第123話5-29実家

5-29実家



 衛星都市コルニャから衛星都市ユーベルトへは直接向かえば大体三日で着く距離だ。

 あたしたちは馬車に揺られユーベルトの街についていた。


 

 「先に飛ばしておいた伝書鳩はもうハミルトン家にはついているでしょう?」


 「そうですわね、二日もあれば届くはずですからもうついているはずですわ。」


 「エルハイミ~、またあのチョコレート食べたい!!」


 マリアがあたしの方にとまってもみあげの髪を引っ張る。

 

 「今回は杖の回収ですから時間が厳しいですわね。一応ササミーにはお願いしますが間に合わなかったら諦めなくてはだめですわよ、マリア。」


 「ええっ!そんなぁ~。」


 「まだ入学式まで時間もあるし、数日は大丈夫よ。あたしもエルハイミのお義父様、お義母様にいろいろとお話があるからちょうどいいわよ!」


 なんの話だ、ティアナ?

 どうも先日アテンザ様の所でいろいろあってからティアナがおかしいのだけど、そんなお年頃?

 

 ふと窓の外を見るともう実家が見え始めていた。

 あたしの実家は街から少し離れた丘の上にある。

 近所はぽつりぽつりとしかなく、結構閑静な場所だ。

 馬車は大門を通り玄関の所で止まる。


 扉を開けるとみんなが出迎えてくれていた。

 わっとみんなが声を上げる。


 「よく来たな、待っておったぞ。」


 「あらあらあら~お帰り~エルハイミ。」


 「「姉さま、お帰りなさいませ!」」


 ママン、爺様に双子の弟バティックとカルロスが出迎えてくれる。

 

 『お帰りなさいませ、お嬢様。』


 屋敷の人たちも出迎えてくれる。


 「ただいまですわ!皆さんごきげんよう!」


 おや?

 そう言えばパパンの姿が見えない。


 「お母様、お父様は?」


 「あらあらあら~、お父様はお仕事でまだお戻りにならないの~。明日には戻ってくるわぁ~。」


 相変わらず忙しそうだな。


 「お、お義母様ご無沙汰しております。ほ、本日はお日柄もよろしく~。」


 「あらあらあら~、ティアナ殿下も大きくなって~。いらっしゃいませ。」


 「は、はいっ!」


 なぜそこまで緊張するティアナよ?

 その後他の人も挨拶をかわしていく。


 「初めまして、ショーゴ=ゴンザレスと申します。主には命を救われ大変感謝しております。」


 ショーゴさんが挨拶すると爺様が彼を見る。


 「ふむ、ロクドナル殿とはまた違った、別の修羅場をくぐっておるよううじゃな?」


 「ええ、まあ、ほどほどに。」

 

 「あららあら~、主って言ってましたけど、もしかしてエルハイミの事かしら~?」


 「はい、主に生涯忠誠を誓うものです。」


 するとママンはあたしの方を見てとんでもないことを言った。


 「あらあらあら~そうするとエルハイミちゃんが男の人を連れて帰って来たって事かしら~?もう孫の顔見れるのねぇ~。」


 ざわっ!!!

 

 なんつーこと言うのよママン!!!


 「エ、エルハイミ!私と言うものがありながらショーゴといつの間に!!?」


 「エルハイミちゃん!駄目です!!ショーゴさんはだめです!!不毛です!!」


 ざわざわざわ!!!


 「お母様っ!!なんてこと言うのですの!!ショーゴさんはそんなんじゃありませんわっ!!」


 「あらあらあら~、エルハイミもお年頃ね~、隠さなくても大丈夫よ~お父様にはお母様が上手く言っておくから~。」


 おいこらママン、余計に話をややこしくしないでくれ!!!


 「そ、そんなお義母様、私ではなくショーゴを認めるのですか!?私こそエルハイミにふさわしいのに!!」


 「そうですユリシア様!ショーゴさんにはその、つ、ついていないんです!お孫さんの顔を見ることは出来ないのです!!」


 「あらあらあら~そうなのぉ~?それは困ったわねぇ~。でもティアナちゃんでも孫の顔は見れないのじゃないかしらぁ~?」


 「うっ!そ、それはそのうち魔法で何とかして見せます!!」


 あ、あかん、完全に流れが持っていかれてる。

 このままじゃ収集がつかなくなる!!


 「あらあらあら~そんな魔法もあるのねぇ~?流石ボヘーミャ、進んでいるわぁ~。」


 ママン、そんな魔法はありません!


 「あらあらあら~、で、結局エルハイミはだれを選ぶの~?」


 いきなり振って来たよこの人!!


 「私はまだ成人もしていませんわ!ショーゴさんは私の従者、ティアナには私が忠誠を誓った人!今はそれだけで結婚なんてまだ考えてもいませんわぁ!大体にして私はまだ子供を産める体じゃありませんわ!!!」


 はぁはぁはぁ、肩で息をするあたし。

 もう何が何だか、みんな好き勝手に騒ぐものだからあたしもその毒気にあてられた。


 ん?

 今あたしなんかものすごく恥ずかしいこと言っちゃった??

 するとティアナがちょっと残念そうに言う。


 「そう言えばまだ十一歳だったわね、エルハイミって。じゃあ、まだ来てないのかぁ・・・」


 「エルハイミちゃん、ひとにはそれぞれの違いがあります。焦る事は無いんですよ。」  

   

 アンナさん、そんな可愛そうな人を見るような目で見ないで!!!

 

 「あらあらあら~大丈夫よ、エルハイミ。お母様もあなたと同じころだったからきっともうすぐ来るわぁ~。」


 いえ、面倒なので遠慮したいんですが!!!

 

 「ま、なんじゃ、立ち話もなんじゃから中へ入ろうかの。」


 一人冷静な爺様が建設的なことを言っていた。



* * * * * * * * *


 「と、いう事でエルハイミちゃんがジーナさんと言う方からいただいたその杖が『至高の杖』の可能性があり、その確認と回収が今回の目的です。」


 今は応接室でみんなでお茶を飲みながらアンナさんの説明を聞いている。

  

 「もしそれが『至高の杖』で無い場合はすぐに他の方法を考えなければならないのだが、残念ながらそれは非常に難しい事になるだろう。」


 マース教授はそう言ってあたしを見る。

 あたしはうなずき先ほど自室から持ってきた箱を差し出す。


 丁寧に箱詰めされたそれは実に六年近くぶりに開ける思い出の品、ジーナさんに餞別でもらったあの杖だ。

 あたしはゆっくりとそれを開けてその杖を取り出す。

 そしてあたしはその杖の力を今はひしひしと感じていた。


 「では。」


 アンナさんがそう言い心眼を開く。

 あたしも同調をして感知魔法を発動させる。


 そして見たものは・・・・


 寝てる?


 いや、何この感覚?

 寝てる?

 そうあたしは感じている。

 マナを見ても存在感はすごいけど全然活性化していない!?


 「あ、アンナさん・・・これって??」


 「エルハイミちゃん、多分同じものが見えていると思います。そうこの杖は・・・」



 「「寝てる!?」」


 

 二人の声が見事に重なる。

 マナの存在自体はすさまじいし、魔力も多分相応に容量が大きいと思う。

 しかしそのすべての状態が「休眠」状態になっていると言っても過言ではない。


 「エルハイミちゃん、これ多分間違いなく『至高の杖』ですね。」


 「はい、私もそうは思いますけど・・・」


 「どういうことかね?」


 マース教授がたまらず聞いてくる。


 「はい、まずこれは間違いなく『至高の杖』でしょう。しかし『休眠状態』と言ったらいいのでしょうか、保有マナや魔力容量は凄まじいのですがその活動を全くしていない状態です。」


 あたしはジーナさんが彼女が扱えなかったと言っていたのを思い出す。

 でもそれって、休眠状態だったからじゃないだろうか?

 

 「でも、そうするとどうしたら目を覚ますのよ?」


 ティアナがもっともな質問をしてくる。

 しかしまだ誰もその答えを持っていない。


 「殴れば目覚めるのじゃないか?我が主よ。」


 ショーゴさんが変な意見を言う。


 「ショーゴさん、そんなことで目覚めるなんて事・・・」


 

 バンッ!!


 いきなり扉が開く!?


 「エ、エルハイミ、エルハイミはいるか!!?お父さんは認めないぞ!!!お前を嫁にやるなんて事!!!!!」


 汗をかいて必死な形相のパパンがそこにいた。



 ああ、ただでさえ今面倒なのにまたややこしい人が入って来たよ。

 あたしは大きなため息をつくのだった。


  

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