第166話7-4ガレント最北の町

 7-4ガレント最北の町



 「お帰り!エルハイミ!!」



 ゲートを抜けるとなんとティアナが待っていた。


 ティアナはあたしに抱き着きいきなりキスしてくる。

 やわらかく温かいその感触にあたしは驚きより愛おしさがこみあげてきてしまう。



 軽い口づけだったのにティアナをものすごく感じる。



 「エルハイミのお爺様の事、ご愁傷様です。あんなに元気だったのにね。」


 「ティアナ、ありがとうですわ。それについては悲しいけど驚く話もありますのよ。でもその前に、よく私が今戻るのが分かりましたわね?」


 「だって、今日は戻ってくる日だって聞いてたから朝からここでずっと待ってたのよ。」


 恥ずかしそうにそう言ってくれるティアナにあたしはきゅんとしてしまった!


 「ティアナ・・・」


 「エルハイミ・・・」


 思わず手を取って近付くあたしたち。



 『はいはい!そこまで!!あとは夜のお楽しみに取っておきなさい!!後ろがつかえてるわよ!!!シェル、これはどういう事?バカップルなんてもんじゃないじゃない!!?いっそこの甘ったるい空間ごと爆裂魔法で吹き飛ばしてやろうかしら!!?』


 「だから言ったじゃない、相当なバカップルだって!」


 「主はティアナ殿のことになると見境が無いからな。」



 な、何よ!?

 人を発情期みたいに!!

 十日も会っていないんだもん、ティアナ成分が不足しているのよ!!



 あたしはちょっと膨れてティアナに抱き着く。


 「少しくらい良いじゃないですの!十日ぶりに会えたのですから!」


 ティアナは涙目のあたしをやさしくよしよしと頭をなでてくれる。



 やっぱりティアナは優しいわね!

 心の癒しよ癒し!



 『全く、そんな事よりこっちについたらプライベートラインの確認するのじゃなかったの?ホーネスが今頃はメッセンジャーの前で待っているのじゃない?』


 「あっ!」


 すっかり忘れていた。 

 そう言えばこっちについたらテストで送受信してみるんだった。


 「ティアナ、ごめんなさいとりあえずお父様との約束が有るので一旦部屋へ行きましょうですわ。」


 「うん、そうね。私とエルハイミの愛の巣・・・い、いえ、お部屋へ行きましょう!!」


 そう言ってティアナはあたしたちを部屋へと案内する。



 * * *



 「ティアナこれは・・・」


 案内された部屋は応接間に寝室、浴室に控室と王城のティアナの部屋よりすごかった。


 「うん、ゾナーが主の部屋だから立派なものが必要だろうと準備してくれたのだけど、まさかここまでとはね。でもおかげでいろいろと準備できたわ。ラミラとサリーにもお願いして町で買い物してきたの。ちょっとホリゾンの民族色が強いけどこれはこれでこの北の地域にはあっていると思うの。どうかな、エルハイミ?」


 一つ一つ案内されたこの部屋は北欧風の飾り付けと暖炉がよく似合う色合いで調整されていた。

 一緒にソファーでゆっくりとぬくぬくするのに最適なイメージはティアナの人柄を表しているようだ。


 「素敵ですわ!あの暖炉の近くのソファーって二人用ですの?」


 「うん、エルハイミとゆっくりできるように背もたれやひじ掛けが大きめなのを選んだの。」


 いいなぁ、一生に本読んだり抱き着いたり、そして暖かな暖炉を背景に・・・むふっ♡


 「何にまにましてるのよ?それよりそれよりメッセンジャーは?」


 おっと忘れるところだった。

 シェルの突込みで我へと返る。

 ティアナが準備してくれたあたしたちの部屋につい夢中になってしまった。


 あたしは良さそうな所をきょろきょろと見渡すと壁際の本棚の前にテーブルが有った。

 そこにはすでに王都と此処とのメッセンジャーの魔法具がおかれていた。

 テーブルのスペースにはまだ余裕が有るのでその横に置く。

 色合いもプライベートは青っぽい色で公用は銀色っぽいので見分けついて申し分なし。


 「ティアナ、ごめんなさいちょっと実家に連絡を入れますわ。少し待っていてくださいまし。」


 「お義父様に連絡するの?あ、あたしも何か言った方が良いのかな?」


 なんか緊張しているティアナ。

 あたしは微笑んで大丈夫ですわ、こちらについた連絡だけですわと言って魔道具の起動を始める。


 そして無事北の砦に着いた旨を報告してメッセージを送付する。

 しばらくすると向こうで受信済みのマークが出てすぐにこちらにメッセージが届いた。


 あたしはそのメッセージを開封する。

 すると魔道具の上にうっすらと小さなパパンがバストアップで浮かび上がる。


 「エルハイミ、無事到着したので安心している。このメッセンジャーはすごいな。これで何かあるたびに連絡が取れる。お父さんは少し安心したよ。と、なんだいお前?    あらあらああら~ほんと凄いわねぇ。ティアナちゃんそこにいる?エルハイミももう子供産める体になったから既成事実作って孫作ってもいいわよ!お母様、孫の顔見れるの楽しみにしてますよ~。   ユ、ユリシア!エルハイミにはまだ早いってこの前話したじゃないか!? エルハイミ、早まるんじゃないぞ、落ち着け、おちつ・・・ぶつっ!」


 あ、時間限度だ。


 このメッセンジャー最大でも三十秒が限界なのでどうしても長くなる場合は数回に分けて送らないとだめなんだけどプライベートの方は容量が少ないので三十秒枠一回分しかありません。

 とりあえず送受信テスト終了。


 「エルハイミ、なんかお義父様荒れていたようだけど、大丈夫なの?」


 「ええ、大丈夫ですわ!お父様が何言ってもお母様が同意してくださったのでお父様には抗議する権限が有りませんわ!」


 あたしのはっきりした物言いにティアナは抱き着いてくる。

 

 「じゃあ、私たちの事は認めてもらえたのね!!うれしい!エルハイミ!!」


 「ええ、ティアナ、私たちはずっと一緒ですわ。」


 「エルハイミ・・・」


 「ティアナ・・・」


 見つめあう二人。

 自然と顔が近づく。



 『はいはい、またまたごめんなさいね!とりあえずやることやってから夜楽しみなさい!!本当にこの子らったら!!』


 「ね、エロハイミでしょ?ほんと最近は所かまわずなんだから。」



 二人の邪魔が入る・・・

 せっかくいい雰囲気になりかけてたのに。



 「んんっ、それじゃとりあえず新しくなった砦の案内をするわ。みんなついてきて!」

 

 顔を赤らませてティアナは言う。

 ふう、お楽しみは夜までのお預けかぁ。


 あたしたちはすごすごとティアナの後について行く。


 * * * * *


 驚いた。


 いや、本当に驚いた。

 なにこれ?



 北の砦とホリゾン側の砦が連結され城壁に囲まれた部分は町になっていた。


 そして北の砦のすぐ前にあるここは殆ど新城と言っていいほどの大きさのある建物だった。

 あたしはてっきりティアナの部屋を中心に北の砦を増築したくらいに思っていたけどそれは大間違い。

 これは既にお城サイズの建築物だ。

 しかも城のすぐ下は広場になっていてその向こうは町になっている。

 

 「エルハイミ殿戻られたか!どうだこの町は!?我が配下の魔導士たちが日夜ゴーレムどもを使って急ピッチに仕上げた城だ。万が一ホリゾンが攻めてきても元俺の砦側が第一次防戦を行い城下町が敵の進行を妨ぎ城前広場で迎え撃つ事が出来る。この地域を迂回しようにも西は山岳、東は川が流れている。そうそう簡単には侵攻できない。まさしく要の場所だ!」

 

 胸を張って言うゾナーはご機嫌だ。

 

 「ホリゾンや近隣の村の連中も集まっている。既に登記した住民だけでも五千人を超えてる。ちょっとした町になったぞ!主よ、エルハイミ殿も戻られたし、いよいよここの領主として名乗りを上げるべきではないか?皆、主の領主としての着任の宣言を待っている。」



 あたしはゾナーを見る。

 こいつ・・・



 「今度はティアナをここの領主に祭り上げて王国気取りですの?ゾナーあなた何処までティアナを巻き込めば気が済むのですの!?」


 イラつくあたし。

 しかしゾナーは真面目な顔でこう言う。


 「確かに主には表立って宣言をしてもらいこの地を統治してもらう。しかしそれに異を唱える事はここと、そしてガレントと事を起こすという事になる。既にここの情報はホリゾンにも行っているだろう。ジュメルの連中が動くにもこの規模ではゲリラ戦は通用しない。確固たるこの要石の町が当面両国の動きを止める。その間にここは力をつけるのさ。どうだ悪くは無いだろう?」


 なんかまたまたゾナーの思惑で動いているみたいだけど言っている事には一理ある。

 ガレントの傘下ではあるけど立ち位置的にはノルウェンに近いかもしれない。

 しかも王族の姫が統治する町ともなれば人気も出るし新しいこの町はホリゾンとガレントの間に有る交流の町として栄えそうだ。

 当然ここに侵攻するにはそれ相応の大義名分がなければ手出しができなくなる。

 ガレント側もティアナが無詠唱の使い手でマシンドールオリジナルマスターともなれば絶対的に保持したい戦力。

 はっきり言って下手な軍隊よりよほど役に立つし安心できる。

 もし派閥でティアナを下ろそうとしても今その名声を手に入れればそうそう手出しもできない。


 なんか気に入らないけどゾナーの言う事がここを安定発展させるのに一番いいかもしれない。


 「ゾナー、あなたって人は・・・」


 「エルハイミ殿、俺は主に忠誠を誓った。だから主が不利になるような愚は起こさん。信じろとは言わんが試してみる価値はあると思うぞ?」


 悔しいけど今はゾナーの言う通りかもしれない。

 あたしはため息をついてティアナを見る。


 「まあいいわ、あんたの考えに付き合ってあげる。でも分かっているわよね?」


 「ああ、勿論だ。それより主よ、就任と同時にこの町の名を決めてもらいたい。」


 「な、名前たって~。エ、エルハイミなんかいい名前ないかな!!?」


 いきなり振られてあたしは驚く。

 

 「え?ティ、ァナァ??」


 「ティナ?ティナの町??う~ん、悪くない響きね!!流石エルハイミ!!」


 「ほう、流石エルハイミ殿。悪くないセンスだな。」


 え?

 ええっ??


 

 * * * * *



 翌日ティアナの着任の宣言とこの町の正式な名前ティナを宣言した。


 式典の間あたしは魔導士の格好をさせられて凛々しい甲冑姿のティアナの横に控える。

 城の広場に集まった住民や騎士たちは歓声の中ティアナとこの街の新しい名を祝った。


 いいんだろうか、本当にこんな名前の決め方で・・・


 

 あたしは遠くの空を見るのだった。 

 

  

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