第112話5-18ショーゴ・ゴンザレス
5-18ショーゴ・ゴンザレス
ノルウェン王国、ウェージム大陸北西の位置にあってガレント領とホリゾン領に隣接した小さな国だ。
北の険しい山岳部がホリゾン領に接しているためホリゾンとの交流はほとんど無い。
変わって南側はガレント領の森林地帯に接していて食料や衣服などの生活必需品や各種品々をガレント側に依存している。
主な特産品は鉱山資源の一つ魔晶石の原石の採掘である。
こういった背景からガレント側に庇護を求め、その傘下に収まっているのが現状である。
現在の国王はウェースド=ソルマン。
もともとはガレント側の貴族であったが、ノルウェンの姫君と一緒になり小さいな国ながらも国王となってこの国を運営している。
と、ノルウェンってこんな感じの国。
なので今回王都からの使者やコルニャから侯爵がやってくるというだけで国賓扱いで迎え入れられるわけだけど・・・
「エルハイミさん、この際はっきりさせたいと思います。貴女、ティアナをちゃんと幸せにできますの?」
移動中の馬車であたしとティアナ、そしてアテンザ様は緊急家族会談の真っ最中だ。
「ええと、アテンザ様、それは一体どういう意味のお話なんですの?」
「とぼけないでください、エルハイミさん。こうなったからには私は可愛いティアナが幸せにさえなってくれればそれ以上は望みません。ちゃんと責任を取って最後までティアナと添い遂げれるのですね?」
いやいや、あたしたち同姓なんですけど?
それに責任とれって、あたしが何したというのよ!?
「姉さま、あたしは・・・」
「ティアナは黙っていなさい!本当はティアナの初めては私のはずだったのに、いつの間にやらこの泥棒猫に手籠めにされ、汚されてしまうなんて・・・ううっ、可哀そうなティアナ。でもあなたがそれを望むならせめてこの小娘に責任を取らせて幸せになって欲しいの。お姉ちゃんはいつまでもあなたの味方よ。」
ぶっ飛んだことを言う姉。
あたしは幾分かのめまいを感じながらも一応誠意ある回答をする。
「アテンザ様、私はティアナ殿下の十歳のお誕生日にティアナ殿下と共にあることを誓いました。私はこの命ある限りティアナ殿下の剣となり、盾となり殿下を生涯お守りするつもりです。」
あの日誓った想いは嘘じゃない。
ガレント王国の為じゃなくあたしはティアナの為なら何でもできる。
そうあの時に誓ったのだ。
アテンザ様はあたしの言葉にじっとあたしを見つめる。
そしてティアナを見る。
「わかりました、今はその言葉を信じるとしましょう。しかしエルハイミさん、万が一ティアナを泣かせるような事があればこのアテンザが許しませんよ!」
そう言ってツンと窓の外を見る。
丁度馬車はノルウェンの城に入っていくところだった。
* * * * * * * * *
「ようこそ参られた。私はウェースド=ソルマン、ノルウェンの国王である。」
小さいながらも謁見の間で国王ウェースド陛下に挨拶をする。
一応型式通りの挨拶をしてからアテンザ様が話を始める。
「ウェースド国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう存じます。この度は我がガレントの要望を聞き入れていただき感謝いたします。」
そう言ってかしずくアテンザ様は頭をたれる。
属国とは言え一応国の王。
礼儀を尽くすのはさすが元王族の者、傲慢にならないのはその姿勢は好評価を受けるだろう。
「アテンザ殿、面をあげられよ。しかしアテンザ殿が直に来られると言う事は相当なことと言う事ですな?」
「はい、単刀直入に申し上げます。この件は最終的に我が国家の運命を左右しかねぬ問題となりましょう。」
その言葉にここにいる家臣一下からざわめきが起こる。
「そこまでとは。早馬の使者からは急務の話があり協力の要請を受けていたが、ガレント王国運命を左右させる程とは・・・」
庇護下にあるノルウェンとしてみればガレントの運命を左右する程の事に協力を拒むことはもちろん、問題の大きさが予想より大きく一蓮托生の身としてみれば今回の件は国家一大事でもある。
「して、我が国は何を協力すればよいのか?」
「はい、まずは今次我らが目的となる『魔結晶石』を見つけ出す事への協力をお願いします。」
「『魔結晶石』?それは一体どのようなモノなのか?」
ウェースド陛下はどうやら「魔結晶石」を知らないようだ。
「それにつきましては陛下、私からご説明いたします。」
そう言ってマース教授は挨拶をしながら説明を始める。
「魔晶石の原石は知っての通りこのノルウェンが採掘量世界一、しかし原石にも良し悪しが在りその濃度と純度が特に高いのがここノルウェン産の最大の特徴です。魔結晶石とは魔晶石の素材が長い年月を経て山中で高圧で圧縮されその濃度と純度がさらに高まったものを指します。原石の状態での外観上の違いは一目では分かりにくく、魔晶石原石と間違えられやすいでしょう。」
マース教授の説明にその場にいる誰もがざわめく。
「そのような代物が存在していたのか?」
「してそれは魔晶石と何が違うのですかな?」
疑問を口にする大臣たち、そんな大臣たちにマース教授は説明を続ける。
「最大の特徴は同じ容積でも通常の魔晶石に比べ約百倍の容量があると言う事でしょうな。加工生成されればさながらダイヤモンドのような輝きを持つ超硬質素材ともなります。」
おおーと広間に声が上がる。
「その様なモノが今まで我が国で産出されていたのか?」
「しかしそんな話聞いたことも見たこともないぞ?」
わいわいがやがや。
「アテンザ殿、その『魔結晶石』と言うものの存在は分かったが、我が国ではその様なモノが見つかったという話を聞き及ばぬ。本当に我が国にその様なモノがあるのだろうか?」
「ウェースド陛下、私も現物は見たことありませぬが、きっとこのノルウェンに存在するでしょう。技術的なことの支援のために今次我々はこの方面に詳しいマース教授殿をお呼びしました。」
ウェースド陛下はマース教授をもう一度みる。
「『魔結晶石』はその存在自体が非常に少なく、すぐには見つからぬやもしれませんがこちらには古代魔法時代の迷宮があるとか。既にコルニャに保管されていました文献から古代王国もこの『魔結晶石』については研究を行っていたようです。もしかするとそちらの方でも期待が出来るかもしれませぬ。」
なるほどと言いながらウェースド陛下は唸っていると慌てた兵士がこの場に飛び込んできた。
「伝令、北鉱山にて黒の集団の襲撃がありました!現在我が軍とマシンドールが防衛に当たっておりますがマシンドール一体が大破したとの事!黒の集団は二体の怪人を同行させているもようです!」
ざわっ!?
なんだって、ガレントから防衛協定の名目で支援されているマシンドールが大破だって!?
しかも黒の集団が今頃のこのこ出てくるなんて!?
「沈まれ!すぐに応援の部隊を派遣せよ!アテンザ殿、すまないが私も現場に出る故、しばし城でお待ちくだされ。」
しかしティアナはアテンザ様が答える前に言い切る。
「いえ、私たちも参ります!エルハイミ、ロクドナル、アンナ、アイミ行くわよ!」
「ティアナ!私も行く!!」
マリアも慌ててティアナにくっつく。
ウェースド陛下は何か言っていたようだが、あたしたちはティアナに続きこの場を後にする。
「ウェースド陛下御心配には及びませぬ、あの者たちの中には剣聖や無詠唱魔術の使い手、マシンドールオリジナルがおります。遅れをとることはございません。」
「なんと!?剣聖殿や無詠唱の使い手、オリジナルマシンドールですと!?こうしてはおられぬ、我々もすぐに向かいますぞ!!」
そう言ってウェースド陛下たちもあたしたちについて来るのだった。
◇
北口鉱山の入り口は城からすぐの場所に有った。
既に襲撃の為近くの納屋は火の手が上がり、負傷した兵士や鉱夫たちがいる。
見ると例の黒ずくめの連中が兵士たちを翻弄している。
そんな中騎士団やマシンドール一体が怪人たちと相まみえているがかなり不利な状況のようだ。
マシンドールを操っている魔術師は魔力をどんどん送っているが怪人たちの動きが予想以上に速い。
更に遠距離魔法を発動させるが怪人たちにはそれが効いていないようだ!?
怪人の一体がマシンドールに肉薄してその爪で腕を切り落とす!
慌てて自動防護でマシンドールが動くがその動き以上に怪人の方が早い。
マシンドールはその首をはねられその場に倒れてしまった。
「マシンドールがあんなに簡単にやられるなんて!?」
アンナさんが悲鳴に近い声を上げる。
あたしは既にティアナに手をつき魔力を注ぎ込んでいる。
ティアナもアイミっ!と短くいってすぐに同調を始め、ロクドナルさんも剣を抜き心眼を開く。
しかしあたしたちがその怪人に対応する前に一筋の黒い稲妻が怪人を貫く!
その稲妻は全身を黒い皮服で包み所々に補強の金具をつけている。奇妙な兜に奇妙な仮面をつけ、首元に赤い布をなびかせ、ごついグローブの先は無手でその場にたたずんでいた。
黒い稲妻に貫かれた怪人は体の半分を蹴り壊されていて、その場に倒れ魔力暴走で爆発したようだ。
爆炎の上がるそれを背景にそれはこちらに振り返る。
一体何者!?
あたしたちが疑問を口にする前に甲高い女性の声が響く。
「おーっほっほっほっほっ、現れましたわねこの裏切り者、ショーゴ・ゴンザレス!今日こそお前を血祭りにさせてあげますわ!そしてこの採掘所を我々のモノにしてさしあげますわ!お前たち、やぁっておしまい!」
前に見たボンテージ美人と違う美人が鞭を振りながら残った怪人と黒服の集団に命令を下す。
そして黒の集団はたたずむそれに群がっていくのだった!!
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