第111話5-17ウィルソン家

5-17ウィルソン家


 アテンザ様が嫁いだウィルソン家は衛星都市の最北コルニャを治める侯爵家だ。




 アテンザ様はそこの現当主フリッタ=ボーク・ウィルソン侯爵のもとへ昨年嫁いだばかりだ。

 フリッタ侯爵も結婚と同時にその現当主の席を受け継ぎ、いろいろと忙しい人と聞く。

 

 そんな侯爵を手助けしていると聞くアテンザ様は独特な手腕でこのコルニャを治める手伝いをしていると聞く。


 

 でだ、あたしたちは今そのフリッタ侯爵と面会している。



 「フリッタお義兄様、お初にお目にかかります。義妹のティアナ=ルド・シーナ・ガレントです。以後どうぞよろしくお願いいたします。」


 「どうですフリッタ?我が妹の可愛らしさは!もうこの上なくかわいいでしょう!!?」


 見た感じ線の細いフリッタ侯爵は引くついた笑いをしていた。

 それに対してアテンザ様は上機嫌。

 

 「ようこそティアナ姫、それと皆さんもよくぞ我がコルニャに来られた。我がウィルソン家は皆様を歓迎いたしますぞ。」


 大人の対応で嫁のティアナ可愛い!をあえて置いといてフリッタ侯爵はあたしたちに挨拶をしてくれた。

 あたしたちも挨拶をする。


 「初めましてですわ。エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ。」


 あたしは正式な挨拶をする。


 「ハミルトン?そうするとあなたが有名なユーベルトの才女、無詠唱の使い手ですか?」


 フリッタ侯爵は少し驚いてあたしを見る。

 無詠唱と言うのは結構知れ渡っているらしいけど、なんか会う人会う人あたしを見ると意外そうな顔をする。


 「いやですわ、才女などではありませんわ。ただ無詠唱ができるというだけですわ。」


 口に手を当ておほほほほと笑って謙遜して見せる。


 「いやいや、お噂はかねがね聞いておりますよ。しかしこんなお優しそうで可愛らしいお嬢さんとは思わなかった。私はあの無慈悲なマシンドールの生みの親と聞いておりましたからもっとこう、勇敢な方かと思っておりましたよ。」



 一体あたしのイメージってどうなっているのかしら?

 無慈悲とか勇敢とか良い言われように聞こえないのだけど?




 「初めまして、マース=ロビナと申します。ボヘーミャで教授をしております。」


 マース教授が挨拶をする。

 今回の件で一番のカギとなる人だ。


 「よくぞ来られました。貴殿が今回の原石に詳しい教授殿でありますか?ノルウェンにそのような特別な原石があったとは意外ですな。是非とも今後の事も有ります、我々にもご教授願いますぞ。」


 そう言ってマース教授の手をしっかりと握り握手する。

 うーん、意外としっかり者かな?


 「既に本国から早馬が来ており、話は分かっております。ノルウェン王国は我がコルニャからすぐそこの場所、明日の交渉は楽しみにしておりますぞ。」


 そう、ノルウェンは既に目と鼻の先なのだ。

 もともとこの北方にある衛星都市コルニャは王都から四日くらいの場所にある都市。

 隣国でガレントの庇護下にあるノルウェンにしてみれば大お得意様に当たるガレントの窓口、衛星都市コルニャは重要な財源になっている。


 なのでノルウェンはこのコルニャに対してかなり友好的らしい。

 現在のノルウェンはウェースド=ソルマンと言う元貴族が国王をやっているとの事。 

   

 「挨拶はこれくらいにして、お先ずは旅の疲れをいやしてください。今晩はささやかながら宴を用意させていただいております。」


 そう言ってフリッタ侯爵は何やらマース教授だけにお話がありますと言ってあちらに連れて行ってしまった。

 あたしたちはとりあえず与えられた部屋に行って一休みする。



 * * * * *



 「エルハイミちゃん、今時間ありますか?」

 

 あたしが部屋でくつろいでいると、アンナさんが訪ねてきた。

 珍しいな、なんだろ?


 「先ほどマース教授と一緒にフリッタ侯爵とお話していたのですが、ノルウェンの採掘所ってもともと古代魔法王国の地下迷宮だったそうですね。」



 へぇ~、そうだったんだ。



 「そこで、遺跡から発掘された書物の中に面白いものがあったそうです。ちょうどここコルニャにその書物が保管されていて、その内容が非常に興味がそそられるのです。」


 そう言って古い書をあたしに見せる。

 それは紛れもなく古代魔法王国時代の代物。


 「今まで伝説にしかなかった魔法王ガーベルの女神様から与えられた品、そのことについて記載されていました。」


 そう言ってアンナさんは嬉しそうにその本の扉を開く。

 そしてそこにはこう書かれていた。



 『至高の杖について』



 そしてアンナさんが興味をそそられるというページを開いて見せる。

 そこには要約するとこう書かれていた。


 

 『至高の杖は無詠唱で魔法が発動するのを手助けするものであり、使用魔力を最小限に抑えて最大の効果を引き起こせる。また、精霊魔法のように気まぐれな上級精霊を操ることも容易にする杖である。』



 なるほど、無詠唱魔法が使え、しかも精霊まで容易に支配できるのであればその威力は計り知れない。

 

 「もしこれがあれば四連型魔晶石核のコントロールも更に上手くいくのではないでしょうか?」


 アンナさんは興奮気味だ。

 しかし、伝説級の「至高の杖」がその辺に転がっているはずもない。

 興奮気味のアンナさんには悪いけど、あたしはそこまで興奮できなかった。

 確かに用途不明だった最後の秘宝の効能や使用用途がはっきりするのは興味深いけどね。



 そう思いながらページをめくるとそこには一枚の挿絵があった。



 ずっとアンナさんが持っている杖やメイジスタッフのように大型の杖だと思い込んでいたけど、そこに書かれている「至高の杖」は片手で持てるワンドのような杖だった。


 

 へぇ~、魔法王ガーベルが授かった魔法の杖ってこんなちっちゃいやつだったんだ。

 これは意外だね。

 そう言えば、魔法王って最後の方は杖使わないで指輪を媒体にしていたような話をどこかで読んだことがある。


 そうすると何処かに未だこの杖は保管されているかもしれないねぇ~。



 「もしかすると地下迷宮にまだあるかもしれませんよね?その辺もノルウェンに行って調べたいですね。」


 アンナさんは未だ興奮気味で夢を語っている。

 まあ無理だろうなと思ってあたしはもう一度その挿絵を見る。



 ・・・はて、どこかで見たような格好だな?

 どこだったっけ??




 

 ばんっ!!


 「エ、エルハイミ!かくまって!!」


 ティアナがぜぇぜぇ言いながら部屋に入ってきた。

 見るときれいな純白の衣装に身を包んだ、と言うか、これってウェディングドレス!?


 「どうしたのですの、ティアナ?」


 「ね、姉さまが宴でおめかしするにはこのくらいしなきゃダメってこんな服着せるのよ。そしてそのまま姉さまの所に嫁いできなさいとか訳な分からないこと言い始めてやばいので逃げてきたの!!」


 ・・・相変わらずぶれないな、姉よ。


     

 

 ワイワイやっていると再び扉が開いた。


 「ここにいたのですか、ティアナ。まだお化粧が終わっていませんよ。これではせっかくの花嫁衣装が引き立ちませんよ。」


 猛禽類の目をしたアテンザ様が部屋に入ってきた。


 「ひっ!エ、エルハイミ助けて!!」


 ティアナはあたしの後ろに隠れる。


 「エルハイミさん、そこをどいてくれるかしら?私はティアナに用事がありますの。」


 にっこり笑っているけど目だけは笑っていない。


 「え、え~とですわ、アテンザ様。」


 「そうだ、姉さま、エルハイミはあたしの伴侶です!あたしはもうエルハイミと(賭けの対象として)身も心も一心同体なのです!」



 びしゃぁあああああんんんんっ!!!!



 いきなり真っ黒な背景に稲妻が落ちるアテンザ様。

 なんかご自身も真っ白になって目も眼球が真っ白になっている?


 「い、今なんて言いましたのティアナ。」


 「わ、私の伴侶はここにいるエルハイミです!あたしたちの関係は切っても切れない仲なんです!だから姉さまのもとには行けません!!」



 ちょっと待て、ティアナ、なんか誤解を招くような言い方になっていない!!?



 「あ、あたしたちは毎晩同じ布団で(マッサージを)してもらう仲だし、恥ずかしいけど、ホリゾンの変態王子から守ってもらうためにあたしの初めて(マッサージしてもらうの)だってエルハイミにしてもらった仲なんです!!」



 どびしゃぁああああんん!

 ビカビカがらがらどっかーっんんんんんっ!!!!



 またまた真っ暗な背景に稲妻数本落としたアテンザ様がいた。


 「そ、それは誠なの!?」


 数歩たじろぎ後退するアテンザ様はティアナやアンナさんを見る。

 アンナさんは真っ赤になってやや下を向き、ちらちらとあたしたちの方を見る。

 きっと初めて目撃された時の事を思い出しているのだろう。


 そんなアンナさんの態度も相まってアテンザ様はさらに動揺をする。



 「そ、そんな私の可愛いティアナが既に汚されているなんて!認めない、認められませんわぁぁぁぁぁああああっ!!!」



 そう言って扉を吹き飛ばし走り去っていってしまった。



 「え、あ、あの、アテンザ様ぁ!!??」


 かざすあたしの手はむなしく走り去ったアテンザ様に向けられたままだ。

 なんかすごい誤解してない!?


 「ふう、行ったか。もう姉さまいつも強引なんだから。」


 カラカラと無邪気に笑うティアナ。

 




 あたしはこの後がものすごく不安になっていた。


 

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