第124話5-30お父さん
5-30お父さん
「お父さんはエルハイミを嫁に嫁がせる事は認めません!」
パパンはかたくなにその意志表示をしている。
あたしはこめかみを抑えつつ、パパンに話をする。
「お父様、一体どこの誰からどういった話を聞いたのか知りませんが、私は嫁に行く気などさらさらありませんわ!何を勘違いしているのですかしら!?」
するとパパンはまじまじとあたしの顔を見る。
じ~っと。
そしてしばらくしてにこやかに抱き着いてくる!
「そ、そうだよなぁ、まだエルハイミは嫁に行くには早すぎるよなぁ!!よかったよかった!!」
「わきゃっ!!お、お父様放してください!皆が見ていますわ!!」
全くこの親父は!!
気持ちはなんとなくわかるけど、時と場所をわきまえてもらいたい。
抱きかかえられてみんなの前でくるくる回っていたりする。
「あらあらあら~、あなたそのくらいにしてあげて、エルハイミが涙目になっていますわよ~。」
「おお、これはすまんすまん。しかし、エルハイミも大きくなったなぁ~。お父さんうれしいような悲しいような、ううっあと数年したら本当にどっかに嫁いじゃうんじゃないか??いいんだぞずっと家にいても!!」
それはそれで問題が有るような気もするけど、今は黙っておこう。
「それで、エルハイミはいつまで家にいられるんだ?」
「すみません、ジーナの杖の回収が目的だったので明日にも王都に戻りボヘーミャに戻りたいのですが。」
するとパパンでなくティアナが乗り出してきた。
「お、お義父様!戻るにはまだ余裕があるので二、三日滞在をお許しいただけないでしょうか!?」
「ティアナ?」
「エ、エルハイミもそんなに急がなくても目的の杖は手に入ったし、たまには実家でゆっくりするべきよ!わ、私もお義父様やお義母様にいろいろとお話があるし!」
だから何の話だよ!!
「至高の杖」は確保できてもまだ休眠状態。
これでは使えないからそれを目覚めさせる方法を考えなきゃならないのに。
できればボヘーミャに戻っていろいろと研究して一刻も早く解決方法を見つけ出したいんだけど。
パパンを見るとものすごくうれしそうだ・・・
「おおっ、ティアナ殿下勿論ですとも!エルハイミも少しはゆっくりしていきなさい。」
ふう、仕方ない。
あたしは諦めて実家で数日滞在することを決意する。
そしてふとあることに気付く。
「そう言えばササミーの姿が見えませんがどうしたのですかしら?またチョコレートのお願いをしようと思ったのにですわ?」
「あらあらあら~、言ってなかったかしら~?ササミーもう少しで赤ちゃん生まれるのよぉ~!」
「はいっ!?」
あたしの間抜けな声が響いた。
* * * * * * *
「サ、ササミーはここですの!?」
あたしは教えられた部屋に来ていた。
「エルハイミ様、すみません。今手が離せません。お下がりください!」
そう言ってエルザメイド長はあたしがこれ以上部屋の中に入るのを制する。
見るとカーテンの向こうで「ひっひっは、ふー!」と荒い息が聞こえてきていた。
「エルハイミ様、もう少しで生まれそうなんです。」
ササミーの同僚のエヴァがあたしに状況を説明してくれる。
「エヴァ、もう少し詳しく教えてくださいましな、誰が父親なのですかしら?まさか、未婚の母なんて事は無いでしょうね!!?もしそんな無責任な男がいたら私がどんな手を使ってでも責任取らせますわ!!!」
ふんっ!と唸るあたしにエヴァは小さく笑う。
「大丈夫ですよ、エルハイミ様。ササミーはちゃんと結婚して子供を授かったのです。お相手はヨバスティン。今隣の部屋で神様にお祈りしてますよ。」
なんと!
お相手はヨバスティンだったのか!?
あ、そう言えば前に実家に帰った時も厨房で乳繰り合っていたよな・・・・
あたしは大きく息を吐いた。
そして先にヨバスティンに会ってきますと言って隣の部屋に行く。
部屋に入ると何やらぶつぶつと言っているヨバスティンがいた。
両手を合わせ、何かに祈っているようだ。
「女神エルハイミ様、どうかササミーにお救いの手を。どうか母子共に何事もなく出産が済みますようにそのご慈悲を!!!」
「誰に祈っているのですか?ヨバスティン!?」
「えぇ?えええっっ!!!!?エ、エルハイミ様ぁ!!!?」
目の下にクマを作ったヨバスティンが驚く。
あたしに声をかけられるまで全く気付かなかったようだ。
あたしはヨバスティンの横に座る。
「おめでとうございますですわ。でも結婚したことくらい知らせてくれてもよかったのにですわ。」
「すみません、エルハイミ様。ササミーがエルハイミ様に忠誠は誓うのに私と結婚したことで誤解されてはとご連絡を控えさせていただいていました。」
「全く、ササミーはですわ。でも、今は頑張ってもらって元気な赤ちゃんを産んでもらわないとですわ!」
「はいっ!エルハイミ様がご降臨なされたのです、きっと元気な子が生まれるでしょう!」
あたしは関係ないのじゃと思いながらも隣の部屋を見る。
すると、赤子の鳴き声がしてきた!!!
「ヨバスティン、おめでとうですわ!!」
「あ、ありがとうございますエルハイミ様!!」
隣の部屋の扉が開いてエヴァがあたしたちを呼びに来る。
「エルハイミ様、ヨバスティン、生まれました!」
あたしたちはさっそく隣の部屋に行ってササミーたちの様子を見る。
お湯で洗われた赤ん坊は布にくるまれササミーの横に寝かされている。
まだ汗がきらめくササミーだがうれしそうな顔をしている。
「ササミー、よく頑張った。」
「ヨバスティン・・・これでエルハイミ様を支える使徒が増えたわ・・・・って!エ、エルハイミさまぁっ!!!!?」
「ササミー、お疲れ様。そしておめでとうですわ。」
あたしはそう言って赤ん坊を見る。
少しヨバスティンに似ているかな?
可愛いなぁ。
赤ん坊は今はすやすやと眠っている。
「ヨバスティン、女の子です。おめでとう。」
エルザさんが手を拭きながらこっちへ来た。
「ふう、流石にこの年になるときついですね。もうそろそろこの役目も誰かに変わってもらわなくてはですね。」
そう言うエルザさんも珍しく笑顔だ。
エルザさんはあたしや弟たちの出産も手伝ってくれた大ベテラン。
いつもはメイド長として苦虫を噛み潰したような顔をしているけど流石にこの時だけは優しいおばあちゃん顔だった。
「ササミー、とにかく今はゆっくり休んでくださいな。またあとできますわね。」
あたしはそう言って一旦この場を後にする。
* * * * * * * * *
「そうか、無事生まれたか。この屋敷もしばらく賑やかになるの。」
そう言って爺様はほっほっほと黄門様笑いをしている。
「そ、それでですね、お義父様、お義母様きっと幸せにして見せますからエルハイミを私にください!!」
おい、そこ何の話している!?
ティアナはあたしの両親捕まえて何やら話し込んでいる。
「ティアナ殿下どうぞ落ち着いてください!!」
「あらあらあら~私はいいと思うけど、孫の顔は見たいわねぇ~。あなたどう思う?」
「い、いやそれはまだ早い話であってだな・・・」
一体どういう会話をしているんだ?
あたしは頭痛がしてきた。
と、あたしのもとに近寄る小さな影二つ。
「ね、姉さまお忙しいのですか?」
「姉さまぁ、また遊んでよぉ。」
バティックとカルロスが我慢できなく寄ってきた。
「ぬっ、主よ、忙しいなら俺が相手しているが?」
ショーゴさんは名乗り上げてくれるが弟たちはショーゴさんの風貌におびえている。
そしてあたしの後ろに隠れる。
悪い人じゃないのは今までの行動でわかっているけど確かに見た目はちょっと強面だし子供には好かれにくいんじゃないかな?
弟たちの頭をなでようとしたショーゴさんの手が宙を漂う。
もしかしてショーゴさんて子供好き?
「エルハイミぃ~チョコレートはぁ??」
マリアが飛んできてあたしの髪の毛を引っ張る。
「チョコレートはだめですわ。作ってくれる人が今は動けませんわ。」
「ええ~!そんなぁ~!!」
ぴこぴこっ!
アイミがマリアに無理を言ってはダメ!とか言ってる。
チョコぉ~とか言ってマリアはあたしも周りを飛び回っている。
それを見て面白がっているバティックとカルロス。
「ですから魔力注入をして強制的に活性化をすれば目覚めるのではないでしょうか?」
「ふむ、しかし受け付けなかった場合はどうかね?」
アンナさんやマース教授は向こうでいろいろと討論している。
そしてあたしの報告を受けた爺様はロクドナルさんを呼び寄せておもむろに将棋盤を取り出している。
「ロクドナル殿、どうじゃ一手やってみんかね?」
「おお、良いですな!しかしイーガル殿、手加減はしませんぞ!」
「うむ、望むところじゃ!」
わいのわいの。
そんな光景を見ながらあたしは思う。
日本じゃないけど盆と正月くらいは実家に戻ってきた方が良いのかなと。
前世では最後方は忙しくて全然実家に帰っていなかったもんなぁ~。
みんなでわいわいするのも悪くない。
あたしは気持ちを切り替えて弟たちを呼ぶ。
「それでは今日は思い切り遊んであげますわよ!」
バティックとカルロスが大喜びしたのは言うでもない。
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