第167話7-5王子
7-5王子
ティナの町にティアナが着任して二週間が過ぎようとしていた。
「う、うう~ん!良く寝たぁ~。」
「ふみゅ??んんっ?朝ですのぉティアナぁ~??」
あたしは起き上がる。
ティアナを見ると一糸まとわぬ姿が朝の光にまばゆい。
だいぶ大きく育ったそれはプルンと震える。
あたしはにまぁ~としてその揺れを楽しむ。
うん、順調に育っているわね!
毎晩の努力の甲斐よ!!
そんなあたしに気付いたかティアナはジト目であたしを見る。
その視線はあたしの胸へと注がれる。
「なによ、エルハイミだって毎晩あたしがしてあげてるからちゃんと育ってるじゃない?」
うおっ?
ティアナの反撃!?
最近はあたしもティアナに育てられている。
「んっ!」
「ちゅっ!」
軽い朝のキスで二人とも起き上がる。
二人とも一糸まとわぬ姿なのでそそくさと衣服を羽織る。
そろそろラミラさんとサリーさんが来る頃だ。
気を使ってくれているのであたしたちが起きて衣服を羽織るまでは部屋に入ってこない。
「さてと、今日は何だっけ?」
「ええと、午前中に開拓現場の視察と越冬準備の穀物の確保確認、それとティナの町の新産業の着手ですわ。」
意外や意外、ゆっくりできると思ったら着任後の領主としての仕事とこのティナの町をさらに強固にするための課題が山積みだったりする。
今までは砦としての運用だけだったのが町として、そして国元に頼らないでの運営をするための力をつける為にやらなければならないことがいっぱいあった。
そんな話をしていたらラミラさんとサリーさんが部屋に入ってきてあたしたちの身支度を手伝ってくれる。
ティアナは領主然とした落ち着いたドレスを着こんであたしは魔術師のかっこうをする。
朝食をする頃にはシェルとショーゴさんも合流する。
『シェル、今晩からあなたの所行ってていいかしら?この二人毎晩うるさくて寝不足になるわ!』
「そんなに毎晩激しいの!?」
『最近はティアナも襲うようになっているからね、もう毎晩凄いのなんの!!』
こらこら、朝からなんて話してんのよ!!?
まるであたしたちが見境の無い野獣のようじゃない!!?
二人の会話が聞こえたティアナやあたしは赤面する。
まるでこちらの様子を楽しんでいるかのような二人の会話。
全く、こういう話は二人とも大好きなんだから。
そんないつもの朝食を取っていたらラミラさんがティアナに寄って来て耳打ちする。
とたんにティアナは立ち上がって慌ててラミラさんについて出ていく。
どうしたんだろう?
血相変えて??
あたしはデザートをほおばりながらティアナが出て行った扉を見る。
するとサリーさんがあたしに耳打ちしてくれる。
「エルハイミ様、アコード王子がお見えです。」
アコード王子って言ったらティアナの父親!?
「お願いしますわ!」
あたしは慌てて立ち上がり身なりを整えてサリーさんについて行く。
後ろからシェルやショーゴさんもついて来るけどかまわずサリーさんについて行く。
すると南側の元最北の砦の広場にアコード王子率いる第一軍がいた。
数こそ少ないものの五百騎はいる遊撃部隊の端にティアナがいた。
あたしも急いでそこへ行く。
すると何度か王城で見かけたティアナの父、アコード王子が馬から降りているところだった。
あたしはシェルに念話で状況を話し、ショーゴさんに目配せする。
「お久しぶりになりますわ、アコード様。エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンでございますわ。」
あたしは宮廷の礼儀に沿って挨拶し、その場に膝をつきかしこまる。
それにつられてシェルとショーゴさんも一応膝をつく。
「エルハイミ殿か。久しいな?してティアナよ、現状を教えてはくれまいか?」
アコード様はそう言いながらこちらに近づく。
「お父様、お久しぶりです。噂は聞いておりましたが本当にお越しになるとは。」
「まあな、それに久しぶりに末の娘の顔を見るのも悪くなかろう?噂ではここは城壁の町になっていると聞く。それは本当か?」
一瞬アコード様の瞳が細められた。
「そうですわね、立ち話もなんですから中にお入りください。」
そう言ってティアナはラミラさんを呼んで他の騎士たちに休憩できる場所へ案内させる。
そして父親であるアコード様をティアナ自身がエスコートして城の応接間に招き入れる。
「これはずいぶんと改築されたな。こちらは既に最北の砦の北側であろう?」
「はい、お父様、ここは我が配下ゾナーによる新築の城、そして城下町のティナにございます。」
そう言ってティアナは応接間のバルコニーへとアコード様を案内する。
そこから見える景色は城下の広場が一望でき、その向こうには元ホリゾンの砦までの間に出来上がった町の屋根が連なっていた。
「これほどまでとはな。これは全て魔術の所業なるか?」
「全てではありませんがそうなります。」
ティアナはあえてそう言う。
アコード王子に魔術の才能は無かった。
だから自ら遊撃部隊を編成して戦場を駆け巡るのは北陸戦争からのずっと同じスタイルらしい。
前回のホリゾン軍の南下では第三軍を指揮させられ当人は不満だったらしい。
大軍でどちらかと言うと守り優先の部隊、第三軍とはそう言った部隊だった。
結果王位継承第一位の身でありながらその後領内をふらふらとしているとか。
国王陛下もお悩みとは大臣から聞いている。
しかし、そのアコード様がここへ来るとはいったいどういうつもりなのかな?
「お前がこの北の砦に赴任させられたと聞いたときは流石に驚いたぞ。学園卒業後は王都で大人しくしていると思ったのだがな。」
そう言ってちらっとあたしを見る。
「アテンザもそうだったが、我が娘たちは我が強いな。本来なら見合いの話の一つも持ってきたのだが既に伴侶と決めた者がおるか。ガレント家ではたまに同性愛者が出るがまさかお前がな。まあいい。それよりもこの町についてだが・・・」
「お父様、お茶が入りました。まずは一杯いかがかしら?」
アコード様の話半分にティアナは向こうでお茶の準備をしている。
いいのかティアナ?
一応御父上で次期国王なんだけど・・・
「・・・分かった、いただこう。」
そう言ってアコード様はソファーに腰掛ける。
ラミラさんとサリーさんが給仕してお茶を出す。
「さてお父様、目的は何でしょう?」
うわっ!
ティアナ単刀直入すぎ!!
アコード様は静かにお茶を飲んでいる。
そしてゆっくり瞳をこちらに向ける。
「お前は性急な性格は直っていないか。ここへ来たのは元第三皇子ゾナー殿に会いに来た。それと状況によってはお前を王都に返し私がここへ駐屯するつもりだ。」
こちらもこちらでどうやら本音をぶつけてきた。
ティアナは静かにティーカップを置いてサリーさんを呼ぶ。
そしてゾナーをここへ連れてくるように言う。
いいんだろうか?
いきなり次期国王に会わせて。
ハラハラしているあたしをよそにアコード様はとんでもないこと言う。
「エルハイミ殿も美しくなったな、本来なら我が息子エスティマの嫁にとでも思っていたのだがな。」
「なっ!」
「お父様!エルハイミは私のモノです!誰にも渡しません!!」
アコード様は軽く笑ってティアナを落ち着かせる。
「無論無理強いはせんよ。ティアナと共に歩むも良し、その気があればエスティマに嫁ぐも良し、それはエルハイミ殿の自由だ。ティアナもエルハイミ殿と決めたなら今後見合いの話は持ってこんがどうなのだ?」
「お父様、私はエルハイミと共に。」
「アコード様、私はティアナ殿下のお誕生日より殿下に忠誠を誓いし者。私は殿下の剣となり盾になる者。それ以上でもそれ以下でもございませんわ。」
あたしたち二人の思いははっきりとしている。
二人のその言葉を聞いてアコード様はふっと笑った。
「よかろう。ならばこの北の砦は任せよう。あとはそのゾナー殿だが、どうやら来たようだな。」
見ると扉の所にゾナーが立っていた。
ゾナーはこちらに来ると片膝をつき頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。ティアナ殿下に忠誠を誓うゾナーと申します。どうぞ以後お見知りおきを。」
「ふむ、元皇子が私に頭を下げるか?貴殿がそのような人物とは思わなかったが?」
「お戯れを、私は【束縛】ギアスの魔法にてティアナ殿下に忠誠を誓う者。今は殿下に叙勲された一騎士の身分。それ以外に何が有りましょう?」
ゾナーは頭を垂れたまま静かにそう言う。
アコード様は無言で剣を鞘から引き抜く。
そしてゾナーの首筋に剣を当てる。
「先の北陸戦争、忘れたとは言わせんぞ!その恨み今ここで晴らさせてもらってもいいのだぞ!?」
「王子がそれをお望みとあらば致し方ありません。ティアナ殿下短き間お世話になりました。」
そう言って静かになるゾナー。
固唾を飲むあたし。
しばらくそのまま動かなくなる。
しかしアコード様は突然笑いだす。
「ふっ、ふははははははっ!!ゾナーとやら、話を聞こう。」
そう言って剣を鞘に戻しまたソファーに座る。
それを見届けてからゾナーは再びアコード様の前に片膝をつき頭を垂れながら話始める。
「既にご存じの通りホリゾン帝国は秘密結社ジュメルの手の落ちました。我が父ゾルビオン皇帝をはじめ兄ベルクナ、カイン共にジュメルに洗脳されていると思われます。私はこの手でホリゾンをジュメルより取り戻し、ホリゾンを解放しガレント王国に併合していただくことを望みます。」
「それは一旦は国を裏切ることになるぞ?そしてその様な者に民がついて来るのか?」
「それはこのティナの町を見れば問題無き事でしょう。私はティアナ殿下に仕えし者。併合されればホリゾンの血筋は必ずしも必要にならない。新しい統治者が民を思うのであれば民は必然にその統治者についてまいりましょう。」
そのまま押し黙るゾナー。
じっとゾナーを見るアコード様。
やがてアコード様はティアナに向かってこう言う。
「ティアナよ、町が見たい。案内してくれんか?」
「ええ、勿論よろしいですわ、お父様。」
そう言ってティアナはこのティナの町にアコード様を連れ出すのであった。
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