第83話4-20アンナ

4-20アンナ



 師匠の魔力は高まり師匠最強の攻撃魔法がまさに放たれる寸前であった。


 

 アンナさんは【絶対防壁】を展開しようと呪文を唱えていたが、どういうわけか途中でそれをやめてしまう。



 「アンナ、手加減はしませんよ!行きます!」



 最大限にまで高まった魔力でその魔法を発動させる!

 師匠最大の攻撃魔術【流星召喚】、メテオストライクだ!

 

 室内のも関わらず師匠頭上に真っ黒な空間が開きそこから真っ赤に燃える岩石が飛び出してきた!



 アンナさんは未だじっとしている。


 

 あたしは流石に慌ててアンナさんの前に【絶対防壁】の魔法を展開させようとすると、魔法が発動しない!?


 だがしかし、アンナさんに正に今ぶつかろうとしている岩石がピタッと止まる!?


 よくよく見るとマナの流れが異常になっている!?

 アンナさんを中心にマナの流れが渦巻のようになっている?


 止まった岩石はぐるぐると回り、直線的な運動力を回転によって分散され、あたしの絶対防壁の魔力はその回転の糧として使われている!?



 「ああ、そう言う事だったんですね・・・ マナとは、魔力とは、そして女神さまのお力とは。」



 やがて真っ赤に燃え盛る岩石は淡い青色の光に分解されきれいに無くなってしまった。



 「良く出来ました!アンナ、とうとう心眼が開きましたね。」


 師匠はそう言ってアンナさんに近づく。

 アンナさんを見やると、なんとアンナさんの目が金色に薄く輝いている!?


 「し、師匠と同じ?」


 「エルハイミ、それにほかのみんなも、この世界の魔法について考えたことはありますか?」


 え?

 魔法って、確か女神様たちの御業を人間に伝えたものじゃなかったっけ?


 「魔法とは女神さまからの人間への贈り物では?」


 師匠はアンナさんを呼ぶ。


 「アンナ、説明してあげなさい。」


 「はい。マナは万物を構成するもの、しかしそれは女神様自身の一部であった。完全な無からこの世界は成り立っているのではなく、始祖なる巨人の血肉、女神様たちの血肉から成り立っていたのです。だから魔法は女神様たちの意志で発動した。それは自分の体を動かすのと同じだから。そして、私たち人間にも魔法が使えるのは私たち自身が始祖なる巨人から女神様たちが作り上げた同じ素材だからです。そう、私たち自身が女神様たちの一部だったのです。」



 どういうことだ?

 あたしたちが女神様の一部?



 「そうです、だからあなたたちは心眼を開くことによってマナ自体を見ることによってそれにどういった影響を与えれば最大限の効果が出せるかわかるのです。自分のことを知っているのと知らないのとでは全然違うのはエルハイミ、よく知っているでしょう?」


 確かに知っているのと知らないのでは大違いだ、それは自分自身にも言える。

 あたしは本当の自分に気付いた。

 だから魂と体の同調までできるようになった。


 今まで同調のおかげでマナや魔力の動きが見えたが、心眼を開くことによってもっと本質を理解できると言う事か?



 「人を超える領分とはそういう事です。これで私が教えられることは無くなったようね。」



 そう言って師匠は仮面を外す。

 そこには和風美人の顔があるが、その眼だけは違っていた。

 今のアンナさんと同じく金色に薄く輝いている。

 

 「異世界人の私にはあなたたちが光るマナにしか見えません。その光は私には強すぎ、ずっと見ていると目をやられてしまいます。だからこの仮面が必要になった。しかしマナを見れる私には自分の意志を割り込ませることで魔力と魔法が使え、マナの動きを先読みすることで常人が扱えない体技、剣技が扱える。もとは弱いただの女です。」


 師匠はそう言って苦笑した。



 「師匠が異世界人?」


 「それはどういう事でありますかな?」


 師匠はもう一度仮面をつけなおしてからゆっくりとこちらを見る。


 「あなたたちの目には私はどう映っていますか?」


 同調や心眼を開いたあたしたちの目には、師匠は本当によくわからない状態に映る。

 ほとんどマナが存在しないのだ。

 師匠が身に着けている衣服や刀の方がマナが強く見えるほどだ。


 「この世界に本来はあらざる存在の私にはマナが極端に少ない。代わりに異世界からこの世界に渡ってくる時に何らかしらの能力を身に着ける。それが召喚された者なのです。」


 「なっ!」


 「えっ!?」


 ティアナとロクドナルさんは驚く。

 しかしアンナさんは驚きもしない。

 

 「私が召喚されたのはかれこれ百年くらい前の事、その頃はこの世界も乱れに乱れていました。各国はこぞって異界の者を召喚して戦争の道具としていました。」


 師匠はそう言ってあたしを見る。


 「私には婚約者がいました。しかしその思いを遂げることなくこちらの世界に呼ばれ、非力ながらもこの目のおかげで超人的な力を手に入れ、そしてアノードたちと共に魔人と戦いました。」

 

 そういう師匠はどこか寂しそうだった。


 「そして私は仲間のエルフのおかげで『時の指輪』を手に入れ、いつかきっと自分の世界に戻ることを誓ったのです。」



 「でも師匠、師匠の世界ではもう・・・」


 「そうですね、たとえ戻れたとしても彼はもう死んでいるでしょう。それでもかまわない。添い遂げれなかったとしても、もう一度彼の墓前にでも立てれば私は満足です。その為にはこの世界が平和でなければならない。この学園が存続してもっと異界との研究を進めなければならない。だから私は英雄やあなたたちを育て、この世界に平穏を望むのです。」


 それを聞いていたアンナさんは言いにくそうに師匠に言う。


 「師匠、しかし異界に戻るのは・・・」


 「ええ、わかっています。それは女神の力を使ってもできません。もっと上の存在、始祖なる巨人やさらに上の者の力の片鱗が必要です。」



 どういうことだ!?

 女神の力で異界から召喚していたのではないのか!?


 「女神様の力はこの世界限定のお力、異界からの召喚はそれを超える力がなければ成し得ない。だから危険なその術は女神様に回収され、今は失われた技術になったのですね?」


 アンナさんは目の色をもとに戻し、師匠に近づく。

 

 「心眼でそこまで女神の思考を読み取りましたか。やはりアンナ、あなたは歴代の心眼者の中でも特に優秀ですね。」


 ふっ、と笑って師匠はアンナさんに向かいなおす。


 「アンナ、いえ、エルハイミやティアナも、もしよければ私が元の世界に戻る手助けをしてもらえないでしょうか?」


 「はい、もちろんです!師匠!」


 アンナさんはすぐに師匠に答える。

 もちろんあたしやティアナだってやぶさかじゃない。


 「師匠、私たちが手伝わないわけないじゃないですか。」


 「そうですわね、大和撫子たるもの、初志貫徹ですわね!」


 

 それはかなり困難なことだろう。

 でも恩師の思いは伝わった。



 あたしは絶対に師匠をもとの世界に戻すと誓ったのであった。      

 

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