第103話5-9四連型魔晶石核

 5-9四連型魔晶石核



 「さあ出来た、みんな食ってみてくれ!」



 イチロウ・ホンダさん作「焼うどん」があたしたちの前に並べられている。

 あたしたちは今、会食ができる部屋でファイナス市長含め焼うどんを目の前にしている。


 「なにこれ!?なんか動いている!!?」


 「まさか、生きているんですか!?」


 「これは面妖なっ!?」


 「うあっ、生きたままの食べ物はちょっと・・・」


 「それで、イチロウ・ホンダ、これは食べられるものなのですか?」


 最後にファイナス市長みんなが一番聞きたいことを聞く。



 知らなきゃみんな驚くよね?



 みんなの皿の上にある焼うどんに最後にかけられた鰹節は薄く削られ、焼うどんの熱気でうにょうにょと動いている。

 確か、生前でも聞いた事が有るが、日本に来た外国人がこれ見ると驚くそうだ。


 「ああ、市長、勿論食いもんだよ。その削り節ってのが動くのは焼うどんの熱気のせいさ。別に生きている訳じゃねえ。問題無く食えるよ。」


 イチロウさんの回答に、しかしみんな疑いの目でそのうにょうにょ動く削り節を見る。

 そんな中あたしはいただきますと言って、うきうきしながらフォークでそれをすくい上げ口に運ぶ。


 途端に広がる出汁の効いた焼うどんの味が口いっぱいに広がる。

 一緒に炒められた野菜と最後に多めにかけられた削り節と万能ねぎのような薬味もいい味出している。


 うん、間違いなく焼うどんだ!

 美味っ!!



 「エルハイミ、あなたよくこんなおっかなさそうなもの口にできるわね!?」


 ティアナが驚いているが、久々の大好物だ、答える間も惜しいくらいあたしは焼うどんに食いついている。


 もぐもぐごっくん。


 「ティアナ、これってものすごくおいしいですわよ!」


 そう言われてティアナも恐る恐る焼うどんに手を伸ばす。

 時間がたてば削り節の動きも収まってくるのでフォークでつついていた人たちもとりあえず動かなくなった頃にそれを食べ始める。 


 「!?」


 口にした人たちが驚く。


 「なにこれ!?おいしいじゃない!!」


 「確かに、この細長いものは小麦ですか?わずかに魚の味がしますが、不思議と嫌じゃない。あたしたちエルフでも十分に食べやすい!?なんですかこれ?」


 ティアナが驚き、ソルミナ教授も驚いている。


 「うむ、これはまた美味でありますな!」


 「なんなんでしょう?もっちりしていて同じ小麦のパンとはまた違った味わいですね?」


 ロクドナルさんやアンナさんも驚いている。


 「うまーっ!」

 

 マリア、貴女はお菓子以外もちゃんと食べるんだ?


 「流石イチロウ・ホンダです。これはとてもおいしい。このカツオブシと言うものには驚かされましたが魚の燻製のようなものですね?とても味がはっきりしているのに魚臭さが全く無い。これは確かに私たちエルフも食べやすいですね。」


 ファイナス市長は口元を拭きながら焼うどんを絶賛する。

 イチロウさんはニカッと笑っている。


 「市長、ユカさんのおかげで欲しい材料はこれで全部だ。市長たちエルフは肉や魚が苦手だろうがこういう食い方すれば大丈夫だろ?」


 「ええ、確かに。それにこれは来客時にちょっと面白い見世物にもなりますね。今後の『和食』と言うものにも大いに期待しますよ。」


 おう、任せておけと言ってイチロウさんは笑っていた。

 あたしたちは楽しく食事を終えて、そして今日ボヘーミャに戻る事になっている。



 「さて、エルハイミちゃんよ、これをユカさんに持って行ってやってくれ。」


 そう言ってイチロウさんは包みを渡してくれる。


 「これは何でしょかしら?」


 「おう、前から頼まれていた麹だ。やっとこっちの世界でもいい麹が出来た。ユカさんの事だから取り扱いは問題無いだろう。作り方も教えておいたから大丈夫だろうしな。」


 麹って確か甘酒とか作るときに使うやつだっけ?

 師匠、甘酒でも作るつもりかな?


 「わかりましたわ、お預かりいたしますわ。」


 「おうよろしく頼むぜ。」



 そしてあたしたちは「緑樹の塔」を後にしてソルガさんの守るゲートへと向かう。

 ゲートへとたどり着くと相変わらずソルガさんとお仲間のエルフが警備している。


 「ティアナ、エルハイミ、ロクドナルにアンナか、ボヘーミャに戻るのだな?」


 「兄さん、私もいますが?」


 「お前は事が済んだら戻ってこい。ファイナス市長からも言われているだろう?」


 「うう、村に戻るときはちゃんと兄さんもついてきてくださいよ。じゃなきゃマニーさんに有る事無い事言いふらしますからね!」


 「お、お前、兄を脅迫するか!?ちゃんと付いて行くから余計なことはしないでくれ!」



 軽い兄妹喧嘩を横目にあたしたちはソルガさんに挨拶をしてゲートの魔方陣に入る。

 慌ててソルミナ教授もついてくるが、ソルガさんと別れを惜しんでいるようだ。



 「またそのうち来ますわ。ソルガさん。」


 「ああ、わかった。ではまたな。」


 ソルガさんのその言葉を最後にあたしたちはゲートを起動してボヘーミャに戻る。



 

 ◇




 「そうですか、イチロウ・ホンダも元気でしたか。それはよかった。」


 帰還後まずは師匠に報告にあがる。

 そしてイチロウさんから預かった麹も手渡す。


 師匠は渡された麹を見てだいぶ喜んでいた。

 気になって何を作るか聞いてみると、なんとどぶろくを作るそうだ。


 「師匠って、お酒作れるのですの?」


 そんなに簡単にお酒って作れんの?

 疑問になってあたしは聞いてみる。


 「どぶろくは簡単に作れます。お米と麹さえあれば。長い間口にしていませんでしたが、これで久しぶりにどぶろくを味わえる。そうだ、エルハイミ、ティアナ、どぶろくを作るときは手伝いなさい。作り方を伝授しておきます。」


 「師匠、どぶろくって何ですか?」


 いまいち理解できていないティアナが口をはさんできた。


 「お米を使ったお酒の一種です。将来的には清酒まで作りたいのですが、流石にそこまで本格的にやるには施設が必要ですからね。まずは簡単などぶろくを作ります。」


 なんか随分と乗り気な師匠。

 それって単に作るのが面倒だから今後はあたしたちにやらせるつもりなんじゃ・・・

 まあ、それは置いといて、も一つ気になっていたことを確認する。


 「師匠、イチロウさんから聞きましたがイチロウさんは黒の集団に召喚されたのですの?」


 そこまで上機嫌だった師匠はそれを聞き途端に雰囲気が変わる。

 

 「そうですか、イチロウ・ホンダから聞きましたか。確かに彼はあの訳の分からない集団、今では黒の集団ですか、それらに召喚されました。」


 「すると、黒の集団はもともと魔術師の集まりなんですの?」


 「魔術師だけではないでしょう、背景にかなり大きな力が絡んでいるのは間違いありません。しかしあの時はレイムが関係者を惨殺して召喚に関するものはすべて焼き払いました。レイムに言わせればまた悪魔召還されてはたまらないからと。」


 今は鳴りを潜めているがあの黒の集団の事、どこで何か企んでいるのではないか気になる。

 しかし、異界からの召還が出来るのかあの集団。

 やはりかなり大きな後ろだてがあるんだな。 

    

 「それはさておき、四大精霊の魔晶石核がそろいましたからいよいよ四連型魔晶石核の作成ができますわ。」

 

 「そうね、早く作成して試験はじめなきゃだものね!」


 「そうですね、そちらは大いに期待しています。エルハイミ、ティアナご苦労様でした。」

 

 師匠からねぎらいの言葉を受ける。

 その後あたしたちは退席して開発棟に向かう。

 報告はあたしとティアナだけで行ったので、先に戻ったアンナさんとソルミナ教授が四連型魔晶石核の作成に取り掛かっているはずだ。



 さあ、いよいよ四連型魔晶石核を試せる。

 あたしたちは急ぎ開発棟に向かうのであった。


 

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