第104話5-10夢は遠く
5-10夢は遠く
とうとう各魔晶石核がそろい四連型魔晶石核が作成できることとなった。
従来のものに比べ、理論上では無限の魔力を生み出すと推定されるこの夢の機関は伝説にある「賢者の石」に匹敵するだろう。
あたしたちは集めた魔晶石核を慎重に四連型の土台に取り付けていく。
「とうとうここまで来ましたね。あとは起動テストを行うのみです。」
設計の主任となるアンナさんは組みあがった四連型魔晶石核を見ながらほうっと息を吐いた。
「なんだかんだ言って時間が掛かりましたからな。これの起動が見れるとなると年甲斐に無くワクワクしますな。」
ゾックナス教頭もちょっと興奮気味だ。
「ベースの強化も怠りなく済んでいるし、補助回路も万全を期している。あとは動かすだけだな。」
「全くです、いよいよですな。」
マース教授にジャストミン教授も腕組んでうんうん唸っている。
「うう、これはこれで楽しみですが、終わった後の実家や先方へのお話は嫌だなぁ。」
一人だけへこんでいるソルミナ教授だがそれでもこれからの起動実験は楽しみのようだ。
「さあ、いよいよね、ものすごく楽しみだわ!」
ティアナやロクドナルさん、マリアやアイミもいるがなんでみんなあんなに離れたところにいるのだろう?
あたしは開発棟のドーム中央で四連型と一緒に取り残されている。
またあたし一人でやるの!!?
ティアナ、せめてあなたも一緒にいてほしいんだけど・・・
せっかく同調できるしあたしと同じで危ないと思っただけで【絶対防壁】の魔法が発動するのに・・・
既にこういった危険な起動実験の担当となってしまっているあたし。
小さくため息を吐くが仕方ない。
ちゃっちゃと始めましょうか!!!
あたしは気を取り直して四連型魔晶石核に向かう。
既に設置されている魔晶石核は赤、青、茶色、そして白の色に薄く光っている。
あたしはそれぞれの魔晶石核に均等に魔力注入をはじめ活性化させていく。
それらは徐々に輝きを増していき、各魔晶石核の隣にある魔晶石核に影響を及ぼし始める。
そしていよいよ魔晶石核間に例の緑色の輝くキラキラした光が発生したかと思うと一気にその光が周辺を包む!!
「ナンヤ、ナカマヤナイヤンケ!?」
「ナンチャ、ホカノセイレイダギャ!」
「マンズ、ヨバレテミレバコゲンカヤ?キミワリーカラチカヨンデネッ!」
「ナンネ、ウチニチカヅクナダッチャ!」
途端に精霊たちが勝手なこと言いだす。
あー、予想はしてたけど、相変わらず仲悪いなぁ。
「あなたたち、喧嘩してないで回路に魔力流しますから回転を始めてくださいな。」
あたしの言葉にブーブー文句言いながらも魔力欲しさに皆しぶしぶ仕事を始める。
本来四大精霊には得手不得手が有るがそれが全部そろうと追いかけっこの連鎖じゃないけど循環が始まる。
弱い性質の精霊に強い性質の精霊が攻勢をかけるがそれが次から次へと回り永遠とその循環が続きそして速度を上げていき回転力による余剰エネルギーが発生してそれが魔力返還として発生する。
理論上ではそうなっているが、実は魔法は等価交換が原則。
無限に魔力が発生するはずは無い。
だからアンナさんの予想はスパイラル効果が発生したときに別次元、つまり異界からその魔力を引っ張ってくるのではないかとの予測だ。
つまりこの機関は異界へとつながる道しるべになる。
あたしは高まった魔力を一気に注ぎ込み回転を始めさせる。
そしていよいよ四連型魔晶石核はその実力を発揮し始める!
辺りを覆っていた緑色の光は引っ込み、核魔晶石核は緑色になって脈打つようにたまに各発色を始める。
魔力循環は始まっている。
同調したあたしにはその動きが手に取るように分かる。
そしてその循環は速度をどんどん増していきいよいよスパイラル現象を始める。
四連型魔晶石核の中央には空間があり、そこからスパイラル効果の魔力が引き出される格好になっているのだが・・・
キイイイィィィンッ!!
おかしい、いつもの双備型ならもう共鳴音は終わっているはず。
しかし四連型は未だに甲高い共鳴音が鳴りやまない。
まさか暴走か!?
そう思った瞬間にあたしの前に【絶対防壁】の魔法が発動する。
しかし不安は消し切らない。
そう思った瞬間に【重力】魔法と【魔法抵抗】、レジスト魔法が勝手に発動した。
きいいいぃぃぃぃいいいいぃぃぃんんっ!!!
甲高い音が少し鈍くなったと思った瞬間だった。
ぬっ!
それは一瞬で頭をこの空間に現した!
ドラゴン!?
いや、違う、もっとまがまがしい!
真っ赤な目をしたごつごつした黒い肌の何本も角が生えた怪物は、大きなアギトを開く。
大きさも違う、頭だけでゆうに五メートル近くある!?
それは頭だけを天に向け咆哮を放つ!
「グルオオオオオオォォォッッ!!!」
そして口を開き光りを吐き出す!!
ドガガガガガガガァァァァッッッっ!!!!!
光の濁流は一瞬にしてドームの天井をぶち抜き空高くへと消え去る。
みしっ!
ギシっ!
びきびきっ!!
バキンッ!!
甲高い金属音のような、しかし瀬戸物が割れるような音がして四連型の魔晶石が一斉に割れる。
するとあの化け物の頭も霞が吹き消されるかの如く一瞬で消えた。
そしてこの天井を吹き飛ばしたドームに静けさが戻る。
な、なんなんだあれは!?
あのレイム様に会った時以上の恐怖があたしを襲う。
あり得ない。
あたしの同調をした目はあの化け物にマナが全く存在していないのを確認した。
そのうえで本能的な恐怖が身体全体を襲った。
実際間近にいたあたしはあの光が吐き出された瞬間に更に五枚の【絶対防壁】魔法を張ったが、それの四枚がことごとく消滅させられた。
もしあと最後の一枚が破られていたらあたしも消え去っていたかもしれない。
「くっはぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ため込んだ息が吐き出されやっと呼吸が再開する。
そして途端に全身に汗が噴き出る。
「くうぅぅぅぁぁぁあああああっ!!あ、あぶなかったぁあっ!!!」
勝手にあたしの口から声が絞り出される、いや、生きていることを実感したから言葉が絞り出されたのだ。
「エルハイミ!!!大丈夫!!?」
ティアナが駆け寄ってくる。
そしてあたしの体を押さえる。
「エルハイミちゃん!!」
アンナさんが【回復】魔法をかけてくる。
どこがケガしたわけではないけど、何と無くきしんだ身体が落ち着いてくる。
「あれは一体何なんじゃ!?」
「あんなの見たことありません!」
教授たちも口々に驚きの声を上げるが誰一人として正体は分からない、あたし以外は!
「あ、あれは女神をも超えるモノ、この世のモノでわありませんわ。異世界の神とでも言いましょうか?」
あたしの言葉に皆が注目する。
「これでわかりましたわ、祈り無き者が異界をつなげれば神の怒りを買う。レイム様が召還魔法を忌み嫌い、そしてこの世から消し去る理由が!もし間違って神の怒りを買ってしまえばこの世界が消されてしまう!!あたしたちはうかつ過ぎたのですわ!!」
ぜえぜえぇ・・・
あたしは理解していた。
召還魔法は祈りなのだ。
神への祈りで、神からのお情けでこちらの世界に送られるそれはちょっとした気まぐれ。
この世界の始祖なる巨人と言う神と異世界の神が気まぐれを起こした時の奇跡。
それが召還魔法の秘密。
四連型魔晶石核を見ると既に魔晶石核は粉々に割れてしまっている。
低級精霊だったのが不幸中の幸いだった。
異世界の神の力に耐えきれず壊れてしまった。
だから異世界とつながる道が閉ざされた。
本当に危なかった。
あんなのあたしたちだけでどうこう出来るモノじゃない!
ティアナに支えられながらあたしは安堵の中で気を失った。
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