第84話4-21立つ鳥跡を濁さず?
4-21立つ鳥跡を濁さず?
心眼を開いたロクドナルさんとアンナさんはその後安定するために師匠にしばらく稽古をつけてもらう事となった。
そしてあたしたちなのだが、師匠のところでの寝泊まりは終わりで、ずっと放置していた宿舎の自分の部屋に戻ることとなった。
「エルハイミ、お茶の道具ってどこしまえばいいんだっけ?」
「それは茶室ですわ、それより私たちの衣類を入れていた籠、どこ行ったか知りませんかしら?」
「ああ、それなら・・・」
今は半年お世話になった師匠のお部屋掃除と自分たちの荷物を片付けている最中だ。
なんだかんだ言って半年もここにいたのか。
いや、あたしに限っては一年近くここにいるんだっけ。
「大和撫子」と言う曖昧な修行を強いられた時は全くをもって意味が分からなかったけど、終わってみれば結構重要な事ばかり学んでいたような。
いや、花嫁修行に近いのか?
炊事洗濯掃除のスキルを中心に、お茶、お花、歌、踊り、座禅と文学、武術とほんと和風教育のオンパレードだった。
最近はわびさびもわかるようになってきて学園都市ボヘーミャに四季が無い事が悔やまれるようにすらなってきた。
ああ、鶯の鳴き声が恋しい。
「エルハイミ、書斎に師匠が書き残した原稿があるみたいだから片付けといて、あたしは台所の方片付けてくるから。」
お姫様なのにすっかり家事が得意になってしまったティアナ。
将来いいお嫁さんに成れるでしょう。
って、姫様が家事するわけにゃいかんでしょうに!?
これって、もったいないスキルになってしまわないかな?
あたしは、まあ出来て損はないけど、実家に戻ったら他の人がやってしまうしなぁ。
そんなことを考えながら書斎の整理をしていると、懐かしい本が出てきた。
「学問のおすすめ」と「脱北陸論」の二冊だ。
そう言えばそんな本も読んだっけと思いながらふと作者名を読む。
「ユキ・フクーサ」
なんとなく生前の世界の福沢諭吉をモジているようなネーミングだな?
師匠もこんな本読んで・・・・
ん?
師匠はこっちの世界に来てからあたしを含め二人にしか日本人に会っていないと言ってたよね?
てことはこれって!?
師匠が書いている原稿を読んでみる。
それはどこかで見たことがあるような文面が。
題名にはこう書かれていた「時事の新報」と。
「エルハイミ、ここにいましたか。」
「うぴゃぁっ!!」
いきなりの師匠の声にびっくりするあたし。
「どうしたのですか?そんなに驚いて?」
「い、いえ、なんでもありませんわ。それより師匠、ユキ・フクーサって方ご存じですかしら?」
「ああ、それは私です。」
なんですとぉぉおっ!?
師匠だったんですかい!?
「じゃ、じゃあこれらを書いたのは師匠だったのですか!?」
「そうですね、こちらの世界にも必要になりそうなことへ少し加筆などしていますが、基本は福沢諭吉先生が残されたものをこちらの本にしました。」
そう言ってその本を手に取る。
『諭吉先生のお話は非常にためになりましたね。私も女学生の頃は先生の本を読み漁ったものですわ。』
いきなり日本語で懐かしそうに語り始めた。
『そもそも大日本帝国は当時~』
なんかスイッチ入っちゃいました!!
それからしばらくティアナが探しに来るまで延々と師匠の昔話を聞かされる羽目になっていた。
勿論その後書斎はきれいに片づけたけど。
「ふう、終わった。これで全部だわね。」
「そうですわね、でも、思いのほか私たちの荷物って少なかったのですわね?」
制服を基本にほとんどが下着と寝間着、わずかな私服に洗面用具と筆記具くらいしかなかった。
ティアナの今までの荷物の物量を考えるとよくこれで間に合ったものだ。
「ほとんど制服で済んでいたし、下着以外は浄化魔法できれいになるしね~。」
ボストンバック一つで済むというのは楽と言えば楽だけど、ちょっと驚き。
「片付きましたか? 良いですか、宿舎に戻っても堕落せず、凛として己を常に律しなさい。」
「はい、師匠、わかりましたわ。」
「私もわかりました! ・・・と、なんだろちょっとお腹痛いな。ごめんエルハイミ、ちょっとトイレ行ってくるから待っていてね。」
珍しいな、元気が取り柄のティアナが。
「ええ、かまいませんわ、ここで師匠とお話して待っていますわ。」
しばらく師匠と談話しているともじもじしたティアナが戻ってきた。
どうしたんだろう?
ティアナはあたしを見ると顔を赤くしてそそくさと師匠の方へ行った。
師匠に小声で耳打ちしている?
どうしたんだろう?
「それはおめでとう!エルハイミ、今日は赤飯を炊きなさい!!最近スィーフで栽培に成功したお米があるはずです。」
は?
いきなり赤飯って、どういうこと??
「師匠、それってどういうことですの?」
「ティアナが女性の印が来たのです。めでたいことです。こう言った事はちゃんとお祝いしなければなりません!」
「エルハイミぃ~、なんでお祝いなのよぉ~、恥ずかしいのに!!」
はっ、ははははははっ。
って、ティアナお印来ちゃったの!?
そう言えばティアナも十二歳になる。
そんなお年頃ってことだよね?
「ティアナ、それは仕方ありませんわ、師匠の故郷の風習らしいですから。」
「うえぇぇん、そんなに大々的にしないでよぉ、恥ずかしいよぉ~。」
真っ赤な顔で半べそかいているティアナをよそに、あたしは赤飯を炊くため荷物を置いて台所に行くのであった。
今晩は師匠のところで晩御飯だな。
アンナさんたちに言っておかなきゃ。
あたしは小豆とお米を洗い始めるのであった。
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