第105話5-11新たなる挑戦

5-11新たなる挑戦



 気が付くとあたしは開発棟の休憩室で寝かされていた。




 「エルハイミ!よかった気付いたのね!」


 ティアナだ。

 もしかしてずっとあたしを見ていてくれたのかな?

 

 「ええ、もう大丈夫ですわ。」


 あたしは上半身を起こしながらティアナを見る。

 落ち着きはしたがまだ震えがある。



 「失敗しちゃったね・・・」


 ティアナは沈んだ表情でぽつりと言った。

 あたしは無言でうなずく。



 四連型魔晶石核はその力を発揮して予測通り異界との道をつないだ。

 そして異界から魔力を引き出す過程で予測外の事態が起こった。

 そう、異界の神を呼び寄せてしまったのだ。


 よく命を落とさずに済んだものだ、いや、あれでも異界の神としてみれば威嚇程度だったのだろう、でなければあたしたちは今頃死んでいた。


 レイム様で絶対的な力の差と言うものは理解していたつもりだったが認識が甘かった。


 

 あたしは部屋を見渡す。

 今はあたしとティアナだけのようだ。


 「ティアナ、みんなはどうしまして?」


 「ああ、開発室で回収した四連型の残骸を解析しているわ。」


 「そうですか・・・」


 四連型魔晶石核をもう一度作る気にはあたしはなれなかった。

 師匠を元の世界に戻すのはもっと安全な方法を見つけるべきだ。

  

 あたしはゆっくりと立ち上がりティアナと一緒に開発室へ向かう。



 * * * *


 

 「エルハイミちゃん!大丈夫ですか?」

 

 「無理はせん方が良いですぞ。」


 アンナさんやロクドナルさんが心配してくれる。

 

 ぴこっ!


 「エルハイミ、怖かったね。もう大丈夫なの?」

 

 アイミやマリアも心配してくれる。


 あたしはもう一度思う、一歩間違えば皆も巻き込んでいたのだ。

 その事に思わずうつむくあたし。 

 か細い声で気遣いのお礼を言うのがやっとだった。



 「皆さん、ありがとうございますですわ。もう、大丈夫ですわ。」


 

 しかし、そんなあたしにアンナさんは衝撃的な事を言う。


 「エルハイミちゃん、聞いてください。もう一度四連型魔晶石核を作りましょう。」



 あたしはアンナさんの声に驚き顔を上げる。


 

 「でも、アンナさん、またあれを呼び出したら今度こそはただではすみませんわ!」


 焦るあたし。

 しかしそんなあたしを諭すかのようにアンナさんは言う。


 「確かにエルハイミちゃんの話だとあれは異界の神。そんな大それたものを呼び出す恐れがあるのでは四連型魔晶石核は危険この上ないでしょう。しかし、四連型魔晶石核には無限の可能性がある。制御精度を上げ維持強度を上げたものをさらに研究しましょう。」


 「でも、万が一またあの異界の神が現れたら今度こそ終わりですわ!」


 しかしアンナさんは静かにあたしの目を見て語りだす。


 「勿論、あの異界の神を呼び出すようなことはしません。でも四連型魔晶石核の実験で確実に異界につながり引き寄せる事が出来るのは分かった。だから今度はその逆を研究するのです!」


 「逆ですの?」


 「スパイラル効果で異界とつなげ魔力を引き寄せることの逆をするのです。つまりこちらからあちらへ送り出す研究です!」



 「あっ!」



 あたしは思わず声を上げた。

 全く考えていなかった。

 向こうからこちらへの実証は出来たのだ。

 ならば逆にこちらから向こうへ送り出すのは?


 

 それならば少なくともあちらの神から怒られることはないと思う。

 事実、異世界から召喚された人たちがこちらにいる。

 

 魔力を無限に引き出そうとしているのとは違い、世界のほんのわずかなものを移動させるのだからきっと神様もお目こぼししてくれるんじゃないだろうか?


 「ふふっ、気付きましたねエルハイミちゃん。こちらから人一人送るくらいならきっと神様も許してくれるでしょう?」


 「アンナさん・・・」


 表立った実験は失敗に終わった。

 しかし本当の目的はめどが立ってきた。

 そう、師匠をもとの世界に送り返すという目的が。


 「そこで、エルハイミちゃんが気を失っている間にソルミナ教授たちとも相談していたのですが、魔晶石核の素材と精霊の確保をもう一度見直す必要があることになりました。」


 そう言ってアンナさんは砕け散った魔晶石核だったものを机の上に出す。

 粉々に砕け散ったそれは輝きを完全に失っていてくすんだ色の水晶にしか見えない。



 「魔晶石原石では持たなかったんだよ、原石としては最高峰の物を準備したのだがね。」


 マース教授は真新しい原石を取り出しながら言う。

 

 「魔晶石原石以上となるものは魔結晶石という希少な鉱物がる。それは世界でもノルウェンでわずかに取れたという記録しかない。鉱石の中でもダイヤモンド並みの強度を持ち同じ大きさの魔晶石にくらべおよそ百倍の魔力付与ができると言う事だ。」


 魔力付与が同じ大きさで百倍!?


 「ま、マース教授、もしかしてその原石をお持ちなのですかしら?」


 「残念ながら私も話だけで見た事すらない。魔術師でない普通の人間では見分けがつかないらしいが、普通の原石よりずっと透明度が高く、美しいらしい。水晶のその透明さともガラスのその透明さともまた違った輝きがあるそうだ。」


 そう言って持っていた原石を光にかざす。


 

 「どちらにしろ素材集めからまた始めなくてはですな。」


 ジャストミン教授は回収された本体をばらしながら使えるものとそうでないモノの仕分けを始めた。



 「学園長に相談して素材の予算を確保しますかな。して、その魔結晶石なるものは市場には出回っておりますかな?」


 ゾックナス教頭はバインダーに必要になりそうな素材のメモを取り始めた。

 

 「残念ながら聞いたことは有りませんな。あまりにも貴重なものなので一般市場には出回っていないかもしれません。」


 ゾックナス教頭にマース教授はため息交じりで答える。

 でも、しかしと言って「直接ノルウェンに行って探せばあるいは・・・」と独り言のようにつぶやく。



 「精霊も考えなくてはいけませんね。下級精霊では微妙なコントロールが出来ないと思います。しかし、そうなると上級精霊が必要となります。」


 「上級精霊ですの!?」


 あたしはソルミナ教授の言葉に驚きを口にする。

 しかし、そうするとアイミの魔晶石核と同等以上の物が四つも必要となることになる。



 出来るのか?


 今のあたしには同調もマナの魔力変換もある。

 そして保有魔力容量自体も当時に比べ、桁違いに多い。



 ティアナがあたしの手を握てくる。



 「エルハイミ、一人でしようとしないでよ、今度は私もいるんだからね!」


 あたしの考えを読み取るように力強く手を握ってくれる。

 


 課題は山積みだ。

 希少魔結晶石に上級精霊、そしてそれの命がけだった【融合】魔法。


 でも今は一人じゃない。

 ティアナやみんながいる。


 あたしは一度目をつぶり、ひと呼吸してから目を開ける。



 「やりましょうですわ!」




 瞳に新たなる力の輝きをともしあたしは決意するのだった。 

 

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