第203話8-5兄妹喧嘩

 8-5兄妹喧嘩



 「決闘だティアナよ!!」


 「受けて立つわ!!」



 

 あたしの取り合いでとうとう決闘にまでなってしまった!?

 あたしは慌てて仲裁に入る。


 「エスティマ様もティアナも落ち着いてくださいですわ!決闘なんて兄妹でそんなことだめですわ!!」


 「しかしエルハイミ殿、私は誓ったのだ生涯あなた一人を愛し、きっと幸せにして見せると!!」


 「エルハイミは私のモノよ!!誰にも渡さない!たとえそれが兄さまでも絶対にダメ!あ、あたしだってその気になればエルハイミに子供産ませさせられるわよ!!」


 大見えを切るティアナ。

 でもどうやってあたしに子供産ませるってのよ!?

 あたしたち女どうしだよ!?


 「ふん、いよいよ錯乱したか!?女のお前にエルハイミ殿を身ごもらせることなどできんだろうに!!」


 「これよっ!!」


 そう言ってアガシタ様から授かった腕輪を示す!!


 「兄さまが引かないなら最終手段よ!たとえわが身が男になってもエルハイミだけは渡さない!!」



 「「ちょっと待て(ですわ)!それだけはやめてくれ(ですわ)!!」」



 思わずあたしとエスティマ様の声が重なる。


 「お前、まさかそんな事に女神様のお力使ったらただではすまんぞ!!?」


 「そうですわ、ティアナが男になるなんて!!私は今のままのティアナが好きなのですわ!!」


 そりゃあティアナが男になれば子供は出来るだろうけど、きっとエスティマ様似のイケメン男子になるのだろう。

 普通の女の子ならそれでもいいだろうけど、あたしは女の子が好きなの!!

 やめて、男に抱かれるなんて考えただけでも鳥肌が立つ。


 「だってエルハイミ!あなたを取られるなんて絶対に嫌っ!」


 「落ち着いてですわ、私はティアナのモノですわ。あの日の誓いはずっと有効ですわ。エスティマ様、わたくしの様な女など吐き捨てるほどおりますわ。どうぞエスティマ様にふさわしい女性をお探しくださいですわ。」


 そう言ってあたしはティアナに寄り添う。

 エスティマ様は一瞬驚いたがそれでもあきらめきれないのか話を続ける。


 「エルハイミ殿、私のどこがいけないのですか?私はあなたをこれほどまでに愛している。もしあなたが私に死ねと言えば喜んで死ねます。大海の真珠を見つけ出せと言えば必ず見つけ出して見せます。私の愛はそれほどまでにあなたを欲しているのです!!」



 歯の浮くようなセリフを・・・・



 あたしはため息をついてエスティマ様に向き直る。


 「それでも私はティアナのモノですわ。もし決闘をしてティアナが敗れるようであれば私は自分で自分の命を絶ちます。それほどまでに私とティアナは離れる事が出来ないのですわ。」


 あたしのその言葉にエスティマ様は絶句する。

 そしてしばしの沈黙。

 エスティマ様の瞳は忙しくあたしとティアナに交互に見る。

 どうやらやっと理解してもらえたようだ。

 

 しかし・・・


 「それでも私は貴女を諦め切れない・・・今までどんな女性に言い寄られても、お付き合いさせられてもあなたほど心躍る女性は初めてだ。決めた!あなたの心が変わるまで私はずっとここにいる!ずっとあなたのそばに仕える!!」


 おいおい、一国の王子が簡単にそんなこと言って良いのかよ!!?

 しかもエスティマ様は将来国王になる確率が非常に高いお人。

 王位継承権の末席のティアナとは訳が違う。


 「エスティマ様、そのような事おっしゃられても私困りますわ・・・」


 あたしがティアナの腕を抱きしめながらそう言った時だった!!



 「申し上げます!ホリゾン軍が攻めてきました!!」



 ナイス!ホリゾン軍!!

 とりあえずこの場はこれで逃げられる!!


 あたしとティアナは踵を返して既に司令塔に行っているゾナーの所へ向かう。

 エスティマ様もあたしたちについて来る。


 * * *


 「ゾナー!状況は!!?」


 「監視班からの話ではどうやらでかいクロスボウでも作っていたようだ。そろそろ森から出てくるぞ!!」


 ゾナーが指さした方を見ると森の出口あたりに丸太一本が丸々矢と化した大きな弓矢が押し車に乗って現れた。

 確かあれは投石機よりずっと危険な奴のはず。

 その破壊力は薄い城壁なら一撃で破壊できるはずだ。


 「ふん、その様なもの我が軍で蹴散らしてくれようぞ!!ゾナー、全軍の指揮を私に!マシンドール部隊を前面に一気に騎士団で撃破してくれる!!」


 わざわざあたしに角度四十五度で白い歯をきらめかせきらきらフォーカスでさわやかな雰囲気を演出するエスティマ様。


 「しかし兄さま!後続の確認が出来ていないのにいきなり突撃してはこちらの被害も大きくなります!ここはまずあの強弓の足止めをするべきです!!」


 「しかしあの距離では向こうが先に仕掛けてくるぞ!!?そうなったら流石のこの城壁もただでは済まないだろうに!!射程はあちらの方が長いのだぞ!!?」


 あたしはそれを見る。


 「シコちゃん、あの辺って開けてる分雨降ったらぬかりますわよね?」


 『そうね、じゃあ魔力ちょうだい。』


 あたしは無言でシコちゃんに魔力を注ぎ込む。

 あたしの意を理解しているようでシコちゃんはその魔力で一気に【高層雲暴雨】の魔法を発動させる。

 すると森の出口あたりにいきなり積乱雲が立ち上りバケツをひっくり返したような豪雨が降り始める!!


 見ると一生懸命に押し車を押していた兵士は泥に足を取られ動けなくなる。

 勿論あのでかい弓矢も車輪が泥に埋まり全く動けない。

 ぬかるみにその後ろに控えていた騎馬隊も右往左往している。

 

 あたしはシコちゃんに追加で魔力を流し込む。


 『ああんっ!エルハイミったら人が魔法使っている時に濃いの追加で注ぎ込むなんて!!もうたまらないっ!!』


 なんか悩ましいこと言いながらその積乱雲が更にひどくなって既に地面は洪水状態!!


 あ、兵士が流されていく。


 

 「・・・・」


 「あー、なんだ、こちらは何もしなくていいだろう、我が主よ、エスティマ様よ?」


 ゾナーのその言葉にエスティマ様もティアナも呆然と首を縦に振る。


 「でもとりあえずあの兵器は危険ですので破壊しておきますわ。」


 あたしはそう言って【流星召喚】メテオストライクで巨大な強弓をプチっと潰しておく。


 大雨で洪水になっているところに隕石が落ちたので更に凄いことになってクレーターがやまない雨のおかげで徐々にに沼?いや、湖クラスになっていく。


 これってこの辺に同じことして堀にでも出来ないだろうか?

 ふとあたしは自然破壊なんのそのでそんな事を思ってしまった。


 「やりすぎ!えげつないことするわね、エルハイミ。でも森が可哀そうだからいい加減こういうのは禁止よ!?」


 シェルにぺしっと頭を叩かれてそう言われる。


 あー、そうですよねぇ~。

 いくら自然が豊かなこの世界でも節度の有ることしないとすぐに荒野になっちゃうもんね。

 反省反省。


 「疲れましたわ。ティアナ私休みたいですわぁ~。」そう言ってまだ呆然とするティアナとエスティマ様の二人からティアナだけを引っ張ってそそくさと部屋に逃げ帰る。



 しばらく呆然とするエスティマ様を残して。

 

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