第72話4-9機械人形

4-9機械人形



 重苦しい雰囲気の中、その声は現状確認をする。



 「ふむ、そうすると学園長、英雄魔法戦士ユカ・コバヤシ殿の話では今回の問題はホリゾン帝国直接ではなく、ルド王国の研究機関辺りの暴走と言う事になるのか?」


 「はい、今までの状況と条件を照らし合わす限りその可能性が一番高いのではないかと思います。」



 今は宮廷会議でアンナさんが報告をしているところだ。

 祝賀会終わってすぐに宮廷会議が始まった。


 現在この会議には国王陛下をはじめ各大臣、宮廷魔術師、騎士団長などの重鎮に加えハミルトン伯爵やその他衛星都市の領主などが集まっている。

 

 「しかしそうなればこれはホリゾン帝国の落ち度、厳重に抗議すべきではございませんか?」


 大臣の一人がそう発言する。

 

 「報告ではホリゾン帝国が関与した証拠どころかルド王国が関与している証拠すら出てきておらぬではないか。むやみにホリゾン帝国に抗議などしたらそれを理由にまた攻め込まれるのではないか?」


 他の大臣が資料を片手に唸る。


 「どちらにせよまずはその黒の集団の被害を止めねば話にならん。アンナ殿よ、報告ご苦労であった。引き続きゴーレム兵の開発に助力してもらいたい。エルハイミ殿にも協力を頼む。」

 

 国王陛下の言葉で俺たちはこの場は退席できるようだ。

 もっとも、宮廷会議は相変わらず長々と続きそうだがこんな所にいるよりはとっとと技術開発部に行った方がましだ。

 パパンには悪いが俺たちはとっとと退席させてもらう。



 ◇



 「あ~、エルハイミおかえり~。ねえねえ、なんでみんなあたしの羽見てるの?」


 技術開発部に戻ると研究員がマリアの羽を拡大鏡や感知魔法で解析を行っているところだ。


 フェアリーなどの羽は自分の魔力で空を飛ぶのではなく、周囲のマナに直接干渉をして空を飛ぶことができる。

 魔法とは全く違うプロセスで目的の効果を発揮しているのである。


 なのでそれが解析出来て同じように使えれば自分の魔力を使わずに色々出来る訳なんだが、そんな簡単に出来る訳が無い。

 

 現在ここ技術開発部では強力なゴーレム兵、もしくはマシンドール、機械人形の開発が進められている。

 今課題になっているのはゴーレムもマシンドールもとにかく魔力を使いすぎる燃費の悪い代物をいかに実用レベルに持っていくかと言う事だ。


 「いい子にしていました?研究員の皆さんはマリアの羽がとても気になるのですわ。もう少し協力してくださいな。そうすればマリアの好きなお菓子をもらえますわよ。」


 「ほんと!?じゃ、もっと手伝う!!」


 ニコニコ顔で羽を動かしたりしてもっと観察しやすくするマリア。

 そんなマリアを見ながらアンナさんはため息をつく。


 「しかし実際には課題が多すぎますね。エルハイミちゃんが作った永久機関は凄いのですが流石に最高出力は出せませんものね。」


 「そうですわね、実用性を持たせるまでは届きませんでしたものね。」


 偶然の産物でできた疑似永久機関はやっぱり最低限の動きしかできなかった。

 外部からマナを取り入れて原動力の魔力に変換すると言うのは悪くないアイデアだったが、いかんせん外部マナの収集量が少なすぎる。

 もっと大量に収集する方法でもあればいいのだがいい方法が見つからない。


 ぴこぴこっ!


 アイミがこっちに来て自分の胸を指さす。

 どうやら同じ魔晶石核を作ればいいと言っているようだが、それができないから悩んでいるのだよ。


 「アイミ、あなたの心臓にあたる魔晶石核は特別なものなのですわ。普通には出来ないのですわ。」


 ふうっとため息をつく俺。


 ぴこぴこ?


 「え?魔晶石核の劣化版複製?いえ、そんなこと考えたことも無いですわ。」


 「エルハイミちゃん、アイミは何を言っているの?」


 アイミは近くにあった魔晶石に向かって手をかざし、その手のひらに炎の精霊で火のトカゲ、サラマンダーを召還した。

 手のひらに召喚されたサラマンダーはアイミと魔晶石の間に浮いている。

 

 ぴこぴこっ!


 「アンナさん、この子と魔晶石を融合できないかってアイミが聞いていますわ。できますの?」


 「下級精霊ですか。うーん、ちょっと魔力が心配ですがやってみましょう。」


 そう言うとアンナさんは早速【融合】魔法を唱え始める。

 すらすらとあの難しい呪文を唱えるのは流石だ。


 そしてアンナさんの呪文が完成すると、小さなサラマンダーは魔晶石と融合を始める。

 それは赤い色に輝きながら楕円形の卵のような魔晶石核になった。


 「すごいですわ!アンナさん、成功ですわ!!」


 いや、驚いた。

 流石アンナさん精神生命体と魔晶石を融合するなんて俺にはとてもできない。

 いや、やってできない事は無いかもしれないが大量の魔力を無駄に浪費して融合精度の悪いものが出来上がるだろう。


 「ふう、何とかできましたがやはりエルハイミちゃんのサポートが無いときついですね。かなり魔力を使ってしまいました。」


 そう言ってちょっと疲れた顔をする。

 俺は急いで魔力をアンナさんに補充する。

 みるみる顔色も良くなっていつものアンナさんに戻る。


 「ありがとう、エルハイミちゃん。」


 ぴこぴこっ!!


 アイミはそれらが終わったのを見届け俺が作った疑似永久機関に先ほどの魔晶石核を持って行って指さす。


 「アイミ、まさかこれをこの機関に組み込めというのですかしら?」


 ぴこっ!


 うなずくアイミ。

 えー、こんな出来損ないに組み込んでどうなるんだ?

 俺はとりあえずそれを組み込んでみると・・・


 ぶぃんっ!!


 いきなり義手がうちわを仰ぐ力が強くなった!

 しかも風からマナを採取する力もぐっと強くなり、義手の能力も目測最大限になったようだ!

 まさかと思い、感知魔法で義手を確認すると、なんと魔力循環が始まってすべての効率が最大限にまで引き上げられている!?


 と、言う事は、アイミの魔晶石核には及ばなくてもそれと同じ効能を発揮した!?


 「あ、アンナさんこれって!!?」


 「すごい!これって魔力循環が始まっているって事ですか!?そうすると循環機能を内蔵した機械人形が作れる!!」


 早速アンナさんと技術開発部の研究員はこの魔晶石核を使ってマシンドールの作成を始める。

 

 


 そして翌日。



 俺たちの前に一体のマシンドールが出来上がていた。



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