第78話4-15精霊魔法

4-15精霊魔法



 「エルハイミ、見なさいこんなところにまだ埃があります。」


 師匠との同居生活が始まって早半年、あたしは日々師匠に『大和撫子』に成るために修業を積まさせられている。


 「はい、師匠すぐに参りますわ!!」


 慌ててバケツと雑巾を持って窓の枠に指をつけて掃除の度合いを見ている師匠の元へ飛んでいく。

 すぐさま埃を雑巾でぬぐい取り、他にも拭き忘れがないか確認をする。

 それが終われば朝食の準備。

 『大和撫子』たるもの料理の一つもできないでどうする!

 そう師匠に言われ、朝食と夕食は師匠と同伴することとなった。

 同伴すると言う事はその食事を作るのはもちろんあたしになる。


 「エルハイミ、今朝のお味噌汁は少々しょっぱいですよ。」


 「はい師匠、すみません!次は気を付けます!!」


 師匠は事ある毎に指摘してくる。

 最近はさらに師匠の小言が多くなってきた気がするけど気のせいかな?

 そんなあわただしい朝をこなして授業に出る。




 「はぁあぁぁぁぁっ、疲れましたわぁ~。」


 「エルハイミ、最近痩せた?」


 とりあえず授業に出席したものの朝の騒ぎで疲れて机に突っ伏す。

 それを横からティアナがほっぺたをつつく。


 「ダイエットしているわけではないようですね?」


 ぴこぴこ?


 「エルハイミ最近付き合い悪いよぉ~。街にケーキのおいしい店できたって噂だから連れてってよぉ~!」


 周りでみんなが騒いでいる。


 

 あたしたちは中等科の課程を修了し、今は高等科にいる。

 この半年で生徒会長のロザリナさんたちは卒業し、イリナさんたちスィーフの留学生も中等科の課程が終わったので帰国した。

 知った顔もだいぶ減ったが、代わりに新しい留学生も来たりしているのでこの学園は相変わらずにぎやかだ。

 しかし、あたしたちみたいに高等科に進む人はほとんどいない。


 

 高等科では授業というより中等科の知識をもとにさらなる高みを目指しテーマごとにそれを研究、学習して行くスタイルだ。

 今あたしたちは精霊魔法についての授業を受けている。



 実は開発チームを立ち上げたは良いが肝心の魔晶石核の寿命を延ばす方法は未だに見つかっていない。


 なのであたしたちはもう一度精霊について勉強をし直そうと言う事でこの高等科で一から学びなおしている。


 分かっているようで意外と知らないことが多い精霊魔法。

 通常の物理魔法と違い、精霊の意志のようなものが具現化する結果に非常に左右する。

 

 原理的には精霊に魔力を与え、精霊が魔法を使って結果を出す。

 言わば魔法の使役代行が精霊魔法の基本となっているわけだ。


 だからパートナーである精霊との関係が非常に重要となってくるのだけど、意思が弱い精霊、つまり下級精霊なんかは魔力さえ与えれば結構言う事を聞いてくれる。


 なんだか犬に餌付けしているような感覚だなぁ。



 で、そんな課題をもとにこの高等科での授業なんだけど、ここで精霊魔法を教えてくれるのはエルフの教授、ソルミナ教授だ。



 「はいはい、始めますよ。皆さん席についてください。」


 この高等科で精霊魔法を学ぶのはあたしたちを入れて十人くらい。

 高等科では少ない方かな?


 通常のクラスは十五人くらいいるもんね。

 それほどまでにこの精霊魔法っていうのは面倒な魔法でもあるんだけど。


 「それでは前回講義した所までですがわからないことありますか?」


 「教授、精霊ごとに性格が違うというお話でしたが、同一種の精霊でも個体差はあるのでしょうか?」


 アンナさんが鋭い質問をする。


 「そうですね、多少の差はありますが、一番は使役する術者との相性によって態度が変わると言う事が多いですね。」


 そう言ってソルミナ教授は光の精霊を呼び出す。

 明かりの魔法と似ているがよくよく見るとマリアのようなフェアリーの子供みたいのが中心にいる。

 その光の精霊はソルミナ教授のまわりを嬉しそうに飛ぶが、教授が褒め言葉で話すと嬉しそうに光を増した。


 「先ほどの褒め言葉が一例です。多少は個体差がありますが術者との関係が良ければ同じ魔力消費量でもこういった差が生じます。」



 うーん、いい関係を作るのかぁ。

 あれ?そう言えばティアナのイフリートってどうなんだろう?



 「ソルミナ教授、そうすると上級精霊も術者と関係が良ければ与える力に差が出るのですかしら?」


 「上級精霊はちょっと違いますね。術者との魂との契約になりますから。」



 魂との契約?

 え?

 ええ?

 じゃあ、ティアナってイフリートと魂の契約しているってこと?



 「ティアナ、そうなんですの?」


 「え、え?分からないわよ、なんとなく炎の魔法を使っていたら大きなものが来た感じがしてそれに魔力を注ぎ込んだらイフリートが出て来たんだもん。」


 「それはイフリートがあなたの魂にひかれて来たんですね。そして魔力を注ぎ込まれ従う事を承諾したので契約が成立したのです。」



 ええ?そんだけで契約したことになるの?

 でもそうすると、他のイフリートは呼べないのかな?



 「教授、もし契約済み以外の同一種の上級精霊を呼び出すとしたら可能ですかしら?」


 「どうでしょうね?一度に二体もの上級精霊を呼び出したという事例はありませんから。でも、道理から言えば二体目が現れる確率はものすごい低いと思います。誰だって伴侶以外に言い寄られてはいい気分ではないでしょう?先に契約した上級精霊が阻害して二体目は呼べなくなるでしょうね。」



 えーと、つまりは私と言うものがありながら他の子に気を取られるのは許せない!邪魔してやる!!って感じかな?


 うーん、これは意外だなぁ、でも意思があるとすればそう言うこともあるかもね。

 あたしだってティアナに他の子がくっついてくるのは嫌だもん。



 嫉妬かぁ・・・


 阻害するのかぁ・・・


 ん?


 それってポジション争いって事?

 じゃあ同じ場所に下級精霊を詰め込めたらどうなるの?


 「ソルミナ教授、それでは同族で同じ力の下級精霊をひとところに集め、等しく魔力を与えた場合すべての下級精霊は同じ効果を表してくれるのですかしら?」


 「それは難しい問題ですね、上級精霊と違い下級精霊は魔力供給さえあれば効果を発揮してくれます。それでも個体差はあると思うので実際に研究してみなければわかりませんね。次回の課題でやってみましょうか?」


 ソルミナ教授は非常に面白いかもしれませんとか言いながら考え込んでいる。

 

 あたしもあたしで気になることが出来た。



 これは授業が終わったらさっそく開発チームの所へ行って試してみなければ!

 あたしは残り時間の間にノートにいろいろとやりたいことを書き始めるのであった。 



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