第168話7-6ティナの町

 7-6ティナの町



 ここティナの町は人口が五千人を超える町となっている。


 

 住民のほとんどが元ホリゾン帝国の住民だがこの町に入るにはゾナー率いる砦で厳しい審査が行われる。

 万が一にでもホリゾンの中に潜むジュメル関係者に潜入されると問題だからだ。


 勿論完璧にはいかないだろうからこの町での宗教的な勧誘や神殿の設置は許可をしない。

 こうして少しでもジュリ教やジュメルに関与しそうな団体の入居を制限している。


 町が出来上がってほぼ一年弱、既に各種ギルドの申請が始まっている。


 急ピッチで拡大したので町中は未だごった返している。

 しかし着任したティアナは各事業を見て回り適切な指示を飛ばしたり場合によっては自分で魔法を使って町の整備を手伝ったりしている。

 もちろんあたしもそれに協力しているのでこの二週間で結構顔見知りが増えてきた。



 「お父様、こちらが居住区、そしてこの噴水の広場をはさんで向こうが商店街になります。商店街を抜けると建設中の各種ギルドが有ります。」


 ティアナはアコード様を引き連れて町を案内する。

 まだまだ細かい所は出来ていないが、町の住人が協力し合って町の整備を手伝っている。



 「ほう、小さいながらも活気があって悪くない。しかしホリゾンの人間が圧倒的に多いな。」  


 「はい、帝都から避難してきたものを中心にゾナー配下の親族も来ておりますので。」


 ホリゾンから来た住民は民族衣装的なものを着込んでいる。

 なのですぐにそちらの国の関係者とわかってしまう。


 ただこの二週間彼らに触れてみてわかったのは彼らは既に国を捨てたという考えが強い。

 身の危険を感じたり迫害を受けたものが大半だ。

 なので新天地で一からやり直そうと考えているものが多い。



 「統治に関しては抜かりは無いと言う事か、ゾナーよ?」


 「はっ!それに関しましては厳しくしております。ここにいる者は既にホリゾンの民であることを捨てております。我らはティナの町で新たな人生を始めるつもりでおります。それゆえティアナ殿下の下仕えたいと思っております。」


 アコード様はゾナーを一瞥しティアナに向き直る。

 噴水を見てからその向こうの商店街を見る。


 

 「ティアナ、商店街が見たい。それとギルドと言っていたがどのギルドが申請をしている?」


 「ギルドに関しましては冒険者ギルドと貿易ギルドが申請をしております。ともにコルニャより来ております。」


 アコード様は「アテンザか・・・」と言って歩き出した。

 あたしたちはそれについて歩く。



 噴水を超えると人がぐっと増え活気に満ちてきた。

 まだまだ小さいが商店街だ。


 アコード様はその様子を見ながら驚く。

 ほぼほぼ生活必需品の店は立ち並んでいながらそれ以外の店もすでに出来上がっているからだ。

 それは武器屋であったり防具屋であったりと。


 「ふむ、既にここまで準備が進んでおるか?今の砦の兵士はどのくらいおる?」


 「はい、ガレント側二百、ホリゾン側四百の兵が控えております。」


 「マシンドールは?」


 「オリジナルと補佐四体、量産型が二個中隊で合計二十三体おります。」


 アコード様はふむと唸ってしばらく考え込む。

 そしてもう一度商店街を見る。

 

 「それだけの兵と無詠唱魔法の使い手が二名か。しかも『雷鳴の魔女』であるエルハイミ殿も一緒か。聞き及ぶ話では究極魔法【雷龍逆鱗】を扱うとか、それは誠か?」


 アコード様はあたしを見ながらティアナに聞く。


 「はい、間違いございません。我妻エルハイミは一騎当千以上の力を備えております。」



 やだ、ティアナったら妻だなんて!!



 あたしはぽっと赤くなってしまう。


 「ふっ、妻か。まあ良い。しかしそうすると既にここは我がガレント第二軍五千以上の戦力を保有することになるな。いや、そのマシンドールオリジナルがいるのであればそれ以上か?敵にするには恐ろしいな。」


 アコード様はそう言ってゾナーを見る。

 そしてふっと笑う。


 「ゾナーよ、ここの軍を貴様が指揮しろ。ティアナは戦の経験がない。魔術やその支援は出来ても兵の動かしは出来んだろう?当面はホリゾンも手を出してこんだろう。それにいくら注意していても情報は洩れる。しかしここの戦力は私が見ても相当なものになりつつある。ギルドが出来上がれば冒険者も傭兵として雇い入れられる。まさしくガレントの北方防衛の要となったここティナの町、守って見せろ!」


 「はっ!仰せのままに!!」


 そう言ってゾナーはその場に膝をつき頭を垂れる。

 アコード様は愉快そうな顔をしている。

 そしてまぶしそうにこの町をもう一度見渡す。


 「いい町だ。ティアナ、ここには美味い酒はあるのか?」

 

 「北の強い酒が有ると聞きます。私は残念ながら強い酒は口に合わず飲んでおりませんが。」


 「ならばゾナーよ、貴様が付き合え。」


 アコード様はニヤリとしてゾナーを見る。

 ゾナーも口元だけ笑っている。


 こりゃあ、そっちの方でも試されるか?



 「ティアナもう少し町が見たい、建設中のギルド、それと開拓している農場なども見たい。」


 「わかりました。ではこちらに。」


 そう言ってティアナは再びアコード様を案内始める。

 そしてあたしに目配せをしてくる。


 あたしは近くにいた人に急ぎ北の蒸留酒を買い込み今晩の宴の準備をするよう指示をする。


 

 『すっかり世話焼き女房ね、でもこれで今晩のお楽しみは無しになったわねエルハイミ。』


 何が楽しいのか今までずっと静かだったシコちゃんが話しかけてくる。


 「いいですわよ、その分後でたっぷりとかわいがってもらいますわ。」


 『言うようになったじゃない。ところで気付いた?ティアナの父親の鎧とか、あれ全部魔法の宝具よ。』


 やはりそうか、アコード様だけではない、アコード様率いる第一軍全員がそれっぽい鎧や武器を持っていた。

 数こそ少ないけれど魔法の宝具で身を固めた軍隊なんてかなりの脅威にしかならない。

 もし認められなければ実力行使するつもりだったのか?



 ゾナー君、危なかったよ君。



 そんな事を想いながらあたしは後をついて行く。

 はぁ、今晩はティアナとゆっくりできないかぁ。




 ため息をつきながらあたしは魔法使いの帽子のゆがみを直すのだった。  

 

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