来ようとみんな返り討ちにしてあげるんだから!!」


 そう言うティアナだったがまだ握った手は小さく震えていた。

 あたしは優しく微笑んでティアナに言う。


 「大丈夫ですわ。私がいる限りティアナは必ず守って見せますわ!!」


 その言葉にティアナはハッとして手の震えを止めて強く握り返してくる。


 「何言っているの、エルハイミはあたしのお嫁さんになるんだからあたしがエルハイミを守るわよ!!」


 そう言って二人で小さく笑いあう。

 今はこの勝利を笑って祝おう。



 あたしたちはみんなに交じって勝どきを上げるのであった。


  

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